素材採取のお仕事
綺麗なちょっと蛍光色入っている青々とした葉っぱ。
ちょっぴり禍々しい動物の鳴き声。
爽やかではない微妙な異臭が鼻を突く。
「今日も絶好の素材採取日和ね」
顔にはゴーグルとマスク、手には軍手、勿論服は汚れてもいいズボンで足をしっかり保護し、上から耐熱、耐酸、耐毒効果のあるローブを着た私はうんうんと頷いた。肌の保護優先でおしゃれ感はゼロであるが、今の私にそんなものは必要ない。
肌の保護とはいえ、これだけ着込むと普通ならば暑いけれど、私は魔術師。
主席で卒業した実力舐めるなと作った、自分の体感温度だけは一定に保てるイヤリングを身につけている。まあ、一度熱中症で倒れたから慌てて作ったものだが、失敗は成功の母だ。
卒業パーティー一週間前に振られた私は、引き留められるのも事情を聞かれるのも嫌で、すべての講義も試験も終わっていることもあり、速攻で荷造りして実家へと戻った。
実家に戻り父に説明したら、父は爆笑した。娘が失恋したというのに酷い父だ。
でもその代わり私が戻ったこともなんてことない様子で受け入れてくれた。
「自分が信頼できない相手と結婚しなくて済んでよかったじゃないか」
笑ってはいたけれど、青色の瞳には若干の心配がにじんでいる。だから私も素直に話した。
「そうだけど……腹が立つのよ。筋を通されていないのに、女は感情的になるから仕事できないって話を持ってこられて」
「安心しなさい。仕事でもなんでも感情的になるのは女だからじゃない。父さんも、カッチンってきて、辞表出して速攻で田舎に帰ったからなぁ」
自分も同じことをしたと父は笑った。しかも父の場合、本当に速攻で田舎に帰ってきたらしく、慌てて父の部下がやってきて戻ってきてくれと嘆いていたのを「嫌だ♡」と言って追い返していたのを昔見た記憶がある。だからまぎれもない事実だ。
ある程度気持ちが落ち着いてから、父は本当に手に負えない仕事だけ元部下や知り合いからの依頼ならば受けているので情は厚いのだと思う。
「ただし、無職のまま何もせずにずっとここにいるのは駄目だ。何もしない期間を作ってもいいけれど、いつまでかは決めて、今後どうするかを考えなさい」
「分かってるわ。だから、何をしたいか決められるまでは、父さんの素材採取の仕事とか、じいちゃんの医者の仕事の手伝いをしたいんだけど……駄目かな? 一応、一年を目処に、何をしたいかゆっくり将来を考えたい」
「うん。素材採取の手伝いは欲しいから父さんは問題ないよ。このまま父さんの仕事を引き継いでもかまわない。じいさんも、後継者どうしようかなと言っていたから、手伝いは大歓迎だと思う。ただし医者は途中で辞められない仕事だから、覚悟がなければじいさんに言質をとられないように気をつけろよ?」
「分かったわ」
魔術を学んだ医者と言うのは割合が少なく、こういう田舎では私の祖父だけだ。だから重宝される。でも医師が少ないので何かあったときに夜中でも必ず呼ばれるから大変なのだ。
そして父の仕事は、素材採取。基本は魔術師や錬金術師向けの薬草とかが多い。畑では作れない薬草などはとても需要が大きいのだ。そこに目をつけ父は禍がある山で素材を採取し、王宮魔術師まで勤めた知恵を使った魔方陣で王都まで出荷してお金を得ている。
禍は危険とされ聖女が浄化するが、変わった薬草などが育つ場でもある。それに今いる聖女の数ではすべての禍を浄化などできないので、王都から遠い田舎は後回しにされ、禍と共存していた。
禍は年々増加傾向にあり、近年は王都周辺の浄化も間に合わないそうだが、まあ、それは王都にいる人が考えてくれればいい話だ。
とにかく素材採取には需要があり、私は今日も父の仕事の手伝いとして、素材採取をしていた。
何をしたいかは分からないけれど、何ならばできるのかは分かる。今やるべきはお願いされた素材採取だ。
この葉っぱが蛍光色のものはすべて禍が関係していると私は考えている。
なぜならば、禍を手当たり次第撲滅する王都では見ないからだ。この山だけではなく、禍がある場所の討伐について行った時も見かけた現象なので間違いない。実際に禍がある場所からは離れており、このあたりの動物は魔物化もしないけれど、植物には影響している。
そしてこの木の種を別の場所で育てても、育たないか元の植物になってしまうことから見ても、禍との関係は深い。
私はお願いされている、樹木の青い葉と赤い葉、黄色の葉、黒い葉を丁寧にちぎり、劣化防止効果のある布袋に入れていった。それぞれの葉は魔力回復薬や解毒薬などの薬の材料の一部となる。
