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神と妖と人間の心は神一重  作者: 鉄井咲太
19/23

ひとたち(2/2)

「やはり、自力では起きれないようですね。起きてください、ほら起きてください」

 令奈の声がかなり近くで聞こえる。頬も叩かれて、僕はようやく重い瞼を開けることができたのだが……。

「うわぇええっ!?」

 目の前には丸眼鏡で白髭のお爺さんの顔があった。

びっくりして、ベッドから飛び出て壁に背を付ける。

 見たことない人だ、と思ったが服装を見れば、それが誰だがすぐにわかった。

「ここまで反応が面白いと、またやりたくなってしまいますね」

 よくあるパーティーグッズを身に着けていた令奈だった。

令奈だったからこそ、二度驚かされる。

「驚かせないでください。そんな一面があったとは思いませんでした」

「貴方を激昂させてしまうと思い、避けていたんです。いずれは行おうと思っていましたし、今がそのタイミングだと考えたので」

「うう、初めて会ったときは激昂してごめんなさい」

 彼女に会って最初に言おうとしてた言葉が、引き出しからすぐに出た。

「貴方がこんな悪人に謝るまで、溜飲が下がっているとは思いもしませんでした。それも彼女のお陰のようですね」

 彼女はきっと細目のことだろう。

それに悪人だなんて、令奈は悪ものじゃないことは知っている。さらに言えば、とても良い人だ。

 それだけ過去のことに悔いているのだろうか。機会があれば、彼女の口から過去のことを知りたい。

「そういえば、徐沙とトーテホは」

「細目と共に、イナを挑発しに行きました。慌てなくても問題ありません。細目は彼女を分析して敵意を見せると攻撃する事を解明しました。窓は出口ではありませんよ」

 イナのもとに向かったと聞いて、窓から飛び出そうと構えていた。

「それを先に言ってください。細目はここではどんな働きをしているんですか」

「彼女は色んな雑用ができ、テキパキ動いてくれます。雑用は嫌いのようですが、彼女には合っているんです。彼女のおかげで私は別の仕事をできるようになりました。今では雑用係のリーダーになっています」

