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責任と覚悟

 私が横にずれると、父は家の中に入った。それに続いて私も中に入り、玄関を閉める。

 二人は既に帽子をかぶりリュックを背負っていた。私を信じて準備をしたのだ。何としても父を説得しないといけない。

 でももしも人間から魔物になった場合は、こんな風に普通の人間と変わらないと言われたらどうしよう。どうかまだ魔物にはなっていないと父が言ってくれるのを願うしかない。


「帽子を取ってくれるかい?」

 父の言葉に子供たちは不安そうに私を見たが、私は頷く。助けるならば隠しておくことはできない。

「人狼の症状だね。でも言語も理解しているし、理性も残ってる。……ふむ。キノコはさっき生えたばかりかい?」

「ううん」

「うん。ちがう。あさ、きづいたら生えてたから」

 朝には生えていた?

 だとしたら、私が先程放った胞子ではない。


「食べ物や水はどうしてたんだい?」

「かあさんがかくれろっていったからがまんしてた。でもロージーものどかわいたっていったから、よるこっそりそとにでていどでのんでた」

 もしかしたらその時、昨日蒔いたキノコの胞子に感染したのかもしれない。

「人間を食べたいとは思わない?」

「おもわねーよ! すっげーはらへってるけど」

 お腹が減っているのは食べていないからだ。なんでもいいから食べようと思わないのならば、魔物化によるものではないはず。魔物の食欲は強く、人間だろうとなんだろうと口に入れられるのならばかまわない。


「ギリギリでキノコに感染したことによって魔物化が抑えられているようだね。感染してからだいぶんと時間も経っているということはこのまま意識は人間のまま保てそうだ。ただ、ここまで魔物化が進んでいると聖水では体が崩壊してしまうかもしれない」

 父も同じように感じたようだ。

 普通は魔物化の途中でキノコに感染などしないので、ここまできたらあっという間に心も魔物になってしまい魔物として討伐される。


 でも人間として行動できるということは、まだわずかに人間の部分が残っているということではないだろうか?

「辛い治療だけど、受けるかい?」

「……うけなかったら?」

「殺すしかないね」

 父の言葉に兄はびくりと震え、妹を抱きしめた。


「つらいって、どれぐらい?」

「壮絶に不味い薬を飲み続けなければいけない」

 父の言っている方法が分かった。

 薬による、祖父の治療法だ。飲み始めてから五日ほどかかるし、毒のような味で大人でものたうつアレだ。幼い子供ではちゃんと飲めるか分からない。

 でもあれで人間の方に体が戻ってこれれば、今なら途中から聖水の治療に切り替えられる。上手くいくかは分からない。でも可能性はまだある。


「やる。やるから、ロージーをたすけて。かあさんにもたのまれたんだ」

「お母さんはどうしたんだい?」

「分からない。クローゼットの中にいろって言って、どっか行ったから」

 すでに母親は生きていない可能性が高く、私は奥歯を噛みしめた。二人の心細い気持ちに同調すると泣いてしまいそうだ。

 

「決まりだ。アメリア。二人を馬車まで連れて行って、アメリアは今日はそこで待機だ」

「でも……」

 他にも待っている人や、危険なアンデッドがいるかもしれない。昨日だって私は馬車の警護には入れられなかった。それは私の力が必要だったからだ。

 もしかして戦力外通告だろうか?

 現状、自分が足を引っ張り続けていることに思い当たり、暗い気持ちになる。

 

「もしもこの子達が他の人を襲うようになったら、迷わず殺しなさい。それが二人を助ける条件だ」

 耳元で父にささやかれた言葉にドキリとする。

「どうしてもできないなら、私が今やるから拘束だけして呼びなさい。アメリアは見なくていい」

 そうか。

 魔物になった時に確実に殺せる私がいなければ二人を馬車に乗せられないのだ。

 そして父は私を守る為に悪役になる。きっと父はここで私が二人を殺せないと言っても責めないし、それどころか私が気に病まないように行動を肯定するだろう。

 

