入学式
4月
今日は私の入学式です。
空は雲一つない快晴だし、桜の花びらがヒラヒラと落ちてきて綺麗だし、制服はかわいいし!!
なにより、今日からまたはるちゃんと一緒の学校に通えるんだ!嬉しい!
5年生から受験勉強頑張ってよかった!
辛かったけど、苦しかったけど、はるちゃんがいない学校生活に比べたら全然マシだよ。
私は立ち止まって目の前の大きな門を見上げる。
左右対称にレンガ調の柱がそびえ立ち、真ん中には黒のロートアイアン。
大きく開かれた門を新入生と思われる人達が次々と通っていく。
ここ、天ヶ崎学園は私立の中高一貫校だ。
高等部3年にあーくん、中等部3年にはるちゃんが通っている。
そして、今日から私も天ヶ崎学園中等部の1年生になるのだ。
この学園はいわゆる進学校というやつで、受験倍率はとてつもなく高い。受かるかどうかすごく心配だったけど、あーくんとはるちゃんと一緒に通うため必死に勉強した。
私は幼稚園入園くらいに元宮綾人・遥兄弟のお隣に引っ越してきた。
引越し初日から2人は私とたくさん遊んでくれた。
人見知りが激しくて、幼稚園でなかなか友達ができない時、はるちゃんが話しかけてくれてすごく救われたし、お家に帰ったらあーくんが色々教えてくれた。
2人がいるととても心が落ち着く。
ちょっと・・・いや、かなり・・依存気味な自覚はあります。
この学園を受験しようって決めたのも2人がいるから。
私は2人がいないと不安になるし、何もできない。
だから5年生からの2年間、はるちゃんが中学生になって同じ学校にいないのがすごく寂しかった。
でも!今日からは!また2人と一緒にいられる!!
あーくんは高等部だからなかなか会えないかもしれないけど、はるちゃんは同じ校舎だし顔くらいは見れるよね。
それだけで私の精神安定剤になる。
入学式
次は在校生の挨拶だ。
「在校生祝辞。在校生代表、元宮遥。」
静まり返った体育館に教頭先生のアナウンスが響く。
名前を呼ばれたはるちゃんが返事をして壇上にあがるのが見えた。
あー、はるちゃんだ!さっそく顔が見れてうれしい。
はるちゃんがマイクの前に立つと、周りからザワザワと話す声が聞こえた。
「あの先輩、すごくかっこいいね!」
「元宮先輩だって!ほんとかっこいい。部活とか入ってるのかな〜。」
おぉ、はるちゃんがモテている。
確かにはるちゃんはかっこいい。あーくんもかっこいい。
昔からバレンタインの時はチョコをいっぱい貰っていたし、下駄箱や家のポストにもよく手紙が入っていたのを知ってる。
さすが、はるちゃんはすごいなぁ。こんなに大勢の前に立っても緊張しないのかな。
そんなことを考えていると、在校生代表の挨拶が終わったようだ。はるちゃんが、マイクのスイッチを切ってお辞儀をした。
顔を上げた瞬間、こっちを見てニコッと笑った・・・気がした。
まさかね、この中から私を見つけられるはずないよね。
私立のマンモス校だけあって、新入生だけでもかなりの人数だ。その中からたった1人を見つけるのは相当難しい筈である。
私が発光でもしてない限り、見つけられるわけない。身長だって小さめで、周りの子たちに埋もれてるもん。
でも、やっぱり学校でもはるちゃんに会えるのっていいな。
家に帰れば会えるんだけど、あーくんもはるちゃんも天ヶ崎に入学してから忙しいみたいで会う時間は前より減った。
しょうがない事だとは思うけど、やっぱり寂しい。
何故だか2人がいないと落ち着かない。
やっぱり依存してるんだよね・・・。
小さい頃から困った事があると2人に相談していた。その度に2人とも真剣に考えてくれて助けてくれた。
甘え過ぎだとは分かっていても毎回頼ってしまう。
2人とも優しいんだよなぁ。
2人を追いかけて同じ学校に入学したけれど、これからは少しずつ自分一人でできるようにしていこう!
まずは友達をつくって、人見知りをなおさなくちゃ!
そんなことを考えているうちに入学式は終わっていた。
中等部1年A組
ここは私のクラスだ。
今は自分の席に座っているのだけど、とても緊張しています。
もうすぐ担任の先生がきてホームルームをやると思われます。それまでの5分くらいのこの間がツラい!!
周りの子たちは近くの人に話しかけて自己紹介的な事をしているけど、私は自分から話しかけられません!
かといって、話しかけてくれたとしても上手に受け答えできるか分からない。
助けて!あーくん、はるちゃん!!
さっき2人に頼らないって決めたのに、もう挫折しそう。
えーっと、はじめて話しかける時ってどんな事を言うんだっけ。良いお天気ですね?趣味は何ですか?おいくつですか?
・・・どれも違う気がする!