「令奈さんがそこまで言って、この僅かな期間でリーダーになるなんて」

 すごいとしか言いようがない。流石だ。

「ですが、他人にものを教えるのはとても苦手な人です。それだけがリーダーになっての一番の問題点です」

「一気にリーダーにさせていい人物なのか、不安になった」

「あくまでリーダーであり、教育係ではありませんので大丈夫……だと思います。多分、教える能力も……きっと上がります」

 不安そうな顔で令奈はそういった。なにか一回やらかしたのだろうか。彼女の表情を見て察した。

「私がここに来たのも、彼女が下手なアドバイスいえヒントを与えたようなので心配になったのです。誤解して負けるなんて、ありえていいはずがありませんから」

 声が張っているので、とても心配になったのだろう。まぁ、あのヒントでは僕も理解できないとは思っているが。

「それでも、僕が答えを出したいので考えさせてください。僕は大丈夫なので、彼女たちの事をお願いします」

「わかりました。ですが、時間がないので、答えが知りたくなったら私を呼んでください。いつ、どこでも駆けつけますので」

 彼女なら、ブラジルにいても来てくれそうだ。彼女なら弾を避けるのも余裕そうだ。敵の背後とか取ったりして。

「あっ……聞きたいことがあったのに」

 質問したいことがあったが、それを察知したかのように逃げられてしまった。

 令奈はどれくらい強いのだろうか。戦闘能力がないから、ここでメイド長をしているのか。

「今度会った時に聞いてみよ」

 今はそれどころではないからだ。僕はヒビコの弾遊びの謎を解明してなければならない。

 脳を完全にリセットして、ヒビコの事を考え始めた。そんな僕に容赦なく時は過ぎていく。



「本当に敵意を向けなければ、う゛う゛ん゛、攻撃してこないでござるな。びくともしないでござる」

 トーテホがイナを横から押すが、びくともしない。何をしても彼女は不動であり、大きな石。動く気配を一切見せない。

「もう一回やるぞ。イナを抑えていてくれ」

「了解でござる」

 トーテホはイナを強く抱きしめながら抑えて、徐沙はその隙に上から出ようと試みる。

 彼女が外に出た、と思えばイナの目の前にワープさせられていた。

「やっぱり上から抜けたりするのは無理ね。だとすると、この規格外の馬鹿を倒さないといけないわね」

 その様子を見ていた細目はその様子を見て答えをだした。

「規格外というか滅茶苦茶でござる。閉じ込められるなんて聞いてござらんし、弾遊び以外の戦闘をしてくるのは勘弁してほしいである」

「細目。いつまで彼が答えを出すのを待つんだ。オレからすれば、オレらのしてることは時間の無駄だぞ」

「もう十分ほどで行くわよ。流石に気が付いてると思うけど。私たちはさっさとイナの弱点を探すわよ」

 それに対して二人は強く頷いた。

 細目はほんの僅かなイナの顔の塗装が薄くなっていることに気が付く。

「それにしても塗装が小生の服について大変でござる」



 僕は庭を徘徊していた。

自分の部屋で考えた方がいいと思ったが、仲間が頑張っている中で動かずにはいられなかったのだ。

「ヒビコの使ってきた弾は赤と青。そして何故か青に命中した。わからないなぁ、色に注目しろか……」

 考えれば考えるほどわからなくなる。他に誰かヒビコの弾に当たっている人間がいれば、理解することができるのだが。

「そういえば、あの神社の時にいじめっ子が命中していた。どっちが亡くなったんだっけ」

あまり詳しくは思い出せない。確か、気絶した方が助かったと聞いた。完全に当たった少年の方が助かったと。

「その時に出した弾の色は赤だったはず。その時は直立不動だった」

 僕は青の弾で止まった時に命中した。これだけでは良く分からない。

 徘徊していると、いつの間にか食堂の前まで来ていたようだった。どうやら、暇でテレビを付けているようだ。

「病の波が終わり渦も静けさを見せています。ですが、いつ波が来るかわかりません。気を引き締めて生活していきましょう」

 となにげないものだった。いつもは受け流す、ニュースだったが今日は違う。ヒビコの言葉が浮かんできたからだ。

「そういえば言葉『波は静を許さず、渦は騒を許さず』って言ってたかな」

 そういえば、青い弾には波ができていた。そして赤は中に渦ができていた。

 僕と少年が命中した時とこれを繋げ合わせれるはずだ。ここから。紐付けられる結論は一つだ。

「わかった!これだ。なんでわからなかったんだろう」

 それしか考えられない。

答えがでたが、僕は彼女に対して手も足も出なかった。そして彼女は一切本気を出していないのだろう。それに、かなり弱体化でこれなのだ。

「それを考えると相手はしっかり、バレた時のことも考えた混心開幕を隠しているはず」

 それにいくら攻略が分かっても、あの弾幕の中だとこちらの火力が足りずジリ貧になるだろう。

間来に貰った人形だけでは、火力が圧倒的に足りないのだ。

 だから一度、博打のような大技を打たなければならない。

「……イナに貰った人形」

 僕は袋からそれを取り出した。

封印されるときに助けてくれた、僕を中古人形オタクへと引きずり込んだ元凶だ。

「令奈。僕はこれを使って、戦うよ。貰ったものなのにごめん」

 僕は人形に対して、魔力を注ぎ込む。

「あれ……。おい、動け。え、拒絶されてる。なにこれ……」

 魔力を注ぎ込めば、ある程度の人形は操れるはずなのだ。

