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地震は終わったのか始まったのか(モブ視点)

モブ視点で本編終了後が語られています。

 私はしがない王宮魔術師だ。

 神殿との協力体制が壊れないよう、日夜働いている。


 私達王宮魔術師が、神殿と協力することで一番大きなものは、聖女による浄化の旅だろう。この世界で起きる禍の災害をどうにかできるのは聖女しかいない。だからその聖女を守るため、聖女が所属する神殿側と協力するのだ。

 ただそんな流れができてかれこれ百年近く経っていると思うが、最近は目まぐるしく聖女の在り方やそれに付随する組織の在り方など、様々なものが変革していっている。

 すべての始まりは、きっと【異世界聖女】がこの世界に久々に召喚されたことからだろう。元々神殿という組織ができたのも当時の異世界聖女が働きかけたからだと言い伝えられている。だからこの度、神に召喚された異世界聖女が神から神託を賜り革命していくのも、歴史の流れとしては何らおかしくないのかもしれない。

 それでもその嵐のような大きな変革は、周りにいる者にとってはたまったものではなく、様々な者が程度の差はあれど、色々大きくかき回された。


「――と、言われましても……。聖女様が神託を受けられたとおっしゃるならば、私共はそれに従うしかありません」

「だが、今まで受け継いできたやり方をことごとく変えてくなど到底許されるものではないではないか! ここは王がしっかりと聖女の手綱を握ってもらわねば――」

 貴族に呼び出された私は、ぐちぐちと異世界聖女のやり方が気に食わないと叫ばれるのを大人しく聞く。ただし、聞くだけだ。右から左にその雑音は流れていく。


 今まで受け継いできたやり方。

 今まではこうだった。

 自分をないがしろにするやり方は認められない。

 伝統が、因習が、これまでの歴史が――。


 革命についていけない者たちは、とにかく今までのやり方が違うことに反発する。

 本当に異世界聖女が神様から神託を受けているかどうかなど下々の私達には分からない。でもなぜ変えるのかは、簡単な話だ。

 その体制に何からの問題があるから変えようとしているのだ。


 変革に反発する者たちの意見は様々だ。

 一番わかりやすいのは、これまで吸っていた甘い汁を吸えなくなったから反発するというもの。強者がそうではなくなろうとしているのだから、それは当たり前だ。

 聖女を養子にとり、お金を出したり庇護をする代わりに好きなことをしてきた貴族は、聖女の養子制度が厳しくなったことに納得できない。

 神官の中でも、聖女に仕える神官は他者より偉いと思い込んでいた者たちが、聖女の力以外の方法で禍の浄化をしようとする研究が始まったことに納得できていなかった。もしもそれができてしまったら聖女の価値が下がり、結果自分の価値が下がるのだから当然だ。


 もう一つ反発する者で、理解と同情を覚えるのは、自分がされたのだから同様のことを若き聖女もするべきだという、かつて聖女だった者の声だ。

 聖女となり貴族の養子にされ、聖女という職務を全うし、その後いいように利用され、骨の髄までしゃぶりつくされた者。もちろん幸せになった者もいるだろうが、すべてがすべてではない。望みもしない結婚を強要された者。流されるままに子を産む道具とされた者。

 聖女だから仕方がないと、飲み込んできたそれらを否定して、若き聖女に自由を与えようとする流れ。

 それは我慢してきた者を否定する行為でもある。そんなことをする必要はなかったと突き付けられても、すでに我慢をしてきた者の人生は変えられない。

 今が満たされていれば何も言わないだろう。でもそうでなければ、他者の幸せが眩しすぎて自分への攻撃のように感じるのだ。

 だから否定し反発する。


 そしてもう一つが、変わることに漠然とした不安を持つ者。

 ただなんとなく変わることが不安。それは、中心部から遠い者が感じるものだ。今まで表面上うまくいっていたのだから、何故変えなければいけないのか。

 彼らには変化しなければいけない理由がない。

 理由がないから安定を望む。

 安定と革命は反対のものだ。だから反発する。


 こういった反発した者が、王に進言する。

 私達王宮に仕える者は、王にまで届く前のろ過機能だ。耳に入れる必要があるのかどうか。国が動くべきなのかどうかを判断する。

 すべての意見を国王が受け取り判別し決定できればいいが、一人でそんなことできるはずもない。だからある程度の事前確認をするのだ。

 

 個人的には異世界聖女がやると言っているのだから好きにさせればいいと思う。何故ならば、一番しなければいけない問題は、この世界で多発しはじめた禍の災害をどうにかすることだ。

 ひとたび禍の災害が起これば、魔物があふれ、人は住めなくなる。人が生きるためには禍の浄化は必要で、その力が一番大きく、実際に多くの場所を正常化したのは異世界聖女である。