そんな事をグルグル考えていると、教室の前の方のドアが開いて先生が入ってきた。男の先生だ。
先生が簡単に自己紹介をした後、今後の予定を話してホームルームは終了となった。
放課後
結局誰とも話せないまま帰る時間になっちゃったよ。
まだ誰か話しかけてくれないかと期待を捨てきれないまま、出来るだけゆっくりと帰りの支度をはじめる。
とうとう鞄に詰めるものがなくなってしまったので、仕方なく廊下に出ようと立ち上がった。
「えっ、うそ!」
クラスの女子生徒の声を皮切りに教室内がザワザワと騒ぎ始めた。
何だろう?
みんなが廊下の方へ視線を向けているので、私もつられて同じ方へ向く。
「ごめんね、ちょっと通してね。・・・あっ、いたいた!真珠紅!」
「は、はるちゃん!」
自分の名前を呼ぶ人を確認すると、はるちゃんが笑顔でヒラヒラと手を振っていた。急いで彼の近くに向かう。
「は、はるちゃん、どうしたの?」
「迎えにきた。一緒に帰ろう。」
「わざわざ教室まで来てくれたの?門で待ち合わせとかでもよかったのに・・」
「こっちまで来た方がはやく真珠紅に会えるだろ。」
そう言ってポンと頭を撫でられる。
その瞬間、後ろの方で女の子たちの悲鳴に似た騒めきがおこった。
こ、これはヤバいかも・・・
脳裏に小学校の時の記憶がよみがえる。
小学校のときもはるちゃんの人気はすごかった。顔が良いのはもちろん、頭もよくて、スポーツもできる。しかも!私と違って人当たりも良く誰にでも優しい。正に完璧!
幼馴染の私はよくはるちゃんと下校してたんだけど、学年が上がるにつれて女の子たちの視線が痛かった・・・。
実害はそんなになかったよ。たまに呪いの手紙が下駄箱に入ってたくらいで。
いつもぼっちだったけどね。
家に帰ったらあーくんとはるちゃんが遊んでくれてたし、それで良いかなって思ってたんだよね。2人に甘えてた。
自分から友達をつくろうとしなかったんだ。
あーくんもはるちゃんも高校生・中学生になって忙しくなってしまい、なかなか遊べなくなった。
学校で話せる人がいないし、下校も1人。
私は家でひたすら勉強した。あーくんとはるちゃんと同じ学校に入学するために。また同じ学校に通えれば1人じゃなくなる。寂しくなくなると思った。
合格発表の日
この日は両親が仕事だったので一人で学校へ向かう。
受験番号を握りしめて掲示板を見上げると、自分の番号を見つけた。
嬉しくて、すぐに誰かに伝えたくて、周りを見渡した。
そこで気づいた。私、1人じゃんって。
周りには合格を喜ぶ人、泣いている人、色々な人がいる。だけどみんなひとりじゃない。友達や家族と気持ちを共有している。
私だけがひとり。
それはたぶん自分のせいだ。逃げてたから。友達をつくろうとしなかった。家族やあーくん、はるちゃんに甘えてた。
私、このままじゃダメかもしれない・・。
あーくんに甘えてるだけじゃ・・・
はるちゃんに守られてるだけじゃ・・・
変わらなきゃダメだ!
そう思ったんだけど・・・・・
人ってなかなか変われないんだね。
はるちゃんの顔を見るとホッとしてしまう。
とりあえず今日は帰って明日また友達をつくろう・・
・・・はぁ、こんな自分が嫌いだ。
鞄をぎゅっと握りしめ、はるちゃんに帰ろうと声をかけた。
校門前に着くと、よく知った顔が目に入った。あーくんだ。
塀に寄りかかって立っている。
女子生徒たちがチラチラと彼を見ながら前を通り過ぎているけれど、あーくんは全然気にしていないみたい。
あーくんもはるちゃんに負けないくらいモテるんだよね。
ハイスペック兄弟だ。
中等部と高等部は同じ敷地内にある。講堂や食堂、運動場などの学校設備は基本的に中高共有である。行事なども6学年一緒に行うことが多く、交流が盛んらしい。
敷地が広く、生徒の人数も多いからあーくんとはあんまり会えないと思ってた。初日から会えるなんてうれしいな。
「兄さん、もしかして真珠紅のこと待ってたの?」
あーくんの近くまで行くと、はるちゃんが声をかけた。
「遥も一緒だったのか。真珠紅、入学おめでとう。」
「ありがとう。あーくん、待っててくれたの?」
「あぁ、一緒に帰ろう。おいで。」
そう言って、あーくんが右手を差し出してきた。
周りの視線が気になったけれど、拒むことができずにその手を握る。
朝に1人で歩いた桜並木を今度は3人並んで歩いた。
「真珠紅、入学式はどうだった?」
「はるちゃんの挨拶がかっこよかったよ。」
1番に思い付いた感想がこれだった。その他に大きな出来事もなかったから。
「あと、さっき門の所であーくんを見つけた時嬉しかった。待っててくれてありがとう。」
友達はまだできてないけど、なかなか自分を変えられないけれど、やっぱりこの学校に入学できてよかったと思う。
今日2人の顔が見れてすごく嬉しい。
2人ははにかんだような優しい笑顔を私に向けてくれる。
3人で歩くこの桜並木の風景を私は一生忘れないと思う。




