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神と妖と人間の心は神一重  作者: 鉄井咲太
10/23

動画だよ!魔法のような……(2/2)

 僕はギャルと戦うことになった。

イナが言うには『花子さん』という妖らしい。そしてトーテホは『八尺様』と戦う。どちらも聞いた事がないが、有名な妖だったらしい。

「じゃあ、勝者には食べかけの朝食をプレゼントだ」

「「いらない」」

 僕は花子と意見が一致した。

せめて駄菓子でも良いから、食べかけじゃない物をプレゼントしてほしい。

 わざとらしくイナは落ち込んだリアクションを大袈裟に取る。

「じゃあ、さっき噛んだ味無しの」

「ほら構ってたら日が暮れるわ、さっさと始めましょ。じゃあ、このすっぽんが地面に着いたら開始でいい」

 彼女はどこからともなくトイレを掃除するするすっぽんを取り出した。

ツッコミを入れるべきだろうが、それでは始まらないと思い返事をしようとした。

 イナが花子のすっぽんを叩き落とした。僕たちは困惑してイナを見た。

「ボケてないで始めろ。すっぽんはもう落ちたぞ」

 正しくどの口が言うだ。

イナが手を叩くと僕らは空に舞い上がった。長い茶番が終わり、ようやく戦闘を開始する。心の整理の『せ』すら始めてなかったので、無理矢理にでも心の整理を終わらせた。

そしてお互いに空中で体制を整え、向き合った。


 最初に手が動いたのは、花子だった。

「まずは様子見っと」

 彼女がそう言って出したのは、本気のトーテホよりも濃い三色(青白赤)の弾幕だった。良くて人の身体がギリギリ通る隙間しかない。

逃げる道を間違えれば、瞬く間に詰みになるだろう。

それほどに濃く彼女の弾幕は感動で気が散るほどに美しかった。

 近づく選択肢はない。彼女の近くに行けば絶対に弾に当たってしまうからだ。

彼女を守るように弾幕が花子を囲っている。また、弾もそこから生成されている。

 だが、逆に考えれば自分がここに居るとアピールしているようなものだ。

だからこそ、こちらも弾で遠距離から彼女を狙うほかない。

 この密度で一番に厄介なのは弾速の遅さだ。

彼女の弾は幼稚園児でも避けれる程度のスピードである。だから、長く場に止まることで逃げ道を塞がれてしまう。

「これなら遅く飛ぶことを学んでおけば良かった」

 速ければどんな弾でも避けられると考えていた。

速く動けば些細な隙間に入れずあっという間に、勝敗は決してしまうだろう。

 遅く飛ぶ事が大切になるとは、脳の片隅にも存在しなかった。

これが彼女の言っていた『体験すべき事』なのだろうか。

「攻撃してきなさいよ、手ごたえすら無くて勝つのマジないから。これじゃ私が弱い者いじめしてるみたいだし、映像的にも面白くないし~」

 彼女の軽い言葉が聞こえる。やはり本気を出してはいないようだ。

だが防戦一方では、勝てる可能性も零のままだ。

 そう思っている矢先、人形を起動させる隙を獲得できた。

人形は動き出し、指から小さな弾を出し始める。

「ようやく始めるのね」

 花子は僕が攻撃を始めると、ようやく動き出した。

彼女が動いても弾幕が弱まることはない。

逆に難易度が高くなった。それでも身体が彼女の攻撃に慣れ始める。

「さてそろそろパターンを変えますか」

 花子は慣れを対策してくる。

今度こそ速い弾が飛んでくるのではないかと待っていた。

しかし起きたのは、全ての弾の動きが止まるというものだった。

 今しか好機がないと思い勢い良く花子との距離を詰める選択肢を取る。

それが罠とは知らずに。

「やっぱり卵だよ。ウチは流石に玉子焼きが好きやけど」

「うそだ。こんなこんなことって」

 止まった弾の動きが変わったのだ。

全ての弾が止まった時点で彼女が放出した全ての弾を操れる事に気が付くべきだったのだ。それはゆっくりと僕を挟み込むように動き始める。

 咄嗟に避けていくも、身体に何弾かは掠ってしまう。

それほどに避ける隙間が存在しないのだ。人間が通れる隙間がある事が奇跡だと思えるほどに。

 不幸中の幸いな事もある。距離を縮めた事でビームが当たる。

何発か当たっているが、まったく黒く染まらない。

 だから一つの弾が手に当たるが、人形にビームを放つ選択肢を取る。

 彼女の身体を包みビームは命中した。

「なかなかやるじゃん。卵でも孵化しかけだったってわけ」

「やっぱり封印されてくれない」

 わかってはいたものの、渾身のビームを喰らっても彼女は平気そうに突っ立ってた。

 それでも半分ぐらいは黒くなった。

「少しだけ本気を出してあげる、イナもアンタにそれを体験させたいらしいから。皆んなアレ行くよ。コメントの準備はできた。盛り上げていこう」

 彼女は空に語りかける。画面の向こうのリスナーは漢字四文字を既に書き、タイミングを見計らっている。

 そして弾幕は完全に消えた。彼女が消したのだ。攻撃する隙さえ与えずに彼女は告げる。

 僕は美しきその技を始めて受ける事になる。今までの戦いがこの技の引き立て役だった。

「混心開幕。ポーズをとって」

 


