祝言
次回、最終回。執筆中です。
壇上でいきなり大声を上げたものだから、皆何事かと顔を見合わせていたが、しばしの沈黙を置いて万雷の拍手が巻き起こった。
「おめでとう!」
「お二人ともお幸せに!」
レミィは肩を抱かれたまま、赤面しつつ呟く。
「ちょ、ちょっとケィン、こんな大勢の前で……」
「これくらいしないと決心が鈍りそうだったんだよ!」
お互い真っ赤になりながら言い合う。
「では仲人はぜひ私が……」
マーリ大佐改めマーリ准将が嬉しそうに言ってくる。
「ちょっと待って、大佐、じゃなくて准将、まだ気が早い……」
「諸君らのおかげで私も将官の仲間入りだ。仲人くらい務めさせてくれてもいいだろう」
ポートワインを空けて上機嫌になった准将は赤ら顔で二人の肩を抱く。自然、レミィとケィンの体がまたくっつくことになる。
「ちょ、ちょ、待っ!」
「祝言はいつ挙げる? 式は神社か? 教会か?」
「そこまで決めてない!」
ケィンが怒鳴り、無理に剥がれる。
ちなみにナパジェイは無宗教な国なので神前式という形は取られない。ただし氏神を信仰する風習はあるので、自宅や故郷で身内だけ集まってひっそりとやるのが主だ。
「式は故郷の村で挙げる。てか仲人とか立てるつもりはない。脇差級になって一人前の冒険者になったことを育ての親にも報告したいんだ」
「ふむむ……、残念だ。ガサキの英雄の祝言に立ち会えんとは」
ガサキの英雄。
まさかそんな風に呼ばれる日が来ようとは。
レミィは改めて自分たちが成した冒険の成果の大きさを思い知った。
「あらぁ、ドリエル村に帰っちゃうの~? あたしは式に呼んでくれるわよねぇ、ねぇ?」
そこいらのテーブルのワインをラッパ呑みしていたチェスカがレミィに絡んでくる。
チェスカとU.N.は式に呼ぶことは確定だ。さすがに家族と名乗りながらのけ者にするわけにはいかないだろう。
後は村に帰ってから村長あたりが正式に準備してくれるだろう。ケィンの言う通り久しぶりに育ての親の顔も見たい。もう1年も帰っていないのだから。
なお、二人の育ての親はイザヤという名の忌み子の女性で、ケィンの剣の師匠にしてレミィの家事と魔法の師匠でもある。年齢を感じさせない女傑で、かつては冒険者だったらしい。
ともあれ、一家一行は式典が終わると「森の家亭」のマスターにしばらく留守にする旨を告げた。
「せっかくこの宿から脇差級の冒険者が出たってのにいなくなっちまうなんてなぁ」
マスターは非常に残念そうにしていたが、ケィンがレミィを娶ると宣言したことを聞くと一転してお祝いを述べてくれた。
「そうかそうか、お前たち、ついに祝言か。いつ、どっちから告るのかハラハラしてたぜ」
どうやら、マスターにもレミィたちの気持ちはバレバレだったらしい。
「そりゃそうでしょ。ほぼ毎日顔合わせてればねえ」
まだ式典での酔いが冷め切っていないチェスカが頷きながら言う。
「マスター、祝言とは何でしょう?」
意味が分かっていないらしいU.N.が訊いた。
「愛する男女が結婚して家族になるってことよ。ねえおふたりさん」
レミィはケィンの顔をまともに見れない。まだ火照っていて頭から湯気が出そうなのだ。
「ドリエル村には明日帰ろう。イザヤさんの喜ぶ顔が早く見たい」
ケィンはもう早く祝言を挙げたくてうずうずしているようだ。こんなに想ってくれているならもっと早く気持ちを伝えればよかった。
彼は彼なりにレミィを娶るにあたって自分が頼りになる男になったと自信を持ちたかったのだろう。
脇差級の冒険者になればこなせる冒険の依頼も格段に増える。
☆
「あらぁ、久しぶり。1年も帰ってこないものだからどっかで野垂れ死んじゃってんじゃないかって心配してたのよ」
翌日朝からドリエル村に出発し、昼過ぎに着いて義母であり師でもあるイザヤの元へ挨拶に行ったら第一声がそれだった。
化粧気のない整った顔、Tシャツにジーンズ、腰に刺した短剣、右手の甲に押された忌み子の烙印、記憶にあるまんまの義母の姿だ。
「それが、俺たち結婚することになって……」
ケィンが遠慮がちに返す。普段勝気な彼もこの女性にはいつも頭が上がらない。
「あらあら、ついにレミィの旦那になる決心がついたのね? 見慣れない綺麗な娘連れてるから浮気したのかと思ったわ」
そう言ってイザヤはU.N.の方を見る。
