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神と妖と人間の心は神一重  作者: 鉄井咲太
13/23

鏡写し(2/2)

 トーテホと徐沙は怪我だらけの少年やヒビコにボコられた者を避難させてくれていた。そしてこの場にいるのは細目と僕とヒビコの三人だけ。

 ケータイでの徐沙と会話が終わると、ヒビコが口を動か始めた。

「アナタ達は何しに神社に来たんだ。わたしは厄払いしに来たところ、裏で虐めてるのを見つけちまって成敗したところだな。あ、わたしは妖ね、わかってるとは思うけど」

「個人的な質問ですけど何で厄を払いに?」

「これからする大博打のためにな。やることはやった、あとは運だけなのさ」

 こちらに親指を立てガッツポーズを取る。それだけ自信があるのだろう。

 それにしても博打か。イナと意気投合しそうな人だが、彼女には紹介しないようにしよう。

「で、ユグル君。嫌なことを思い出させるようで悪いけど、君は虐められていたのかい」

 僕は思わず、細目を片目で睨めつける。

そんな小さな動作をヒビコは見て、気を引くように手を叩いた。

「わかりやすいね。君を虐めていた張本人と行動を共にしているんだ。ネタ晴らしをすると虐めた人と虐められた人には、普通の人と比べて莫大な呪いが付いてるんだ」

「妖にだけわかるんですか?それとも魔法が使えれば、僕でも?」

 僕が質問すると、ヒビコは腕を組んで眉間にしわを寄せた。

「厄に関係するものだったら魔法を使わなくてもわかる。まぁわたしは、少し鍛えれば誰でも見えるようになる。安心して、その呪いはあなた達に悪影響を及ぼすものじゃないから。心配ならここで祓っていくといい」

 親切に答えてくれたあとに、ヒビコは吐血した。

咳き込むことはなく、小さい子の涎のように垂れる。それを指摘しようとしたが、少しだけ遅かった。

「アンタ、口から血が出てるわよ。もしかして自分の怪我を治さずに私たちと話してるわけ」

「ああ、これか。妖が神聖なる神社にいる拒絶反応だとでも思って。心配してくれるなんて優しいね。細目さんがユグル君を虐めてたとは思えない」

「最後の一言が無ければ私も喜べたんだけど」

 細目が人を心配している所を見て、目を丸くした。

何か企んでいるのだろうか、それとも媚びを売っているのだろうか。

「私からも質問するわね。『英雄』って本知ってるかしら」

「あーあれね。面白くて世界に一種類しかない本を集めようとしたぐらい」

 なんという巡り合わせなんだろうか。思わず僕は弾丸のような勢いで質問を投げる。

「知ってるんですか!?何処にあるとかは」

「残念ながらわたしも何処にあるかは知らない。あれは絶対に手に留まらないものだから。それ以外の特別な力はない、ただの冒険譚。でも、この世界にとっては特別な本だ」

 手にとどまらないということは、勝手に本が移動してしまうのだろうか。

それとも生物なのだろうか。

「わたしから言えることは、知らぬが仏ってこと。さて次はわたしからの質問だけど、あなた達の趣味ってなにかな。わたしは博打っていう行為」

 話題をずらされてしまった。いずれ、イナが教えてくれるだろうから、彼女に問いただすのはやめておく。

それよりも、この人も博打が好きなのか。

「僕は中古の人形を集めて鑑賞するのが趣味です」

「ふぅん、なるほどね。やっぱり、そういうのが好きなんだ。で、細目さんは人を虐めるのが好きなのかな」

 初対面のはずなのに、『やっぱり』とは。彼女がどんどん話を進めるせいで取り付く島もない。

 細目は下を俯き、両手を握っていた。彼女の手から赤い液体が滴っている。僕は彼女が肯定すると思っていた。

「私はアンタ達の戦いを見るのが趣味よ」

「それは殺し合うからかな」

「アンタ達の戦いは一つの風景であり美術なの。私はそれに心を奪われた」

 迷いのない目でヒビコを細目は睨みつけた。僕を虐めていた時の淀んだ泥のような瞳は、消え去っていた。

 思いもしない答えにヒビコは絶句していた。僕たちに聞こえない声で呟いた。

「まさかね……」

「ば、ばけもの、死ねしねええええええ」

 そんな時、神社の裏から拳銃を手に持った二人の男性が飛び出してきた。銃口は確実にヒビコを捉えていた。だが、ヒビコに対する恐怖心で震えている。そんな状態だ、狙いは確実に狂う。それに気がついたのは……。

