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神と妖と人間の心は神一重  作者: 鉄井咲太
17/23

泡姫と大暴走(2/2)

「もう徐沙殿は無理でござる」

 慣れない戦いに彼らは苦戦を強いられていた。

イナが攻撃する時の動作が一切見えないのだ。

それに加えて彼らにとって、血で血を洗う争いは初心者だ。

 だからこそ、何もできず銃弾や斬撃を浴びている。攻撃する前に痛みで、その行動を足止めされてしまう。

 徐沙は両足と片手を切断されながらも、宙に浮き戦う意思をみせている。身体は真紅に染まっているも、斬撃には傷口を塞ぐ魔法がかかっている。

だから、出血多量で死ぬことはないだろう。

「なにかっこつけてるんだ。オタクに血で血を洗う戦いが向いてるわけないだろ。お前が引っ込め」

 そしてトーテホは急所を外すようにして、赤い丸ができている。

 どちらも苦痛で意識が飛びそうになるも、イナを止めるという意思だけで戦闘をしようとしている。

「引かぬのならば、小生に妙案があるでござる」

「奇遇。オレも同じ事を言おうと考えてた。同時に仕掛けて、封印するって作戦だろ」

「その通りである。多分、イナ殿は小生達の命を奪うと思えないでござるが、もし危なくなったら先に引くでござる」

「……わかってる。タイミングは任せた」

 トーテホはゆっくりとペンライトを彼女に向ける。徐沙もメガホンを口にくわえる。

 一回深呼吸して、トーテホはカウントダウンを始めた。

「3…2…1…参る」

 その言葉と同時に徐沙の最後の四肢は無くなり、トーテホには数十発の風穴が空いた。

覚悟を決めた彼らは止まらない。

 トーテホはペンライトを振り、大と小の弾を出す。 

大は人より大きく、小は野球のボールと同じサイズだ。

「ひかり」

 徐沙は口から文字型の弾を出した。それは電光石火の如く、イナに向かって飛んで行く。

 イナは動く様子を見せない。地蔵のように突っ立っている。

 彼らはイナがその場から動かないと確信していた。彼女はこの出入口を守っているのだと考えた。だから攻撃さえしてしまえば、止めることも避けることもない。

「チン」

 その不気味な音とともに大爆発が起こる。イナを爆心地として広がっていく、彼らは爆風に食われていく。皮膚は一瞬で炭となる。その激痛で徐沙は気を失い、宙に浮く力がなくなり地に激突する。

