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休養3

彼と彼女は本当に仲が良いのね。

もしかしたら・・・恋人同士、なのかな。とてもお似合いだと思う。






城下町に入ると、あちこちから活気ある声が飛び交っていた。人の往来が激しい大通りなので、彼は細心の注意を払いながら馬をゆっくりと歩かせる。

人々の賑やかな話し声や明るい笑顔が溢れていて、それを見るだけで私も楽しい気分になってくる。馬上でキョロキョロと辺りを見回しているとつい上半身が前のめりになってしまう。


「あまり乗り出すと落ちてしまいますよ。」


彼の左腕にそれ以上前に出ないようにガードされた。確かにこのまま周りに気を取られていたら落ちてしまいそうだと少し反省した。


だって、とても楽しそうで私もみんなに混ざりたいのだもの。・・・・今は彼がいるから無理ね。


今度こっそり一人で来ようと心の中で決めた。

彼に見つからないようにするにはどうすれば良いかしら、と頭の中で考えていると、前方に声を荒げて言い争っている男性が見えた。


「喧嘩・・・かしら?」


私が小さく呟くと、彼も気づいたのか同じ方角に視線を向けた。一人の男性が相手の胸ぐらを掴み上げ、なにやら怒っているようだ。その様子に彼が眉間に皺を寄せる。


「貴方は気にしなくて良いです。速く帰りましょう。」


そう言いながら馬の足を速めようとした。私はまだ喧嘩をしている人たちが気になっている。周りに仲裁する人はいないのかしら?と思い視線を動かすと、飴細工を持った小さな男の子が嬉しそうに走っているのが見えた。


あの子・・・このままこちらへ来たら危ないわ。喧嘩に巻き込まれなければいいけれど・・・。


その時、胸ぐらを掴んでいた男性が『ふざけるなっ!!』と叫びながら相手を突き飛ばす様子が見えた。突き飛ばされた男性は足をふらつかせ、そのまま後ろによろけてしまう。勢いよく身体を押され、後ろに止めてあった馬車にぶつかった。男性の悲鳴とドシンとものすごく大きな音が響き渡り周りにいる人々が一斉に喧嘩している彼らへと視線を向ける。





ヒヒーンッ!!!





同時に、ぶつかった振動と大きな音のせいで馬車を引いていた馬が前足を大きく上げ鳴き声を上げた。そのまま前へ駆け出すように足を振り下ろす。興奮した馬は我を忘れたように暴れ回り、近くで買い物を楽しんでいた人々の表情が恐怖に染まる。何人かの男性が馬を抑えようとするけど、馬の動きが激しくなかなか近づけない。とうとう止めようとする周りの人々の間をくぐり抜け暴れ馬が馬車を引いたまま駆けだしてしまった。


あっ!!あのままでは・・・!


馬が駆け出した先には飴細工を持った男の子。異変を感じ取ったのか、その足は止まっており驚きと恐怖でその場に固まってしまっていた。男の子の後ろ、少し離れた場所には母親らしき人が両手を口にあてて我が子の名前を叫んでいる。安全確保の為、大通りの端の方に避難していた人々はこれから起こるであろう悲劇に目を覆い、逃げろ!危ない!と叫ぶ。


私は彼の腕を払いのけ馬から飛び降り、男の子に向かって駆けだした。馬から下りる瞬間、彼が私の腕をもう一度絡め取ろうとしたけれど、私が駆け出す方が一歩速かった。後ろから私を呼ぶ彼の声を聞きながら夢中で走る。男の子の元へ。途中、足が縺れそうになったけれど、なんとか堪え前へ進む。少しでも速く。


お願いっ!間に合って!!!

速く!速く!


なんとか暴れ馬より速く男の子の元に辿り着いたけれど・・。

私には男の子を抱き上げてその場から逃げる力が残っていなかった。


あぁ・・・・、普段からもっと運動していた方が良かったわね。


せめて男の子を衝撃から守ろうと両腕でギュッと抱きしめた。もうすぐそこに興奮して我を忘れた馬が迫っていた。







ドンッ!!!!!!







っ!!!!??



男の子を抱きしめて硬くなっていた自身の身体が何者かに寄って弾き飛ばされた。急に横から加わった力に耐えきれず、私の身体は男の子と一緒に大通りの横に転がる。ズシャァァァと固い地面に左半身が擦れ、その痛みに『ぅあっ!!』とうめき声が漏れてしまう。腕の中で丸くなっている男の子に出来るだけ傷が付かないよう更に両腕に力を込めた。


何!?何かがぶつかって・・・・・・。


馬の衝撃ではないことは分かっているが、混乱した脳では答えが出てこない。咄嗟に腕の中の男の子の無事を確認するため、力を入れていた腕を緩めた。


よかった・・・。


男の子は大粒の涙を流しながらヒックヒックと泣いている。大きな怪我もないようだ。


いったい何が起きたの?


