昇級
今回は早く書けました。
「森の家亭」に凱旋した一家一行は、驚きと猜疑をもって迎えられた。
「お前ら、あのラバマシーから生きて帰ったのかよ!?」
「あまりにやばくて逃げ帰ってきたんだろ、どうせ」
いずれにしても、4人にはそれらにまともに取り合う気力は残っていなかった。
あれほどの酒好きのチェスカでさえ一滴の酒も欲しがらず、そそくさと部屋へ戻っていったのである。
レミィは部屋に戻るとU.N.とふたりで床に倒れ伏したチェスカをベッドに寝かせてやる。
「U.N.、孤児院まで戻れる?」
「いいえ、ここで、マスターと、一緒に……」
言うと彼女は鎧を着たままのチェスカの横に倒れ込み、すぅすぅと眠りに就いた。
「…………」
レミィだけは明日軍へ報告に行くことを考えていた。
不死者がいたこと。そして打倒したこと。ラバマシーが浄化されたこと……。
どれから報告すればいいかぐにゃぐにゃと頭を回り始めたあたりで、自分のベッドに横になった。
『脇差級になったら……』
果たして今回の功績で脇差級になれるのだろうか?
なったとしたらケィンは約束通り自分の気持ちを受け入れてくれるのだろうか?
受け入れてくれるはずだ。
だって、約束したのだから。
あの、ヒラッド温泉の旅館で……。
☆
どこからが夢で、どこからが記憶なのか、その境界があいまいになってきた所に、誰かに体をゆすられた。
「もう、レミィ、いい加減起きてよ」
そこにはインナーな服装をしたチェスカが居た。彼女が自分の肩をぽんぽんと叩いているのだった。
はて。
チェスカは自分より先に寝入ってしまったはずだが……?
「寝ぼけてるの? あたしたち丸一日寝ちゃってたのよ。あたしとU.N.はもう水浴び済ませちゃったから、あんたもほら早く」
そうか。自分はそんなに寝ていたんだ。ラバマシーで夜通し戦って、マクサを倒して、ラバマシーから歩いてガサキまで帰って。
よっぽど疲れていたんだな。自分。
「分かったわ、水浴びしてくる。ケィンはもう起きてる?」
「それを確かめさせるために起こしたのよ」
「そ、そう」
結局、先に水浴びをした後でケィンを部屋まで起こしに行った。
ドアノブに手をかけると、鍵が開いているのがわかる。かける余裕すらなかったのだろう。
兄妹同然の仲なので遠慮なく開けると、床にスチールアーマーが散乱していた。
そして「ぐがー!」といびきをかきながら、眼鏡も外さないままケィンは寝ている。
100年の恋も冷める、という言い回しがあるが、レミィの場合、彼のこんな姿もこんな声もずっと見てきたし聞いてきた。今更冷めようがない想いだ。
「……レミィ……」
不意に名前を呼ばれてびくりとなる。どうやら寝言だったようだ。
いったいどんな夢を見ているのやら。
申し訳なく思ったが、レミィはケィンを起こし、水浴び場まで連れていく。
自室で髪を乾かし終わったレミィが酒場に戻ると、ケィンがいた。
「ひゃー、さっぱりしたぁ!」
まだ濡れた黒髪。下着だけの格好。こんな彼も見慣れたものだ。なにせ16年も一緒にいるのだから。
チェスカはというと、なんと昼間からエールを呷っていた。
U.N.がなにやら主人を咎めている。本当にどっちが親だか分かったもんじゃない。
「こらー、これから軍に報告に行くんでしょ? 酔ってて大丈夫なわけ?」
「らいじょーび、まだ2杯目~」
「マスター、呂律が回っていません。3杯目は絶対ダメですからね。まったく、宝石も持たずに注文するなんて」
「ごめん、U.N.、代金はわたしが払っておくわ」
レミィは共有財産の宝石からマスターにエール2杯分を払った。するとマスターが興味津々に話しかけてくる。
「お前ら、ラバマシーに行ったんだろ? 首尾はどうだったんだ」
「うまくいったわ」
「なに?」
「だから、冒険は成功したって言ったのよ」
「マジよ~、マジマジ」
チェスカがぐでんぐでんの様子で話に入ってくる。そこに身なりを正したケィンが酒場へ下りてきた。
「よし、軍に報告だ。チェスカ、聖水の余りはあるか? あったら軍に返すぞ」
「らいわよ~、あんたが全部ぶっかけろってゆったんじゃない」
「おいチェスカ、なに酔っ払ってんだ!? これから軍に行くって言ってるだろ!」
「るさいわねぇ、どんだけ酒を我慢してたと思ってんのよ!」
くだを巻くチェスカに無理やり水を飲ませ酔いを醒ましにかかるU.N.。
その様子をマスターが見て「ほんとにこいつらそんな難しい依頼終えたのか?」という顔をしていた。
☆
