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(閑話7)すべての震源地はここですか?3

 外堀がガスガス埋められていくのが日に日に分かるようになった。

 どう考えても、王子様は私との結婚を狙っている。

「悪い人ではないんだけどね……」

 話した限り穏やかな性格ではある。そして私の異世界の話を楽しく聞き、ちょっとした豆知識に大げさに反応してくれ、一緒に楽しんでくれる。

 ただ困るのが、私はまだ元の世界に帰りたいと思っていることと、王子様に嫁いだ後の自分が全く想像しきれない部分だ。


 この世界は現代日本とかなり生活習慣に乖離があるのは間違いない。さらに王子と異界の平民である。常識に大きな違いがあって当たり前だ。

 今はまだ深い話に切り込んで話していないから楽しいのだ。王族ともなれば政治的な話も出てくるだろう。でも夫婦でも政治の話をすると仲が悪くなると言われるぐらいセンシティブな話題だ。喧嘩になるかもしれない。もしかしたら女は黙って従えと言われるかもしれない。

 なのに聖女としてのお仕事はしなくてはいけなくて、聖女がこれだけありがたがられている世界だと、聖女としての言葉も発しなければならなくなるだろう。最高権力者同士が仲良くできるかは正直未知数だ。


 そして聖女でありながらも王族となれば、色々な王族としての義務も付きまとう。……多忙すぎることにならないだろうか?

 さらに私はどうやら神殿代表みたいになっているので、神殿との橋渡しを期待されている。でも私は神殿の常識がすでに私の常識と乖離しすぎていて、そこの顔扱いになるのが心底嫌だ。私が顔だというのなら、私の指示に従えと思うけれど、私はいわゆる客寄せパンダ。方針は神殿の偉い人が決める。

 長年続けてきたことに意味があるというのは分かるのだ。うまくいかなかったところを直しながら今の形になったわけなのだから。でもそれを押し付けられて、『聖女なら政略結婚して子供を産んで、さらに好きな相手と不倫しても咎められません。むしろたくさん子供が増えて喜ばれます』というのを、さも常識のように言われるのは嫌だし、それが私の言葉だと思われるのは正直侮辱されている気分だ。


 とはいえ、ならあの聖女たちとどう接すればいいのかが分からない。

 最近はどうも私が彼女たちの間で悪者になってきているのもひしひしと感じる。どうやら私との結婚を狙っているような態度をする王子には婚約者がいるのだ。しかも十五歳で、今年十六歳になる聖女だ。対して王子は三十歳になったとか……犯罪かっ⁉ とぐわっと目をむきたくなる年齢差だが、婚約した時が聖女五歳、王子十九歳だというので、もうこれは、そういう文化なのだと思い蓋をする。うん日本にも年の差カップルがいなかったわけではないのだ。

 とにかく婚約者の聖女がいるのに、異世界からのポッと出二十五歳聖女が略奪しようとしていると聖女達からは見えるようだ。ぶっちゃけていえば、略奪の意思はない。まるでモテてるのに、私そんなつもりじゃなくてと言っている女のようだが、事実、本気で、私はそんなものを狙ってはいない。むしろ回避した方がいいのでは? 派だ。

 しかし清楚可憐な十五歳聖女はどうやらこの国で王家の次に力がある公爵家のご令嬢だそうで、聖女の中でも発言権が大きい。聖女の力も私が来るまではナンバー1。そんな彼女が悲し気に微笑めば、もう私が悪役決定である。

 

 その結果、小学校女児のいじめっぽく話しかけてもシカトされている。

 唯一救いなのは、私はそもそも彼女たちと年齢差が大きくてあまり話していないことだ。いや、先にちゃんと仲良くなっていれば、もう少しこの異世界聖女悪な状況は抑えられたのか? 思うけれど、本当に小学生達と仲良くなる方法が分からない。

 ならば学校に通っている子をと思ったけれど、その子たちが中学生の年齢で、高校一年生の年齢で卒業と……。若い。若すぎる。

 聖女のお仕事はもう小学校どころか幼稚園の年齢から始めているようで……年下だけど大先輩の構図だ。これは子タレと新人アイドルみたいなものだろうか? 

 そんな現実逃避してみるけれどもう、白旗を上げたい気分だ。神様無理です。


 というか禍の浄化、どうなった?


