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神と妖と人間の心は神一重  作者: 鉄井咲太
14/23

赦せるか?(1/2)

「最近は事件ばっかり起きてないか」

「きっと世界に厄が溜まっているのだわ。人和教さんから教えてもらったけど、稲荷神に願うのよ」

「アマビエの時代は終わったよねー」

「交差点にこんな模様を描くなんて、凄い奴がいるな」

 様々話題が飛び交う東京の交差点で、ドミノ倒しのように人間が倒れて行った。

「きゃああああああ」

 少女の叫び声によって、他の通行者も異常事態に気がつく。

 一分も経過せずにその場が阿鼻叫喚の地獄へと変わり果てていた。

その中で立っている者もいた。ある人は倒れた人の様子を見たり救急車を呼んでいた。

それとは真逆に写真を撮りSNSに発信するものがいれば、恐怖から逃げ出す人までいた。

 そんな二組のグループにもとある共通点が存在した。

「そこの人、立っているなら。って倒れた。僕が電話するしかないのか」

「大丈夫です。私が連絡しています!そのまま続けてください」

それは他人に支持されるのを待たずに己で意思を決めて行動した者だった。

 そして倒れた人間の心臓は止まっていた。必死に助ける労力も虚しく、病院に運ばれる前に死を宣告される。

 そんな様子をビルの真上から見ている妖がいた。腕には鱗が付き、肌の青い女性の姿をしたものだ。

彼女は石のような硬い表情を変えることなく、姿を消した。

 死者数は十数人を超えていた大事件になった。

この事件は起こされることを知っていた者達がいたが、止めることが出来なかった。

イナに仕事が回らないように嫌がらせをした結果だった。

ただの嫌がらせだ。その嫌がらせで多数の人が亡くなった。

 だから、こそイナの発言力は大きくなり、彼女を否定するにしてもこの件で口出しが出来なくなってしまった。

「俺が暴走しても口出しするな。それで手打ちにする。失敗は起こりえるものだからな」

 イナは魔法を使いしっかりと約束を通すことができた。彼女はその日、珍しく競馬で大当たりを引いた。


あれから時間が経過して、学校襲撃事件も日常会話から消えた。まぁ交差点の事件でかき消された気がするが、それは気のせいだろう。

 そして僕たちはどんなに努力しても混心開幕を習得できない。

例えるなら富士山よりも高い壁として、立ちはだかっている。

「できなくても、やりたくなる」

 不可能を可能にしたい。それは男の浪漫だから。

イナとの午前中の修行が終わり、細目と令奈が玄関で待ってくれていた。

 最初は僕も細目も強く抵抗してたものの、日常に馴染んでしまった。

「お疲れ様ね……です。いったぃ。お使いになってください」

「どれだけワガママ娘だったのですか」

 相変わらずというか細目は敬語が全く使えない。これも日常の風景だ。

 彼女が反省したのかはよくわからないし、僕も許せない気持ちがある。

だからこそ、吐き出したいしぶつかり合いたい。

そんな気持ちが心の中で鮪のように止まらず駆け巡っていた。

 僕は花子との戦いで『戦うことで相手を理解する』ことができるのではないかという考えが出来上がっていた。

彼女は女性だし戦うことが出来なくても、ぶつかり合うことはできるはずだ。

「どうした、固まって。昼食の代わりにお前を食べるぞ」

「そういうことは日が沈んでからにしてほしいでござる。今から恋愛アニメを視聴するでござるのに」

「僕は食われる前提になってるけど、食わせないからね。少し気にかけた事があって」

「それは俺の財布のことか、それなら問題なギュエっ」

 イナが冗談を言ったかと思うと、圧死したカエルのような声を出した。

それと共に彼女の口から、人間ならば病院に行く量の血を吐いた。

