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彼の怪我は異常だった。
鎧を脱がせ、出血箇所を探してところ
脇腹に刺傷が2つ、背中にも1つ。通常の生活ではありえない怪我を負っている重症患者だった。剣を携えていたところを見るに彼は危険と隣り合わせの職に就いているのだろう。クエスト失敗した冒険者なのだろうか。
それにしては質のいい鎧を着ていたが、今はこの人の身元を探すより怪我を治す方を優先するべきだよね、そう思い必死に担いだ。
自分より幾らか年の離れた男性を持ち上げるのに苦労はしたが、ごめんなさいと思いながら鎖を森に捨て、最小限の荷物にすれば無事運べた。
家に着いてからも彼を看病するのは大変だった。
あまり大きくない家だ。ベットは勿論ひとつしかない。彼を自分のベットまで運び、前世で見た本の記憶を頼りに包帯の巻き方をした。あってるかわからないが、ないよりはマシだろう精神だ。多少不恰好な仕上がりなのは許して欲しい。
看病してる間もウッと声を上げていて辛そうだったが、自作のポーションを某か塗ってあげれば少しづつだが回復の見込みが見えた。そんなことを繰り返して3日目、突然彼は目を覚ました。
「…ここはどこだ?」
彼は周りを見渡すとこちらに気づいたようだった。
「あ、目覚めたんですね。」
「…帝国軍のものか?殺す」
近くにあった花瓶を手に取りこちらに向けてきた彼。ものすごい誤解をされてる気がする。
「ちがいますよ!倒れてたから看病したんです」
殺気の籠った目を向け今にも殺すって感じだった彼にポツリ、ポツリ経緯を説明した。
森で倒れてたこと。怪我が酷いから家に連れてきて看病したこと。3日間目ざまなかったこと。聞いてる最中に「3日間も…!経っているのか戻らなければ」と出ていこうとする彼を宥め、3日もご飯も食べてないから体力が衰えてるだろうし、昼食も作ったから食べてから向かって頂きたいと伝えた。
渋々だが彼は了承し、今はダイニングテーブルに腰を下ろして昼食のチンジ鶏のシチューを咀嚼している。
「…美味しいな。その、先程はすまなかった。」
「いえいえ、困惑されたと思いますしお気になさらず、」
「だが命の恩人にあのようなこと」
この人はどうやらばか真面目なようだ。そのうちお礼がしたいとか言い出しそう。別にいいのにな〜。
「すぐにお礼をしたいとこなのだが、仕事のトラブルで王国に戻らなければならない。本当にすまない。」
おぉ…。ほんとにお礼まさかの予感的中とは。人の足を踏み入れては行けない領域なのにわざわざ森に戻ってお礼をだなんて、真面目だ。
「でもここに戻ってくるの安易なことでは無いですし、気にしなくていいですほんと。ポーションの在庫も有効活用出来ましたのでwin-winです!」
まぁ、怪我のレベルが酷すぎて在庫のポーションじゃなくて貴重なハイポーション使ったから本当は大損なんだけどね。なんて思いつつ、その言葉は飲み込んだ。
「うぃ…?その、うぃんうぃん、というのがよく分からないが私が恩返ししたいんだ。時間はかかるが絶対戻ってくる。」
彼が確固たる目を向けてくるものだから、ついお待ちしてますね、なんて返して待った。
まぁ、無理だろう。まず死の森なんて誰も近づかないし、彼はここが森の中心部だと思ってもみないだろうし。精々、王国付近の森に侵入したぐらいしか思って無さそうだ。実際彼を拾ったのは王国から森に入って30分ぐらいのとこだし。帰りは送ってってあげるか、なんて思ってスプーン1杯にシチューを掬い、口に運んだ。
「そういえば、帝国軍とおしゃってたんですが、えぇっと、貴方は王国の方ですよね?なにか事情があるんですか?」
「細やかに伝えることが出来ないが、まぁ、色々あった、な。少し前に帝国と王国の国境あたりでワイバーンが出現したらしくてな、帝国と協力するために討伐隊を派遣されたんだが帝国国境に向かっていた討伐隊の行方がわからないんだ。街ではワイバーンの噂やら戦争の噂が持ち切りだが聞いてないのか?後、俺の名前はベルベルトだ。」
「えーっと…ベルベルトさんですねわかりました。仕事で錬金術をやっているもんですから、普段ひきこもってるんですよね。森の中に住んでるので多くて月2しか街におりませんし、そんな感じで国境情報に疎くて、」