「え……」

 突然のことに言葉は出なかった。二つの銃弾は細目の腹を貫いていた。

 最悪だ。僕は緑の魔法なんて使えない。目の前の妖にだけ注意が向いていたせいで、反応ができなかった。

 反射的に倒れゆく細目の身体を抱きかかえる。流石にこれは誰でも反応できるだろう。

「わたしすら狙え無い癖に、中途半端な雑魚が一丁前に飛び道具なんて使うな!!」

 ヒビコは僕が細目を抱きかかえたのを確認してから、二つの弾を彼らに向かって飛ばした。

その弾は小さな海だった。正確に言えば、地底から見た水面といったところだろう。

 一つは逃げ去る男性に命中した。命中しても男性は背を向けて逃げていた。

もう一つは恐怖からか立ったまま気絶した不動の男性に命中する。

「ちっ、一つしか命中しなかった。わたしの詰めが甘くて、ごめん。どうやら、その様子だと、あなたは緑の魔法が得意じゃないか。じゃあそのまま抑えてて」

「……助けてください。私はまだ謝ってないから」

 ヒビコがすぐに緑の魔法を扱う。彼女の傷口がみるみるうちに塞がっていく。

 細目の口から、謝るという言葉が出たことよりも、自分の未熟さに悔しさを感じていた。

 いくら憎い相手とは言え、助けられないのは屈辱だ。それこそ、無力過ぎて何もできず彼女を失ってしまった時のように。

「わたしもあんまり緑の魔法は得意じゃないから、転送するなり早く診せた方がいい。確実に致命傷だったから」

「遅れてしまい申し訳ありません。事態は把握していますので、細目は任せてください。ただ、その妖にだけは気をつけてください」

 令奈が現れたと思ったら、細目を連れて去っていった。最後の一言が、とても気になる。

 ヒビコは大きくため息をついた。

「わたしは百鬼夜行を起こしたい妖。だから、あなた達の敵ってわけ」



「銃声。だが銃弾ぐらいであれば、朝飯前であろう」

「こいつ詰め込んだら一応行くぞ。もし不意を突かれて、負傷してたら大変だからな」

 牢屋の中に数人の不良達が虫のように入れられている。

彼らが大人しく気絶していたが人を運ぶのは大変でかなりの時間を使ってしまった。

「たすけてくれえええええ、ばけもんだあああ」

 いつ転んでもおかしくない程に姿勢を崩しながらトーテホ達に向かってくる。

そんな不良が片手に持つ拳銃を見て、二人は彼が発泡したのだと理解した。

「助けるでござるから、所持している凶器を手放して大人しく、この檻の中に入るでござるよ~」

「絶対に銃口を向けないで、そこで捨てろ」

 警戒しながら、二人は彼を保護しようと動く。彼は二人の命令に従い、立ち止まって銃を捨てた。

「がぶぶぶ」

 不良は口から異常な量の水を吐き出して、倒れる。

「うそだろ。なにやってるんだ」

「まさか、後ろもでござるか」

 徐沙は不良に駆け寄り、トーテホは捉えた不良を確認する。檻の中でも不良たちは、水を吐き出していた。

 徐沙は不良の胸に耳を当てて容態を確認するが、鼓動の音はしなかった。

これを行った犯人は一人しかいない。二人はそれに気がついていた。

 そしてこの事例は見たことがあり、最近は良く耳にしていた。二人は一分を用いずに気がついた。

「二人が危ないでござるな」


 