なにはともあれ、その日の夕方には軍のガサキ支部に一家一行の姿はあった。
支部を預かるマーリ大佐はやはり半信半疑な様子でいる。
「なるほど……、あのシロー・サダトキ・マクサがノスフェラトゥになぁ。しかしそこまでは本当だとして、確実に仕留めてくれたのだろうね?」
「確実に、と言われると自信がない。太陽神の杓杖を心臓に突き刺して、聖水で動きを止めたのはたしかだ。杓杖を抜くと蘇るかも知れん」
「ラバマシーに太陽の光が戻ったという報告は近隣住民から受けている。おそらくマクサを『封印』したことは間違いないだろう」
「殺しきるには銀の弾丸が要るらしい。そんなもの軍にあるのか? あっても拳銃の方はあるのか」
「キョトーまで行けばあるいは……」
ケィンがマーリ大佐と交渉を続けている。
「ともかく、今日はもう遅すぎる。明日朝日が昇ってから私が軍の精鋭を連れてラバマシーを訪れて、事実確認を行おう。諸君らの功績はそれから宿に伝える。たしか、『森の家亭』だったな」
言うが早いが、大佐は自分と部下たちに銀製の武器を手配するよう命じた。
ここは「自己責任」のナパジェイ、マーリ大佐も血統や世渡りで出世したわけではなく、実力で今の地位までのし上がったのだ。信頼していいだろう。
☆
数日後。
「森の家亭」の酒場でくつろいでいたレミィたちは軍の伝令から以下のことを聞かされた。
まず、ラバマシーの浄化が成った、と軍が判断したこと。
ただし、マクサの死体?が釘付けになっているラバマシー城だけは立ち入り禁止とし、門番を立てて軍が監視すること。
ラバマシーは人が住める土地になった事で、さっそく町として機能するように再建していくこと。忌避感はあろうが少しづつ移住者を募ること。
そして、これが一番重要なのだが、一家一行の功績は軍でも大きく取り上げられ、式典を開くことになったこと。その式典の場でPTの昇級が発表されるのだとか。
「もしかして、タダ酒呑み放題!?」
式典と聞いてチェスカが身を乗り出す。伝令は一瞬驚いたが、チェスカがドワーフなのことに気付くと、すぐに居ずまいを正して、
「ああ、ガサキ長年の呪いが解かれたのだ。ナパジェイへの偏見も少しは軽くなるだろう。ブドーキバやネテルシシの高級酒がたっぷり振舞われるだろう」
「やりぃ!」
「ただし町長や各国の大使も招く予定だからあまりハメを外さぬようにな」
「はーい!」
礼儀も作法もない様子でチェスカは手を上げる。
レミィは心配になってきたが、まあ昇級が確約された上に、式典にまで呼ばれるとは、これ以上なくめでたいことだろう。
☆
そして式典当日。
一家PT4人とマーリ大佐は軍の大会議室を着飾った会場で、壇上に並ばされた。
やがて、軍服に身を包んだ老紳士がうやうやしく前に立つ。
「ラバマシーの浄化及び、長年かの地を苛んできた不死者の封印、その功績をもってケィン、レミィ・ステイツ、フランチェスカ・レヴァンティン、U.N.の4名の冒険者を脇差級に認定する。本来2級特進クラスの功績だが、軍が贈与した聖水の力も大きい。よって、マーリ大佐を1階級昇級させ准将とする。
以上、ナパジェイ軍代表、ダイサン元帥!」
わあああああああっ。
参列者から歓声が上がる。そうか、聖水に頼っていなければ太刀級まで級を進められていたのか。
しかし、ダイサン元帥のいうことはもっともで、聖水がなければ今の実力ではラバマシー城まで辿り着くことさえできなかっただろう。
「では、皆を代表してガサキ町長から、乾杯の音頭を……」
「ぷはー! うまいっ、もう一杯!」
横ではチェスカが町長の音頭を待たずに手に渡されたグラスを空にしていた。
「乾杯!」
さすがに貫禄しているのか、それに気付きつつも町長が音頭を取る。
レミィは持ったグラスの酒に口をつけた。ブドーキバ産のポートワインだ。シモーヌからのプレゼントと同じ味だ。
ちらりとケィンの方を見ると、向こうもこちらに目を向けた。
だが、すぐにぷいと顔を逸らされる。
ケィンが赤面していることに気付いたレミィは自分も赤面してしまった。
が、すぐに彼はこちらに向き直ると、なんと肩を抱き寄せた。そして大声で宣言した。
「皆様! わたくしケィンは、レミィ・ステイツを妻とし、一生かけて幸せにすることをここに誓います!」
世界観説明
ダイサン元帥:名前だけは「ある魔法少女~」に出ていた軍のトップ。ちなみに若いころは天上帝の側近だった。
准将:一番階級が下の将官。ただし、一個大隊を率いられる程度の権力はある。




