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帰り道

今日は3人で帰ることになった。

あーくんと私と、そして久遠先輩。

どうしても気になる事があったので、私から誘ってしまった。迷惑ではなかっただろうか。


「・・・。」


なんて聞けばいいのか・・・。

なかなか言葉を紡げない。何度か玖遠先輩に声をかけようと口を開きかけてはいるんだけど、少し緊張してしまう。まだ、あまり話したことないから・・。


「真珠紅、アーチェリー部はどうだった?」


私が黙り込んでいたらあーくんが声をかけてくれた。あーくんの顔を見上げ、とても楽しかったと伝える。今日は部長と副部長の2人が練習を見ていてくれたことや、初めて矢を射って的に中たったことなどを次々と話していく。

練習が楽しかったことを思い出したら自然と頬が緩み、話も止まらなくなってしまった。それでも、あーくんは途中相づちを打ちながら最後まで聞いてくれた。


私の話が一段落ついたところで、あーくんとは反対側の方から声が上がった。


「綾人、何故今まで如月がアーチェリー部に入部したことを言わなかった?」


ジトリと横目であーくんを睨みながら玖遠先輩が訪ねる。

あ、そういえば私がアーチェリー部にいることにビックリしてたよね。あーくんから聞いていなかったんだね。入部届けを提出しに行った日も玖遠先輩は見かけていないし。私も玖遠先輩は生徒会に入っているからまさか他の部活、しかも私と同じアーチェリー部だとは思わなかった。

あーくんとはるちゃんは生徒会の他に部活はしていない。はるちゃんは時々助っ人を頼まれているみたいだけどね。


「玖遠はいつも俺と生徒会室にいるからすっかり忘れてたよ。最近は部活にあまり出ていないだろう?」

「・・・お前が人使い荒いからだ。」


やっぱり玖遠先輩は生徒会のお仕事が忙しいんだ・・。

まだ頭上で2人の会話が行き交っているけれど、気になったことをポソっと口に出してしまう。


「玖遠先輩は・・・あまりアーチェリー部に出られないんですか?」


先輩を見上げると黒い瞳と目が合う。


・・・・・・・・・・・・・。

・・あれ?声小さすぎて聞こえなかったかな?

返事がなくて首を傾げたところで、やっと先輩が口を開いた。


「確かに忙しくてなかなか顔を出せないが・・・金曜日ならば、毎週出られる。」


そうなんだ!金曜日は比較的忙しくないのかな?私が出られる曜日と同じだ。


「私と同じ日ですね!先輩がいてくれて嬉しいです!」


知っている人がいた方が安心だよねっ!今日はまだあんまり話せた人いなかったから来週もきっと緊張するもん。玖遠先輩と話すのもまだ慣れていないけど、あーくんの友達ってだけでなんか安心するんだよね。朝もよく会うし。


「・・・・・・そうか。」


先輩の返事は素っ気ないけれど、それも今は慣れてきた。口数が少ないけど、いつも短く簡潔に応えてくれている。最初はちょっと怖かったけれど、それも先輩の通常運転なんだと分かれば平気だ。


「おい、玖遠。どうして金曜日だけ部に出られるんだ?仕事は山ほどあるぞ。」

「仕事は他の日に終わらせれば文句はないだろう。」


あーくんがジロっと玖遠先輩を睨んだけれど、先輩は気にする風もなく返す。

・・やっぱり生徒会すごく忙しいんだね。それでも部に出たいなんて、玖遠先輩はそんなにアーチェリー部が好きなんだ。

今日は少ししか先輩が矢を射っているところを見ていないけど、すごく上手だった。きっと大好きだからいっぱい練習したんだ。


そこで、玖遠先輩に聞きたかったことを思い出す。

先輩がアーチェリーの練習をしているところを見て思ったことだ。あの時の・・・・、あれは、あの人は玖遠先輩だったのではないだろうか。


私がアーチェリー部に入部しようと思ったきっかけ。心臓を打ち抜かれたような衝撃。

あの矢を放ったのは・・・・玖遠先輩ではないですか?

