遊園地3
バッシャーーーーーーン
!!!!!??
一瞬の浮遊感の後、ジェットコースターは一気に水面に落下していった。
「・・っぷ、ハハ!ビックリしたぁ~~!」
「あはは、ほんとっ!急に落ちるんだもん。すごいビックリしたよ!でも楽しかったね!」
はるちゃんと感想を言い合っている間に終着点に到着した。最初はゆっくり進む子供向けのジェットコースターなのかと思ったけれど、ちゃんと最後にお楽しみがあったんだ。物語の内容も面白かったし大満足だよ!
乗り物から降りようと隣を見ると
あーくんがずぶ濡れになって放心していた。
頭から水をかぶったようで髪の毛からはポタポタと水が滴り落ちているし、眼鏡は水圧でズレてしまったのか右に傾いている。安全バーを握りしめていた手もびちょびちょだ。
「あ、あーくん・・・・・・だいじょう・・ぶ?・・・じゃないよね。」
「・・・・・・・・・・問題ない。」
「・・・・そっか。」
とりあえず立ち上がり降車する。先に降りていたはるちゃんはあーくんを指さして笑っている。2列目に座っていたはるちゃんには被害はなかったようだ。私も少し濡れたくらいでほとんど無事だし、なにより
「ビニールシート被らなかったの?」
乗車前にアナウンスで説明があったはずだ。先頭に座っている人は濡れる可能性があるからシートを被って防ぐようにって。
「きっと兄さんは緊張してて何も聞こえてなかったんだよ。・・・フ、・・ククッ。」
はるちゃん、まだ笑ってるし・・。
「あーくん、あっちのベンチに座って拭こう。私ハンドタオル持ってきてるから。」
「あぁ。すまない。」
ベンチに座ると私からタオルを受け取り髪を拭く。私も隣に座り、別のハンカチで彼の頬を拭った。その時、私の爪先があーくんの眼鏡のフレームに触れカツっと音が鳴った。それに気がついたあーくんは眼鏡を外して先にそれを拭くことにしたようだ。その間に顔を拭いてしまおうともう一度手を伸ばす。すると
ガッ!
ワシャワシャワシャワシャ!
はるちゃんが私からハンカチを奪い取ってあーくんの頭を乱暴に拭きだした。
「ぃっ!ったた。おい!コラ遥!痛い。乱暴に拭くな!」
「アハハ。だって兄さんばっかり真珠紅に構ってもらってずるい・・・じゃなくて、兄思いの優しい弟が一生懸命拭いてあげてるんだから感謝してよね!」
しゃべりながらもはるちゃんの手は止まらない。ガッシガッシと拭かれた髪はもうぐちゃぐちゃだ。
「はいっ。拭けたよ。」
「っったく。」
はるちゃんの手が止まると、あーくんが右手で髪を掻き上げた。同時に一番上まで止めていたシャツのボタンを一つ外してはだける。
ブワァァァァァァァァッ
っと色気が大放出したように錯覚した。背景に薔薇が見えるよ。
あーくんがフゥーっと長い溜息をつきながら眼鏡をかけ直す。中指でクイッと上げたところで私を見た。
「ん?真珠紅、どうした?」
どうした?じゃないよ!なんか、いろいろとダダ漏れだから!周りにいるお姉さんたちから黄色い悲鳴が上がってるよ!気づいてないの!?あっちのお姉さんなんか心臓抑えてうずくまってるよ!救急車来ちゃうよ!!
はるちゃんも周りの状況に気がついたらしく苦笑いだ。
あーくんの服はまだ乾いていないけれど、とりあえず場所を移動することにした。
そろそろ閉園も近づき、アトラクションに乗れるのは次で最後だ。今、私は2人の手を引っ張って観覧車の前にいる。
「よかった。そんなに混んでないね。」
観覧車の列はさっきの水上ジェットコースターに比べて三分の一くらいの長さだった。これなら閉園までに間に合いそうだと3人で並ぶ。
途中で購入したホットココアを飲んでいる間にすぐに順番がまわってきた。
観覧車の中に入ると先に乗っていたはるちゃんが自分の隣の席をポンポンと叩いて私に隣に座るよう促してきた。言われるまま隣に腰を下ろすと、最後に乗ってきたあーくんが私たちとは反対の席に座る。全員が席に着いたことを確認したスタッフによって扉が閉められると、さっきまでガヤガヤとしていた音が一気にシンと姿を消す。私たちの乗っているゴンドラが1メートルくらい宙に浮いたところでこの観覧車を説明するための放送が室内に流れ始めた。その間、なぜだか誰も言葉を発せず、静かに放送に聞き入っている。
地上に戻ってくるまでおよそ18分くらいかかるんだね。結構長く楽しめるみたい。
放送が終わるとはるちゃんが私の袖をクイッと引っ張りながら呼びかけてきた。
「ねぇ、真珠紅。最後にあのチュロス食べながら帰ろうよ。」
窓の外を指さしている彼に習って外を見下ろすと、赤い屋根の小さな売店が見えた。その店の前には細長いチュロス持った人たち。
「いいねっ!みんなで違う味にしよう!ねっ!あーくんも食べるでしょ?」
「真珠紅、全部の味食べるつもりでしょ?」
!!
