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神と妖と人間の心は神一重  作者: 鉄井咲太
1/23

再会(1/2)

 いつもの悪夢だ。

 僕はイジメられる彼女を決して助けることができない。

手や足が動かないからだ。まるで関節を溶接されてしまったかのように。

 彼女は心身ともに壊れてしまった。

 何故、彼女が壊れなければなかったのか。

 答えを出す前に、彼女は火に飛び込み自殺してしまった。

 死に際の彼女の言葉を鮮明に覚えている。

「ごめんね。でも、きっとまた会えるから」

 優しい口調で彼女はそう言った。

 『謝るのは間違っている』と伝えたい、死なないでほしい。

 だが、僕には何もできない。

 その様子をただ見守ることしかできなかったのだ。

 僕は大泣きをした。無力で非力なのだと痛感した。

「なあ、少年。ちょっと登校中に神社に寄っていけ」

 これは初めてだ。聞いたこともない女性の声が背後から聞こえた。

 後ろを振り向く前に夢が崩れた。

 


 目覚めれば、薄暗い部屋に怪しい宗教のビラが撒かれている。

中指が切られて虹がかかり、ど真ん中に笑顔マークがある

それ以外は普通で、整理整頓された部屋。

「こんな怪しい宗教のビラ貰ってこないで欲しいなぁ」

 母さんは良く長期出張で家を空けている。

 たまに僕も連れて行ってもらえるが、少し変わったところばかりだ。

 そしてフィギュアの並ぶ棚は真ん中だけがなくなっており、母さんが出張で持って行っているのだろう。

 台座だけが残っている。これも持っていけばいいのに。

「前に何のフィギュアか、答えてくれなかったんだよね」

 制服に着替えながら、独り言をぶつぶつと言う。

 制服はだいぶ汚い。洗ってはいるが、汚されてしまう。 

 僕は食パンを口に詰め込み、水を飲んで家を出た。



 神社に寄ろうと考えたが、学勉の神様ではない豊作の神様だ。

 僕は農業をしているわけでもないので、寄らないで登校した。

 勉学なら寄ったかもしれない。

「はいどーん。汚いから洗ってやったんだぜ。感謝してお金をくれてもいいんだぜ」

「綺麗になって良かったわね。少しはマシな姿になったんじゃない」

 窓に寄りかかっているのは、逸辺細目というこの学校のボスだ。

 アニメや小説にいるような金髪でスタイルの良い女性だ。

 あまり触れたくないから、超簡易に説明する。

 水をかけてきたのは、その取り巻き十兵形五という男だ。

 中途半端に染めた金髪にだらしのない制服の着方をしているチャラ付いた男性だ。

 周りの人はこちらを見て見ぬふりをしている。

「……」

「なんもリアクションないとつまらないんだけど」

 相手にするだけ無駄だ。反応すれば油を注ぐことになる。

 俺はそのままゆっくりと歩き、自分への席へと向かう。

 ぽたぽたと水滴が落ちていく。

相変わらず飽きないんだ。

 罵倒の文字で机が傷が付けられて、花瓶が置かれている典型的なパターンだ。

 勉強できる状況ではない。

「今日も空を見るだけ」

 僕は椅子を確認してから、花瓶を床に置き着席する。

 たまに画鋲が置かれていることがあるからだ。

 この空間自体が僕の敵であり罠だ。油断も隙も作れない。

「どうだぁ。俺たちのプレゼントはよぉ。答えたらどうだ、人形みてぇで気持ち悪いんだよ」

 十兵から右ストレートを顔面に食らう。

僕はそれにも動じず、リアクションを取らない。

 チャイム音が部屋に鳴り響き、教師が同時に入ってくる。

「おい、席に着け。授業を始めるぞ」

 長い長い空虚な時間が流れていく。



 僕は木の下にいた。

昼休みもイジメられては身体がもたないからだ。

 正直、アイツらの質の悪い嫌がらせで勉強ができない。

授業は暇な時間となり無駄なので、学校に来る価値がない。

 教科書やノートを持ってきても燃やされたり水浸しにされることが目に見えている。

 来なくてもいいのだが母が心配をかけたくないのと、それともう一つ理由がある。

「買ってきたよ~。大丈夫?怪我してない」

「大丈夫だよ。ありがとう」

 向こうから少女が焼きそばパンを両手に持ちこちらにやって来る。

 黒の短髪で眼鏡をかけた少女だ。名前は前田二枝子という。

