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再会2

カチン、カチッ、カチン


西日が差す部屋の真ん中で、兄のお下がりの積み木で遊ぶ。

手を限界まで伸ばさないと届かないところまで高く積み上げ、記憶の奥深くにある城の情景を思い出す。

最後の一つを乗せようとしたところで手があたってしまい積み木の塔がグラグラと揺れ出す。


「あっ・・。」


崩れていく塔を見て、何もできない自分に苛立つ。


ガチャ


部屋のドアが開く音に振り返ると、そこには積み木の元の持ち主の兄がいた。


「遥、ただいま。」


兄はランドセルを机に置くと、僕の隣に座る。


「にぃーに」


兄を呼びながら手をバタバタと振って『おかえりなさい』を体で表現してみた。


僕が生まれてから2年と少し。日常はとても平和であたたかい。優しい両親と兄に囲まれながら美味しいご飯を食べたり、遊んだり、楽しく過ごしている。

記憶の中にある城と魔法陣。

あれが夢だったのではないかと思ってしまうこともある。

しかし、心の真ん中にはぽっかりと穴があいていて、姫様がいないことに焦りを覚える。


「積み木をしていたの?」


兄がそう聞きながら、崩れた積み木の塔をもう1度つくろうとしている。

僕も手を伸ばし、今度こそ塔を完成させようとした。


「はい。最後の1個。遥がのせて。」


先程失敗してしまった時を思い出し、少し緊張しながら積み木を受け取る。

そーっと手を伸ばすと、


コトッ


三角形の積み木が高い塔の上に乗った。


できた!

塔を完成させた喜びを兄と共有しようとハイタッチをする形で手を出した。それに気づいた兄が同じようにポーズをとる。


「やったね!遥。」


兄と僕の掌が重なる瞬間、突然目の前がチカチカと光りだした。


脳裏には真っ暗な空間に一筋の光りが差し、その光が空間全体に広がっていく様子が浮かび上がる。

光が空間の隅々まで行き届くと、


「姫様!」


自然と言葉が出た。隣に座っている兄を見上げると、兄は目を大きく見開いたまま涙を流していた。


「ひめ・・・姫様っ・・やっと、やっと・・・ふっぅぅ。」


ボロボロと涙を流す兄を見て、僕も視界が歪んできた。

姫様が、姫様がやっと現世に転生したのだ!


目の前にはいないけれど、姿は見えないけれど、確かに感じる姫様の存在に2人で手を取り合って喜んだ。

嬉しくて、嬉しくて、涙を流しながら笑いあう。


「僕はっ・・・か、必ず・・ふっぅぅ、必ず・・ひ、姫様を、・・・姫様を・・守る!」


泣きながらそう宣言する兄を見て、僕も同じように誓った。



・・・それにしても、兄様、ちょっと泣きすぎじゃない?

大号泣している兄に内心少し引きながら、僕は自分の小さい手で兄の頭をポンポンと撫でた。



   ********************



あれから3年。

姫様の存在は確かに感じるけれど、実際には会えない日々が続いている。

なにしろ、僕たちはまだ子供だ。

探しに行きたいけれど、保護者の同伴が必要なのだ。




僕は幼稚園から帰ると、通園バックを机に置いて兄の帰りを待つ。

今日は何をして待とうかな。

図鑑が並ぶ本棚をチラッと見て昨日読んだ海洋生物の隣の本を確認する。次は鳥類だ。何度も繰り返し読んだ図鑑に手を伸ばしたところで


ピンポーン


インターホンの音が響いた。


「はーい。お待ちくださーい。」


お母さんがパタパタと早足で廊下を走る。僕は図鑑に伸ばした手を引っ込めてお母さんの後に続いた。

いつもはお客さんが来ても部屋で待っていることが多いけれど、今日は何故だか気になってしまう。

お母さんの背中を追いかけながら玄関へ向かう。


「こんにちは。隣に越してきた如月と申します。引越しのご挨拶に伺いました。」


お母さんが玄関を開けると、優しそうな雰囲気の男女が笑顔で立っていた。


・・そういえば、今日の朝に引越しのトラックを見た気がする。


幼稚園に向かう為に玄関を開けたところで引越し業者のトラックが停まっていたのを思い出す。


「これ、よかったらどうぞ。」


挨拶にきた人は手に持っていた小さな箱をお母さんに手渡す。お母さんがお礼を言いながら箱を受け取っている。


・・クッキーかな。クッキーだといいな。


少しだけ期待しながらお母さんが持っている箱を見つめる。僕は甘いものがとても好きなのだ。だって、まだ子供だから。

心の中で1人言い訳していると、女の人が僕に声をかけてきた。


「お子さんがいらっしゃるんですね。ぼく、いくつかな?」


僕はチラッとお母さんの顔を見たあと、右手をめいいっぱい開いてパーの形にした。その手を女の人の方へ向ける。


「5さいです。はるかっていいます。よろしくおねがいします。」


僕が両親や兄に教えてもらった挨拶を披露すると、如月さん

夫妻はそろってニコッと笑ってくれる。その笑顔がなんだかあたたかくて、僕はうれしくなる。


「はるかくん。これからよろしくね。上手にご挨拶できてえらいね。」


褒められた。へへっ。


「実はうちにもはるかくんよりも2つ下の女の子がいるの。」

「ほら、ご挨拶して。」


如月さんたちがそう言うと、2人の後ろから小さな女の子がぴょこっと出てきた。



・・あ・・・・・・。



女の子は照れくさそうに下を向いている。耳にかかっている少し茶色のサラサラの髪が肩から前に滑り落ちる。僕より背が小さくて、まだ顔は見えない。

でも、分かっている。顔が見えなくても、声が聞こえなくても、僕には、僕たちには分かるんだ。


ピンクのスカートをぎゅっと掴む小さな手が、一度開かれたと思ったら、またスカートを掴む。その様子がとても可愛くて目が離せなくなる。彼女の動きを1つも見逃さないようにまばたきを忘れる。


