シロー・サダトキ・マクサ
ちなみに作者はヘルシングとか吸血鬼ものが大好きです。
レミィの回復魔法で万全の状態になった一家一行はラバマシー城へ躊躇なく歩いていった。
あたりを覆っていたガストの霧も晴れたし、聖水も充分残っている。太陽神の杓杖の使用可能回数も後4回ある。
城の門を開くと、城前に憤怒の形相をした美丈夫が一人、周りにアンデッドを従えて立っていた。
「おや、天守閣にいると思ったのに」
ケィンがのんきな声を出す。具足に身を固めた美丈夫はレミィたちの姿を認めると地獄の底から響くような声でうめいた。
「なにゆえ今日はこれほどに信者が訪れぬ。それに時折空に輝く忌まわしき日の光は何ぞ……。不愉快なり、我は不愉快なり」
「そりゃ俺らが連中を駆逐してきたからさ。なあみんな」
ギロリ、と美丈夫の目が動く。
「生きた人間か、久方ぶりに見たぞ」
「あの、あなたはもしやシロー・サダトキ・マクサではありませんか?」
レミィは問いかけてみた。
「気安く我が人だったときの名を呼ぶでない。この不死者の王に向かって」
「ノスフェラトゥ!?」
アンデッドの頂点に君臨するモンスターだ。その名の通り、死んだ者が強い怨念によって死を乗り越えた存在で、並大抵のことでは死なない。
もう死んでいるのに「死なない」というのも変だが。
ノスフェラトゥの最も厄介な点は死体がある限り自分の怨念を注ぎ込み、アンデッドを手駒として蘇らせることができるところである。
人間の生血を好んで飲むので吸血鬼と称されることもある。いずれにしても恐ろしい敵だ。
「忌々しい封印のおかげで長らくラバマシーから出ること能わなかった。だが、生きてここまで辿り着く人間が居ようとはな。数百年ぶりに生きた血を啜れるというものよ」
じゅるり、とマクサは舌なめずりをした。
「ほう、3匹とも生娘か。しかし作られた命など要らん。そっちのドワーフも若いが血は不味そうだ。やはり血は人間のものに限る」
名指されてレミィは言い返す。
「ふざけないで! 誰があんたなんかに血を吸われてやるもんですか。わたしは太陽神の信徒、邪悪なアンデッドはここで滅します!」
太陽神の杓杖を構え、高らかに宣言する。
「神は我らを見放した! だから我が神となり永遠の神聖帝国を築くのだ。ここラバマシーはその足がかりに過ぎぬ」
甲冑姿のマクサは空を仰ぎ、手を広げた。その様は自分たちを無残に殺した幕府、そして信じて祈っていたのに助けてくれなかった神に向けて怨嗟を吐き出しているかのようだった。
「レミィ、ノスフェラトゥって奴はどうすれば倒せる?」
「えっと……」
レミィは必死でモンスターについて勉強した知識を総動員した。そして、ノスフェラトゥに関して教わった記憶を掘り起こした。
「清められた銀で作った銃弾で心臓を打ち抜いたら殺せた、って記録があるわ」
「要するに今の装備じゃ対処できないってことだな」
レミィの勉強の成果をケィンは一蹴した。
「たしかその杓杖、銀製だったか」
「うん、太陽神の教会で清められた聖銀みたい。でも弾丸じゃないわ」
話している間に周りのアンデッドが襲い掛かってくる。
「レミィ様、ケィン様、来ます! セイクリッド・アローレインの許可を」
U.N.が悠長に長い技名を出した。
「許可する。ありったけの矢を射掛けろ。マクサごとな」
ケィンが許可を出すとU.N.は嬉しそうに天高く大量の矢を放った。
「セイクリッド・アローレイン!」
バララララ……ッ!