 僕が虐められている理由は彼女を逸辺から守ったからである。

正義心というより真逆のようなイジメに対する憎悪で助けた。

だから、僕がいなくなれば彼女達は再び彼女をターゲットにするだろう。

「毎日毎日お使いさせて悪いね。これで」

 僕は彼女に百円玉を三つ手渡す。

彼女は受け取ると、スカートを抑えて僕の隣に腰を下ろした。

「お金いらないって言ってるのに。で、カメラは回収できた?」

「回収しようと思ったんだけど、嫌な予感がしたからやめた。そしたら教室についた瞬間バケツで水をかけられたよ」

 心配をかけたくないので『大丈夫』とだけ言っておく。

他にも色々されていたが、黙っておこう。

 焼きそばパンを栄養補給として開けて口に入れる。

「全ては糸のように」

「また怪しい宗教の迷言。最終的にお金取られるから、やめた方がいいと思うけど」

 彼女の呟きに今日は何故か反応してしまった。

 ツッコミを入れられて、彼女は『待ってました』と言わんばかりに答えてくれた。

 もしかしたら、これを狙っていたのか。

「私もそう思ってたし、警戒してたよ。でも、面と向かって、相談に乗ってくれて、盗聴器や隠しカメラを貸してくれたの」

「ふぅ~ん勧誘活動?」

「勧誘はしないよ。しないで、って言われてるから」

 珍しい。『勧誘をしろ』って命令する事で孤立させるのが、普通の宗教の手なのだが。

 どうやら、彼女の話を聞く限り悪い宗教ではないようだ。

「僕には勧誘が来ないのかな。少しだけ気になったよ、絶対に入信しないけど」

 彼女は小さく笑う。その様子を見て、硬い表情を柔らかくした。

「で、前に話した消えたアニメの話だけど」

 彼女の話を聞いている内に昼休みが終わった。

 教室に戻ると、僕の机には沢山の本が積まれていた。

 


 気が付けば、夜道を歩いている。

あの後は蹴られ殴られ、足を引っかけられながらも本を全て図書室に返した。

 前田さんが手伝おうと待機していたが、彼らの隙を見て『カメラを回収しといて』とだけ言った。僕の気持ちが伝わったようで、先に帰っていた。

 一旦家に帰り、傷を隠すためにキャップを被ってきた。

傷だらけの学生なんて警察に見つかれば、母親に迷惑をかけてしまう。

 夜道を歩いているのは気分を紛らわす為であり、何より晩飯を食べるためである。

 料理は作れるが、重労働をしたから料理を作れる気力がない。

お金に関しては母が置いてくれるので困らない。

「今日もメイクックで腹を満たすか」

「畜生おおお。出逢いの日だから運気が上がると思っていたのに。全部負けた、パチンコも競馬も何もかも!」

 神社の階段に座る不審者がいた。

 それは、成人女性でグラサンをかけている。

大量の馬券と煙草のカスが地面に散らばっていた。

格好も白衣のようなものを身に付けているだけだ。現代の服ではないのは良く分かる。

 明らかに関わったらいけない人間だ。

触らぬ神に祟りなしともいうし、無視しよう。

「おう、そこの少年。最近、学校で奇妙な事件が起きてること知ってるか。お祓いしてやるから、一万ぐらいくれないか」

 学生にたかるのか……しかも一万円と。

「ここは豊穣の神様の神社です。厄払いじゃないんですよ。あなたの嘘には騙されませんし、信じられません」

「えー。御利益あるのに、信じない悪い子にはお仕置きだ」

 いつの間にか彼女の手には、宝石のように光り輝く弾を握っていた。

 そして、それを僕に対して勢い良く投げつけた。

 条件反射で目を瞑るが、何かが当たった感触はない。

 投げたふりだ。こちらをおちょくっている。

「見えているのか。さてと、引き留めて悪かったな。これは少しの気持ちだ。帰って直ぐにゴミ箱に入れないでくれよ、生ゴミで捨てられる物じゃないからな」

 彼女は僕の掌にそれを乗せた。

 それは弾の中に風の渦が発生していた。その渦に薄っすらと顔があるように見える。

とても魅力的で見惚れたが、すぐに正気に戻る。

「なんで、え?もういない」

 気が付けば、女性は消えていた。風すら違和感を与えないように姿を消していた。

 目を離したのは、ほんの数秒だ。そんな少ない時間で隠れられるわけがない。

 階段と道路しかないのだから。

「どうしたらいいんだろう、これ。また明日来てみよう」

 僕はその輝く弾をポケットにしまった。

 


