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豆の七つぶ兄弟

作者: 藤沢なお


ある日、青々と実ったえんどう豆がぱちんとはじけた。

中から飛び出してきたのは豆の七つぶ兄弟。

山の畑からふもとの平原まではゆるやかな坂が続いている。

つやつやした緑の豆たちは、ふもとを目指して歩き始めた。


長男はまじめな慎重派。

新しい世界を確かめるようにゆっくり歩を進めていく。


次男は好奇心旺盛。

初めての景色が楽しくてしょうがない。

あちこち寄り道ばかりするのでなかなか前に進まない。


三男と四男は仲良し双子。

途中でふたまた道に出くわしても、

手をつないで同じ道を歩いていく。


五男はマイペース。

気合いを入れたスタートダッシュで、

兄さんたちをあっという間に追い抜いた。

けれど……。


ぜーぜーぜーぜー。


ふもとまであと一歩というところで息切れに。

少し休もうとその場で横になると、道の真ん中だというのに

グーグーいびきをかいて昼寝を始めた。


六男はふとっちょさん。

歩くよりも速いだろうと考えて、

ゴロゴロ坂を転がりだした。

ふたまた道では双子が通らなかったほうを選んだが、

道はまたつながり、見通しのいい一本道に。

加速しながら転がり続け、

先を歩いていた次男と双子と長男を追い越す。


そしていよいよ、昼寝をしている五男の姿が

目の前に迫ってきたところでピタリ。

六男の動きが突然止まった。

風よけに並ぶ両側の木立の間に、

大きなカラダがすっぽりとはさまってしまったのだ。


うんうんうなって身をよじるも抜けられそうにない。

運の悪いことに細くて狭い道幅なのは、

ちょうどこの場所だけ。

困ったぞ。

あと少しでふもとの平原にたどり着けそうなのに。

六男は身動きがとれずに焦り出した。


七男はおっちょこちょい。

兄たちが歩き出したあと森に分け入り迷子になった。

心細さに大きな声で、お兄ちゃーん、と呼んでみる。

すると……。


グワッ、グワッ、グワッ。


近くの池からアヒルのガーくんが現れた。

誰かが自分を呼んだと勘違いしたからだ。

目の前には好物の緑の豆がつっ立っている。

こいつはおやつにちょうどいい。

ガーくんが黄色いくちばしで自分をつまもうと、

首をのばしてきたものだから、さあ大変!

七男はあわてふためき逃げ出した。


森を抜けて坂道に戻り、もうスピードでかけおりる。

それをアヒルのガーくんもおしりをふりふり追いかける。

ふたまた道では迷うひまなく双子と同じ方へ。

ガーくんは六男が転がった方へ。

別々に進むも道はまたひとつにつながり、

ドンッ!

七男とガーくんは出会い頭にぶつかり転倒!

頭がクラクラ、からだはヨロヨロしたけれど、

こんなところで食べられるわけにはいかない。

ふたたび走り出した七男は、

前方の次男と双子と長男に向かって大声をあげる。


「たーすーけーてー!」


いったい何事かと兄たちはふりむいた。すると。

必死な形相でこちらに向かってくる七男のうしろから。


グワッ、グワッ、グワッ、グワッ。


アヒルのガーくんが迫ってくる。

これは大変!

兄たちも必死に坂道を走り始めた。


ぜーはーっ、ぜーはーっ。


やっとの思いでふもと近くに来たけれど、

木立の間にはさまった六男が道をふさぎ、

これ以上先に進めそうにない。

困ったぞ。

早くしないとガーくんに追いつかれてしまう。

長男と次男、双子と七男は力を合わせ、

六男の背中をいっせいに押した。


「は・や・く・ど・い・て〜!」


がこっ!!


六男のからだがようやく狭い道を抜け出た。

ふーっよかった、よかった。

六男はふたたび坂道を転がり始める。


のんきに昼寝をしていた五男だったが、

やけに後ろが騒がしい。

目を開き見れば、兄弟たちが走ってくる。

もれなくアヒルもかけてくる。

これはまずいぞ、逃げなくちゃ!

五男も急いで走り出した。


ふもとの平原ではクマの親子がお昼のカレーを作っていた。

ねえーはやく食べようよ〜、と子グマがはしゃぎ声をあげた

次の瞬間。


「うわわわわわぁぁああー!」


ふもとの平原にたどり着いた七つぶの豆たちが、

勢いあまってカレー鍋の中へと突っ込んだ。


ひゅーっぽちゃん、ぽちゃん。


アヒルのガーくんも、さすがにこれにはあきらめて、

とぼとぼ山のお池に戻っていった。


すごいや、お豆のカレーだね、

子グマがさらにはしゃぎだす。

一難去ってまた一難。

兄弟たちの運命も、もはやこれまで……

と思ったそのときに。


にょろにょろ、にょろにょろにょろ。


なんと七つぶの豆から新芽がぐんぐん伸びてきた。

2、3センチ?

いやいや、10センチほど?

なんだかまだまだ伸びそうだ。


食べる前でほんとに良かった。

おなかの中で豆が育ってしまったら一大事。

クマの親子は兄弟たちを鍋から取り除くと、

陽当たりのいい場所に並べて、土に植えてやった。


ふーっよかった、よかった。

それから兄弟たちはほんのりカレーの匂いをただよわせ、

毎日すくすく成長しましたとさ。


おしまい。

お読み頂きありがとうございました♪

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― 新着の感想 ―
[一言] かわいらしくて、ハラハラどきどきで、最後にほっこりしました。すてきな物語ですね。 アヒルのガーくんがおしりをふりふり追いかけるのは、豆たちには危険でもかわいくて、ほっこりしてしまいます。 ク…
[良い点] 七兄弟がそれぞれ個性的で、ぐんぐんと進んでいくお話の加速力がすごく魅力的でした。 少ない言葉数でどんどん物語が展開し、ハラハラドキドキの冒険が進んでいくスピーディーさは、絵本や読み聞かせに…
[良い点] 企画より参りました。 童話ながらもスペクタクルなアドベンチャーな作品でした。 最後はどうなるのかとおもったらにょろにょろと発芽して良かったです。
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