 だが、爆風で弾は防げない。彼らの弾が全弾イナに命中する。

「滅茶苦茶過ぎるのは流石に面白くないでござる」

 イナは何もなかったかのように、立っていた。彼女はどこも黒く染まっていない。

 それを見て、トーテホはショックと痛みのコンボによって気を失う。

 イナは隙だらけの彼らを見ても、トドメをささない。



 ユグルは水球の中にいた。海底にいるような光景に彼は焦る。それはほんの一瞬だった。

「水の中なのに息ができるし、普通に動ける」

 身体は黒く染まることはなく、水の中で息ができる。焦る事態ではないことに気が付き冷静を取り戻す。

「食いつくされて」

 ヒビコが手を叩くと、魚の形をした赤い弾が現れた。それはユグルを標的にして、正面から向かってくる。先ほど弾と違い速く、四方八方から飛んでくる。

「これも、残り続ける」

 これもまた、停止すると決まっている場所に留まり続ける。

先ほどの弾よりも数倍、いや数十倍ぐらい密度が高い。

 考えていると、再び手が鳴る。今度は青い弾が放たれる。

「なんでさっきと同じ数なんだ、逃げ場が消える」

 水球の外に出たいが、それを塞ぐように弾は出口で湧く。水球から出ようとすれば命中して、即座に負けてしまうだろう。

「なら、少しずつでも」

 避けつつ人形から継続的に低威力の弾をまく。混心開幕中は大きく動くことはできないから、積み重ねが重要だと教わったからだ。

 ユグルの放った弾が当たるが、当たった個所が少しだけ黒くなるだけ。これでも偽形ならば、一発で倒せる威力があるのにだ。

「……二百以上は必要になりそう。少しずつ威力をあげないと」

 計算したところ、気が遠くなる数だ。ここで先ほど放たれた弾が固定される。

 この弾を消せる手段はない。そろそろ本命が来るだろう。

 そして、それは来た。手が鳴ると青と赤の弾が先ほどの数倍が現れた。絶望的な状況でユグルは更に絶望的な予想を立てる。

「これが速度もバラバラ」

「名答」

 ヒビコがそう言うと、速度がバラバラで発射された。明らかに拳一つ通れる道が、あるかないかの魚の群れの中にいるような密集地だ。

 亀よりも遅い動きで、四方八方から襲ってくる雨のような弾を避ける。避けている間も弾は継続的に出ている。三十発はあたっただろうか。

「逃げ道を間違えた。一回なら、まだ耐えられる」

 逃げ先を間違え、逃げ道がない詰みを選んでしまった。絶対にあと一回当たって終わることはない。

 だから、逃げ道がある方向にある青の弾に突っ込んだ。その際にヒビコの顔が強張った。

「あ、あれ。黒くならない。青は偽物……」

「……」

 ヒビコは何も言わずに手を叩く。青と赤を一緒に放った弾以外、消滅した。

 これの繰り返しだろうか。だが、逃げ道次第では詰むから、油断は一切できない。それに意味が分からない。何故、当たらなかった。勢い良く突っ込み、判定に当たっていたはずだ。