彼はなるほど、と呟くと現状を教えてくれた。
まあ、戦争までにはなってないが冷戦状態らしい。そしてどうやら、ベルベルトさんはその調査で向かっていた道中らしい。
「でもなんでこの森に入ってたんですか?国境付近の森でもないし、王国側でしたよね」なんて質したがベルベルトさんは返答に困ってる様子だった。なるほど訳ありか。無理に答えなくても大丈夫です、と伝えると「追われていた。」と返答。誰にとかつけないあたり答えたくないのだろう。さっき起きた時帝国軍とかいってたから察しはつくけど。面倒事に巻き込まれたくないので、話をここら辺で切りあげることにした
さすがに森の中心部だと思っていなかったみたいで、豆鉄砲食らったようだった。鬼の形相で女の子人で森に住んでて危ないじゃないか!!と怒鳴られたのはびっくりしたが、彼の性分、心配してくれたのだろう。王国と森の境界線に着いた時近いうちに絶対戻って来るやら道は覚えたやら言っていたが宛にしてなかった私は適当なあいずちを打って聞いてなかった。なにやらずっと険しい顔をしていた彼から別れ際に炎のアーティファクトを頂いた。彼曰く変出者が出たら容赦なく使え、との事らしい。まあそもそもここ人こないから大丈夫なんだけどねと思いつつ、アーティファクトは金になるので売ってハイポーションの大損埋めよーと思ったので大人しく頂いた。要領よく生きる、世の中これが大事。
彼が去ってから1週間かは経過していた。
裏にある畑の土を整えていると、自分の影にもう1人の影が重なったのが見えた。え、why?どゆこと?まさかなーって思って振り返ろ。
うんそのまさかでした、
「何やってるんだお前」
「あ、ベルベルトさんこんにちはです。畑のお世話です。」
「いや、そういうことを聞いてるんじゃなくて、今は翠の季節入りかけだろ。そろそろコートを着出す人が多くなるってのになんで腕と足が露出してるんだ?」
彼は彫刻のような顔に手をあてて、頭が痛いと言って言っているような表情を浮かべていた。
「いやー、畑仕事って動くことが多くてですねすぐに体が温まるんですよ!途中から脱ぐのめんどくさいし、最初から薄着の方が楽かなって思って」
私の発言がお気に召さないのか彼の眉間の皺が濃くなる。
あれの会うの2回目なのに何かやらかした?と思ったら
風邪ひくだろ、やれやれと言った様子で自身が着ていた赤の厚手のコートを着せてくれた。その後「女の子なんだから体はもっと丁寧に扱え」と怒られたんですが、そんな変なことしたかなと考えてたのがバレたのが反省の意図が見えないとジト目で見てきた。…一応は反省してます。多分。
「ベルベルトさんなんでここにいるんですか?」
「は?あ、いや、別れ際に戻ってくるって約束しただろ。」
「でもここ呪いの地ですよ。普通戻っても来ませんし、森の中間地点、誰も入らないこの森に地図なんか無いんですから戻って来れないですって危ないんで次回から来ちゃダメです。」
「道は覚えた。」
「…はい?」
「道は覚えたって言っただろ。」
空耳かと思ったがどうやら違うらしいまともに歩いて王国から距離のあるこの道を覚えるとはいかに。しかもどこを見渡しても看板なんかないし、見渡す限り木木木森林日光浴万歳なんだよここ。何言ってるんだ…ほんと
「信じてないようだが俺は暗記が得意なんだ。大体1度見たら覚える。」
彼は相当優秀らしい。そういえば前世でもテレビで特集されてたよな、確か瞬間暗記能力だっけ?それに近い感じなのかな、いやそうじゃなくて何しに来たんだこの人。
「とりあえずコートありがとうございます。お仕事頑張ってください!」
「まてまてまて…!!!!」
引き止められるが現状把握できない。あれ?森に遊びに来たのでは?挨拶終わったし、畑仕事してちゃだめなの?
「お前なぁ、お礼を返しに来るって言っただろ」
そういえばそんなこと言ってたかもしれない。でもお礼して欲しいこともないんだけど、まぁてきたからにはおもてなしするか。
「お礼して欲しいことは思い浮かばないんですが、どうせならお茶飲んではなしませんか?もう少し待っていただければ畑仕事終わりますし」
彼はあぁ、分かったっと家の前で待機してくれてた。寒いから中に行っても良いのに、律儀だなーって思ってもくもくと畑仕事を続ける。