「きさらぎ・・しずく・・です。」


・・・・・・・・・・くっ。泣きそう。

まばたきを忘れてカラカラに渇いているはずの目が潤んできた気がする。でも、まだ泣かない。ここで泣いたらダメだ。


俯いたまま自己紹介をしてくれた彼女に右手を差し出す。


「しずくちゃん、よろしくね。」


震える声を気合いで抑えて涙が溢れないよう目に力を入れる。差し出した右手に彼女の小さな手が重なった。


「よろしく・・ね。」


握手を交わしたと同時に、ずっと俯いていた彼女が顔をあげた。丸くて大きな瞳が僕の目を見つめる。その瞬間瞳の奥がキラキラと紅く光って見えた。



あぁ、やっと・・・・



我慢していた涙が少しだけ流れてしまったけれど、僕はみんなに気づかれないよう左手でぬぐった。




     ****************




カチン、カチン、カチッ


今僕は部屋で積み木をして遊んでいる。

目の前には真珠紅(しずく)ちゃんが長方形の積み木を箱型に並べている。

あの握手の後、真珠紅ちゃんの両親が引越しの片付けをしている間、僕と2人で遊ぶことになったのだ。

僕は少し緊張しながら真珠紅ちゃんを部屋へ招いた。何をして遊ぼうか悩んだ末に、僕のお気に入りの積み木で遊ぶことになった。


「ここがキッチンで、ここがお風呂!」


真珠紅ちゃんは箱型に並べられた積み木の家の間取りを僕に教えてくれる。最初はモジモジしていたけれど、慣れてきてからはたくさん僕に話しかけてくれる。真珠紅ちゃんの表情の一つ一つに目が離せなくなり、積み木を握りしめたまま動きが止まってしまう。


「遥くんは何をつくってるの?」


・・・名前!初めて呼んでもらえた!!


それだけで嬉しくて顔がカッと、熱くなる。キラキラと輝く大きな丸い瞳がじっと僕を見つめる。さっきは一瞬だけ紅く見えた瞳だけど、今は焦茶のあたたかい色をしている。


・・・か、かわいいっ!


ダメだ。ほんとに可愛い。可愛いすぎて涙がでてくる。

僕のドキドキを悟られないように深呼吸をしながら答える。


「お城だよ。」

「お城って、お姫様が住んでいるところ?」


・・・


「そうだよ。お姫様が住んでいるところ・・・。」


いろいろな感情がごちゃまぜになったけれど、僕は努めて冷静に答えた。


「真珠紅ちゃんも一緒にお城をつくろう?」

「うん。一緒につくろう。」


真珠紅ちゃんが笑顔で答えてくれる。手に持っている四角い積み木を出来るだけ高く積み上げていく。あと少しで全ての積み木を乗せ終わりそう。


ガチャ。


「ただいまー。」


残りの積み木が3つになった時、兄の綾人が小学校から帰ってきたようだ。トタトタと廊下を歩く音が近づいてくる。なんだかいつもより早足になっている気がする。たぶん、何かに気づいているんだろう。


「今回も泣くんだろうなぁ・・。」


そう呟いた時、部屋のドアがガチャっと開かれる。


「遥、ただい・・・ま・・・・・・!!・ふぅっ・・」


兄様、早いよ。


真珠紅ちゃんを見た瞬間、兄様はいつも通り大号泣してしまった。予想はしてたけどね。チラッと隣を見ると、真珠紅ちゃんが泣いている兄を見て固まっている。


「にいちゃん、おかえりなさい。この子はさっきお友達になった真珠紅ちゃんだよ。今日お隣に引っ越してきたんだって。」

「ひ、ひ、ひめ・・さ・ま・・、し、しず・・く・・ちゃん・・?」

「にいちゃん、落ち着いて。真珠紅ちゃんがビックリしてるよ。」


泣きながら喜んで、泣きながら情報を整理しようとしている兄様をなだめる。


「今ね、真珠紅ちゃんと一緒に積み木でお城をつくってたんだ。あと少しでできるから、にいちゃんも手伝って。」


そう言って、四角い積み木を兄の手に握らせる。


「も、もちろん。じゃあ僕はここに置くから、遥はこっちに置いて?」


兄様に指示された通りに積み木を置く。僕と兄様が置いた積み木は高い塔の上で左右対称の柱のように建っている。


「じゃあ、最後の仕上げに・・真珠紅ちゃんが1番上に乗せて?」

「うん。」


真珠紅ちゃんは僕と兄様が置いた柱の上にまたがるように、三角形の積み木をそっと乗せる。


カチン


その瞬間、なんだか胸の奥が熱くなった。嬉しいのか、悲しいのか、よく分からない。鼻の上のあたりがツンとして泣きそうになる。目に力を入れて堪えたため、眉間に皺が寄って怖い顔になってる気がする。真珠紅ちゃんに見えないように少しだけ横を向いた。


きっと、兄様は堪えられずに泣いているんだろうなぁ。

そう思いながら兄様の顔をチラッと確認する。




あぁ、やっぱりね。





やっと姫様と再会できました。やっぱり兄様は大号泣です。

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