 目の前の妖が百鬼夜行を起こすと告白した。その眼は紛れもなく本気で冗談ではないのを物語っている。

 虐められていた青年を助けた妖だ。どんな風に百鬼夜行を起こすか聞くだけ聞いてみる。

「百鬼夜行を起こすってことは、アタ=ムとイウを見つけたんですか」

 ヒビコは両手を上げて、お手上げのポーズを取った。

「そんなややこしい事をしなくても、都会で人が大量に死ぬだけで起こるさ。わたしは他人に寄生する人を厄だと認識した。さっきの虐めっ子も溺れ死んでる頃ね」

 溺れ死ぬ。ここは地上であり溺死はしないはずだ。だが、僕はその事例を目の前で見たり、良く聞いていた。

「それはあなたの意思なんですか。それとも役割だからですか」

「両方。虐められていた君なら、私の考えが理解できるとおもうけど」

「理解はできなくはないです。でも、寄生虫だけをピンポイントで駆除することが可能とは考えられません」

「これが、とてもとても簡単。他人に呪われないように、宿主をころころ変える生物。彼らは異常に呪いが少ない、それを目印にして溺死させるだけ」

 彼女が大の字になって天に手を上げる。すると彼方から雨が降る音が耳に届く。

「残念ながら、君のお仲間は助けには来れない。さて、二人の楽しい楽しい雑談を続けよう」

「……なにをしたんですか」

「お望み通り教えてあげよう。わたしは厄の妖であり、病という厄を操れるんだ。まぁちょっと痺れてもらってる。あんな寄生虫じゃないことはわかってるから」

 ここでようやく彼女の言う寄生虫を理解した。寄生虫と発して見たのは銃を発砲して気絶した男性だった。

 寄生虫は戦わず背を向けている人を指しているのだろう。

イジメに例えば、見て見ぬふりをするもの、参加するもの、自分がターゲットになってしまうと考えるもの。

 なんとなくだが、理解することができた。だが。

「それには見て見ぬふりをする者は入っていますか」

「見て見ぬふりをするのも、彼らと同じ部類だと思うけど。もしかして、襲った学校で好きな子が亡くなったの?」

「友達が命を引き取った……。触らぬ神に祟りなしっても言う、彼らは自分の身を守ってるだけじゃないか」

「嫌なことわざ。わたしからすれば、義を見てせざるは勇無きなり。わたしは少なからず、虐めていた主犯格よりも、よっぽど邪悪な存在だと考えてる。中には救えない屑もいるけど」

 虐めた主犯格が全て悪いに決まっている。何を言っているんだ、この妖は。

 僕の怒りが拳や唇から生温かい液体が垂れる。自分の視界が赤に染まる。

「君は、ずれているんだね。自分がいじめられていたことではなく、いじめを憎んでいる」

「いじめというものは悪いことで間違ってない。それを憎むのも当たり前のはず」

「君がしていることは、いじめと変わらない」

 脳内から線が切れる音が、響き渡る。声が枯れてしまうほどの怒声を出す。

「そんなはずないだろ!いじめをした人間を憎んで罰して何が悪い」

「それ。同じ穴って気が付かない?君、虐めた過去を清算している人間も憎んでる」

 怒りのままに、『そんなことない』と言おうとした。だが、僕は自分に関係ない令奈に対して、怒り憎んだ。

 思考回路が停止している間に、ヒビコは話を続ける。

「だから、いじめは減らない。わたしは、いじめた側といじめられた側が一対一でぶつかりあうことを願ってる。わたしがすることは、その間にある壁を壊すこと」

 ぶつかりあって、何が変わるというんだ。なにも変わらない。

「君は一度でも、あの少女とぶつかりあって相手を理解した?」

「無意味じゃないか。考えが違うんだから」

 ヒビコはゆっくり近づくと頬を拳で殴ってきた。平手打ちなんて甘いものではない。

「相手を理解するのが怖いだけに見える。少なからず、わたしはいじめていた側は変われると思っている。君をいじめていた少女のようにね」

 綺麗ごとだ。いじめをして他人を傷つけられた者が変われるはずがない。

 心の底から思っているはずなのに、熱が冷め始める。

「『変われるはずがない』そう考えてるのが見え見え。いじめていた人間が身を挺してわたしを守った行動は?なんで自分を堕とした人の近くにいる?」

 答えようとしたが、答えが見つからず舌が回らない。

細目が彼女を守ったことがどうしても理解できないからだ。

 以前の彼女では考えられない行動だから。気が付いてたが、目を背けていた答え。

 そのころには僕の熱は下がり切っていた。

「細目が……変わってる」

 その事実を受け入れた自分の背には罪悪感という重荷がのしかかった。

虐めていた者は絶対悪であり赦されるべき存在ではない、という価値観が崩れ落ちた。

「じゃあ、わたしはもう用が無くなったから、お別れ。次会うときは敵」

 ヒビコが手を叩くと、紫の楕円が現れた。

それが紫の魔法で作られたワープゲートなのは考えなくても理解できた。

 崩れた心では彼女を逃がさないという目的は抜け落ちた。

「それでも、僕はあなたの方法は理解できません。次は敵だという事も理解してるから言います。今日はありがとう」

 ヒビコは僕に背を向けたまま、ワープゲートに入っていった。




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