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神と妖と人間の心は神一重  作者: 鉄井咲太
12/23

鏡写し(1/2)

「イナ殿の部屋に存在したアニメというのは、伝説の」

「アニメだ。それ以上でもそれ以下でもない。伝説でもない、首を突っ込むな」

 花子との戦闘からイナは機嫌が悪い。

だが運は最高潮に良いのか、パチンコから競馬まであらゆる博打に大勝している。特に競馬帰りは山のような札束を大広間に置いていた。

 花子の動画を見てトーテホはイナの様子を気にかけず、アニメの文字の正体を彼女に問い詰めているが答えは返ってこない。

 何というか、彼女の部屋は予想外だった。

博打の物があると思っていたが、あったのはアニメという文字が書かれた物だけ。流石に意味が分からなく、コメント欄も『?』で染まっていた。 

本命がオチに使われたが、僕たちの戦闘で再生回数はかなり伸びていた。

 見直しても見惚れてしまうほどに、綺麗だった。

彼女が撮る角度も良く、直接見るのと変わらないほどに良い動画だった。

「駄目だ。今日は特訓をやめる」

「トーテホのせい。オレ、混心開幕を覚えたいのに」

「小生のせいでござるか!?」

「うん、そう」

「適当な返事で答えないでください」

「神様も疲れるんだよ。だから今日は休みだ、お前らでどっか行って来い。広間にある金を持っていていいから」

「まだ片付けしてなかったんですか……アレ」

「あ、効率的に処理でき……るな。いくらでも使っていいから、『英雄』って本を探してこい」

 お金を処理するって……、募金でもすればいいのに。

やはり彼女はお金には興味がないようだ。色々と探ろうと思いツッコミを入れたかったが、トーテホに先を越された。

「『英雄』なんて五万とあるでござる。まさかそれがアニメに繋がる物と口にするでござるか?」

「ああ、そうだ。蛍光塗料を塗った卵を弾に偽装するな。どうして、そんな物を持ってるんだよ」

 イナがトーテホの問いに軽く答えた瞬間に、彼は懐から卵を取り出して投げた。イナは難なく避けることに成功した。

彼らは気が付いていないが、それは床に当たることはなく人物に命中した。

「……おい」

「徐沙殿、ステイでござる。掘るのだけは勘弁してほしいである。口から音を出して欲しいでござる。ユグル殿助太刀をぉぉぉ」

 徐沙の服に卵が命中した。彼女の背後から凄まじい怒が感じられる。

触らぬ神に祟りなし、僕は徐沙に担がれて去っていくトーテホを見て見ぬふりをした。

 不穏な言葉も聞こえたし……。助けるのは無茶だろう。

「トーテホさんが言ってた通り、『英雄』なんて題名の作品は沢山ありますよ。それで有耶無耶にするんですか」

「今も更新されている作品だ。魔法が使える人間なら一発で分かるはず。それを探すのが今回の課題とする。日本の中にあるはずだから、探してみてくれ。ちなみに世界に一つしかない宝物だ」

「世界に一つ……ですか」

 どう考えても無理だ。日本にあることすらわかっていないのに。世界に一つしかないということは出版社から出ている物ではないという事がわかる。

「日本の東京にあるぞ。間来から聞いたからな。現物を手に入れたが売った。とても面白かったぞ、ちなみに『アニメ』の原作でもある」

「ええ……」

 不可能に近くても、少しだけ興味がわいてきた。宝探しみたいで楽しそうだし、何より中身が気になる。

 彼女がハマった『アニメ』という何かの原作というのも一つの要因だろう。

「俺はここにいるから、困ったら連絡してくれ」

「あれ、パチンコ屋とかに行かないんですか。お金も山のようにあるのに」

 お金も沢山あり、僕たちも出かけるのに彼女が賭博しないのは珍しい。明日、台風でも来るのだろうか。

「何度も言ってるだろ。俺は少し機嫌が悪いんだ、全ての稲を枯らすほどにな」

「では私が彼女たちを送るので、この館は任せます」

 神出鬼没のメイド長が呼ぶ前に現れた。令奈がイナに館を任せるとは……。明日は本当に何か恐ろしいものが来るのだろうか。

 トーテホと徐沙が部屋から出るまで、今起きている不思議なことを考えていた。

彼は生気を吸われたのかのように、やせ細っていた。

 そして出発したあとに大事なことを忘れていた。

「結局、『英雄』をどうやって探せばいいんだろう」

 こうして計画性の欠片も存在しない上に地図も無い宝探しが始まった。

 


