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目を覚ます、と直ぐに部屋の細かなディティールの違いに気が付いた。
(ああ、違うな)
それだけで全てが解る。
また、夢から夢へと移ったらしい。
基点としている世界とは違う世界を、夢だと定義しているに過ぎないが。
こういう時はつい期待してしまう自分がいる。
それはきっと・・・
「こんにちは」
また、趣向の違う姿で、“彼女”が表れた。
今度の姿、テーマはさしずめ中世的な美人といったところか。
一見すると少年とも誤解されかねないが、微細なシルエットの違いで女性だと見てとれる。
今の自分は、全てが解る。
だから、今回の彼女がどんなキャラクターで、この世界がどんなストーリーを辿って、今の自分達がどの時点にいるのかも詳細に解る。
この世界では、“彼女”は自分の幼馴染という設定だ。
詳しく語るなら、この世界の自分は長い事幼馴染の彼女の事を女性だと認識せずに過ごしてきた。いつの頃か、悟ってしまってからも、あえて考えないようにしてきた。見て見ぬふりをする事でお互いの関係を守ってきた。
似たような事は彼女にも言える。
この世界の自分には誤魔化し切れない殺人衝動があるのだ。それを満たした事はまだ一度もない。
彼女が男として振る舞っているのは、自分のそういった破壊衝動の対象として自分が見られてしまわない為の心遣いでもある。私の危険な衝動を知りながら、見て見ぬふりをする事で彼女もまた、二人の関係を守ってきたのだ。
そんな関係も、もう間もなく終わってしまうのだが・・・
残念ながら、解る。
この物語はもうじき終わる。
大切だったのに、大切だった筈なのに。
ソイツは現れた。
銀の矢が仕込まれたクロスボウを持った侵入者は、彼女の部屋に入るなり、私に向けて、その矢を放った。
私は、当然のように持っていた金槌で、当然のように銀の矢を打ち返した。驚く襲撃者の眉間へと向けて。
その結末の不自然なまでの自然さが不気味と言えば不気味だったのかもしれない。それでも・・・
即死した襲撃者に見向きもせず、“彼女”は真っすぐに私を見据えていた。
“彼女”よりも恐ろしいモノなどありはしないのだが・・・
私は彼女との別れこそが何より恐ろしい。
それでも、彼女を大切に思うなら、今回はここがもう潮時だ。
一度壊れてしまった以上、もうこの私は止まらない。止まれない、だから・・・
私はまた繰り返す、いつかきっとと信じて。