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それから

みなさま、今にして思えば蛇足だったかもしれないお話にお付き合いくださり、ありがとうございました。

おかげさまで無事最終回までこぎつけられました。

 チェスカの言った通り、レミィは身篭っていた。


 タイミング的には初夜だろう。口付けを交わして以降はほとんど記憶にないが。


「え? え? おい、早すぎるだろうレミィ! 俺にも父親になる心の準備ってもんがだな……」

「わたしも母親になる心の準備なんてできてないよ!」

「なんにしても冒険者は引退ね。あたしも帰るから、ドリエル村で静養しなさい」


 チェスカが落ち着いた様子で言ってくれる。


「あの、あの、マスター? 何が起こっているのでしょう?」


 孤児院から通ってきたU.N.が、気がつくとドアの一歩後ろに立っていた。


「U.N.、レミィに子供ができたわ。あんたには理解しにくいだろうけど。今は冒険が中止になったってことだけ分かっておきなさい」

「了解しました」

「ところでなんで部屋に入ってこないのよ?」

「この部屋はケィン様とレミィ様の愛の巣になったのだからみだりに立ち入るなと以前マスターが」

「そんなこと律儀に守ってんじゃないわよ! レミィの調子がよくなったらドリエル村に帰るわよ。レミィの面倒ならイザヤが一番手馴れてるわ」


 ケィンがやはりあたふたしながらチェスカに聞く。


「ドリエル村に帰るのはいいとして、俺は何をすればいい?」

「無事に産まれるように祈っときなさい」

「そうじゃなくて看病とか産婆の手配とか」

「村に帰れば全部女が面倒見てくれるわよ。男は仕事してなさい」

「じゃあ薪割りとか水汲みとかか……?」

「それでいいわ、後はできるだけレミィの傍にいて励ましてあげなさい」


 わたしが、ケィンの、お兄ちゃんの子供のお母さんになる……?


 ずっと夢見ていたことのはずなのにまだ夢みたいで。


 気がつくとレミィはダブルベッドで眠りに落ちていた。


 ☆


 数ヵ月後。


 レミィはドリエル村に帰り、住み慣れた家に居を移していた。

 お腹もだいぶ大きくなってきて、ときどき赤ちゃんが中から蹴るのがわかるようになったころ。


 ケィンが嬉しそうに妻のお腹を撫でながら言った。


「男ならユメト、女ならユメだ」

「まあ、どちらにしても名前に夢って入れるのね」

 

 レミィも微笑む。


「ああ、夢が叶って生まれてくる子だからな」

「どちらかというと女の子の方がいいかな」

「どうしてだ?」


 ケィンは意外そうな顔をした。レミィは続ける。


「恋の話とかしたいじゃない。ママがしたみたいな恋をさせてあげたいわ」

「男でも恋はできるだろう」

「男だとあなたに似てすぐ冒険へ突っ走って行きそうなんだもの」

「子供は冒険者にはしたくないか?」

「それを決めるのはこの子よ。冒険者になりたがったら魔法を教えてあげるの」

「案外女でも義母さんみたいに剣の達人になるかもしれないぞ」

「そのときはあなたが剣を教えてあげてね」


 レミィはこうは言ったが、もし冒険者になるなら誰かに守ってもらう魔法使いになってほしいと願っていた。自分が師匠になれるし。

 

