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セオからの手紙2

 夕飯の片づけをして自分の部屋に帰ろうとした時だった。

「アメリア、資料と手紙が届いたよ」

 父が私に手紙を渡してくれた。

 誰からとは言われなかったが、私に手紙をくれるなんて、セオぐらいだし、資料もきっとアルフィーが鉱物に関する本の写本をしてくれたのだろう。父から受け取りさっと封筒を見れば、一通だけではないので、セオだけではなくアルフィーからの手紙もおまけについているようだ。とっさにアルフィーの手紙はセオの手紙の下に隠す。さすがにアリスの前でその名は言えない。絶対変な勘違いをされてこじれる。


「父さん、ありがとう。早速部屋で読んでくるね。アリスとシルフィアさんもおやすみ」

 アリスとシルフィアさんは夜は父の部屋で寝ていた。そして父は作業場で仕事をした時に仮眠できるように用意してあった長椅子で寝起きしている。作業場はいろいろ触ってはいけないものがあるので、下手にそこで寝させるわけにはいかないし、どうも普段からいい布団で眠っているアリスは干し草ベッドだと肌がかゆくなって眠れないそうだ。というわけで、父のベッドが貸し出され、父の部屋には危険なものがしまってあることもあるから戸棚などに勝手に触らないことを約束させていた。

 もっとも本当に危険すぎるものは私の部屋に一時的に移動している。


「おやすみなさいませ」

「おやすみなさい」

 私や父からするとまだ早い時間だが、年齢が低いことと、普段神殿で早寝する習慣がついているアリスは夕食が終われば湯あみをしてそのまま眠ってしまう。

 彼女たちと別れると、階段を駆け上りたくなる気持ちを抑えて、普段通りに上る。あまり浮かれている姿を見せて、手紙に興味を持たれると困る。

 ぱたんと扉を閉めると、自然と私の口がニマニマと上がってしまう。アリスに不審がられてないだろうか? 私は机の上に紙たばと手紙を置くと落ち着くために深呼吸をした。

「もっとかかるかと思ってたのに」

 思ってより早く届いた二回目の手紙に自然と唇が上がる。セオからの封筒は周りを縁取るような模様のついたもので、前回の職場のものとは違った。どんな顔でなれない雑貨屋に買いに行ったのだろうか。困り顔だけど私のために探す姿を想像すると胸が暖かくなる。

 せっかくのかわいい封筒だけれど、中身が気になる私は、手早くペーパーナイフで開封し、手紙を取り出した。


『親愛なるアメリアへ。

 無茶をせず元気にしているか?』

「もちろんしてるわよ」

 まるで信用ならないと言いたげな出だしに、私は思わず反論を声に出してしまい、慌てて口を押える。

 聖女であるアリスが突撃してきて、彼女に対しての料理教室を開いているのは決して無茶ではない。事の成り行きというやつだ。

『俺たちの方は少しバタついているが、アルフィーも何とか神官を辞職して、錬金術師に弟子入りすることができた。まだ神殿から連絡が入ってくるから、縁が完璧に切れたわけじゃないけどな。ただ弟子入りしたことでアメリアの方に聖女の件で迷惑をかけてしまって申し訳ないとアルフィーが言っていた』

 ……神殿からの連絡もきっとアリス関係なのだろう。

 錬金術師を通して神殿にアリスの所在地は伝えているので、セオの方にもアリスがここまでやってきているのは伝わっているに違いない。


 とはいえ、今日でアリスが来てから五日目。折り返し地点まで来たので、彼女の面倒を見るのもあと少しだ。たった五日だが、彼女の料理の腕はめきめきと上がり、最低限フライパンを焦げ付かせないコツなどを教えたし、味見も教えた。それだけでも劇物から普通の料理に進化したはずだ。きっと次に食べることになる神官は驚くだろう。

 ……驚かせたいけれど、アルフィーやアリスの苦労を考えると、劇物料理を神官たちの口に突っ込む機会がなくなるのが少し残念に思う私は性格が悪いかもしれない。どうしてもアリスと接する時間が長くなると、年下ということもあって、彼女びいきになってしまう。

 

『何か迷惑をかけられているようなら言ってほしいけれど、残念なことにすぐに助けに行ける距離じゃない。助けると言っておいて情けないな。もうすぐそっちに神官がつくはずだ。迷惑料をたんまり搾り取ってくれ』

「いや。この程度のことでセオは頼らないから」

 そもそも聖女のアリスを物理的に排除するわけにはいかないのだ。セオの出番はない。でも心配してくれるのはうれしいし、少しくすぐったい。


『新居は、アルフィーの師匠になった錬金術師が経営しているアパートの一つに決まった。俺が貸家を探していると言ったら、神殿にも比較的近くて日当たりがいい場所を貸してくれた。その代わりアルフィーと一緒にいる時は、アルフィーが神殿に連れ込まれないように目を光らせておいてほしいと頼まれたけどな。どうも錬金術の知識を得たアルフィーを再度自分たちの支配下に置こうとするんじゃないかと心配しているみたいだ。孤児として育ったアルフィーは貴族出身の神官や聖女に逆らえないように刷り込まれているからな』

 目を光らせるって、どれだけ神殿は危険な場所なのか。さすがに神に仕える神殿の人間が人さらいまがいな行為はしない……よね? 