私は己が元いた場所に視線を移した・・・。






・・・・!!!!!??

ぁ・・・・・っ!!?

だ・・・め!!!!!!!!






ガツン






そこには・・・・・・・・・・彼がいた。

私がさっきまでいたはずなのに、彼が私の代わりにその場所にいたのだ。

振り向いた瞬間、彼が右腕で自身の頭をガードするように上げているのが見えた。興奮した馬はそんな彼に構わず腕ごと彼の頭の上へ前足を振り下ろした。


「っ!!!・・・ぁっ、ぃやっ!!」


男の子の母親がこちらに駆け寄ってきたので子供を託し、私は急いで彼に駆け寄った。馬は彼に衝突した後、周りの人たちが数人がかりで抑えつけ、なんとか落ち着いたようだ。

彼の元へ到着すると・・・・・


倒れた彼の周りは赤く塗りつぶされていく。その勢いを止める術を私は持っていない。助けを叫び求めることしかできない。


「だ、誰・・か、お願い!いっ、医師!い、医師をっ!!はやくっ!!ぃえ、魔法士!!魔法士を早く呼んでっ!!!お願いっ!!はやくっ!!」


私の叫びにシンとしていた周囲がざわめき動き出す。


「おいっ!医者を呼んでこい!」

「あと、何か血を止めるもの・・・・布だ!」

「魔法士はこの辺りにはいないぞっ!城に行かなきゃ・・・・。」


何でもいいから早くっ!早く彼を助けなければ!

お願いっ。お願い!早く!


何故?どうして彼がここに倒れているの?私のはずだったのに・・。私が我が儘で城を抜け出して彼は迎えに来ただけ。寄り道したのだって私のせい。喧嘩に巻き込まれたのも私が勝手に動いたせい。彼は何も関係ないのに!

どうして!?どうして彼からこんなに血が流れているの!?

誰か助けて!彼を・・・・彼を助けてっ!!


どんどん赤が広がる・・・・。

私は彼の手を握りしめ必死に名前を呼ぶ。けれど、彼から反応が返ってくることはなく、徐々にその顔が青白く色がなくなっていった。それとは対照的に、私のドレスのスカートは彼の血によって赤く染め上げられていく。


医師も魔法士もまだ来ない。

・・・魔法士が来ないのは当然だろう。もともと人数が少ないうえに、その大半が王城に所属している。ここから城まではまだ距離があるし、一般人が助けを求めても手続きがあり、なかなか魔法士が出動する許可が下りないのだ。

医師が駆けつけてくれたとしても・・・・・・・・。


いえ、ダメ。

ダメよ。彼は助からなければ。


「・・ぉ、ね・・・がいっ!」


握っていた彼の手をもう一度強く握り直した。

しかし反応はない。それどころか脈も弱まり、段々と冷たくなっていくのを感じた。


いやっ!いや!いや!


「・・・・・・・い・・・やぁぁぁぁぁっっっ!!!!!!!!!」
















・・・・・・っ。

心が・・・・・。・・・・・・・抉られる。

彼女の悲しみが・・・・絶望が・・・・・・全て私に流れ込んでくる。

それほど、彼女には彼が・・・・っ。


・・・・ぁぁ、ダメ。こんな・・・・こんな悲しみは・・・・私には耐えられない。

もうっ、やめて。

もう私に見せないで。・・・辛すぎて・・・・・息ができないっ。




・・・・・お願い、・・・・彼を、・・・・・・助けてっ!!
















――――――――――――――――――――――――――――――。




・・・・か・・・・・で・・・・。

な・・・・・・いで・・・・・。・・・・・・ぃ・・・・・・ぶ・・。




誰・・・?




泣かな・・で。だいじょ・・ぶ。




頭の中に声が響いてきた。泣かないでと。顔を涙でぐちゃぐちゃにしながら少しだけ視線を上げる。

泣くな・・・なんて、そんなの無理に決まっているわ。彼は私の全て・・・無くてはならない存在だもの。泣くなっていうのなら、彼を助けてよ!お願い・・・なんでもするから・・・・お願いっ!!!


『大丈夫よ。・・・貴方なら助けられる。』


!!!??


視線を上げた先には・・・

ナルミスの・・花びら??

いえ、違うわ。これは・・・・この子は!


私の目の前には、ナルミスの花びらで作ったドレスを着ている精霊がいた。さっき湖で私の髪の毛を引っ張って寂しそうにしていたあの子だわ!


『悲しい顔をしないで・・。私の力を使って。大切な人を助けてあげて。』


言葉が・・・・・、この子の言葉が分かるわっ!

