表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神と妖と人間の心は神一重  作者: 鉄井咲太
11/23

イナの秘め事(1/1)

「そろそろってか、遅いんだが混心開幕について教えるぞ」

「混心開幕……」

「必殺技みたいなものとは把握してるでござる」

「オレも使ってみたかったからな。ついに教えてくれるのか」

 混心開幕と言われて僕たちは目を輝かせた。

 自分たちも使えるのかと思うと心が飛び跳ねて仕方ないからだ。

「人間は使えないから安心しろ」

「解散でござる」

「そうだね、帰ろう」

「最悪」

 イナの無神経な断言によって、僕たちは解散しようとする。

 期待値は完全にマイナスになっていた。

「帰るな帰るな!別の必殺技ならあるが……」

「本当でござるな」

「最後まで聞く」

「わかりました」

「ちょろいなぁ、お前ら。俺はこれからが心配だ」

 一瞬で僕たちは戻り腰を下ろした。

 別の必殺技があるなら、最初からそういえばいいのに。

「取り敢えず、まぁ混心開幕からの解説だ」

「簡単に言えば、魔力が混ざり合って出来た個々の技ですね。なので、個々で違うため条件から当たり判定、何もかもが変わっている可能性があります」

「うーん。あのさぁ、俺が久々にやる気を出しているんだから、役を取るな令奈」

 気が付けば令奈がいた。

「解説は任せてください」

「あー俺が神様みたいに見えなくなるだろ。こういう時ぐらい格好つけさせろよ」

「普段の行いで、マイナスだと思うますが……」

 その通りだ。

 感謝はしているが賭博を繰り返す神様に神々しさなんて感じない。

 というか、ここに来てから彼女を神様としてみていない。

 横に目を移すと、トーテホも徐沙も静かに頷いている。

「知らん!俺の混心開幕は人に見せられないってのに。解説奪われたら何もできないだろ、それをわかっててやってるだろ」

「どういうことですか」

「見せてはいけないってやつだ。名前を出していけないとかそういうのだ」

「カッコイイでござる」

「中二くさいな」

「う~~ん」

半信半疑一名。信用一名。疑い一名。

「対策方法は避けて黒く染めあがるだけです」

「それ教える必要あります!?」

 簡略化すると気合いだ。

 それは対策にならないでしょ。

 戦略を聞いて『頑張れ』って答えてるのと変わらない。

 それを令奈が言うんだ。驚かないわけがない。

「中断させたり、隙はないでござるか」

「発動させたら、とっとと黒く染めて終わらせるだけだ。ちなみに混心開幕は切り札で基本的に追い込まれたときに使うぞ」

「『ちなみに』で話す内容が一番大切じゃないですか……」

「つまり混心開幕を突破すれば、封印できるということでござるな」

 混心開幕を乗り越えることが勝利のカギというわけだ。

 だけど、アレを避けきれる自信はない。

「人の体すら通れない隙間しかないのに、どうやって避ければいいんですか」

 体験したからわかる。

 運が良くないと人が通れる隙間なんてできないんだから。

「今日の課題はそれだ。今の判定のままだと、運ゲーになる、ってか避けられない。混心開幕中は、どんな妖や神でも人が通れる隙間なんて作ってくれない」

「じゃあ、どうするんだ。身体を縮めるのか?痛くないように頼む」

「自分の心を人形に移すとか?」

「いくら魔法が使えるとしても、思考が物騒すぎるでござる」

「じゃあ、お前はどんな案を思いついたんだ?」

 トーテホのことだから、転生とかいうのだろうか。

「自分の意識を一ヶ所に集約させ、干渉できる場所を最小限にするとかでござるか」

 至極まっとうな意見だった。

 裏切られたような気分だ……とても。

「ほぼ正解だな。俺はできないから、令奈にやってもらう。ちなみに神や妖はできない。人だけの特権ってやつだ」

「だから、その『ちなみに』がかなり重要な点だと思うんです」

「瞬きせず、見ていてください」

 令奈は目を閉じて、小さく深呼吸をする。

 目を開けると同時に彼女の心臓位置に、握り拳ぐらいの点が現れた。

 それは紫色に光り、例えるに例えられない光を放っている。

 四方八方から見ても光り方も場所も変わらない。

 トーテホと徐沙はそれに目が釘付けだ。

 でも、これって……

「弱点を曝け出してますよね。光を出さないとかできないんですか」

「できません。当たり判定を見せることで収縮させることができています」

「当たり判定を見せずに小さくするなんて、ズルいだろ」

「神様は本当に誰の味方なんですかね」

 神側なのか人側なのか妖側なのか良く分からない。

「具体的にどうやって習得するのでござるか」

「オレも早く覚えたい」

 これはとても大切な力だと、少しの間でも理解できた。

 だからこそ、習得したい。