今日、先輩の矢を見て感じた。同じ高揚感。切なさ。そして・・・懐かしさ。

あの時は誰が矢を射ているのか見えなかったけれど、今日それに気がついた。先輩を見ていたら。

そのことを聞こうと思って、今日一緒に帰ろうと誘ったのだ。

私が誘って、きっと先輩はビックリしたよね。でも、どうしても確認したかったのだ。


今、聞いてもいいかな・・。


「あ・・・の、玖遠先輩。・・・一つ、聞いてもいいですか?」


私の問いかけに先輩とあーくんが同時にこちらを向いた。なぜだか少し緊張してしまい、暑くもないのにジワっと汗が出てきた。それでも、言葉を止める気になれず、一気に先輩に問いかけた。


「せ、先日、部活動の終了時間後に・・・アーチェリー場にいませんでしたか?ひ、一人で矢を射って・・いませんでしたかっ?」


私の言葉に考える素振りを見せて右手を口元にあてる。数秒後に何かに思い至ったのか、あぁと声を漏らした。


「確か、生徒会の仕事がいつもより少しだけ早く終わって部に顔を出そうとした日があったな。アーチェリー場に着いたらすでに部が終わっていて練習に参加できなかったが・・。せっかくだから数本矢を射てから帰った。・・・・・何故それを?」


やっぱりあれは、あの人は玖遠先輩だったんだ!絶対にそうだと思った。だって・・・同じだったから。

彼の放つ矢と。



ん?・・・・彼って?



先輩の矢が誰かと同じ気がしたけれど・・・誰と同じなのかが思い出せない。それでも何かを見つけた気がしてすごく嬉しくなる。


あっ、まずい!!

こんなに気持ちが昂ぶったら・・・また瞳がっ・・・・。

鏡を見ていなくても、なんとなく瞳が紅くなっているのが分かってしまう。それくらい嬉しくて。


本当に普通の人には見えていないかな・・。

玖遠先輩に紅い瞳が見られていないか心配になり一度下を向く。辺りはすでに薄暗くなっているから、きっと大丈夫、気づかれていないはず。

そう自分に言い聞かせ小さく深呼吸した。


「・・如月?」


会話の途中で黙り込んでしまった私を心配したのか、先輩が呼びかける。それに会わせてあーくんも私の名前を呼びながら、下から顔を覗きこんできた。私の瞳を見たあーくんが変化した色に気がつき、小さくあっと息をつく。


「如月、どうした?」


・・・っ・・ダメ、黙ってたら先輩が変に思っちゃう。


「・・えっと・・・。実は、私がアーチェリー部に入部しようと思ったきっかけが・・・・。たぶん、玖遠先輩なんです。あの日、部活動見学の帰りにたまたまアーチェリー場の前を通って・・。誰かが射った矢が・・・綺麗に真っ直ぐ飛んでいって・・・・感動して。それで・・・私もやってみたいって・・思いました。今日、玖遠先輩が練習してるのを見た時に気がついたんです。あぁ、この人だって。」


下を向いたまま一気に話した。途中自分でも何言ってるんだか分からなかったけれど、とりあえず言いたいことは伝えられた気がする。

けれど・・・。

たぶんまだ紅い瞳が戻らない。今度は自分の気持ちを一気に話したせいで心臓がドキドキしてしまっているのだ。

うぅぅ、他の人には見えないって言われてもやっぱり心配。先輩の顔見れないよ。先輩はどんな顔をしているのか・・・・。


「・・・真珠紅、俺はそんな話聞いていないよ。」


・・・・うん?なんか、隣のあーくんから黒いオーラを感じる。

そっとあーくんを見上げると、指先で眼鏡をクイッと上げている瞬間で表情がよく見えない。けれど、なんとなく機嫌が良くないのは分かった。


「なんか、恥ずかしくてあーくんにもはるちゃんにも話してなかったの。それに、今日まで玖遠先輩だったなんて知らなかったから。」


ごめんねって言いながら両手を合わせてあーくんを見上げると、ぽんっと頭を撫でられた。怒ってないよの合図だ。


「・・・・・・如月。」


玖遠先輩の声にハッとする。そういえば、私ばかり勝手にいろいろ話してしまった。自分の知らないところで練習を見られて、勝手に憧れられて、同じ部活に入部されたら普通気持ちが悪いよね!きっと、すごく引かれてしまった・・・。

今度は瞳を見られるのが怖いんじゃなくて、別の理由で顔を上げられなくなってしまった。


「如月・・・・実は俺も・・・・・・。」








『・・・・・・・・真珠紅様!』






え?



玖遠先輩が私に何か言おうとした。しかし、それよりも先に頭の中に声が響いてきて咄嗟にこめかみを押さえる。


ルーだ!


今、ルーから貰ったイヤリングはチェーンを通してペンダントにして身につけている。彼が肌身離さず持っていて欲しいと言うから言う通りにしていた。何かあったときに連絡が取れるように。

そのイヤリングから私を呼ぶ声が聞こえるのだ。何か、焦っているような・・・?


どうしよう。あーくんはいいけど、今は玖遠先輩もいるから話せないよ。


ルー、どうしたの?何かあったの?