そして彼女の体は地面に吸われるように倒れるが、両手でそれを防いだ。

 僕はそんな彼女の様子を見て助けようと動いた。

「イナ、大丈夫ですギュエ」

 情けない話、イナと全く同じ声を上げていた。

突如として背中に何かが落ちてきたのだ。こんな声を出すのだ、とても重いものだ。

僕の体は地面に叩き付けられ、重い何かに押しつぶされる。

「イナ、あんたってえ?」

「イナ、奇声を上げないでください。来訪者がちょうどお越しになっています」

 僕が頭を上げて床を見ると既に吐血の跡はなくなっていた。

夢かと疑ったが、細目もイナを心配している。どうやら見間違えではないはないようだ。

 令奈が言う来訪者とは、自分の上にあるものだと察した。どいてほしいことを伝える前に上に乗っていた者が行動する。

「もうしわけネェ。急いでたもんで雑になっちまっタ」

 その聞いたことのある特徴的な喋り方で間来だと気が付いた。

すぐさま、離れてくれて手を差し出してくれた。

その手を取り立ち上がった。

「間来さんはなんで焦っていたんですか。いてて」

「四日もしないうちに、日本の人口が半分になるからダ」

 僕は予想だにしていない答えが返ってきて、言葉を失った。

トーテホは自信満々な笑みで戦いを心待ちにしている。徐沙は静かに頭を抱えた。

「ええええええええええええええええええ」

 大きな声を出して驚いたのは細目だけだった。

令奈やイナは慣れているのか落ち着いている。

「私達はどうやらお邪魔のようですね。細目さん行きますよ」

「ちょっと待って。はい、シップ。少し気になったのに」

 細目にシップ十枚セットを雑に手渡された。

 どうしてそんなものを持っているのか聞きたかったが、そのころには彼女達の姿は消えていた。

「で、小生達もそれを止めるため戦うでござるか。今の小生ならば八尺も倒すでござる」

「まだまだ、お前は八尺には勝てねぇよ。ソシャゲのガチャを単発で当たった時に行けばワンチャンあるかもしれないけどな。とりあえず、俺たちで戦うのは確定だ。他の奴らは色々やっているし、助けに来るだろうからな」

今まで一番大きな戦いになりそうな気がする。色々と体験してきたが、それでも緊張してしまう。

「大丈夫なのか。それとも偽形をひたすら狩るのか」

「安心しろ、俺が育てたんだ。お前らは立派な存在になってるって断言する。だが、花子達には手すら掴めていない状況だけどな」

「サポートはまかせてくれい。なんでも作るゾ」

 間来は大きな笑みを浮かべてそう言った。

「これって大きな戦いになるんですか」

 どうしても気になっていた事をイナに問いた。

「大きな戦いならマシだな。どちらかというと戦争になる。とりあえずは作戦会議をするぞ。飯を食ってから十三時に会議室に集合だ。俺はパチンコ屋行ってくる」

 彼女はそう言い残して、姿を消した。

一時間でパチンコ屋から出てこれるか心配だ。

「飯が冷めるぞゴラァ。早く来い」

 廊下から紅空の怒鳴り声が聞こえてきた。

どうやら来る時間を予想して作ってくれていたようだ。

 そして置いて行かれた間来と会話しながら昼食をいただいた。



 立派な会議室に、トーテホ、徐沙、イナ、ユグル、間来、細目、令奈がいる。

 一番最初に来たのが令奈ではなくて、イナという事に驚いた。後半の二人は準備をしてくれた。目の前にある湯吞みを用意してくれた。

「会議名は『お前たちしか止められない厄。訳してマエトヤク』としよう。質疑応答の時間は設けるから、サクサク行くぞ」

 作戦名からして不安要素しかない。

「さて、妖が起こそうとしているものについてダ。もし起こり得ようものなら、軽く数百万人は死ぬヨ。方法は簡単で、一分の時間範囲内にいる人間の魔力を封じるンダ。範囲は東京都全てダ」