 その願いは成就されるのだが、今はまだ先の話。


「別にこの村で平和に暮らしていってもいいけどな。3人、いやもう一人くらい作るか」

「まあ、あなたったら気が早い、うふふっ」


「あら、いちゃいちゃしてるところに悪いけど、食事持ってきてあげたわよ。食べなさい」


 そこにお盆にシチューを載せたイザヤが入ってきた。


 ☆


 更に数ヵ月後、ユメ・ステイツはついに誕生することになる。


 オギャー!と大きな産声を上げ、村中に生誕を知らせた。


「母子共に健康。元気な女の子よ」

「そうか、そうか、じゃあ名前はユメだな。レミィ、よく頑張った!」


 ずっと出産の痛みに耐えていたレミィの手を強く握っていたケィンが涙ながらに言う。

 イザヤもチェスカも一仕事終えたように息をついた。


「ケィン……、私たちの子よ。ユメ、ずっと、ずっと会いたかった」


 レミィも涙を流し、ユメを抱きかかえる夫を優しく見つめる。


 ☆


 それから17年が経ち、ユメは16歳になった。


「ママ、約束! 成人したらキョトーに行ってパパやママみたいな冒険者になるの!」

「まさか誕生日に出発とはなあ」


 すっかり父として板についたケィンがユメの腰のソードブレイカーを見ながら感慨深げに呟く。

 止めたいと思っているのは明白で、レミィも同じ気持ちだった。


「せめてもう少し魔法の稽古をつけてあげたかったんだけどね」

「もう充分よ。5歳から教えてくれたんだし」


 実際にユメの魔法の実力は14歳くらいで母であるレミィを超えていた。あと勝っているのは宝石の練成の腕くらいだ。


「ではいってきます!」


 意気揚々と、ユメは歩き出した。

 母が仕立ててくれたストライプの入ったカッターシャツ、パンタロンに身を包んで。

 腰には宝石袋、父がくれたソードブレイカー。


 北の果てまで旅し、天上帝に謁見する国最強の冒険者の、門出であった。


 しかし今のユメはそんなことは知らない。


 名前の通り、夢への第一歩を踏み出したばかりなのだから。


「ある魔法少女が差別なきセカイではみ出し者だらけのPTを集めて冒険者として生き抜く物語」 第1話へ続く。


 ☆おまけ☆


 ユメの誕生から約20年が過ぎ、レミィは寂しい日々を送っていた。


 PT名が決まらない、という手紙が来たのを最後にユメからの連絡が途切れている。

 あまりに寂しくて最近は毎晩ケィンと一緒に寝ているのだがユメの顔を見ないと安心できない。


 昼間は家事とケィンが剣術道場で稼いでくる宝石を練成して過ごしているものの、やはり心の隙間は埋まらない。


 そんなある日。


 ちょうど、天上帝の死がナパジェイ全土に布告され、後継者がすでに決まっていることが報告された翌日。


「うぅっ!?」


 突然吐き気がした。


 この感覚、覚えがある。ユメを身篭ったときだ。


 もう38にもなって二人目は諦めていたのだが、ケィンとは今でも「仲良く」している。


 またチェスカに相談してみるべきだろうか。


 今はもうガサキに立派な家と工房を持ち、U.N.と二人で鍛冶屋を経営している人生の先輩に。


 そこへイザヤがやってきた。


「あらレミィ、変なものでも食べた? うちでの食事は普通のはずだけど」


 もう二十歳ほどにもなる孫がいる年齢のはずなのにそれを感じさせない女傑は今も家事をバリバリこなしている。


 正直、家事でも魔法でも一生この人には敵いそうにない。


「あらもしかして二人目? 二十年も空けて? 娘が帰ってこない寂しさを毎晩ケィンに慰めてもらってるの、お義母さんは知ってるのよお」


 声は抑えていたつもりだったが、同居していれば気付かれるのも当然か。


 やはり、この人には一生敵わない。


 そこへ、


「たっだいまー!」


 村の真ん中に冒険者の集団と思しき一団がテレポートしてきた。


 テレポートのような超高位魔法を、しかも、一度行ったことがある場所にでないと使えない魔法を使うなど、いったい何者だろう。


 しかして、愛しい娘の姿がそこにあった。

 竜人の女剣士、野性味のある二刀流の女剣士、オークの亜人の神官、銃を持った魔族、魔法使いと思しきローブの少女、そして民族衣装風の服装の少女を連れている。


「ママ! イザヤさん!」


 ユメは二人の姿を認めると飛びつかんばかりに走り寄ってきた。


 それをイザヤが手で制す。


「ユメ、おかえり。けどママは今あなたの弟か妹を身篭ったばかりなの。抱きつくのは優しくしてあげて」


 ちなみにイザヤはユメが「おばあちゃん」とすごく怒るので「さん」付けで呼んでいた。


「えへへ、わたし、さっき帝都に帰ったばっかりなんだ。普段はゾーエのカムイコタンに住んでるんだけどテレポートで皆の顔見に来ちゃった」

「ゾーエ!? 最近ナパジェイの領土になったって聞いたけど、あなたそんな遠いところにいるの?」

「いろいろあって今はカムイの巫女なの。あ、そうそう、新しい天上帝陛下がわたしの故郷を見たいって言ったから連れて来たよ」


 そうだった。


 そういえばつい昨日天上帝の崩御がナパジェイ全土に布告されたばかりではないか。


「それで、どの方が新しい皇帝陛下なのかしら?」

「はいはーい、ウチでーす。ウチが天上帝、チャーチャ・ヨドギ・アザーイ・キヨスです!」


 一堂の中で一番幼い少女が手を挙げる。


「普段はヒロイちゃんたちと冒険して経験を積んでもらってるの。これでも立派なビーストテイマーなのよ」


 レミィは思わず臣下の礼を取ってしまった。イザヤもそれに倣う。


「ご、ご機嫌麗しゅう、陛下……」

「たった今ご機嫌悪くなった。そんなに硬くならなくていいのに。普通にしてよ、ユメのお母さん」

「は……」


 レミィは顔を上げる。


 そこへ騒ぎを聞きつけて村の者たちが集まってきた。イザヤが声を上げる。


「さあ、今夜は宴よ! 勇者の故郷に乾杯するわ!」


 そして宴の場でレミィはユメの冒険の数々を聞かされ、その仲間の成り立ちと成長の過程を聞くことになるのだが。

 あまりに自分が経験した冒険と規模が違いすぎて圧倒されてしまった。


 それでも、自分たちの子供がこんなに立派になって帰ってきてくれたことが嬉しくて、誇らしくてつい涙ぐんでしまう。


「ママ、どこか痛いの?」

「そうね、あなたの弟か妹の涙が先に出てるのかもね」


 この子も姉の後を継いで冒険者になるのだろうか。姉以上の偉業を成すのだろうか。


「そうだわ、今度ナパジェイ最北になった温泉地、カンノン温泉に連れて行ってあげる! 子宝に恵まれるって有名よ」


 温泉、か。


 そういえばケィンと初めて気持ちを伝え合ったのもヒラッドの温泉宿だったな。


 あの旅行に行かなかったらユメは産まれなかったかもしれない。


「いいわね。親孝行、楽しみにしてるわ」


「ある差別なき国の伝説の魔法少女の前日譚 その血はいかにして絶えなかったか」 完

世界観補足説明

カンノン温泉:北海道十勝のかんの温泉から。安産祈願の湯として有名。

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