葉っぱを必要量をとったら次に採取するのはキノコだ。
先程の葉も、実は皮膚に直接汁がつくとかぶれるので、なかなかに面倒な素材なのだが、キノコも面倒だ。
キノコというのは、植物なのか魔物なのか微妙な線のものが多い。動くは鳴く……というか泣くは、胞子と言う名の毒を吐くは、葉っぱに比べてとても採取が面倒だ。勿論、面倒なだけで問題なく捕まえられる。
動くと言っても踊ったり、歩いたり、すこし走るくらいで、猛スピードで駆け回ることはない。泣くのも、マンドレイクのように危害が加わる訳ではなく、ただちょっと罪悪感を感じる程度。泣くのに笑うが加わるタイプは結構イラッとする。
胞子もマスクとゴーグルで十分遮断出来る。
ただ、対処を間違えると、キノコの苗床だ。毎年、誰かかしら、頭からキノコが生えたと祖父のところに訪れる。着衣や素材に付着してた胞子を誤って吸い込んでしまうことがあるのだ。ちなみに、生えたまま長時間放置すると、認識阻害と幻覚が起こり、キノコを育て出すので要注意だ。村のあちらこちらに毒キノコを繁殖させようとするので、キノコをはやした人間を見たら、とにかく駆除薬を頭からぶっかけろと言われている。
今回お願いされているのはとリストを確認すれば、元々毒性があるシイタケモドキのうち、動くものと書かれていた。踊っても歩いてもいいらしい。それから、青白く光るキノコと笑うキノコも必要っと。
キノコというのはこんな風に変化していてもジメジメとした木の近くを好む。
ジメジメした場所は虫の魔物もいるから、正直あまり嬉しい場所ではない。まあ、虫を素材にすることもあるので、講義でそれなりに触ったから慣れたけど、好きか嫌いかで言えば嫌いだ。大嫌いだ。
それなのに、元彼は講義で使っているから私が虫が大丈夫だと思い、聖女のために追い払えとか、火を使うと虫が寄ってきて聖女が怖がるから、虫除けつくって私が設置してこいとか命令してきた。
「ダメダメ。忘れよう」
私は首を振った。
いかん。別れてから一月は経ったのに、考え事をすると不快な記憶が時折出てくる。
あれだ。愛情が憎悪に変わる瞬間というやつだ。付き合っていた頃は、聖女の為に細やかな気遣いして仕事熱心だなぁと捉えていたのに、今となっては人の仕事増やすなとしか思えない。そんなに虫が嫌なら、自分で虫を退治しろと言ってやりたい。
相当分厚い恋愛フィルターを通していたのだろうかと自分の過去を思い出す。
未練がましさが出てそうで考えたくないけれど、こう、何が何でもあの男が糞だと思いたいのだと思う。私が足りなかったのではないと。
「一発、殴ればすっきりしたのかな?」
いや、あの筋肉殴っても私の手が痛いだけだ。やるなら火炎ボールを投げつけるか、水の渦巻きにぶち込むか土のゴーレムでたこ殴りにするかだね。
それに腹立たしいのは、男だけではなく、聖女に対してもだ。
私があの男と付き合っていたことは知っていたはずだ。知っていて、婚約破棄されてから男と親密になり、とうとう付き合うことになったのだ。私には、何一つ言わず。
好きになったものは仕方がなくても、理性があるならとどまるだろう。それでもとどまれないならば、ちゃんと言って欲しかった。同じパーティーだったのに私は彼女と同格ではなかったと言うことだ。
替えがきく魔術師と、替えがきかない聖女。
大切にされるならどちらか……。
鬱々する気分をどうにか切り替えなければと、私は深くため息をつきながら走っているキノコを捕獲する。ツンツンとつっつけば、キノコはジタバタと足を動かした。……シイタケモドキなので色味が黒っぽくあまりかわいくない。別の場所に生えている赤色に白色の水玉模様がついたキノコの方がちょっとかわいいかもしれない。毒々しいから食べたいとは思えないけれど。
いそいそと頼まれたキノコを収穫しつつ、近くにいる紫色の手のひらサイズの芋虫ができるだけ自分の視覚に入らないようにしていた時だ。
パンと銃を発砲するような音が鳴った。
慌てて周りを確認すれば、山の奥の方で救援の赤色のろしが上がっているのが見えた。救援ののろしは、学校で真っ先に教わるものだ。魔物関係で手に負えないならば赤色のろしを上げ、それを見た場合、余力があるならば必ず助けに行くように言われている。
なぜならば、もしも凶悪な魔物が出た場合、町などに押し寄せる前に倒さなければいけないからだ。人のためではなく自分の為に。
私は手に持っていた青く発光するキノコをズボッと袋の中に入れると、のろしの方へ向かって走った。