彼に届くかは分からないけれど、とりあえず心の中で彼に問いかけてみた。

すると、私の声が聞こえたのかルーから返事が返ってきた。


『真珠紅様!今すぐその場から離れてください!』


ルーの切羽詰まったような声に足を止めてしまう。私が立ち止まったことで一緒に歩いていた二人も立ち止まる。どうしたのかと2人がこちらへ振り返った。しかし、私にも何が何だか分からない。


「真珠紅?」


振り返ったあーくんと目が合った。


あーくん!ルーがっ、・・・ここから離れてって・・!そう言ってるの!


そう伝えたいけれど、隣にいる玖遠先輩が気になって言えない。私は、ただただ口をパクパクさせてあーくんに訴えた。私が何かを伝えようとしていることに気がついたのか、眉を潜めたあーくんが私へと手を伸ばす。


「真珠紅、今日はもう遅い。少し急いで帰ろう。」


そう言うと、私の手を取り、グッと引っ張る。


「玖遠、悪いが真珠紅の両親が心配するから急いで帰るよ。お前は気にせずゆっくり帰っていいから。」

「いや、方向は同じだから俺も一緒に行く。」


今は家に帰る途中の少し大きな公園を歩いている。いつもは街灯がたくさんあり、人通りも多い、公園の外周をぐるっと回って帰っている。一人で帰る時は暗いからあまり通らないのだけれど、今日はあーくんと玖遠先輩と一緒だから公園を通って帰ることにした。その方が直線距離で近道なのだ。公園を抜ければ私たちが住む住宅街まではもうすぐ。


ルーがここを離れろって言っているし、とりあえずあーくんの言う通り急いで帰ろう。

私からもあーくんの手をギュッと握り返し一歩前へ進・・・・・・もうとした。






ヒュンッ!!





・・・!!?・・・・・・・・・っ!?



突然、私の頬の横を何かが通り過ぎた。その何かは私の頬の表面に掠れ、皮膚を鋭く裂く。風のように通り過ぎたそれが私の髪をフワッと揺らした。

ピリっとした熱さに思わず指先を己の頬に触れた。ぬるっとした感触に一気にぞわっと肌が震える。

辺りはすでに暗い。それでも分かる・・・・・・・赤く・・滴り落ちるもの。


え・・・何で?私・・・・・・・血が?


痛みはまだ感じない。あまりにも突然だったから。


自身の指先に向けていた視線を前に移す。通り過ぎた何かを確認するために。

私の異変に気がついた2人は目を見開き私の頬を凝視する。薄暗くてもこれだけ近くにいれば見えるのだろう。

いったい何が起きたのか・・。




・・・・・・・・・・・・・と・・り?



正面を見ると、木の枝に静かに留まっている一羽の小鳥が見えた。その鳥は闇夜に紛れそうなほどの漆黒の羽を持ち、黒水晶のような瞳はじっとこちらを・・・私を見つめているようだ。

1秒・・2秒・・・いや、それ以上か。漆黒の鳥と見つめ合っていると、不意に鳥が両の羽を左右に広げる。

私が肩をビクッと震わしたその瞬間、漆黒の鳥の足がフワッと浮き、風のような速さで私に迫ってきた。

私は次に迫り来るだろう衝撃にギュッと目をつむることしかできなかった。


「如月っ!!」

「真珠紅!」


グイッ!!


目を閉じ動けないでいる私の腕をあーくんが引っ張り、玖遠先輩が反対側から身体ごと押す。間一髪のところで体当たりしてきた鳥を避けたけれど、その勢いのまま草むらに3人で倒れ込んでしまった。


・・っ!


気がつくと、私はあーくんの上に倒れ込み、私の背中には玖遠先輩が覆い被さる形になっていた。


「真珠紅!大丈夫か!?」


あーくんに問いかけられたけれど、震えてしまって声がでない。返事の代わりにコクコクと首を振る。


「いったい何が・・?」


私に覆い被さっていた先輩が私の腕を引き身体を起こしてくれた。まださっきの鳥を警戒しているようで腰は屈めたまま先程まで立っていた通りを確認する。すると突進してきた漆黒の鳥は辺りをキョロキョロと見回した後、私たちとは反対の方向へ飛んでいった。

私たちが草むらへ倒れ込んだことで見失ったのだろうか。離れていった鳥にホッと息を吐くと同時に頬がピリッと痛み出す。

あの鳥は・・・・私たちを・・私を・・・・・・・・攻撃してきた?