 イナの館の中で息を荒らげて廊下を走る者がいた。

「この部屋も違う。イナの部屋があるはずなのに」

 ヤクは館の奥の奥へと向かっていった。

気配を完全に消しているので、イナにすら彼女は見つかっていない。

消しているというよりは、この館に溶け込んでいる。

「明かりをつけたいけどバレちゃうよね」

 彼女がここで甘えてバレたら、イナを足止めしている仲間達に顔合わせできないだろう。走るにしても音を立てず、最低限の動きをしなければならない。 

 だが、そんな状況を彼女は楽しんでいた。

「イナさんと令奈さんだけの秘密の空間」

 彼女は嬉しそうに口角を上げて、表情を緩める。

 そう、ここはイナと令奈しか立ち入れない場所だ。他の人物は一切の立ち入り禁止されている。

 立ち入りを禁止されている場所には沢山の魔道具が仕舞われている。

そのことにも彼女は気が付き、後から花子に絵が地味と怒られるのを怖がっている。

 動画のために魔道具を起動させるという案は、自分の性質上の事を考え無かったことにした。

「倉庫と空き部屋しかないよぉ。お願いだから特大の情報か、映像をちょうだい」

 彼女はとうとう走る体力が尽きる。息を荒らげて、歩いてから制止する。

何もないと諦めかけた。だが、目の前の隙間から光が溢れ出していた。

「え」

 彼女は思わず戸惑いの声を出した。

その部屋は最初から無かったが、こうして最初から存在してたかのように存在している。

 ヤクは本能的に理解した。自分の求める答えはあるが、これは罠だと。

そしてイナの部屋であることも理解していた。だからこそ、開ける以外の選択肢は無かった。

 ゆっくりとドアノブに手をかけ、固唾を飲む。

もし防犯装置が作動しても長く撮れるように心も構えていた。素早く、優しく押して扉を開ける。

彼女は絶望の底へ沈むことになった。

「……これ絵になるかな」

 何も無いわけではない。思わず罠よりも絵にならない事を心配してしまった。

 イナらしく博打関係が広がっていると考えていた。だが、その斜めの部屋であった。

アニメと書かれた本にDVD、アニメの文字のポスター。カタカナの『アニメ』が部屋の中に広がっていた。キャラクターの絵もない、アニメという文字だけなのだ。

ゆっくりと部屋に入り、本に触れようとした時だった。

「さて探索は終わりです。動画を作る分は撮ったでしょう」

 聞き慣れた神出鬼没のメイド長の声。やはり最初から彼女達の作戦は見透かされた。

「せめて中身を見せて」

 令奈に捕まり、彼女の願いは叶うことはなかった。



 花子の掛け声と共に、抵抗する間も無く透明なトイレの個室に僕は捕らわれていた。

壁に触れてはいけないことは、今までの経験で理解できた。

 そして彼女は花が散るように弾幕を放った。それは一つの花と見間違えるほどに美しい。だが、この二人も入れないトイレの個室で、それを避けきるのは不可能なことだ。空いて  

いない針の穴に糸を通すようなもの。

「こんなのどうやって」

 解決策は考えられなかったが、なんとか一つ手に当たっただけに止まった。

運が良かっただけ、次は無い。それまでに、なんとか対抗策を見つけなければならない。

「やっぱりアレも使えないのね。ぶっちゃけると、まぁまぁ楽しかったわ」

 僕を気にすることなく、第二第三の花を咲かせる。

戦って僕は彼女が悪人ではないことに気が付いた。これは彼女だけの美しさであり、世界を探し回っても見つかることのない輝き。

こんな綺麗なものを出せる者が悪い人のはずがないと。

「どの種族でも人間と変わらないんですね」

 妖も人も神も紙一重に過ぎない。彼らにも感情が存在するのだから。

 だからこそ、僕は諦めるという選択肢を捨てた。

僕は力を心臓に集約し、人形を掲げる。

 その動作中にいくつか身体に弾が命中したが、なんともない。理由はわからないが、本気で彼女の本気に答えられる。

「いけえええええ」

 掲げた人形からは特大の光線が放たれた。そんな本気を彼女は鼻で笑い、赤子の手をひねるように軽々と避けた。

「なにかと思えば、同じ」

 僕は光線の中に弾を隠していた。それに彼女は被弾し、僕の本命でもある。光線は見た目だけで、威力があるのは無数の小さな弾だ。

 九割近くが黒く染まった。

有効打だったことは目に見えて明らかだ。

「また成長したら相手してあげる。楽しかったわ」

 花子は楽しそうに笑った。それは作った表情でないことは彼女と戦ったから理解できた。

 その言葉と同時に僕は無数の弾に被弾して、身体と意識が消えていく。

 初めての妖との戦いは大敗という結果に終わった。だから、口が無くなる前に叫んだ。

「こちらこそ楽しかった」



「こっち。終わった。期待の卵。貰いたい」

 大きな胸にトーテホは封印されていた。

八尺はトーテホを気に入っているのか、頭を撫でている。

そしてトーテホは後頭部を向けているので、表情は見えない。

「全く、撫でてるのは良いけど胸には埋めないで。じゃあマイクだけ切るわね、ここからは映像だけをお楽しみください。アンタと戦うよりは数千倍楽しめたし、映えたわ。まぁ手のひらで踊らされていたのは気に喰わないけど」