「あーあ、いっちまったか。面倒くさいが、やることをやりますか。友人は待ってくれても時間は待ってくれないしな」

 イナは窓から車で出発したユグル達を見送っていた。

彼女は退屈そうに腕を組んで廊下を一歩踏み出して、同じように見送っていた者がいることに気が付いた。

「よう、見送りとは悪い子ちゃんから改心でもしたか。言わないから、令奈の悪口をぶつけてもいいぞ」

「なんでアンタは令奈を赦せたの」

 彼女の真っ直ぐな質問にイナは面倒くさそうに頭を掻く。冗談を話す空気ではない事をイナは察した。そして重い口を動かし始めた。

「俺がとても寛容な人物だったから、赦した。俺以外は当てはまることは、ほとんどないだろうな。それは絶賛反省中のお前にもわかるだろう」

「もったいぶらないで、答えてほしいんだけど」

 イナは窓を開け植物でできた弾を放り投げた。

「それはお前が自力で見つけるべき答えだろうな。たどり着くまで後少しだ」

「なにそれ。令奈が憎くないの」

「まぁ、本音を言えば地獄を見せてから、醜い姿を晒して命を取りたかった程に憎かった。きまぐれさ、きまぐれ」

 細目は自分の求めた答えが返って来ないので、苦い物を食べた時のように顔を歪ませた。

 そんな彼女を置いて、イナは去ろうとする。

もちろん納得していない細目は言葉で引き留める。

「謝りたい。自己満かもしれないけど」

 彼女は大きな声で叫んだ。その廊下に響き渡る言葉がイナの耳に入ると、彼女は口角を上げた。

「じゃあ行ってこい。俺は用事があるから、もう行かなきゃいけない。じゃあな、殺されるなよ」

「……え」

 イナが指を鳴らすと、細目の身体が光っていく。瞬きをすると細目は車の中にいた。

 両隣にはトーテホと徐沙がいる。

「なんでいるんだ」

 細目はユグルの膝に座っていたのだ。これには細目は目を丸くし、ユグルは嫌悪感から目を細めた。

「……はぁ。イナ、突発的な行動はあれほど止めて欲しいと。とりあえず、コンビニで細目さんは助手席に座ってください」

 空気が一瞬にして重くなった。そして大きなため息をしながらも、令奈はすぐさま対応を考え始めた。

 トーテホと徐沙はこれには苦笑いするだけで、一言も喋らなかった。


 