 そんなことをしていると、ようやく一件、禍の浄化の旅が入った。

 と言ってもかなり近場で、魔物がはびこる中を馬車で移動。その間、護衛が魔物を倒し、私は禍の前に行く。お祈りの呪文を唱えれば、あっという間に浄化は終了した。

 他にも聖女がいたけれど、皆、唖然としていた。

 後から私をたたえまくる神官に聞いたところ、普通は禍の浄化は数人で行い、一人の力でなんとかなるものではないそうだ。異世界聖女は強いというのは知っていたが、ここまでとは誰も思っていなかったらしい。

 しかも普通なら疲れるものらしいが、全く疲れを感じていない私は、どうやら規格外というもののようだ。一番力があった十五歳の子とでも天と地ぐらいの差があると判明した。


 そんな強大な力が判明したことで、私は気が付けば公爵家の娘になっていた。何ですと?

 えっ。それ、もしかして十五歳聖女ちゃん――本名イリスちゃんのご実家では? と思えば、まさしくそうだった。そしてイリスちゃんも養女であることが判明。この世界の聖女は、貴族に養子縁組されて後ろ盾を作っているそうだ。えっ。それ、本当に要らないんですけど……。

 そう言いたいけれど、聖女の養子縁組は、本人の意思関係なく神殿が勝手にできるらしい。嘘やろ。人権どこ行った?

 話を聞くと、どうやら聖女は五歳で神殿に引き取られる。もともと貴族に産まれている子は、その親の力で神殿の子にはならないが、そうでない限りみんな平等に神殿の子だ。そしてその聖女を守るための養子縁組をするそうだ。流石に五歳の子に意思決定権は持たせられないし、何なら元の家に帰りたいだろう。

 でも聖女というだけでその力を悪用したい人に狙われる。だから守るための力がいるというわけだ。

 その流れで、私も勝手に養子縁組されてしまったという。いや、待って。意思決定できるから。私二十五歳だからね!


 そして気まずすぎる中、さらなるトラップ発動。公爵家の娘と王太子の婚約だったので、イリスちゃんからするっとスライドして私が婚約者に!

 人の、意見、聞いてくれ‼

 王子が王太子とか聞いていない。もちろん嫌いではない。普通の会話では趣味も合いそうだ。でもこれはだまし討ちと言わないでしょうか?

 もう、とにかくイリスちゃんに申し訳ない。

 多分私の方が力が強いからこうなってしまったのだろう。


「いや。力が強いというよりも、イリスのことはどうしても妹にしか思えなくて」

 私が婚約者になってしまったことの理由を王太子に確認すればそう答えが返ってきた。

 まあそうでしょうね。十九歳の貴方が五歳のイリスちゃんに恋情を持っていたと聞いたら、流石にドン引きしたと思う。この世界で許される年齢差と言っても、未成年に対してどうのこうのするのはさすがに許されていない。

「だからルナが婚約者の方が私的にもありがたいんだ」

 そこと比べられたらね。

 でもこれ、全然うれしくないからね!

「今はよくても、すぐに私はおばあちゃんですよ? 若い方がいいと思いませんか?」

「私はルナと話すのが好きだから、若ければいいというものではないよ」

 ……それは嬉しいけどね。

 でも私は、かなり空気を読んで話をしている自覚がある。相手は王子様。怒らせないように気を使っているのだ。

 これが永遠に続く?

 しかも全然理解できない神殿の顔にさせられた上で?


 勝手に公爵家の令嬢にされて、勝手にそのまま王太子の婚約者。この世界では、羨まれる立ち位置をもらえたのは分かっている。分かっているけれど、その過程に私の意思はみじんも入っていない。

 そして禍の浄化の仕事がなかなか回ってこないのも怖い。

 ねえ。

 私は王太子と結婚するために呼ばれたの?


 私、会社にはいきたくなくなったけど、でも王子様と結婚したいなんて一言も言っていないよ?

 禍で大変だから呼ばれたんじゃないの?

 私は、本当に王宮でのんびり食事会をしていていいの?

 禍が各地で出現していると聞いたのだけど?

 不安が膨らむけれど、気を配りながら一つ一つ不安と疑問を口にすると、王子は膝をつき私の手を取った。顔がいいので様になる。

「ルナに危険なことはさせたくない」

 

 ……いや、それ、聖女として、駄目じゃない?

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