声
・・・カ・レッ・・・・・・・スカーレット・・・
だれ?
・・・・・・スカーレット!!
ハッ
朝、誰かに呼ばれたような気がして目が覚めた。
夢・・・?
まだ瞼が重くなかなか意識がハッキリとしてこない。
なんとか目を覚まそうとベッドに寝転んだままサイドテーブルにあるスマホに手を伸ばす。
「やばっ!」
待ち受け画面に表示された時間を確認すると、予定していた起床時間をだいぶ過ぎていた。
スマホを手に持ち飛び起きる。階段を急いで降りると、ダイニングの方からお母さんの声が聞こえた。
「ご飯できてるからはやく食べちゃってー。」
「先に顔洗ってくる!」
廊下からお母さんに返事をして、洗面所へ駆け出した。冷たい水のまま手早く顔を洗い流し、近くにあるタオルで拭き取りながら正面を向く。洗面台の鏡には中学生になった私が映っている・・・・・・・はず、なんだけど???
何かが違う。鏡の中にいるのは確かに私。でも・・・
毎日見ているはずの自分の顔に違和感を覚えた。
えっ、・・あれ??何が違うの?
私は鏡に手をついて顔をグッと近づけた。鏡までの距離が10センチくらいの所でようやく違和感の正体に気づく。
あっ、瞳だ。
私はもともと髪や瞳、肌の色素が薄い方である。瞳は少し赤みがかった焦茶色・・・なんだけど、今目の前にいる鏡の中の私はキラキラと紅い瞳をしている。
なんで!?
「真珠紅ー!朝ごはーん!!」
その時、お母さんの急かす声が響き、ダイニングの方へ顔をむけて「ちょっと待って」と返事をした。
今は朝ご飯どころじゃないよ!目の病気とかだったらどうしよう!!
もう一度自分の瞳を確認する為、鏡に視線を戻す。
あれれ???
そこには、いつも通り色素の薄い焦茶色の瞳が映っていた。
光の加減で紅く見えたのかな?・・・???
まださっき感じた違和感が気になり、まじまじと鏡を見つめてしまう。
「しーずーくー!」
そこでお母さんの少し怒ったような声がして時間がないことを思い出す。
やばい、やばい!早く支度しないと!
まだ瞳のことは気になるけれど、痛くも痒くもないし今は学校へ行く準備に専念することにした。
「いってきまーす!」
支度が終わり玄関を出ると、正面にあーくんとはるちゃんが待っていてくれた。
「真珠紅、おはよう。」
「おはよ。ちゃんと起きられた?今までより朝出るの早くなったから慣れるまで大変だろ?」
「おはよう、2人とも。今日からまた一緒に登校できるんだね!」
嬉しさが込み上げて顔がニヤけてしまう。
あーくんが担任の先生やクラスはどうだとか、何か困ったことはないかとか色々と聞いてくれる。
相変わらず心配性だなぁ。
そう思うけれど、私のことを気にしてくれているのはやっぱり嬉しい。
そうこうしているうちに、あっという間に学校に着いてしまった。3人で黒のロートアイアンの門をくぐり少し歩いた所で正面に大きな噴水が見えた。
学校の敷地内に噴水なんて・・さすが私立。
私が学園設備に関心していると、噴水の前に立っている人から視線を感じた。
・・な、何だろう?すごく見られてる気がする。
視線の主は黒髪、黒目でとても綺麗な顔をしている。
細身でスラっと身長も高く姿勢がとても良い。
いわゆるイケメン様だ。
私にあんなイケメンな知り合いはいないはず!・・・あーくんとはるちゃん以外は!!
・・・友達もいないしね・・・・・まだ・・・
「玖遠!」
その時、私の後ろを歩いていたあーくんがその人に向かって呼びかけた。私を追い越してその人の方へ行くと、親しげに話しはじめた。
私のことをじっと見ていたと思った視線はあーくんに向いてたんだね。自意識過剰でした。反省。
あーくんのお友達かな。すごく仲良しな感じがする。
「おはよう、玖遠。噴水の前で何してるんだ?」
「べつに・・何もしてない。後ろからお前の声が聞こえたから振り向いただけだ。」
「そうか。玖遠、紹介するよ。幼馴染の真珠紅。昨日この学園に入学したんだ。」
あーくん!!急に私のことを紹介しないでっ!!
こ、こ、心の準備がっ!!!
人見知りをこじらせたぼっちにはハードルが高いよ!
「真珠紅、おいで。」
あーくんの優しい微笑みと手招きで近くに寄る。横にははるちゃんがついててくれている。
「玖遠先輩、おはようございます。」
「あぁ、おはよう。」
はるちゃんはもう知り合いなんだね。
「真珠紅、こっちは神宮寺玖遠。この学園の生徒会副会長だ。」
副会長なんだ。たしかあーくんが生徒会長だから2人は仲が良いのかな。あっ、まずは挨拶しなくては!!
「あ、あの、はじめまして。中等部1年A組の如月真珠紅です。よ、よろしくお願いします。」
「・・・あぁ、よろしく。」
・・・ん?なんか神宮寺先輩の眉間に皺が寄っているような気がする。私の挨拶おかしかった!?何か間違ってたかな!?
普通に挨拶したつもりなのだが、なぜだか先輩は難しい顔をしている。何か言いたそうな、切ない感じの表情だ。
「真珠紅、こいつはいつも無表情だから怒っている訳じゃないよ。」
あーくんの言葉に少しホッとした。よかった、挨拶はちゃんとできてたんだね。
「じゃあ、俺たちはそろそろ中等部の校舎に向かうよ。」
そう言ってはるちゃんが中等部の方を指差す。校舎は噴水を正面に見て左右に2棟シンメトリーに並んでいる。右が中等部で左が高等部だ。
並んでいるといっても、敷地も広ければ校舎も大きい。それなりに距離はある。
また、その他に専門棟や部活棟、寮などもあるため慣れるまでは迷子になりそう。
「真珠紅、行くよ。」
名前を呼ばれてはるちゃんの方を向くと、手を差し出されていた。
いやいやいや、流石に校内で手を繋ぐのはダメだよね!小さい頃はよく手を繋いで歩いてたけど、私ももう中学生だし!いくら幼馴染でもダメだよね!
「真珠紅?」
はるちゃんが手を伸ばしたまま首を傾げる。その仕草がちょっと可愛くても流されちゃダメだ。ちゃんと断らないと!
「は、はるちゃん・・私もう手を繋がなくても1人で歩けるよ?」
・・・・・・・・・・・はるちゃんがフリーズしちゃった。
後ろからはあーくんと先輩の視線を感じるし。
「真珠紅、遅刻しちゃうから遥はほっといて早く教室行きな。」
「う、うん。・・じゃあ、行くね。」
はるちゃんには申し訳ないけど、初日から遅刻はしたくない。私は急いで教室に向かうべく歩き出した。
・・・ポチャッ・・・・
うん?なんか水が跳ねる音が聞こえたような・・噴水かな?
気にはなりつつも、もう頭の中は教室に入った後のイメトレでいっぱいだった。友達を作る為に、まずは笑顔で挨拶!次に今日の授業の予定とか話して会話を繋ぐ。慣れてきた所で連絡先交換!よしっ!!頑張るゾ!
・・・・ス・・・・ト・・・スカーレ・ト・・・・・・・
・・・・・・スカーレット・・・
始業時間を知らせるチャイムが鳴り始める。中央の噴水はサラサラと水飛沫をあげ弧を描く。心地よい水の音に混じって、その時を知らせる声が響いていた。