 だから彼女の動きが気に入らないからと排除するのは、悪手も悪手。それだけはしてはならないというのが、王宮魔術師や聖女の浄化に付き添う者たちの総意だ。そして異世界聖女にこの世界を見捨てられないために、彼女には自由にしてもらうのがいいと思う。

 

「お話は分かりました。上のものと協議し、考えておきます」

 にっこり笑って帰ってもらった私は、深くため息をついた。

 もちろん協議し、考えた上で、答えは異世界聖女を応援するの一択だけど、それをわざわざ口に出して言う必要はない。

「はぁ。聖女様がやりすぎというのは分かるんだけどさ……」

 この世界に来て一年ほどは大人しかった異世界聖女だったが、突如各地で禍の災害が起こった時、神殿から忽然と姿を消した。

 そして次に聞いたのは、王都から離れた町中で起きた禍を一人で浄化したという話。

 そこから突然神から神託を得たという噂が聞こえたかと思うと、異世界聖女は少人数で禍の浄化の旅を開始した。

 そして次々に成果を上げたのだ。

 

 異世界聖女の神託の旅についていきたいと志願した者は沢山いたが、神殿との交渉がすむまで、異世界聖女はその要望を聞かなかった。すべては神託に従っているだけだと言い、騎士のセオと魔術師のアメリア、暁の聖女であるアリス、そして神官のシルフィアだけで神託の旅を続け、実際に問題を解決していった。

 目に見えた成果は民衆を熱狂させる。そして一種の信仰をもたらした。

 自分が参加できない異世界聖女達の成果を苦々しく思っても、浄化をしなければ困り果てるのは、この世界に住む者すべてなのだから、思うところがある者も彼女たちの動きを止めることはできなかった。


 そしてしばらく経ってから、異世界聖女は神殿に訪れ会合したそうだ。

 その結果、異世界聖女は浄化以外の革命を開始した。

 ゆっくりと意識を変えていけばもう少し反発は小さかったかもしれないと思わなくもない。彼女の変え方はまさに激流だった。

 突然翌年から、聖女の養子に関して一気に条件が厳しくなった。この国で権力が強い貴族が関わってくる箇所を神託の一言で変更してしまったのだ。

 確かに聖女の養子に関しては、まるで人身販売のようだと思うこともあった。聖女は貴族の養子になることで安全は買えるけれど、物のようにやり取りされ、生みの親から幼いうちに引き離される。

 でもそれでうまく世界が回っていたから、誰も何も言わなかった。

 そこに異世界聖女はノーを突きつけるだけでなく、一気にやり方を変えてしまったのだ。


 異世界聖女は止まらない。

 同時多発した禍のほとんどが浄化できれば少しは落ちつくかと思ったが、どんどん変革させていく。それを不満に思う者も出るけれど、異世界聖女は排除できないし、してはいけない。

 そんな生き急ぐように革命していく異世界聖女が行きつく先がどこなのか。凡人たる私では分からない。


 つい最近は異世界聖女が王太子との婚約を破棄したという事件があった。

 様々な思惑が重なった婚約だったのに、彼女はあっさりその立場を捨てた。そして婚約破棄に関しても、神託なのだそうだ。なんだか都合がいい神託だなとは思わなくもないけれど、異世界から呼ばれたのは王妃となるためではなく、禍の浄化のためだと言われれば、確かにとしか言えない。

 神は確かにそのために異世界聖女を呼んだのだ。王妃になるかどうか、異世界聖女にこの世界で子をなしてもらうかどうかは、人間側の都合だろう。


 王太子は結局、聖女でもなんでもない、侯爵家の娘と結婚した。

 一応侯爵家の娘は、暁の聖女の姉にあたるそうだが、神殿で育った聖女との接点は少ないので微妙だ。本当ならば、暁の聖女と結婚するのが一番なのだが、その姉とでも年齢差がある。だからもう暁の聖女が成人するまでは流石に待てない。

 なので皆が妥協した。

 王太子はその結婚にどこかほっとしているようで、特に不満を持たれている様子はなかった。


 歴史の教科書に書き残すのならば、同時多発した禍の災害か、それとも異世界聖女を起点とした革命か、どちらを一番大きな事件とするのがいいだろう。もしかしたら禍の研究が進み、本当に聖女でなくても浄化ができる時が来るかもしれない。だとしたらそちらの方が今世紀最大の事件だろう。

 まだ訪れていない未来も含めると分からないが、折角この時代に生れたのだから、私から見た歴史を書き残しておこうかと思う。

 誰を主として見るかで、受け取り方が色々変わりそうではあるけれど。

 それでも人間が生き延び、いつかまた【異世界聖女】が現れた時に、今を思い返してもらえるように。

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