結婚は人生の墓場2(アメリア視点)
結婚式をすることを一人一人に連絡し、セオの親にも挨拶をし、仕事の都合もつけた私は、ここしばらくはずっとバタバタしていた。
そして迎えた結婚式。
その日も慣れないドレスを着たり、結婚式の打ち合わせをしたりと、やはりバタバタだ。それでも準備が整い本番直前になれば、少しだけ一息つける時間ができる。
「すごくきれいだけど、この国の結婚式の服は白じゃないんだね」
「ルナさんのところは白だけなの?」
結婚式に来てくれたルナさんは控室に顔を見に来てくれた。そして私の着ている儀式ドレスをしげしげと見る。
今日私が着ているのは、青のドレスに刺繍がしてあるものだ。ドレスはセオの母が使っていたものを借りることができたのでそれを着ている。
「うーん。絶対というわけではないけど、白無垢もドレスも白だし、イメージとして白が強いかも」
「ここでは、自分の持っている属性色が入っていれば儀式用のドレスは何色でもいいけど、白は光属性の色だから、白一色というのは聖女以外は着ない色だよ。刺繍とかで白を入れるとかはありだけど」
「へぇ、そんな決まりが。というか属性色とかあるんだ」
「うん。青は水で赤は火みたいにね。結婚式は先祖である精霊へ報告も兼ねているから、持っている属性の色を纏う習わしだったはず。ただもっている属性すべてを使うと色が喧嘩する場合もあるから一色でいいと言われているけどね。ちなみにこのドレスはセオのお義母さんから借りたの。水属性の方で、青いドレスを持っていたから貸して下さって」
親子では属性が似ることが多いので、親から借りるということはままある。
ただ私の母は死んでいる上に、父も結婚式はしなったそうだ。なのでドレスがないのでどうしようかと思ったところ、セオの母親からよければと貸していただけた。
セオの家は、裕福な商屋でかなり儀式用ドレスもいいものを作ったそうだ。でも結婚式以外で使うことはなく、子供は全員男だったので、もったいないと思っていたらしい。
一から作るには時間がなく、幸いにも私は属性過多なために、どの色でもほぼ問題がないので、中古を探そうと思っていた。その状況で申し出て下さったので、ドレスが早い段階で解決できてありがたかった。
「そうなのね。とても似合っているわ」
「ありがと。慣れない服装だから、似合っているかどうかよく分からなくて」
はっきり言って動きにくい服だ。借りものだから汚したり破ったりしてはいけないので気もつかう。多分結婚式でもなければ、私はこの手の服は一生着なかっただろう。
「セオ君はもう見たの?」
「ううん。まだ」
「なら、絶対見惚れると思うよ。自信を持って」
にっこりとルナが自信満々に笑ったところで、部屋の扉がノックされた。それに返事をすると同時に開けられる。
「あぁぁぁぁ、やはり、わたくしより先にアメリアお姉様にお会いしにきていたのね!」
部屋に入ってきたのは、真っ赤な髪のアリスだった。つり目がちな目をさらに吊り上げて、ルナを見ている。ルナの方がかなり年上なはずなのに、アリスに叫ばれた瞬間、びくっと肩を揺らした。アリスが学校に通うようになり旅から抜けても、二人の関係は相変わらずのようだ。
「いや、だって。一昨日から仕事でこっちに来てたから――」
「何? 仕事をしてる大人だからアメリアお姉様とたくさん会えるって自慢?」
「ち、違うから。自慢じゃなくて、事実をね――」
「はあ⁉」
あっちゃー。
アリスはかみつき始めたらめんど――んん、えっと、しつこ――でもなく、まあともかく、ルナさんが可哀想なので、止めないといけない。
本当ならアリスの暴走を止めるためにシルフィアがいるはずなのに、アリス贔屓が強すぎてあまり役立たないことが多かった。
「アリス、学校で忙しい中、結婚式に来てくれてありがとう。とても嬉しいわ」
私が声をかければ、アリスは私の方を見た。
そして吊り上げていた緑の目を若干緩めキラキラさせる。