でも、どうすればいいの?私は魔法士ではないの。癒やしの魔法は使えない。どうすれば彼を助けられるの?


『祈るの。それだけで大丈夫。貴方は分かっているはず。』


祈る?どうやって?さっきから助けてって言っているの。でも何も変わらない。医師も魔法士も来ないじゃない。早くしないと・・・このままでは彼がっ・・・・

どうして・・。どうしてこんなことになったの!?どうして助けが来ないの?もう・・・ダメなの?


ポタタッ


彼の手を握りしめた己の手の甲へ雫が落ちた。それが自信の瞳から溢れ零れたものだと分かっている。拭う気にもなれなくてただただ彼の青白い顔を見つめる。彼を助けたい。けれど、私には何の力もない。助けも来ない。何もできない私のせいで彼が・・・彼が傷つくなんてっ!

誰か・・・誰か助けて・・・・。


『他の誰かじゃない!()()()助けるのよっ!!』


!!

わ、私が・・・・!


唇をグッと噛む。まだポタポタと雫が溢れる瞳をナルミスの花びらを纏った小さなお友達に向けた。その瞳は先程彼と訪れた湖の水のように澄んだ水色をしていた。私が顔を上げ、視線を合わせると小さなお友達は一つ頷き、彼の手を握っている私の手に自身の小さな手を重ねた。そこから上を見上げ、私ともう一度視線を合わせる。


『祈って!彼を助けることだけ考えるの!』


私はハッとして握っている手と反対の手を彼の冷たくなった頬に触れた。瞳を閉じて彼の事だけを考える。

お願い・・。彼の傷を癒やして・・。もう、我が儘は言わないから。全部人任せにしないから。お願い。










・・・・ひ・・かり?彼女の周りが・・・キラキラと・・・・。とても・・・暖かい・・。青白く・・綺麗で、暖かい・・・・光。私はこの光を・・・見たことが・・?

彼女の彼を助けたい気持ちが・・・伝わる。まるで自分の感情のようだ。彼を・・・助けたい。彼の傷を癒やしたい。・・・・・・お願い。彼を・・・っ!彼を・・助ける・・・力が・・・欲しいっ!!私がっ・・・・私が、彼を・・・助けてみせるっ!!!!










「「お願いっっっっ!!!!!!!!」」










私と彼女の・・・・彼女と私の・・・・気持ちが重なる。彼女を包み込んでいた光が一層輝きだして2人を丸ごと包み込んだ。


眩しい・・・。眩しすぎて・・・・もう、彼の様子を確認できない。

あぁ・・・・、でも・・・分かる。

私と彼女は、繋がっているから・・・。


彼女の感情が流れ込む。心が・・・・締め付けられる。

こんな、こんな感情は私は知らない。息が出来ない。耐えられない。

こんな、こんなに・・・・・っ・・・・・・嬉しいなんてっ・・。














ハッ!!!?


目を開けると自分の部屋の見慣れた天井が見えた。眠っていたようだ。ベットの上でモゾっと身体を動かすと汗で濡れたパジャマが肌に張り付いて気持ち悪い。


「・・ぁっつい。」


やっぱりまだ熱は下がっていない。今回も長引きそう。怠くて手を動かすのも億劫。でも・・・・それより・・・


「み、水・・。」


サイドテーブルに置いてあるペットボトルの水に目を向ける。霞がかった頭で水が宙を浮いてこっちに来てくれないかな・・。なんてくだらないことを考える。もちろん来てくれるはずもなく、仕方なく少しだけ上体を起こしてペットボトルに手を伸ばした。


ポタ


顔を横に向けたことで頬から耳に向かって雫が流れた。


・・・っ。


そのことに気がついた瞬間、ブワッと溢れるように涙が次から次へと流れ出した。ペットボトルを掴もうとしていた手を下に下ろし、ギュッと握りしめる。止まらない。


「ふっ・・・うぅ。・・・・っ・・。」


ダメだ。泣き止もうとすればするほど涙が溢れる。もうこれは止まるまで放っておくしかないな。とりあえず、水を飲むことを諦めてベットの背もたれへ寄りかかった。クッションを置いてないから少し硬いけれど、熱がある身体にはひんやりと冷たくて気持ちがいい。


何だか胸がキュッとなって枕を抱きしめた。きっと体調を崩しているせいだね。熱のせいで人恋しくなってるんだ。

まだ涙は止まらない。

流れ続ける涙を払おうと手を顔の近くまで持ち上げる。すると・・・


キラ


自身の手にはキラキラと光る銀色の粉が付いていた。




大丈夫。ちゃんと覚えてる。

忘れてないよ。




彼女の・・・・・私の、小さなお友達。



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