「ううん。大丈夫。もしもの時は私がするから、父さんはしないで」

 私が見つけ、私が保護すると決めたのだから、尻拭いを他の人に任せる気はない。責任を持つということは最初から最後までちゃんと見届けると言うことだ。嫌な事だけ他人に任せるのは間違っている。

 魔物に対しての慈悲はない。

 もしも治らなくて、哀れんで山に放ったとすれば、生態系が崩れ、村に魔物が出てくる原因になりかねない。それどころか二人が村人を襲うかもしれない。

 だからもしも治らなかった時は、私が彼らの最後を看取ろう。

 それだけの決意を持って頷けば、父は悲しそうな顔をして私の頭をポンポンと叩いた。


「アメリアは少しできすぎだね」

「親として鼻が高いでしょ?」

「うん。でもそれと同時に、親だから心配なんだよ。苦しいときはちゃんと頼りなさい。父さんでなくてもいいから」

 父以外の誰に頼れというのか。

 祖父か? と思った時にふいに浮かんだセオの顔に首を振る。いやいやいや。セオは駄目でしょ。助けてくれるとは言っていたけれど。


 私の奇行にちょっとニヤリとした父は、私がセオのことを思い浮かべたこともお見通しなのかもしれない。

 にやけ顔に少しだけ腹がたったけれど、腹が立ったことで不安が軽減した。

「後は……そうだね。色々考えるのは大切だけど、あまり心労になるなら、時には考えるのを止めてもいい。出たとこ勝負でも案外何とかなる」

「いや。魔術師が考えるのを止めたら駄目なのでは?」

「私も禍ごと地中を抉る魔法を使ったことがあるからねぇ。あの時はあまり深く考えずにやったけど、まあ、今も生きてるし?」

 生きているのは最低ラインでは?

 まあでも、怒りにまかせて焦土にしたやらかしを思えば、些細な気もする。


 父と別れ、子供達を連れて荷馬車に戻る途中で、父は自分でその話を黒歴史と言っていなかったかと思い出す。やはり何も考えないのは危険な気がする。

 ただ考えても仕方がない未来については、今はポイッとしてもいいかという気もした。治らなかった時、魔物になってしまった時にすることは同じだ。多分私なら人狼相手でも負けるとは思わない。だから今はどうしたら治せるかに焦点を当てて考えるべき時なのだ。


 荷馬車につけばおじさんが二人を見てギョッとした顔をした。なので二人と少し離れてから事情を説明して護衛を交代する。

「とりあえず、この辺りは全然魔物はやってきていないけど、気をつけるんだぞ?」

「うん。大丈夫」

 気をつけろと言った時の目が、子供達の方を向いていた。私を心配してなのは分かるので、苦笑して背中を押した。理解はできるけれど、あまり子供達をおびえさせたくない。


「そうだ。ご飯もあるよ。半分こにして食べてね」

「わぁ!」

 妹のロージーはぱあぁぁぁぁっと顔を明るくし、目をキラキラさせた。

「おねえちゃんは?」

「私は朝ご飯しっかり食べたから大丈夫。それにね、魔法で水も出せるから飲み水はちゃんと確保できるからね」

 水分を飲めば、とりあえずは空腹も我慢できる。

 私のものをとってしまうことに罪悪感を覚える少年の前で、私は水を作る魔法を使った。三つのコップの中に入れると、びっくりした顔をする。

「すげー。まほうだ」

「今のは簡単なものだから、属性さえ持っていれば、魔術師にならなくても使えるものよ?」

 この呪文は、ずっと昔から人々は知っていた。

 多分綺麗な水はとても貴重だけれど必要だったから、誰かが広めたんだと思う。魔物化を抑える方法だけでも、必要なんだからもっと広まればいいのに。そうすればこの二人はここまで症状が進行する前に止められたはずなのだ。


「おれも、そのみずを出せるぞくせいあるかな?」

「ろーじーも」

「村で調べられるから、元気になったらやってみる?」

 その言葉に二人はキラキラした目をする。

 ああ。この先も望む未来が続けばいいのに。いや。続かせてみせよう。

 私は駄目であった時のことは考えず楽しい未来について子供達と話して過ごした。

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