「妹であるわたくしが、アメリアお姉様の結婚式に出席するのはどうぜんですわ。それにしても、お姉さまはドレスにも負けない美貌をお持ちなのね。もっとフリルを増やして豪勢にしても……ああ。でも、スタイルの良さを出すならこれぐらい方が逆に清楚でいいのかしら……」
一からドレスを仕立てるのが当たり前な侯爵家のご令嬢であるアリスは、私のドレスを見てブツブツと採点し始める。いや、これ以上豪勢なフリルを付けたら、私ではただのピエロだし、そこまでのお金はない。
それぐらいならそのお金を研究費に充てたい。
「これはセオのお義母様にお借りしたドレスなの」
「……親からの借りものなら、文句をつけるべきではないですわね。でも、もう少し首元とか頭に宝飾品をあしらってもいいのではないかしら?」
貴族との心の距離を感じながら、私は苦笑いする。
平民はおいそれと首飾りを買ったりはしない。宝石なんて一つでも持っていたら家宝みたいなものだ。……まあ研究で鉱石を手に入れたりはするけれど、しっかり磨いてカットして美術的価値の高い装飾品にしたものとは価値が全然違う。
「私は親しい家族や友達に結婚を報告するために結婚式をするだけだから、装飾品なんていらないわ。装飾品がなくても、私は私でしょう? この指輪があれば、十分」
手を前に出し、私はセオと一緒に買ったシルバーの指輪を見せる。指輪があれば、ちゃんと結婚したということが分かるのだから、それで十分だ。気分的にはドレスもいらない。
「むぅ。確かに何も装飾品を付けてなくてもアメリアお姉さまは内側から光っているからきれいなのですけど。……あ、あの。も、もしもよかったら、その、わたくしの髪飾りを付けません? その、髪色が全然違うけど、そんなに髪色を選ばないもので……その……親族や友人から借りたものを身に着けるのっていいというし……」
精霊から力を借りるのを模して、こういう式では親しい者から何かを借りるというのは、縁起がいいとは言われている。だからこそ、結婚式のドレスを自分で用意せずに親から借りるのをおかしいと思われることもない。
「ありがとう。アリスが貸してくれるなら嬉しいわ」
私の言葉にぱぁぁぁぁっとアリスが笑顔になる。ここまで喜んでくれるなら、多少似合わなくても問題ない。私としては、私が結婚式で美しいと賞賛されるより、皆に祝福してもらえる方が大事だ。
「シルフィア、アメリアお姉さまに髪飾りをお見せして!」
「アメリア様、こちらでございます」
「ん?」
ずずいとシルフィアがケースを取り出した。あれ? なんか大きくない?
そう思えば、ぱかっと大きなケースが開き、中から宝石のついた髪飾りが何点も出てくる。……ん? 一個かしてくれるとかそういう話では?
「わたくし、どの髪飾りをつけるか迷ったもので、いろんな種類の髪飾りを持ってきましたの。この中からアメリアお姉さまに似合うものを選びましょう?」
「……そう、迷ったの」
「ええ。当日の気分で付けたいものが変わりますでしょ?」
エッヘンと胸を張って言うが、言っていることが、どう聞いてもワガママご令嬢のソレだ。でもたぶん、迷ったのは私にどれが似合うかなのかだろうなと思う。
アリスはこの村に初めて来た時、たくさんの装飾品を持ってきてはいなかった。むしろ着の身着のままの状態に近かったように思う。
きっとアリスの真っ赤な髪と、白に近い水色の髪の私では色味が違い過ぎて迷ったのだろう。年齢も違うし、着るドレスもアリスには伝えていなかったのだ。
「ありがとう、アリス。私の結婚式を祝ってくれて」
「当然ですわ。アメリアお姉様には幸せになっていただきたいですもの。でも……結婚しても、わたくしとまた遊んでくださいますか?」
「当り前よ。いつでも遊びに来て。勉強で分からないことがあったら教えるし」
もじもじとしながらアリスが言うので、私は彼女の頭を撫でる。彼女は本当に妹のようだ。
すると、んぐっとルナの方から咽るような声が聞こえた。そちらをむけば、ルナが両手で口元を抑えている。ついでにシルフィアもなんだか目元を潤ませている。
……また何か妄想したんだろうなぁ。
そう思ったが、誰も何も口には出していないので、私は精神衛生のため見なかったことにした。




