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遊園地

やっと熱が下がった。

予想通りとても長引いてしまった。・・・それはもう、とても。

今日は土曜日。一週間も学校を休んでしまった。本当は昨日熱は下がっていたのだけれど、喉はまだ痛かったしだるさもあったので大事を取ってもう一日休むことにしたのだ。

その為、あーくんとはるちゃんと喧嘩をした日からまだ一度も顔を合わせていない。朝に何度か家に来たみたいだけど、その時は全部お母さんが対応してた。私は熱にうなされてたから。


メールも・・来てないな。


それはそうだ。完全に私が悪いし。一方的に騒いで酷いこと言ったんだもの。きっと2人とも怒ってる。あんなに心配させて助けて貰ってばかりのくせにって呆れてる。今日は土曜日で前から約束していた遊園地に行く日だけれど、きっとそれも中止だろう。せっかく熱が下がって元気になったのに、結局今日も家でダラダラするだけになっちゃった。自業自得だね。


1階のダイニングで朝ご飯を食べ終わり、自分の部屋に戻ってきた。壁には念のため昨日の夜に用意しておいた洋服が掛けられている。少しオーバーサイズのピンクのトレーナーに黒いキュロット。遊園地でも動きやすい洋服だ。机の上には斜めがけのポーチの中に財布やハンカチなど出かけるのに必要なものが詰まってる。もしかしたら今日あーくんとはるちゃんが迎えに来てくれるかもと用意したけど、やっぱり無駄だったね。


今は朝の9時。遊園地の開園時間だ。これまでも家族ぐるみで仲がいい元宮家とは何度か一緒に遊園地に行ったことがある。その時はいつも開園より前に到着するよう朝早くから出発していた。それなのにまだ迎えが来ないってことは・・・・そういうことだろう。


私はチラッと壁に掛かった洋服を見た。

せっかく用意したし、今日はこの服を着よう。


ハンガーに手を伸ばしピンクのトレーナーを手に持つ。まだ、ちょっとだけ期待してる。2人が迎えに来てくれることを。可能性はほぼ0に近いかもしれないけど、それでも・・・。



『土曜日の遊園地は絶対行くからちゃんと予定空けといてよね!』



はるちゃんのあの言葉を思い出す。はるちゃんは嘘つかないから。

着替えが終わり鏡の前に立つと髪に寝癖が付いていることに気がついた。ぴょんと跳ねたそれを指の腹で撫でつけなんとか抑えようとしたけれど、とても頑固な寝癖だった。仕方なくブラシを手に取り梳かした。髪を高い位置で一つにまとめポーニーテールをつくる。


うん。これなら寝癖も目立たないね。

別に誰に見せるわけでもないけれど、一応身だしなみはちゃんとしておかないと。

一応ね。


鏡の前でクルクルと回り最終確認をした。時間は9時10分。やることが無くなってしまった。とりあえずベッドに腰掛けスマホに触る。・・・メールはなし。


「行きたかったなぁ。」


遊園地に行きたかった。あーくんとはるちゃんと遊園地に行ってたくさん遊びたかった。観覧車もジェットコースターも乗りたかった。耳付きのカチューシャ着けて歩きたかったし、限定味のポップコーンも食べたかった。やりたいこといっぱいあったのに、全部私が台無しにした。お気に入りのピンクのトレーナー着たって、動きやすいようにキュロット履いたって意味ないじゃん。


キュッと唇を噛む。

自分自身が情けなくて。悔しくて視界が滲んだ。


謝ろう。2人に酷いこと言ってごめんって言おう。許してくれるかわからないけど、ちゃんと言葉にしないと。謝って、もし許してくれたら・・・今度こそちゃんと確かめよう。2人に聞きたかったことを今度はきちんと聞かないと。


ベッドから立ち上がりドアノブに手をかける。そのまま勢いよく扉を開くと・・・


「どわっ!!?」


ん?


叫び声が聞こえた。開いた扉の後ろから。恐る恐る覗いてみると、そこにはおでこを押さえて涙目になっているはるちゃんがいた。その後ろにはあーくんが驚いたように目を見開いて立っている。


「えっ!?2人ともここで何してるの!?」

「・・っっ、し、真珠紅、おはよう。」

「え・・お、おはっ、おはよ・・ぅ。」


なんで2人がここにいるの!?え?え?と、とりあえずこの間のこと謝る?え、っていうか・・もしかして、はるちゃん私が開けたドアにおでこぶつけた!?あ、謝らなきゃ!!あれ!?どれから謝ればいいの!?


意気込んでドアを開けたから絶対思いっきりぶつかったであろうはるちゃんのおでこが心配だけど、それよりも突然のことに動揺して言葉がでてこない。部屋の入り口で突っ立ったまま時間が停止した。


「とりあえず!部屋に入っていい?」


はるちゃんが気を取り直したように聞いてきた。そのおでこはほんのり赤い。

2人を部屋の中に招き入れたけど、まだ気持ちが落ち着かない。謝るって決めて部屋を出ようとしたけれど、まさかドアの前にいるとは思わなかった。驚きで言おうとしていたことが全部消えてしまった。


「真珠紅、準備はできているな。体調はどうだ?」

「え?た、体調は大丈夫だけど・・・。」

「じゃあ早く出発しよう!」

「え!?ど、どこに!?」


あーくんとはるちゃんに片手ずつ取られた。そのまま部屋の外へ引っ張ろうとするので反射的に逆に引っ張ってしまう。


「どこって、遊園地に決まってるでしょ!土曜日に行くよって約束したでしょ!」


行くの!?2人は私に怒ってたんじゃないの?そりゃ、行きたいけど。とっても楽しみにしていたけれど・・・。

・・・・・・・私と、仲直りしてくれるの?


