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おとり作戦

 父とアリスが到着し、アリスは診療所で必要な人の癒しを行うことを決めた。骨折している人と今日の討伐で怪我をおった人だ。

 すでに聖水を何本か作っていたアリスにとって癒しの魔法は、魔力量的にそれなりの負担がある。しかし今日行うのが父が怪我した時の癒しのみだと考えれば問題ないらしい。父もアリスの癒しをあてにした動きをするつもりはないらしく、緊急時にすぐに町の人が移動が開始できるようにしておく方を優先させた。


「すごい、痛みがなくなった」

 足や腕、肋骨などの骨折が残っていたものたちはアリスの癒しが終わると、表情を明るくした。痛み止めの薬はあるが、痛み止めの薬はどうしても胃の調子を悪くし、使い続けられるものでもない。夜に寝るために使うようにしても、痛みがすべて消えるわけでもない。

 聖女の癒しと比べると天国と地獄の差がある。

 アリスの方は多少疲れた程度らしいので、聖女の力は本当に万能だ。

 ただしこの癒しで、アリスが魔法を使う制限ができた。今日は、基本的に聖女の力は使わずに過ごさなければならない。


「アリス、無茶はしてはダメよ? 父の言うことをちゃんと聞いてね」

「分かっているわ。たとえ聖女でも移動中はわがままを言わず、必ず護衛の指示に従うようにと神殿でもずっと言い聞かされているのよ?」

 アリスは私を安心させるように、にこっと笑った。年下でも、こういったことに関しては私よりもアリスの方が慣れている。


「父さん。南門を出る時だけど、私もそこまでついていくわ」

「気持ちはありがたいけれど――」

「東のあたりを今日は調査していたけれど、かなり魔物の量が多いの」

 私は父が来るまでに倒した魔物の種類や数を話す。アンデッド対策でキノコの胞子もまいたけれど、建物内にいるアンデッドには効果がない。

 東区と同じぐらい魔物がいるとしたらかなり危険だ。


「おとりという言い方は悪いけれど、私が魔物をひきつけている間に、父さんとアリスが門の外まで一気に馬で駆け抜ける方がいいと思う。実は初日に植えた木の種がね、もう実をつけていて、その実を餌として使って誘導することも可能だと思うの」

「言っていることは分かるけれど、おとりをするのはあまりに危険だ」

「うん。だから、おとりは私一人よ。誰かを守りながらは無理でも自分だけを守るぐらいならなんとかなるわ。最後は木の実を食べてもらう間に逃げきるだけならいけると思うの」

 危険なのは承知だ。だから私以外には協力させられない。本当ならば、多数でおとりをし、魔物を分散させる方がいい。でもそれを任せられる人材がいない。


「後はある程度の罠を張りながら逃げるわ。私の周りにいくつかの底なし沼を一時的に出現させて簡単に追いつけないようにするの。父さんたちが門から出たら私も木の実や食料を投げて、逃げて、それでも追ってくる場合は火の壁で防御しながら、炎の矢で撃ち落とすわ。火に対して耐性がある魔物の場合、倒せないけれど水で魔物を押し流して遠ざけるという方法もできるし」