フィギュアが僕の操作を完全に拒絶しているのだ。

魔力は弾かないが、普通の人形のように動かない。

「どうしよう。いまから間来さんに人形を作ってもらうしかない」

「オラがどうしたンダ。あまり驚いてくれないんダナ」

「誰かのおかげで慣れましたから」

 間来が蝙蝠のように、逆さ向きで木から現れる。

 もう突然現れるという事象に慣れてしまった。毎日のようにされれば、おどろくこともないだろう。

 間来は木から落ちて、足から綺麗に着地する。手をV字に挙げている。

「間来さんはどうしてそこから」

「君が困った顔をして徘徊してたから、ついてきたンダ。オラにできる事なら何でもするゾ」

 胸を叩いて自信満々に言った。じゃあ頼らせてもらおう。

「これだけじゃ、火力が足りないんです。だから、もう少し人形が欲しいと考えています」

 何分かかるだろうか。もし数時間かかるようなら、諦めて戦うしかないが。

「そう思って、昨日から作っていたンダ。でも、量産機およびテスト版ダ。魔力をある程度、注いだら壊れちまうンダ」

 昨日から作ってくれていたのか。それを試すのは実践になりそうだが、ないよりはマシだ。デメリットが壊れやすいことだけなら、全然つかえる。それでも─。

「壊れないように使えますか」

 一緒に戦う仲間を無残にも散らしたくない。人形であろうとだ。

「それは不可能ダ。でも、原型は残るから直すことはできるゾ」

 それならば、なるべく回収をしよう。ごめん、この人形たち。

 とりあえず、問題は解決した。

すぐにでも、彼らのもとへ向かおう。気が付けば、僕は足を動かしていた。

「頑張っテ」

 そんな声援が聞こえてきたので、僕は振り向いて手を振った。



「ヒビコさん。何心配しているんですビ。イナは暴走させたんですよねエ。彼らが暴走してるイナを鎮圧できると思えないビ」

 四肢が生えて二足歩行をするエビが発言した。

「アッミー警戒することに損はない。アナタ達は、妨害されたら直ちに妨害しに行って」

「ってか、あいつらがサカナらに勝てるわけないじゃん」

 細長い魚が次に発言した。ヒビコは軽いため息をつく。

「勝てなくても、時間を稼いで計画を台無しにされる可能性がある」

「そういえば、そうですねー」

 ヒビコは周りを見て、肩を落とす。

「もっといたのに……今じゃ三か」

「だからこそ、百鬼夜行を成功させて人や神にギャフンと言わせるんでビ」

「命を懸けても、成功させるからよろしく。もし失敗したら、ヒビコさんだけは逃げてください」

 ヒビコにも負けられない理由がある。

彼女は二人の激励に対して深く頷いた。



「正解よ。でも、もっと早く理解しないと戦闘するときに活用できないわ」

 僕の出した答えを細目に教えた。彼らはイナがいる出入口にいた。

「それにしても、なにを」

 トーテホと徐沙は何度もイナに抱きついている。徐沙は頬を赤らめて女性らしい表情になっていた。

「トーテホがイナに抱きついて抑えたら、少しだけ色が落ちたの。だから、こうやって痴漢みたいなことをしてるの」

 なるほど。理解した。抱きついて彼女が治るのか。だけど、進展がなさそうに見える。

「雲を掴んでから、なにも進展がないわ。一刻も早くここから出たいのに」

 ため息をついて、細目はイナを見つめる。

抱きついて治るのならば、僕もやってみよう。

「どうやら、表情を観察するに理解できたようでござるな」

「ごめんな。こっちは一つも収穫がない」

 彼らは手を止めて、こちらに顔を向けてくれる。僕もそれに笑顔で返した。

 イナの目の前に立ち。勢い良く、彼女の像に抱きついた。

「どうやら、駄目のようね」

 気のせいか、多少の手応えを感じた。

だが様子は一切変わっていない。

 やはり駄目なのだろうか。諦めかけた時、イナとの会話がフラッシュバックする。

(なにかあったら俺に感謝しろ。そうすればどんな状況も打破できる)

「ならこの状況も打破できるよね、イナ」

 僕はもう一度、優しくイナに抱きついた。

「ありがとう。僕をここに連れてきてくれたことも全て」

 彼女だけに聞こえるよう囁いた、心の奥底から零れた感謝の言葉を。

数秒の沈黙から、やはり効果がないと思い離れようとした時だった。

 薄いガラスが割れる音が響き渡り、イナは人間の姿になっていた。

自分の胸の中には温かいイナが収まっている。

全体重が自分にのしかかっている。

「ごめんな」

 イナはその一言だけで、再び目を瞑った。

「道が開けたようね。ほら、唖然としてないで二人とも、弾遊び準備よ」

「イナはお任せください。私がしっかりと管理しておきます。もう問題はありませんので、貴方達は一刻も早く、ヒビコの計画を止めてください」

 イナをゆっくりと、令奈に渡した。

もちろん、彼女たちは姿を塵一つ残さず消える。

「小生たち、いいところ見せれてるでござるか。これ全て」

「……いうな。オレは間来を呼んでくる。気にするな、これから重役はあるだろう」

「そうでござったな。小生の精神ライフは零でござる」

「奇遇、オレもだ。お前よりも出番がないぞ」

彼らは身を小さくしていた。そして渇いた笑いしか出なかった。 

だからこそ、彼らの心にはユグルに全てを背負わせたくないという気持ちで一杯だった。




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