 アリスが自粛すれば少しはアルフィーも過ごしやすくなるかと思ったけれど、錬金術の知識の方の関係でとなるとこの先も厄介ごとが付きまといそうな雰囲気だ。

 孤児というのはなんて大変なのだろう。アルフィーの現状に同情する。


『仕事の方は長期に休んだからやめさせられるのも覚悟だったけれど、まだちゃんと籍は残っていたから、今までと同じように聖女の護衛をしている。でも俺が戻る前に一度浄化の旅に出ていて戻ってきたばかりだから、今はもっぱら扉の前の護衛ばかりだ』

 うわぁ。宝の持ち腐れ。

 セオの実力を考えると、扉の前に立たせるより現場で護衛させた方が役立つと思うんだけど、あえて扉の前で護衛って、もしかして長期に休みすぎたからだろうか? いや、でも一度旅をして戻ってきたばかりだから聖女が休暇中だからということかもしれない。

 情報が足りないせいで心配になるので、もう少し詳しくそのあたり書いてほしいが、あまり聖女の私生活を書きすぎると秘密のやり取りがバレた時がまずそうだ。もちろんバレるつもりなんてないけれど、知らない方がいい情報をうっかりぽろりしてしまうと怖いので、セオの判断で流さない方がいいと判断したならそれに従おう。


『そうそう。魔物のはちみつと蜜ろうがなかなか手に入らないものであることは納得してもらえたから、安心してほしい。どうもそれを使ってハンドクリームやリップクリームという美容品を作ったそうだ。できは聖女の間では微妙な評価だったが、貴族や神官の間ではかなり好評らしい。今後はこんな無茶ぶりされないよう気を付ける』

 もともとは神官であるアルフィーが無茶ぶりされてしまったものだから、騎士であるセオは大丈夫な気がするから少し安心だ。

 それにしても聖女の間ではハンドクリームが微妙って、やっぱり光属性の魔法の関係でだろうか?

 アリスの話を考えると、光属性を持つ彼女たちに美容関係のものは必要なさそうだ。……逆に私の方が必要かもしれない。自分の日に焼けた腕を見て、なにか美容関係のものを独自に作るべきか少し思う。

 女将さんに相談すれば何かとそういうことに関するアドバイスはくれるけれど、からかわれる気がする。父も知識としては知っているだろうか?


『アルフィーは早速鉱物に関する本を錬金術師の学校の図書館で借りてきて写本していたから読んでやってほしい。俺も手伝いたかったが、わからない単語が多すぎて写すのに時間がかかり全く役立たなかった。すまない』

 いや。写本はアルフィーが錬金術師に弟子入りするために口利きをした対価だ。だからセオはこれ以上は私に返しすぎなのでやめてほしい。

『きっとアメリアのことだから返しすぎだのもらいすぎだの思っていそうだが、あんなすごい文箱をもらって何も返さないわけにいかないんだからな。ただいいお返しが見つけられていないから、後々で頼む』

 ああ。あげたね。そういえば。

 別に気にしなくてもいいんだけど。むしろそれよりは使い勝手とかそういった感想の方が欲しいんだけどなと思いつつ読み進めるが、すごい文箱という表現だけで使用感の感想はなかった。……でもよく考えれば、自分しか開けられず、他人が無理に開けようとすれば燃えるだけの文箱で、普通に使う分には通常の文箱と変わらない。となれば使い心地も何もないか。わざと中身を燃やすわけにもいかないだろうし。

 とりあえず使ってはいるようなので、無事に文箱としての役目を全うしてくれているようでよかった。


『すぐには行けない距離にいるのだから、無理はしないように。また手紙を送るから、できれば返事が欲しい』

 しめくくりまで読み終えた私は、ほうと満足げなため息をついた。

 セオから返事の催促があるのがすごくうれしい。アリスとの料理教室のことでも手紙に書こうかなと考えたところで、まだアルフィーからの手紙を読んでいないことに気が付き、慌てて出しかけた便箋を戻す。

 慌てすぎだ。

 せっかくアルフィーも手紙を書いてくれたし、資料を送ってくれたのだからちゃんと読まなければ失礼だ。

 私は心の中で謝りつつ、アルフィーの手紙の封を切り読み始めた。

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