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朝は決まってバターたっぷりのトースト。ティーポットに残ってる茶葉を乱雑に捨て、洗わずに新しい茶葉を入れ替えお湯を注ぐ。母親は最近ハマったというネトゲに夢中になり食事中もスマホ広げ、父は朝食を食べ終えたらそそくさと自室に向かう。家族で並ぶ食卓で孤独を感じるのはおかしな事だろうか、と漫ろに考えていた。こんな感じで、私、一宮遥は可も不可もなく日常を過ごしていた。
はずだった。
それはある日のこと、通勤帰りに横断歩道を渡っていた時のことだ。横断歩道半ばで赤信号にもかかわらず、暴走車が猛スピードで迫ってくるのが見えた。運転席は車の証明に目がくらみよく見えなかったが、あきらかに避ける様子もない。
あ、死ぬ
そう思った時には体が宙に浮いていたと思う。何が起きたか理解できないまま一宮遥、私の生涯は終わりを迎えた。
目覚めたのは森の中だった。
ここが天国かと思いながら、ぼんやりしていた私は虚ろな目をしていたと思う。天使さん迎えに来てくれるかなとまっていたが、埒が明かなそうだと思った私は歩くことを決め、徐に立ち上がった。心做しか、背丈が縮んだように思える。あれ?足も手も小さい?
天国だと純粋な頃の姿に戻るのかなと考え、自分が6歳ぐらいの姿なんじゃないかと予想した。
そんな幼子姿でずっと歩き回れるはずもなく、1時間2時間も経ったであろう頃私の足は限界を迎えていた。
そして心も限界を迎えていた。いくら歩いても出口のない道無き道。風音ひとつ聞こえない静寂。
もしかして迎えなんて来ないんじゃないか。
そんな考えがふ、とよぎる。
もしかしてこのまま独りなんじゃ、と焦りが募る。
天国でも地獄でもなくてどちらもいけないまま孤独にいる場所がこの森だとしたら、?私はずっとひとりぼっちなのかもしれない。怖い、怖い、誰か
そういえばハロウィンは地獄も天国にも受け入れて貰えない人を同情して作られたって聞いたことあるし、ほんとに。どんどん心が曇っていく。
ーお願い助けて。天使さん。
そんな切実な願いが神に届いたのか私の前に人影ができた。あぁ、迎えがきたんだよかったっと思わず顔を上げたが姿を見て、私は固まってしまった。
そこに居たのは白い羽を持った美しい天使ではなく、紫のローブを着た皺だらけの老婆だったからだ。
思わず、し、死神と声に出してしまった。
終わった。もっと徳を積んでよかった。じわじわと涙がこぼれおちていく。
「誰が、死神だって?」
「ヒッ」
「怯えてるんじゃないよ全く」
ビービー泣いてる声が聞こえたから見に来たら全くと老婆はため息をついた。
「こんなチビが、なんだって死の森の中間地区に居るんだい」
「え、死の森?」
死の森なんてやっぱり地獄じゃないか。1人でさまようのも嫌だけど、地獄も嫌だ。前世で見た幼少期の読み聞かせで罪人が火炙りにされてる絵を思い出し、これから我が身に起きようことと考えたら涙が止まらない。
「ちょ!アンタなんでもっと泣いてるんだい!!」
とにかく、と私の涙をローブの袖で拭き老婆は私に着いてきなと近くの小屋に案内してくれた。