 青い弾を避けながら熟考する。それがヒビコの混心開幕を攻略する大ヒントになるだろう。

 それがわからないまま、赤い弾も避けていく。再び、赤と青の混合の攻撃が来る。

「だめだ。わからない」

「君には驚かされた。理解できないなら、これでお終い」

 状況は最悪。逃げ道があったとしても詰むような行き止まりしかない。

だけど、わかってることは、青は当たらなかった。

「ブラフにかけるしかない」

「(パン)」

 攻撃が来る前に自分の行動が決まった。赤と青の混合攻撃が放たれる。

 僕は青の弾には積極的に突っ込む。自分の脳を全て動かした答えは、愚策にはならなかった。

「やっぱりブラフ。これなら、反撃の一撃を放てる」

「口先ではなく、してみせろ」

「もちろん。一泡吹かせる」

「わたしは泡を吹かない。カニじゃないから」

 青がブラフなら逃げ道が広がる。僕はその中でもビームほどではないが、大きな弾を放てる場所を見つけ出す。

 ブラフだとわかっていても、不安だった。この弾は本当にブラフなのかだ。ブラフをここまで大量に撒くだろうか。

「でも、命中してない。これならヒビコを倒せる」

 不要な考えだ。自分は沢山の命を背負って、戦っている。負けられないプレッシャーの中で考えたんだ。

 自分を疑うな。自分を信じた道を行くしかない。自分しか止められないのだから。

 そして、攻撃を行えるエリアに到達した。前からは青い弾が来ているが、これはブラフだ。僕はその場で止まり、人形にバスケットボールサイズの弾を投げさせた。

「これで終わりーー」

 命中した、青い弾にだ。今まで当たってなかったのに。決して自分の勘違いではない。その証拠に、僕の体はしっかりと黒い部分の面積がかなり増えている。

いや、全部黒い気がする。だが、それでも相打ちに……。

ヒビコの身体は真っ黒に染まり、倒せたと確信した。

「君はわたしには勝てない」

 殻を破るかのように、黒く染まった欠片が飛び散った。そして彼女の体には一切、黒がない。

 ヒビコが言うように僕は勝てない。

「混心開幕は切り札だって……」

「切り札は切り札になるように、種類があるもの。一種類だけなんて、作り話でも有り得ないと思わない」

 僕の体と心は小枝が折れるような音を立てて崩れ落ちた。身体から……え。

 音がした直後に自分を中心とした竜巻が発生する。

身体のあちらこちらから、骨の折れる音が激痛と共に鼓膜を襲う。

何が起こっているのか、わからない。

折れた心で考えられたのは、絶対に意識を失っていけないことだけだった。

 ヒビコもこの状況には困惑している。その様子で彼女が犯人ではないことは理解できた。

「一目連!?……その憎悪、封印が解除され最後の力で人間に仕返しか。哀れ」

 数十秒の間に全身の骨が折られ、空を飛ぶ集中力が切れて地面に叩きつけられる。

 一目連……聞いたことがある。突風の妖だ。

 なんで今なんだ。いつ、どこで。

「んぐううううううう」

 唇を噛んで、全身の悲鳴に耳を塞ぐ。口には不味い液体の味が広がった。あまりの激痛に目や鼻から透明な液体が止まらない。

 意識を失わなかっただけ、不幸中の幸いだろう。

「君は妖を封印したものを所持していた。あらかた、イナに渡されたのだろう」

「はぁ……はぁ」

 もう答える気力もない。立たなければ、封印されてしまう。そしたら、人を助けられない。

 立とうとするが、芋虫のように這いずってることが精一杯だ。

「力を入れるな、命がなくなる。君の命が消える姿は見たくない、大人しくわたしに封印されてほしい」

 僕の額の上にヒビコは手をかざす。その手からは青い弾が生成されていく。

 立ってくれ!立って!空に浮け。

 そんな願いは神様には届かず、僕の身体はひたすら叫ぶだけだった。

「なに!?」

 ヒビコは何かに押されて倒れる。彼女が押されたおかげで、弾は僕には命中しなかった。

「なんでこのフィギュアが」

 命令したわけではないのに、イナに貰った紅白の魔法使いフィギュアが僕を守ってくれた。

 ヒビコがいた場所には、その人形が仁王立ちしていたのだ。

「予想外過ぎる。時間切れ……君、絶対に死ぬな」

 ヒビコは下から透明になって消えていった。まるで最初からいなかったかのように、姿を消した。

 彼女が消えて、少しだけ痛みが和らいだ。きっとトドメを刺さずに、治療してくれたのだろう。

 意識を保つのにも限界が訪れ、僕の視界は黒く染まった。



 一部始終を見ていた細目は顔を青く染めていた。

そして細目は全速力で、ユグルへと向かっていた。

「死なないで。まだ私は償ってない。お願い、お願い」

 私しかいない、彼を助けられるのは。トーテホも徐沙もイナによって大怪我を負っていた。令奈があそこまで焦っていたのは初めて見た。

それがとんでもない状況になっていることの証明だ。

 死に物狂いで走りようやく、ユグルに辿り着く。

見るも無残な姿に細目の心拍数は更に上がる。

 ユグルの周りにできた血の円は今もなお広がっていく。

「傷口を塞ぐぐらいしかできない。でも、それでもやらないと」

 血の円が広がっていく速度が落ちていく。彼女は自分の弱さを心の中で責めた。私が彼を治せれば……。

 ……私のイジメも彼にこれだけのダメージを与えていたのだろうか。見えないだけで心は。

彼だけではない、二枝子もここまで傷ついたのだろうか。だったら……。

「一人で抱え込まないでください。緊急時は私を呼ぶ、そう教えたはずですよね。安心してください、彼は死にませんよ」

 とても頼りになる声が背後から聞こえると細目は泣き出した。

「血とは無縁の弾遊びのはず……。心が落ち着いたら手伝ってほしいことが有りますので、医療室に来てください」

 令奈はユグルを抱き上げて、姿を消した。

細目はしばらく泣き続けていた。




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