聖水で清められた矢がマクサを囲むアンデッドの群れに降り注ぐ。それで大半のアンデッドは倒せたがマクサ独りが矢を避けもせず、しかし刺さりもせず、立ち尽くしていた。
「聖なる加護か、真に聖なるは我ぞ。あの日より、我は民を救う神となると誓ったのだぁあ!」
吠えるマクサ。
「マスター、敵のボスに私の技が効きません。指示を」
「聖水かけた矢が効かないんじゃもう打つ手なしでしょ。増援に備えて矢を温存しておきなさい」
チェスカがU.N.に指示を出している間にノスフェラトゥが怒鳴る。
「我が家臣たちを屠りし作られた命よ! 死をもって贖うがよい!」
マクサが掌から黒い玉をU.N.目がけて放ってくる。
「危ないッ!」
彼女と話していたチェスカが前に立ちはだかって黒玉を受けた。
「うあああああっ!」
「マスター!」
「チェスカ!」
レミィが残り少ない聖水の瓶の蓋を空け、チェスカが黒玉を食らった箇所に振りかける。
じゅわああ、と音がして黒玉が蒸発するように消えた。
「怨念の塊、怨念球ってとこか、聖水がなきゃやばかったな」
ノスフェラトゥを倒す算段を考えていたケィンが努めて冷静に言う。
「さて、そろそろ血を飲むとするか。久しぶりの馳走だ」
マクサが近づいてきた。レミィは思わず後ずさってしまう。
「逃げるな! レミィ! もう一回太陽光を放て!」
「は、はい!」
レミィはA級炎の宝石を嵌め、太陽神の杓杖を掲げた。また一瞬だけ神々しい光が降り注ぐ。
「ぐ、ぐぬぅ、これしきの光でぇ……!」
マクサは少し怯んだが、他のアンデッドのように消滅しない。あまりの怨念の強さ故に普通のアンデッドとは格が違うのだ。
全身から黒いオーラのようなものを噴き出し、太陽光を遮ってしまった。
「ボールの次はバリアか、つくづく怨念溜めまくってんだな!」
「我が恨み、貴様ごときには理解できまい」
「ああ、できねえよ、あいにく死んだことがないもんでな! レミィ、光輝剣だ。あれなら何でも斬れる」
「でも光の宝石を使っちゃうよ? あと1個しか……」
「いいから使え!」
ここで、レミィにはケィンになにか考えがあるのだと気付いた。それならば、愛する人の賭けに乗るまでだ。
「光輝剣!」
「よっしゃ! レミィ、杓杖をこっちに向けろ!」
光でできた剣を持ったケィンが叫ぶ。レミィはおとなしく従った。
「おりゃ!」
なんと、ケィンは杓杖を斬った。ただし、切り口が尖る角度で。
「これで槍ができた。後はあいつの心臓に突き刺すだけだ」
そんなやり取りの中、マクサは立ちはだかったドワーフの少女のモールでの攻撃を素手で受け止めていた。
「汚らわしい水がかかっているな、この武器」
聖水で清められた鋼鉄製のモールの先端を手にマクサは力を込めた。モールが粉々に粉砕される。
「嘘っ!?」
慄くチェスカ。その間にもケィンはレミィに指示を飛ばす。
「もう一回太陽光だ! そしたら宝石を嵌め込んで俺に杖を渡せ!」
「はい!」
空が再び眩く輝く。それと同時にレミィは残り二つの炎の宝石のうちひとつを杓杖に嵌め込んでケィンに渡す。
光輝剣で斬られて尖った杓杖の先端を向けケィンが太陽光で動きが止まっているマクサに、ノスフェラトゥの王に突進していく。
ズブリ。
槍のようになった杓杖が見事にマクサの左胸を一突きした。
「お、おのれぇ……!」
見る見るうちにノスフェラトゥの体が黒く変色していく。しかし、まだ動いている。
「我が、神たる我が、この程度でっ!」
ケィンは今度はチェスカに叫んだ。
「チェスカ、聖水をかけろ! ある分全部ぶっかけるんだ!」
「わ、分かったわ!」
元々、重さの点からチェスカが一番多く聖水を持っていたのだ。
じゃばじゃばじゃばじゃば……。
瓶の蓋を開けては撒き、マクサは聖水まみれになり、ようやく沈黙した。
「ふう、終わったのかしら?」
額の汗を拭い、チェスカが問いかける。
「宝石が出てない、まだ生きてる。だがこれでラバマシーにもうアンデッドは沸かないはずだ。念のため、帰りに殺り残しがいないか見回っとかないといけないけどな」
「あの、杓杖抜いて回収したら拙いかしら?」
「拙いだろうな、残念だがこいつをここに釘付けにしとくには刺しっぱなしにしといた方がいいと思う」
レミィの遠慮がちな声にケィンも残念そうに応える。
「せっかくの神器をここに置いてっちゃうわけ?」
「抜いてまた動き出したら責任取れるのかよ?」
「それもそうね。リトさんやシモーヌさんには謝らないといけないけど」
レミィは空を見上げた。燦々と輝いていた赤い月が元の白い月に戻ろうとしている。もう夜になっていたのだ。
きっと、朝が来ればラバマシーにもまた太陽が昇るだろう。そうしたら、また人が住める土地に戻るはずだ。偏見は残ろうが、これでこの地は浄化された。
一行はラバマシー城を後にし、ぼろぼろに朽ち果てたラバマシーの地を見て回った。どうやらアンデッドの生き残りはもう居ないようだ。
やがて、日の光が差してきた。もうラバマシーは呪われた地ではないのだ。
ともあれ、夜通し冒険して、一行はほうほうの体で「森の家亭」に凱旋した。
世界観説明
ノスフェラトゥ:不死者。リッチと並ぶ最強のアンデッドで、吸血鬼とほぼ同一の存在。