 誰かが取れるようにユグルが封印されている写真を掲げた。

「あっ」

「最初から読まれてたよ……しかも絵にならない」

「交換です、悪くはないでしょう」

風が吹くとトーテホもユグルも回収された。そして八尺の胸にトーテホの代わりに納まっていたのはヤクだった。

花子の手にはユグルの代わりにはビデオカメラが納まっていた。

 鼻声のヤクを八尺は撫でて励ましていた。

 そしてイナは心底つまらなそうに、ため息をついた。わざとではなく、心情が零れ落ちたものだ。

イナの表情は険しく外敵を見る目になっていた。不快なものを見る目でもあり、興味のないものに対する目であった。

「来てもいいが、俺について探らないでくれるか」

「それがアンタとの遊びだもの。まあ、認めるだけ認めて理解しない臆病な神様だから仕方ないわね」

 それはイナの逆鱗に触れるものであった。

イナが目を瞑ると花子と八尺は同時に崩れ落ちた。

「八尺ちゃん⁉大丈夫」

「令奈」

「わかりました。神社に送っておきます」

「アンタが笑え─」

 花子が何かを言い残そうとしたが、声は途切れてしまった。令奈が手を叩くのと同時に三妖は姿や影すら残さず消え去った。イナと三妖の戦いはこれで終わり。

 イナの顔は無理矢理に勉強をさせられている子供になっていた。

「では、二人を元に戻しましょう」

「ああ、そうだな。じゃあ飯食って明日にでも」

 令奈に話しかけられるとイナはいつも通りの表情へ戻った。

冗談交じりの楽しそうな笑顔だ。

「今しますよ、イナも手を貸して下さい」

 イナと令奈もその場から姿を消した。


 

 武器を持った人間が泡を吹いて倒れている。

彼らの死因は病を喉に詰まらせての窒息だ。

 その中で這いずり逃げようと必死な男性がいた。

その顔は恐怖が顔から飛び出したようだ。狩る者が狩られる立場になってしまった。

「こんな話聞いてないぞ。イナを嫌がらせできて報酬が美味しいから協力してやったのに」

 彼は決して弱いわけではない。それこそこの業界では、知名度がある。だが、イナやイナの弟分に仕事をほとんど奪われてしまった。その理由は『有名になってから他人に仕事を流していたから』だ。

 彼のように仕事を奪われた人々が結束した。

結果はこの通り彼を除いて全滅という、あまりにもあっけないものだ。

 そんな情けない彼に立ちふさがる異形。

それは海に溶け込むような青い肌をした女性の姿をしたものだった。

 それこそ彼らを潰した張本人だ。

彼女には彼らを生かすという選択肢を持ち合わせていない。

「たすけてくれ。なにが望みだ。金ならいくらでもやる。お前に従う、なんでもする」

 彼は命だけは助けてもらうべく、目の前にいる異形にひたすら助けを求める。

「アナタは厄。わたしは厄を祓うもの。そういうことだから諦めて」

 どうしても助からない事が確定した。

それを認知した男は口と鼻や目から汁を勢い良く噴出した。

 彼は数秒もしないうちに、動かぬ物になってしまった。

異形は興味無さそうにその場を去った。


 過去の私が驚くほどに私は変わってしまった。好きなものを見つけ、それに心を動かされたからだ。

 決め手となったのは、ユグルと妖の戦闘だ。

あんな美しい光景がこの世にあるとは想像していなかった。

一つの絶景と変わらない存在であり、金持ちの私ですら知らなかった秘境だ。

それに私が夢中になるのは当然の事で、令奈にしかられながらも彼らの特訓を窓から観察していた。

だからこそ、今更だが過去の自分の汚さに気が付いた。

目の前の光景が美しければ美しいほど、自分の闇というものが露になる。過去が心臓と脳を掴んで離さない。

「謝るにしても今更だと思わない?盗み聞きしているんでしょ」

「様子を見ていただけです。決して今更ではありませんよ」

 一番近くの教室から令奈の声が聞こえたと感じた時には隣にいた。

最初はこれに大きく驚いていたが、何度もやられれば嫌でも慣れてしまう。

「じゃあ、私はどうやって償えばいいの」

「残念ながら私もその答えを探して彷徨っている者です。そういえば貴方にはお話をしていませんでしたね」

 彼女が私と同じ人だった。予想を上回る答えに驚いていた。何をして償いを探して彷徨っているのだろうか。

 私の顔をみて令奈は静かに自分の過去を話し始めた。




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