「あら、よく見たらホムンクルスじゃない。随分変わった仲間が増えたのね」
「これでも弓の達人で、あたしの可愛い義娘なんだから」
チェスカが話に割り込む。
「あら、チェスカがマスターなの? 結婚もせずに親になるなんてねえ。あら? あたしも人のこと言えなかったわ」
そう言ってイザヤは「がはは」と笑う。
「あらレミィ、そんな後ろにいないでお母さんの胸に飛び込んできていいのよ?」
「いいのよ、義母さん。お互い元気なだけでもう胸いっぱい」
「大好きな『お兄ちゃん』のお嫁さんになれるんだもんねー。ケィンったらいつまでもガキのまんまだからもっと時間かかると思ってたわ」
さて、義母との挨拶もそこそこに村長に帰ってきた旨、ケィンとレミィが祝言を挙げる旨を告げると、村をあげて祝ってくれることになった。
☆
数日後、式が挙げられた。
二人は緊張の面持ちで村の真ん中で見つめ合っている。
村長が高らかに宣言した。
「これより二人の結婚式を始める! なんじケィンはレミィ・ステイツを妻とし、生涯かけて愛することを誓うか」
「はい、誓います」
ケィンは淀みなく応えた。
「なんじレミィ・ステイツはケィンを夫とし。生涯かけて愛することを誓うか」
「ちっ、ちちち誓います!」
レミィの方はどもってしまい、甲高い声を張り上げてしまった。
「では口づけと指輪の交換を持って二人の祝言を挙げる。さあ」
村長の音頭で二人は改めてみなの前で二度目の接吻を交わし、指輪をお互いに左手の薬指にはめあった。
ああ。
夢みたいだ。
「夢じゃないさ」
知らず声に出していたらしい、ケィンが言ってくれる。
彼が嵌めてくれた白金製の指輪を撫でた。これがラバマシー攻略の報酬全額の半分も値がしたという事実がまだ信じられない。
チェスかもU.N.も承諾してくれたので、あの冒険の報酬はすべて結婚資金に当てた。
結婚指輪には給料3ヶ月分とかいうが、はたして計算は正しいのだろうか。
おかげで新婚旅行には行かず、ふたりが指輪をしていることとケィンが「ケィン・ステイツ」と妻の姓を名乗った以外は変わらずまた数日後には「森の家亭」で冒険者に戻ったのだった。
☆
そして、酒場に帰り、今までこなせなかった脇差級にしか周ってこなかった依頼の海賊退治などをして過ごしていると、レミィは突然体の不調を訴えた。
吐き気がしたのだ。
体も重いし、魔法の集中もしにくい。
「レミィがこれじゃ明日の海賊討伐遠征はキャンセルだな。調子がよくなるまで依頼はお預けだ」
ケィンがPTのリーダーとしてそう判断を下す。そしてレミィに肩を貸しながら自室へ戻っていった。
ちなみに宿の2人部屋は今はケィンとレミィが使っていて、チェスカが1人部屋に移っている。U.N.は相変わらず孤児院から通いだ。
「うっ、えほっ、えほっ!」
レミィは部屋の洗面台にまた胃液を吐いた。おかしいな、変なものを食べた記憶も深酒した覚えもないのに。
すると、ドンドンドン!とドアがノックされた。
「レミィ! レミィ! いるんでしょ!? あんたまさか最近来てないじゃないでしょうね!?」
チェスカの声だ。ケィンがドアを開ける。
「うるさいぞ。病人がいるんだ、静かにしろ」
「レミィのアレ、病気じゃないわよ多分」
ケィンは頭に「?」を浮かべながらチェスカを部屋に招き入れた。
「大丈夫? 出すもの出したら横になったほうがいいわ。あたし下に降りておかゆを作ってくるから」
妙に優しいチェスカに違和感を感じつつもレミィは言われるままベッドに横になった。
「いい? レミィ、ケィンも。落ち着いて聞きなさい」
「なんだよチェスカ。あたふたしやがって」
「これからあんたきっとあたふたするわよ」
「ああ?」
「レミィ、動けるうちに里帰りした方がいいわ、きっとオメデタよ」
おめでた。
それの意味するところはえーと……。
え? え?
もしかして、ケィンの子供、身篭っちゃったーー!?
世界観補足説明
ナパジェイの結婚式:神を信仰する風習がないため、故郷や家で挙げるのが基本。
新婚旅行:日本で初めて新婚旅行に行ったのは坂本龍馬だという話は有名ですが、ナパジェイでも新婚旅行に行く習慣はあります。
地名の由来
ドリエル村:作者が昔常飲していた薬から。
キャラ説明
イザヤ:チェスカとレミィの名前の由来からお察し。短剣使いです。ちなみ口癖は「あら」。




