転生 〜スカーレット〜
トクン・・トクン・・トクン・・・
あたたかい
ここは・・どこだろう・・・
何も見えない。
真っ暗な闇の中にフワフワと浮かんでいる。
トクン・・トクン・・トクン・・・
あぁ、そうだ。
私は・・・スカーレット
宝石眼を持つ者。
クリスタルの唯一の継承者、スカーレット。
お父様、お母様
ほんの少しの間しか共に過ごすことが出来ず、申し訳ございません。
お父様の大きな掌を覚えています。
お母様の優しい声を覚えています。
そして、私の力も・・使命も・・・
覚えています。
遥か昔
私がスカーレットとして王国に生を受けるよりもっと昔。
『私』は『彼』と共にいました。
彼は同じものから生まれた私の対となるもの。絶対になくてはならない存在。
彼は私で、私は彼。
同じ力を持ち、同じ宿命を持つ者。
世界が混沌に包まれる中、私と彼は共に戦いました。
天を、大地を、海を守るために。世界をまとめるために戦いました。
彼とならどんな事でもできる気がしました。全てを守り、育てていきたい。全ての絶望を希望に変えていきたい。
それが私と彼の願い。
私たちはその願いだけを胸に、必死に戦いました。
天を治め、海を治め、大地を治めた頃、私たちの力は残りほんの僅かになっていました。
世界が、生きとし生けるもの全てが幸せであれば、私たちの力がなくなろうが構わなかったのです。
私たちは、最後に残った力を全て結晶化しようと決めました。そうすれば、私たちの存在が消えてしまった後でもその力の結晶が世界を、皆を守ってくれると思ったのです。幸せに導いてくれると。
最初は小さな結晶でした。2人で少しずつ少しずつ力を注ぎ込みました。
疲れたら休息をとり、また力を注ぎ。そうして数年が経った頃、最後の一雫を注いだ時には小さな結晶は大きなクリスタルに成長していました。
彼と笑顔を交わし、幸せを噛み締めました。
これで、やっと私たちの願いが叶う。
永遠の安寧、希望と幸せに満ちた世界が続くと思いました。
私たちは残りの時間を2人で静かに過ごすことにしました。
花を眺めたり、甘いお菓子を食べながら良い香りのお茶を飲んだり。
これまで出来なかった普通の事をして幸せを感じたい。
しかし、私たちの小さな願いは叶いませんでした。
クリスタルに全ての力を注ぎ込み、彼と笑顔を交わし合った瞬間、彼の後ろの方に人影が見えました。
その手にはギラリと光る刃物が・・・
私はとっさに彼の腕を引っ張り、背に庇いました。
これまでなら魔法で守りの壁を出して防げましたが、私たちにはもうそんな力は残っていないのです。
この世界の全ての幸せのために使ってしまったのだから。
胸の辺りがピリッと熱くなりました。
下を見ると、熱くなったあたりからドレスが真紅に染まっていきます。
私の背にいたはずの彼は、今は私の前に飛び出し刃物を持った人影と対峙しています。
私の体が床に横たわる頃には2人の攻防が終わり、襲ってきた方が膝をつく形になりました。
膝をついた人影と目線が近くなり、ようやく顔が見えました。
貴方だったのね。どうして・・・
見知った顔を見つめて理由を問いたいけれど、もう言葉を発する事もできません。
視線だけを動かして彼を探しました。
私の様子に気づいた彼は、焦った表情をしながら私に駆け寄ってきてくれました。
彼の瞳からはたくさんの涙が流れていました。
彼は私の上半身を優しく抱き起こし、彼の膝の上に乗せました。
次から次へと流れ出す涙は私の頬にも落ちてきました。
あたたかい・・・・彼を守れてよかった・・・
私は最後の力を振り絞り、彼の名前を呼びました。
「最後に・・1番大切な貴方を・・・守ること・・が・・できて・・・・・よかっ・・・た・・・。」
彼の頬に触れようと腕を伸ばしましたが、どうしても自分の力では届きません。
床からほんの少しだけ浮いた私の手に気づき、彼が右手で握りしめてくれました。触れたかった彼の頬に触れ、彼の涙が私の手の甲から手首に流れ落ちました。
何度も何度も私の名前を呼ぶ彼の声を聞きながら、私は重たい瞼を閉じました。
闇に包まれた瞬間、彼が何かを呟いていた気がします・・。
私は・・・スカーレット
宝石眼を持つ者。
クリスタルの唯一の継承者、スカーレット。
そして・・・
彼の対となるもの。
繰り返される魂の記憶を持つもの。
世界の全てを知っている者。
だけど、少しだけ・・・ほんの少しだけ・・
忘れていたい・・。
花を眺めたり、甘いお菓子を食べながら良い香りのお茶を飲んだり。
これまで出来なかった普通の事をして幸せを感じたい。
お父様、お母様
ほんの少しの間だけ待っていてください。
必ず私が助けに行きます。
お父様、お母様
ほんの少しの間だけ許してください。
力を全て取り戻すまで。時が来るまで。
私が忘れてしまう事を・・・許してください。
トクン・・トクン・・トクン・・・
あぁ、あたたかい・・・
また始まるのね・・『私』が・・・
トクン・・トクン・・トクン・・・
私は・・・スカーレット
宝石眼を持つ者。
クリスタルの唯一の継承者、スカーレット。
でも、次に目が覚める時は・・・・・