 メイクックで食事をした後、僕は歩いて家に向かっていた。

「どこでござるか……」

 青ざめた顔で、パチンコ屋の入口に腰を下ろしている黒人の青年がいた。

 だが、日本語はペラペラで一昔のオタクのような格好をしている。

 アニメのTシャツにバンダナ、大きいリュックを背負ってる。

 勘というべきか、すぐに彼に話しかけられるだろうと思った。

 その刹那、目が合ってしまう。

「そこの少年。とある女性を探索していて、知っていたら教えてほしいでござる」

 気が付けば、彼は僕の目と鼻の先にいた。

 僕は一歩下がる。あまりにも距離が近いからだ。

「失敬失敬。探している女性の気配が貴殿からしたでござる。貴殿が女性じゃなくて良かった良かったでござる。この見た目故話しかけると皆通報してくるの」

「そう思うなら、少しは変えた方がいいんじゃないですか?」

 考えるよりも先に、口がそう動く。

「拙者のコンプレックス故、それはできないでござる。取り敢えず、サングラスをした長髪の女性――」

「それなら負け馬券を広げて、神社の前で話しかけられましたねええええええ」

 手を握られ大きな上下運動の握手をされる。

 突然やられたので、思わず語尾が伸びてしまう。

「感謝するでござる。では、注意を払って帰宅するである」

 早口で言も噛まずに言った。 

 走る速度も自転車と同じぐらいだ。とても速い。

 何というか。

「変わったやつに会う……」

 人間離れしてる奴とでもいうべきか。



 翌日の学校。

いつも通り僕は廊下で虐められていた。

 上半身裸にされ、腹には沢山の痣が出来ていた。

 目の前には細目を含めたイジメグループが嘲笑っている。

「サンドバッグを殴るよりもやっぱり人間だな」

「ごほっぉ」 

勢い良く腹のど真ん中に、十兵の右ストレートが入り込む。

その痛みに僕は立ち眩みを起こす。

 彼は倒れることも許さず、髪を持ち無理矢理立たせてくる。

「十兵、顔はやめなさい。顔は残るし近隣住民に通報されるかもしれないから」

「そんなことをしなくても、こいつは大丈夫でしょ」

「十兵」

 細目は十兵を睨めつけて釘を刺した。

 十兵は、やれやれと肩から力を抜く。

「まぁまぁ分かってますよっと」

 髪を掴んだまま、壁に投げつけた。

 激痛でその場に、うずくまってしまう。

その間にも彼らは止まらず、殴り蹴りで追い打ちをしてくる。

あまりにも痛いが泣くほどではない。

「ほらほら、昼ご飯の時間ですよ」

 牛乳を体の至る所にかけられる。

 他の生徒を見ても、彼等は目を逸らし助けの手を差し伸べない。

 その状況に思わず、唇を嚙み締める。

「誰を見てるんだよ。ははは、誰も助けてくれないんだよ。俺たちがルールだからな」

 十兵は僕の腹に、つま先で蹴りを入れる。

 激痛のせいで咳が止まらない。咳のし過ぎで胃の中身まで出てしまいそうだ。

 いたいくるしい。

「お前らも俺らの遊びを止めたら、こうなるから見とけよ」

 僕がいなくなれば、ターゲットが自分になるかもしれないのに……。

 見て見ぬふりを通し、彼らは今さえ良ければ良いのだろう。

 酷い世界だ。弱い者を守って戦っているのは、被害に会っている当事者だけなのだ。

「本当にお前はイジメていて楽しいよ。壊れないし、ずーと睨めつけてくるからな」

 十兵達の蹴りが全身を襲う。

 痛くて苦しいが、まだ耐えれる。彼女に比べれば屁の河童だ。

「はははは。本当に底辺の人間見てると面白くて、笑いが止まらないわね」

 細目は見下して、くすくすと嘲笑っている。

 流石に腹が立ったので、頭から垂れる牛乳を口に含み唾と合わせて飛ばした。

「この下級国民が!」

 彼女は容赦なく、僕の顔に蹴りを入れ込んだ。

 逆鱗に触れたらしく、何度も何度も蹴ってくる。

 自分が注意していることも、頭から抜け落ちているようだ。

「細目、顔はやめろ。お前も言ってただろ」

 男たちが彼女を制止させることで、彼女はようやく止まった。 

 僕は気力を振り絞り、ゆっくりと立ち上がる。

「顔を蹴った。自分の感情も抑えられないのか。親に守ってもらってるから、まだお前は幼稚園児だよ」

 勢いまかせで煽った、不敵な笑みとセットで。

 反撃すると十兵達の取り巻きは考えてなかったようで、唖然としていた。

 だが、その釣り針に細目は食らいついた。

「ゴミの分際で!」

 彼女は取り巻きを押しのけ、胸ぐらを掴んでくる。

「ゴミの作戦に、はまってる。もうイジメの証拠は二枝子が、撮影してくれてるんだ。そろそろ、インターネットに上がる時間のはず」

 細目は今まで見せたことがない顔で、目を見開いていた。

 豆鉄砲をくらったような顔をしている。

『ゴミゴミゴミ』を連呼して、何度もNGだった顔を理性という枷を殴りつけてくる。

 あと数分で動画は上がる。もう終わるんだ。

 だが終わったのは……細目の取り巻きの命だった。

 社会的にではなく、物理的にだ。

「がっほ。おうっえ」

 いきなり十兵達が倒れ始めたのだ。

彼らは苦しそうに首を抑えている。大量の唾液を床にまき散らしながら、床にのたうち回っている。

「なによこれ。あんた毒物」

「周りをよく見て。僕とお前以外倒れている」

 周りにいた関係の無い生徒まで、彼らと同じように倒れ込んでいる。

 毒物なら、なんで僕たちが効かないんだ。そう考えるよりも先に、死体は次の行動に移っていた。

 十兵は白眼で立ち上がり、それはゾンビのようだった。

「なにこれ……」

 それは十兵だけではない、全ての人間が同じように起き上がっている。

 あまりにも不自然な立ち上がり方。普通の人間ではないのだろう。

 僕は真っ先に二枝子が心配になり、細目の手を握り走り出していた。

 目と脳には二枝子の安否だけしか存在してなく、僕に向けた細目の言葉は耳から耳へと流れていった。

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