バレてた!
あーくんは頷いてくれたけど、はるちゃんに指摘されてしまった。2人のを一口ずつ味見させてもらおうとしてたことを。
「ひ、一口だけ・・・味見させてもらおうと思った・・だけだよ。」
口の中をもごもごとしながら言い訳してみたけれど、もちろん2人にはお見通しだ。はるちゃんはニヤニヤとしながら「そっか。」と軽く返事をし、あーくんは口元を抑えてフフっと笑っている。
「も、もちろん私の分も2人にあげるからねっ!」
更に言葉を重ねてみたけれど、あまり効果はないようだった。
そうこうしている間に私たちの乗ったゴンドラがてっぺんまで上ってきた。窓の外を見ると、さっきまでいた場所がとても小さく見えた。辺りが薄暗くなってきたことでいろいろな場所で灯りがともり、遊園地全体がキラキラと輝いて見える。
「真珠紅。」
窓の外を眺めていたら名前を呼ばれた。声のする方へと顔を向けると
「今日、遊園地を出た後・・・もう少し時間をくれないか?」
ドキッとした。
今まで一緒に笑っていたのに、いきなり難しい顔をするから。返事ができない私を今日は待ってくれない。あーくんはそのまま言葉を紡ぐ。
「話したいことが・・・、話さなければならないことがあるんだ。」
私も、2人に聞かなきゃいけないことがあるの。どうしても確かめなければならないことが。そう言いたいのに唇が震えて言葉にならない。
無意識に握りしめていた手を上からはるちゃんが包んだ。
「真珠紅、大丈夫だよ。大丈夫だから・・そんなに怖がらないで。」
コクリと頷きで2人に返事をした。
ゴンドラはもうすぐ終着点に着くところだったのでドアが開くまで誰も何も話さなかった。
「おつかれさまでした〜!足元に気をつけてお降りくださ〜い。」
キャストさんの陽気な声と共に息苦しかった空気が一気に霧散する。
観覧車を降りるとすでに閉園の音楽が流れていた。
「真珠紅!急がないとチュロス買えなくなっちゃうよ!」
そうだっ!!チュロス!
「はるちゃんっ!走ろう!!」
チュロスは絶対に買わなければっ!!絶対に3種類の味を食べるんだから!
はるちゃんに手を引かれながらチュロスのお店へ急ぐ。あーくんも後ろから追ってきてくれているようだ。
キャラメル、チョコ、ハニーナッツ。キャラメル、チョコ、ハニーナッツ。キャラメル、チョコ、ハニーナッツ。
・・・あっ、ココアもいいな。
もう頭の中はチュロスのことでいっぱいだ。お店についた途端すぐに注文した。
「キャラメルとチョコとハニーナッツください!あと、ココアも!」
「そんなに食べられるの?」
隣を見ると、はるちゃんが呆れた顔をしてこっちを見ていた。今、私の両手にはキャラメルとココアのチュロスが握られている。ギリギリセーフでなんとかゲットできた戦利品だ。
「大丈夫だよ。まだ夜ご飯食べてないし。」
「それを夕食にするつもりか?」
今度はあーくんがはるちゃんと同じ顔をした。
チュロスを買った後、私たちは遊園地を出てチュロスを食べながら歩いている。
やっぱりココア味も買っておいてよかった。すごく美味しい。
「ほら、こっちも食べるんだろう?」
あーくんがハニーナッツのチュロスを差し出してくる。もちろん食べるよという返事の代わりにパクっとチュロスをかじった。途端、はちみつの甘さとナッツの香ばしさが口いっぱいに広がり幸せな気持ちになる。
反対側からはチョコのチュロスが差し出された。同じようかぶりつきまた幸せになる。
「どっちも美味しいね。私のも食べて。」
そう言って左右にチュロスを差し出したらなんだか間抜けなポーズになってしまった。
2人もパクっと一口かじる。
「美味しいけど、甘いな。」
あーくんにキャラメル味は甘すぎたようだ。
駅に着く前にチュロスを食べ終わり、電車の中では今日のことを思い出しながら楽しくおしゃべりした。お腹も心も満たされて少し眠くなってしまったけれど、なんとか最寄駅まで持ち堪えられた。
そういえば、どこで話をするんだろう。
チュロスで一瞬忘れていたけれど、この後は大事な話をするはずだ。いつもなら私の部屋に行くけど、今回もそうかな。
「真珠紅、今日は公園で話してもいいか?」
私が考えていることが分かったかのようにあーくんに問いかけられた。
承諾すると、ありがとうという言葉と共に微笑みを向けられた。その表情がなんだか切なくて心臓がキュッとなる。
公園に着きベンチに座ると、はるちゃんが温かいミルクティーをくれた。近くの自販機で買ったものだ。まだ夜は少し冷えるからとてもありがたい。
私はすぐには飲まず、しばらくそれで手を温めることにした。
隣にはるちゃんが座り、正面にはあーくんが立っている。
あーくんはフーっと深く息を吐くと、私の前にしゃがんだ。
「真珠紅、今から話す事にとても驚くだろうけど、どうか最後までちゃんと聞いてほしい。俺が、俺たちがずっと守っていたものを。俺たちの全てを知ってもらいたいんだ。」