 逃げきれるだけの手札はある。

 ただし確実に魔物をまいてしまわないと、避難所に戻れないのがつらい。北門から逃げるのも悪手だ。下手をすれば村の方へ移動しようとする魔物が出てきてしまう。


「道中も魔物がいる可能性が高いなら、父さんはできるだけ魔力を温存して南門は抜けた方がいいと思うのだけど、どう?」

 父も私と同じで魔力量は多いタイプだ。でも限界はある。

 誰かを守りながら、それも絶対に傷つけてはならないとなれば、余裕をもって動きたいはずだ。特に守り手が父しかいないのならばなおさらだ。

「隣町までの道がどうなっているかもわからないでしょう?」

「……はぁ。分かった。これは、全面的にアメリアが正しい。ただ父親としては本当に心配なんだよ? アメリアの実力不足という意味ではなくて」

「分かっているわ」

 父は誰より私を認めてくれている。

 だから私に父の後任を任せていくのだ。

 それでも心配になるのは、ただただ、親だからの一点に尽きるだろう。


「私とアリスが南門から外へ出て、アメリアも魔物をまくことができたら、今日は捜索はやめて村に戻りなさい。きっとアメリアも魔力消費がひどいはずだし、身体強化による体への負担も大きいと思う。余裕があるうちに移動を開始した方がいい。次の日はいつも通りまた町に来て、状況把握から行ってほしい。私は明日には町に戻る予定だ。アリスは状況次第で、町に残すか連れてくるか決める」

「うん。分かった」

 予定ではアリスのお迎えがこの先の町までは来ていることになっている。

 ただ被害があってから三日。一度王都に帰っている可能性もあるし、どうなっているかはわからない。神殿は隣町にもあるはずなので、もしもの時は町で待機していてもらうのもありだ。


「いやよ。わたくしの力が必要でしょう? わたくしも村に戻るわ」

「……それはアリスが周りを説得できたらにして。もちろんアリスの力があればとても便利だし助かるわ」

 アリス一人いるだけで、禍の浄化は無理でも、魔物化を治せるし、傷も治せる。

 でも禍が浄化ができないここはとても危険なのだ。迎えに来ている人と合流できれば、まず間違いなく引き留められるだろう。下手したら父も王都までの護衛をお願いされそうだが、それは断って戻ってくると思う。

「でもたぶん、王都でアリスを心配している人は、アリスがまた危険なところに行くことを許さないと思うわ。魔物化は時間がかかるけれど、薬で治せるし、怪我も時間がかかるけれど自力で治せる。アリスが責任を負う必要はないの」

 もちろん命を落としてしまうこともあるけれど本来ならば聖女はここにはいない。


「わかったわ。私が、ちゃんと説得できれば戻ってきてもいいのね?」

「……うん。えっと。そうなんだけどね。あの、ちょっと忘れてそうだから言っておくけど、アリス、本当ならもう王都の方に戻るために移動しているんだからね?」

 災害が起こってしまったからうやむやになっているが、本来のアリスがいる場所は王都の神殿であって、神殿のない村ではない。

 なんだか説得したら村に居座っても大丈夫よねと言われている気がしてならなくて私は追加で言っておく。安全に帰れないから私の家にいるだけで、ずっと居座っていいなんて一言も言っていない。


 

「そんな。けなげに姉を心配する妹を追い出すなんて、お姉様ひどいですわ!」

「やめて。私が性悪姉みたいじゃない。血のつながりは一切ないでしょうが」

 えっ、姉なの? という視線がちらちらと周りから刺さる。

 アリスは正真正銘の侯爵家のご令嬢なので、血は一滴たりともつながっていないし、そもそも見目が違う。

「でも、わたくし、アメリアを姉と慕う心に偽りはないわ。冗談はさておき、私の力が必要な限り絶対戻るわよ? それに、シルフィアを一人で村に残しておくわけにはいかないもの。村に居たい私と違ってシルフィアは王都の神殿に戻りたいはずよ。私が連れ出したのだから、必ず戻す義務があるの」

「そういえば、アリスがシルフィアの主だもんね」

 シルフィアの存在をうっかり忘れてしまったけれど、彼女は今も村で待っているのだ。状況が落ち着いてから父が王都まで送ることは可能だけれど、アリスはそんな無責任なことをしたくないのだろう。


「そうよ。絶対戻るとシルフィアにも約束したもの」

 それならば、私がとやかくいうのもおかしい。アリスが説得をして戻ってくるのならば、私は今まで通りアリスを受け入れるだけだ。


「なら話もまとまったし、時間も惜しいから、さっそく南門へ行こうか」

 父に言われ、私とアリスは南門に向けて出発した。

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