唇がカタカタと震え出す。


「・・ぁ、な・・んで?私を・・・?・・・血・・が・・・・っっ!?」


急激に沸き上がる恐怖に声が勝手に唇から零れてしまう。その様子に気がついたあーくんが私をギュッと抱きしめた。


「真珠紅、大丈夫だ!さっきのはもう行った。今のうちに家へ帰ろう!」


そうだ、帰らなきゃ!またさっきの黒い鳥が襲ってくるかもしれない!早く・・早く帰らなきゃ!


足が震えているせいで上手く歩けず、あーくんと先輩の手を借りて進む。この公園を抜けて家の中に入れば大丈夫なはず。一刻も早く安全な場所に入りたい。早く早く!!

もう少し、あとちょっとで公園の出口だ!この通りを抜ければ・・・!


左右に大きな木が生い茂り、その長く伸びた枝からは多くの葉がカサカサと音を立てて風に揺れている。昼間は青々と綺麗な葉が、今は暗闇と同じ色に見えてまるで真っ暗なトンネルの中を通っているようだ。

あと少しで公園を抜けられるはずなのになかなか終わりが見えてこない。怖い怖い怖い!!


震える足をなんとか前へ出し、2人に支えられながら進む。2人とも私を気遣う言葉をかけてくれるけれど、その表情はどちらも硬い。体験したことのない異常事態に怯えていた。


その時、やっと公園の出口が見えてきた。あーくんが『真珠紅、もうすぐだ!』と言ったところで・・・






風がやんだ・・・・





さっきまではうるさいくらいにカサカサと泣いていた葉がぴたりとその音を止めたのだ。

そして、その数え切れないほどの真っ黒な葉がふわりと枝から離れ・・・浮かんだ。



・・・っ!!!?・・・・・え・・・・・・・・まさかっ!?



そう・・・枝に生い茂る葉だと思っていた物は・・・大量の・・・・・・小鳥だった。

それを理解した瞬間、もう足は動かなかった。

手を引いて、背中を支えてくれていたあーくんと玖遠先輩もその足を止め、上空を見つめる。

小鳥の大群は羽を大きく広げ、真っ直ぐに私を見ていた。嘴を前に突き出し、前傾姿勢になり今にも飛びかかってきそうだ。


「真珠紅!こっちへ!」


あーくんが繋いでいた手を引っ張り私を両腕で包みこんだ。あーくんの肩越しに鳥たちがこちらへ向かってくるのが見える。

このままじゃあーくんが怪我してしまう。隣にいる玖遠先輩も。どうしよう・・・どうすれば・・。

考えている間にも鳥の大群はどんどんと私たちとの距離を詰めてくる。もう目の前まで迫ってきた鳥の嘴がギラリと光った。





「ルー!!!助けて!!」





迫り来る危険に思わず叫んでいた。声は届いても、彼がこちらに来られないことは分かっていた。私があちらへ連れて行ってもらえないということも。まだ魔力が足りないから。それでも叫ばずにはいられなくてルーの名前を呼ぶ。あの時、あんなにルーに対して失礼な態度を取ったのに都合がいいのは分かっている。私は・・・・ずるい。

でも・・・怖い。あーくんや玖遠先輩が傷つくのは嫌だ。何でもいいから私たちを守ってくれる力が欲しい!!


ルー!お願い!私を・・・私たちを守って!!







『承知致しました。』






ピカッ!!!・・・・・・・・パァァァァァァァッ・・・・・・・・


ルーからの返事が聞こえたと思ったら、首から下げていたイヤリングが・・・・光った!?

その光は青白く眩しく暖かい。イヤリングから一気に広がり私たち3人を包み込む。目前まで迫っていた鳥がその光に触れた途端、シュワッと消えていった。私たちに向かってきていた鳥の大群は次々と青白い光に触れ、そしてその姿を無くしていった。後には何も残らない。


「これは・・・・いったい・・・?」


私を庇って前に乗り出していた玖遠先輩が思わずといった感じで言葉を落とした。無理もない。だって、これは・・・


まるで・・・・魔法。


この世界ではあり得ないこと。それが目の前で起こっている。私もルーと出会っていなかったらパニックになっていただろう。あーくんもまだ私を抱きしめたまま目を見開いている。

辺り一帯全ての鳥が消えたところで、私たちを覆っていた光が徐々にイヤリングに集まってくる。


助かった・・・・・の?


いつもと変わらない公園の風景を確認したけれど、まだ緊張は解けない。足は震え、手はずっと握ったまま固まっている。


ルーが、助けてくれたんだね。


光が溢れ出す前に聞こえた彼の声を思い出し、首元のイヤリングに触れる。心の中でありがとうと呟いた。


そこで私の意識はプツッと途切れてしまった・・・。


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