 トーテホと徐沙とユグルが一日かけて探す場所と決めたのは秋葉原だった。

一人は輝く原石を探しに一人は待ち望んでいた物を買いに一人は愛されたものを手に入れるために選び秋葉原に来たのだ。

 だがイレギュラーというものは起こってしまうのだ。それも予想しないイレギュラーだと尚更、計画とういものは簡単に崩れてしまう。

 だから、トーテホと徐沙はユグルと細目を監視している。

彼らが殺し合いを始めないためにだ。令奈にも彼女のやるべきことがあり、細目を任せることは出来なかった。

 なので先頭から、ユグル、トーテホ、徐沙、細目という爆薬と火を遠ざける形となった。

 当初の目的も忘れずに(細目と徐沙の楽しみは消えた)『英雄』を探している。

わかっていた通り、見つからないし別のものを勧められる。

そこに関してはユグルと細目が率先して質問をしてくれているのが、二人としてはとても有り難い。

 重々しくとげとげしい空気の中で人混みの中を歩くのは、とても重労働だった。

徐沙はそんな空気を変えたいと思う中、細目が空気を読んで声をかけてきた。

「ねぇ、徐沙。少し話さない」

「どうした藪から棒に、別に構わないが」

 徐沙は彼女の許諾を貰うと、質問をした。

「ユグルの服装を管理しているのアンタでしょ。煌びやかなのよ」

「それはお前に虐められるから、わざとみすぼらしい格好にしてたんじゃないか」

「私は関係ないわ、虐める前からそうだったから。で、どうなのよ」

 徐沙は得意げに鼻で笑う。

徐沙が『愚問だな』と心の中で思っているのが誰でもわかる動作だった。

「彼は意外と合うんだ、まるで着せ替え人形のようにな。自分を磨くためにも色んな似合う服を着せている」

 饒舌にそして楽しそうに話す彼女を見て、細目はいち早く気が付く。

「……一番まともそうに見えたけど、一番やばいかもしれないわねアンタ」

「人から見れば、とてもヤバイ人だ。自分も理解しているから、ここでは口にしないでおく。オレはそんな自分を認めてくれるから、彼らとここに行動を共にしてる」

 細目は疑問に思ったことを口に出す。

「理解はしてくれたの」

 徐沙は思いがけない質問に思わず、下を向く。

彼女は重い唇を動かして、その問いの答えようとした。

「神田明神に行くでござるよ。はぐれても大丈夫なように、先に言っておくである」

「もしかしたら、そこの関係者に話しているかもしれないから」

 トーテホとユグルによって妨害された。そして答えが返って来ないまま、神田明神へと辿り着いた。



「トーテホさん、これ結界張ってない?」

「一般人が入れないように薄く張っているでござるな。条件も緩く、魔法を知っている者なら、誰でも侵入可能になってるであるな。小生から行くでござる。背は任せるでござるよユグル殿」

 辿り着いた神田明神には薄く結界が張られていた。

ためらいなくトーテホは結界の中にへと足を踏み入れた。追うようにユグルも結界へと侵入した。

「私も行きたいから、護衛お願いできないかしら」

「随分、肝が据わってるな」

「人がゾンビのように動かす現場や妖ましては神様を見ているのに、肝が据わってなきゃここに居ないわよ」

「それもそうだな、わがままなお姫様。だが攫われるのだけは勘弁してくれよ」

「攫われたら、アンタの実力不足よ」

「手厳しいな、食えない。今日、一緒にディナーでもどうだ」

「私の舌は紅空に奪われてるから」

「ふられちまったか。じゃあ、いくぞ」

 そうして二人も彼らの後を追い、結界へと足を踏み入れた。



「だずげで、向こうで僕を助けた女性があ」

 トーテホとユグルが最初に目にしたのは、顔が蜂に刺されたかのように膨れ上がった少年だった。

トーテホにしがみついて離れず、彼は身動きが取れなくなってしまう。

「ユグル殿、先に」

「わかった」

 ユグルは空を飛び、彼の言っていた女性の元まで向かう。

そして何人も倒れる中、立っている者がいた。それは前髪の二束が黄の女性だった。

背まで伸びた長髪も特徴の一つだ。

「え……」

 女性は周りを見渡しても彼女しかいない。

「さっきの少年が助けを呼んでくれたのか。それとも、こいつらの仲間か?」

 女性は初対面でガンを飛ばしてきた。それでようやく、彼女が妖だという事に気が付いた。

「少年が君を助けてくれって。少し事情を聞いてもいいかな」

「そうか、ごくろうさん。少年をイジメてたゴミにお灸をすえただけだ。ガンを飛ばして悪かったな、肩の力を抜いてくれ」

 彼女はゴミを放り投げて、こちらに向かってくる。

彼女は握手を求めて、手を差し伸べてくる。

「わたしはヒビコだ。よろしく」

「僕はユグルです」

 断る理由がないので、彼女の誘い乗り握手をした。ヒビコは数秒だけ下を向いた。

「神の弟子だよな。とりあえず、あの少年はよろしく。こいつらは少しだけ任せてくれないか」

 悪そうな妖ではなさそうだ。

それに彼女が何かされたのならば、やり返す権利はあるはずだ。

情に流されて僕は答えてしまった。

「わかりました」

 

 


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