「座禅と滝行です」

 徐沙とトーテホの顔が一気に暗くなった。

 下を俯いて令奈に表情を見られないようにしてる。

「というわけだ。頑張れよ」

「パチンコに行く気でござるか!」

「残念ですが、イナは久々に神らしい行事を抱えているのです」

 ええ……嘘だぁ。

 イナから出た言葉なら信じないが、令奈が言うのだから本当なのだろう。

「久々にって、いつだって俺は神々し――」

「出発するには丁度良い頃合です。荷物も玄関に纏めてあります」

「お前はもう少し俺という神を労われ」

 涙目でイナは玄関に走っていった。

 少しだけ可哀想だと感じた。

「では始めましょう。どちらからがいいですか」

「座禅」

「滝行でござる」

「滝行でお願いします」

 うわぁ怖い。徐沙が人を殺しそうな視線を向けてくる。

 冷や汗が止まらない。

「では、始めましょう。この手に触れてください」

 三人が彼女の手に触れると、目の前に滝が現れた。



「はぁ……はぁ……はぁ……」

「や、やりたくない」

「足があああああ」

 トーテホは座禅の形で固定され、横に倒れている。徐沙は肩を守りながら、眼を虚ろにさせている。

 僕は荒い息を座禅のまま整えていた。

 座禅で一番に叩かれていたのは、徐沙だ。肩を壊してないか心配。

 滝行三時間座禅三時間とかなりハードな内容で身も心もボロボロにされた。

 座禅で邪念が混じったとき叩かれる力も半端ない。

 肩が落ちたかと疑ってしまうレベル。

 それが大自然の中、雑に畳一枚置かれた上で行われている。

「習得しても定期的にやります」

「……」

「ですよね……」

 徐沙とトーテホが氷になってしまった。

 氷鬼のようにタッチして動き出してくれるといいのだが……。

「では……行きましょう。離れてください、身動きができませんので」

「もう少しだけ憩いの時間が欲しいでござる」

「お願いだ。もう少し待ってくれ」

 二人は令奈の足に引っ付く。それはまるでコアラのようだ。

「何やってるんだ。ユグルも止めろ」

「うーん。頑張って」

「薄情者でござる!」

「落ち着いてください。イナのところに行くんですよ」

「え?」

 驚きの答えに僕たちは声をそろえて驚いた。


「こんな田舎にいたんだ」

 森を抜けて見えたのは、視界の半分以上の山と細々とした集落だ。

「ここはどこでござるか」

「東京のとある田舎です」

「へぇ。東京にもこんな場所があるんだな」

 僕たちは周りを見渡しながら、令奈についていく。

「ここでイナは何をしているんですか」

「神様らしいことをしています。皆さん、少しだけイナのことを蔑み過ぎだと思いましたので」

「令奈殿が発言しても説得力がないでござる……」

「こんな賭博ゼロの場所にイナがいるって考えられない」

「ちなみにイナはここで何をやっているんですか」

「一目見ればわかります。時間とルート的に数分で遭遇するはずです」

 数分ということは、すぐ近くにいるのだろうか。

 だから、耳を澄ましてみると遠くの方から賑やかな声が聞こえた。

 それは徐々に近づいてくる。

 そして言葉を失った。

「……神様だ」

「別人でござる」

「……ああ…ああ!」

 銀の鳩のマークが所々に存在する巫女のような服。

 子供や老人に話しかけられて、笑みを浮かべている。

 それは作り物ではなく、心の奥底から出ている。

 人と山が更に彼女を引き立て、一つの絵となっている。

 あまりにも神々しい光景に令奈以外の足が止まる。

 目に焼き付いて、忘れることができない。

「れ、れいななんでこんなところに」

 僕たちの存在に気がつくと、イナは茹蛸のように顔を紅潮させる。

 イナのこんな顔を見るのは初めてだ。

「みるなぁぁあぁぁ」

 恥ずかしいのか、その場でうずくまってしまった。

 そこへ容赦なくトーテホと徐沙は駆け寄る。

「まさしく神様でござる」

「かっこいい」

「やめろおおおおお」

 どうやらイナは褒めに弱いらしい。

 嫌味のない純粋無垢な褒め攻撃は続いた。

 数分で普段のイナに戻ったが、それでも着替えるまでは顔が紅かった。


「イナ、ここでなにをしてたんですか」

「ユグルか。まぁ神妖退治みたいなもんだ」

「ここの人たちと仲が良さそうですけど、良く来るんですか」

「俺は人気者だからな。まぁそれでも、よく来るな。東京だから」

「東京だから?」

「東京は集まるし、生まれる場所だからな。こういう場所に大人しそうな場所に逃げ込むのがいるんだ」

「パチンコよりも楽しそうに、笑ってましたけど。本当はこうやってーー」

「うっさい、黙れ忘れろ」

「いや忘れられませ」

「忘れろ」

「ハイワカリマシタ」




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