「その間に虐殺でござるか」

「生命活動に人間は魔力を使ってイル。しかも対象は呪いが異常に少ない人のみダ」

 やはり、ヒビコが関わっているようだ。

「間来はそれを解除してもらう。お前たちがヒビコだっけか、そいつを勝ち取って封印しろ。さて質問の時間だ、どんどん聞いてくれ。おやつと弁当は用意する」

 遠足か、とツッコミを入れたくなった。我慢して手を挙げる。徐沙もトーテホも手を挙げていた。

「ユグルからいいぞ」

「百鬼夜行の危機なのに僕らで大丈夫なんですか?イナは他にとば……予定があるんですか」

「流石に俺でも危機時に賭博には行かないぞ。他の仲間は海外でアタ=ムとイウの手がかりを探してる。そんな状況で俺は暴走しかけてる」

「……え?」

 イナは表情を崩さず、当たり前のように言った。僕たち三人は驚き言葉が出ないが、間来と令奈は頭を抱えていた。

「ぼ、ぼうそうって」

 まさか、イナが暴走するとは考えてもいなかったので動揺で口が震えて上手く喋れない。

「なぁに問題ないさ。俺が人を襲うことはないだろうが、念の為に暫くの間はここから出れないようにした。長くても一週間で治る」

「カルト宗教と今日明党によって稲荷神が信仰されているが原因でござるか」

 だから様々な稲荷神が暴走していたのだろう。

そして稲荷神は封印されていき、自動的にイナの元に集まった。

 僕はそう考えた。イナを一時的に無力化し『マエトヤク』を邪魔されることなく行うため。

「それも少しあるな。まぁ俺も人の願いや呪いから生まれた神だから暴走するのは、息をすることと同じぐらいに当たり前なことだ」

 少しではなく、これが原因としか考えられない。彼女の言う『大丈夫』という言葉を信じられない。

「じゃあ、オレたちが百鬼夜行を止める。偽形なら自信を持って退治できると言えるが、妖が相手となれば話が変わる。百鬼夜行なら尚更だ」

 僕たちの不安を徐沙がぶちまけてくれた。

「俺が大丈夫って、おい、俺の前に立つな」

 令奈がイナをどかし前に立った。

「貴方達は自分で考えているよりも、腕は確かです。だからこそ、自信を持ってください」

「俺のセリフを取るな、令奈!おい」

 令奈の後ろで何かが騒いでいる。彼女の言葉で少しだけ不安が無くなった。

 言いたいことだけ言い終えると、令奈はイナの前からどいた。

そしてイナは不機嫌そうに口を尖らせている。

「暴走したイナ殿を封印する絶好の機会ではないでござるか?」

「俺の暴走を止められる奴はいないから、大丈夫だ」

「それは逆に不安になるでござるよ」

 その通りだ。僕たちが退治することは決まったが、話を進めなければ。

「具体的に僕たちは何処に行けばいいんですか」

「マエトヤクが始まれば、その妖の位置がすぐさま特定できるはずダ。東京の上空というのはわかってイル。予想としては墨田区上空のどこかダロウ」

「敵側が人を殺すために結界を張るだろうな。だから結界に関しての問題点は無いに等しい。俺の勘が合ってれば、三だろう」

「安心してください、こういう時の勘だけは頼りになります。イナが言うのであれば三なのでしょう。ですが、不測の事態を想定し油断しないように」

 令奈が言うのであれば、問題は無いのだろう。

「百鬼夜行の割に小さいと思うのは気のせいでござるか。二つの団体が裏にいるであろう」

「あいつは今回の件には手を出さないだろうな。まだ彼らの計画が熟しないし時でもないから。今回、妖に手を貸している理由が一切わからないが」

「断言できるという事は、カルト宗教の計画を知っているのか」

 隙を逃さず徐沙は畳み掛ける。

「宗教上の理由っていう判断だ。あれはアタ=ムとイウで起こす百鬼夜行を掲げている。アタ=ムがあっても熟してはいないだろうからな」

 ここで僕たちは質問が終わり、沈黙が訪れる。

「作戦としては間来が『マエトヤク』を止めるから、彼を守るってところだ。二人は間来を守り一人はヒビコと戦闘を始めるのが理想だ。イレギュラーは各自で対応してくれ以上だ」

「時間がかかるが作動前には止められる地震はアル。護衛よろしく頼むヨ」

 世界の命運は僕たち……ん?。あれそういえば、他にも妖や神を封印する人がいるはず。

「僕たちの他にも封印する人っていますよね」

「ああ、もちろんいるが。餌につられてみんな関西に行ってるな。あとは手柄を取って俺に嫌がらせしたい奴らが、全滅したってのを己君党の奴から聞いた」

 全滅……。やはりヒビコは常軌を逸した強さを。

「まぁ、罠が張り巡らされた拠点に何の準備もなく突撃したからな。腕は良いが、頭は良くなっただけだな」

 なる……ほど?喉に小骨が刺さったような気持ち悪さだ。なぜ彼らは敵の拠点に突っ込んだろうか。

 熟考していた僕はイナのチョップによって現実に引き戻された。

「ったく、お前はお前でやることがあるだろ」

 全く思いつかない。彼女に何か頼まれていただろうか。頭上にビックリマークが出ない様子に耐えきれなくなったのか、イナは何かを取り出した。そして机が壊れてしまうかほどの勢いで叩きつけた。

 それはナイフだった。刃が鏡になってしまうほどに磨かれている。

「ユグル、細目に復讐していいぞ」

 突然の状況に脳が処理しきれない。

「イナ殿!」「イナ」

二人が名を叫び、ナイフを取ろうと健闘する。

「私達は部外者になりますね。部外者は大人しく去ることにします」

 だが虚しくも、令奈と共に最初からいなかったかのように姿を消した。

 考えが追いつかない。そして細目がこの場にいる理由を理解できた。あとは一言だけ口から溢れた。

「なんで今なんですか」

「迷いがあって戦闘になるか?ケジメはつけろ」

 厳しい口調でイナは言い切った。

 僕はナイフを握った。何の熱も魔力も思いも感じないただのナイフだ。

「……場所を変えたいです」

 



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