「おばさんにはもう言ってある。真珠紅の体調に問題が無いなら早く行こう。昼になってしまう。支度は終わってるんだろう?」


私の服装を確認してあーくんが訪ねてくる。何が何だか分からないけれど、とりあえずコクコクと頷く。あーくんが私の手を掴んでいるのとは反対の手で机に置いてあったポーチを掴んだ。


「荷物はこれだけか?」


その質問に対してもう一度コクンと頷いた。



   ********************



家を出て、最寄り駅から電車に乗った。1回乗り継ぎ遊園地に到着する。ここまで2人はいつも通りだった。私に怒っている素振りもなく呆れている様子もない。本当にいつも通りだ。


「チケットは買っておいたからすぐに入場できるよ。はい、これ真珠紅の分ね。」

「あ、ありがとう。えっと、いくらだった?」

「俺たちからの入学祝いだ。気にしなくていい。」


!!


「あっありがと!」


入学祝いという言葉に嬉しくなる。2人は昔からこうして何かあるたびに私をお祝いしてくれた。喧嘩しても変わらず接してくれる優しさに胸がジンと熱くなる。

・・・この前のこと、謝る前に受け取るわけにいかないよね。


「あの、私・・・2人に謝ろうと思ってたの。この間のこと。そしたら熱出ちゃって。えっと、この前は・・・・。」

「真珠紅、その話は後でちゃんと聞くから今は楽しもう!」


私の言葉に被せるようにしてはるちゃんが私の手を引いた。


「それに、この前は俺たちも悪かったし・・・。まぁ、兄さんが怒鳴ったのが一番悪かったよね!」

「ぅぐ・・・・・・・・・。」


はるちゃんの言葉にあーくんが目線を逸らす。


「いや、あれは私のせいだよ。あーくんは心配してくれただけで・・・。」

「そんなことないと思うけど。俺的には女の子に怒鳴るのがアウトだね。・・・あんまりこの話すると兄さんが()()落ち込んじゃうからやっぱり後で話そう。早く遊びたいし!」


そのままはるちゃんに手を引かれて遊園地に入場した。乗りたかった観覧車やジェットコースターはもちろんのこと、メリーゴーランドやゴーカートなど時間の許す限り遊園地を満喫した。限定味のポップコーンはイチゴミルク味ですごく美味しかったけど、あーくんには甘すぎたみたいで一つしか食べてくれなかった。代わりにはるちゃんが気に入ったみたいでパクパク食べてたけど。耳付きのカチューシャは2人とも着けてくれなかった。私がプクッと頬を膨らましたのに気づき、あーくんが3人お揃いのハンカチを買ってくれた。しょうがないからそれで機嫌を直してあげる。


「真珠紅、次あれに乗ろうよ!」


はるちゃんが指さしたのは水上ジェットコースター。さっき乗ったのは普通のジェットコースターだったからこれは初めてだ。


「またジェットコースターに乗るのか?」

「兄さん、怖いんでしょ?」


あーくんは最初に乗ったジェットコースターで1つも声をあげなかった。その代わり、顔色がものすごく悪かったけどね。もともと白い肌が更に青白くなっていたのだ。

子供の頃も一緒に乗ったことあったんだけれど、その時は私が怖くて泣いていたからあーくんの表情まで気にしてなかったな。彼にも苦手なものがあったんだ。

はるちゃんは今も昔も変わらず楽しそうだけど。


「あーくん、怖いならここで待っててもいいよ?私とはるちゃん2人で乗ってくるから。」


あーくんに無理させてはいけないと思い提案する。遊園地に連れてきてもらっただけで大満足なのに、苦手なものを強制したら申し訳ないよね。


ブハッ!


ん?なんではるちゃん笑ってるの?


「いや、大丈夫だ。それに・・・怖くない。」

「アハハ、兄さん無理しなくていいんだよ?怖いならここで待ってて。真珠紅と二人で乗って来るから。」

「怖くないと言っているだろう!!」


怖くないならいいのだけれど。私はやっぱり3人で一緒に乗りたいし。さっき顔が青ざめて見えたのは気のせいだったのかな。


結局3人で乗ることになり、水上ジェットコースターの列に並んだ。人気のアトラクションのようで、今日乗ったものの中で一番待ち時間が長いようだ。親子連れやカップル、友人同士など、様々なグループが並んでいる。その最後尾に並び順番を待っていると、ふとトイレに行きたくなってしまった。辺りを見まわすとすぐ近くにお手洗いのマークが見えた。


「あの、私ちょっとお手洗いに行ってきても大丈夫かな?」

「あぁ、まだ順番は先だし今なら平気だろう。一人で大丈夫か?」

「兄さんに並んでてもらって俺が一緒に行くよ。」

「ううん。すぐそこだし一人で行ってくる。」


気をつけて行けよ。迷子になるな。知らない人についていくなと、小さい子供にかける言葉を一通り2人から浴びせられながら一人でトイレに向かうことにした。


トイレは本当に列のすぐ目の前なのに・・・・・。心配しすぎ。

特にあーくんは最近お父さんみたいだ。

とは口に出さずに2人に手を振り列を抜けた。


少し駆け足で向かいトイレに到着したところで後ろを振り返る。

列の全体を確認すると自分たちの順番まではまだまだ先のようだ。これならトイレに行って戻ってくるまでに間に合うだろう。


・・・視線を感じる。


ふと私が先程までいた場所に視線を移すと、あーくんとはるちゃんがじっと私のことを見ていた。

迷子にならないように。


・・・・ほんと、心配しすぎだよ。


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