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告白2

紅い瞳を見られてしまった。

もう誤魔化しようがないので、目を覆っていた手を下ろす。

それに、あーくんもはるちゃんも前から知っていたみたいだ。私が気づいていないだけで、何度も外で変化していたのだろう。今だって、鏡を見るまで自分が紅い瞳になっているなんて気が付かなかった。


「私・・・学校でも変わっていたの?クラスの・・友達の前でも紅くなってた?」


もしそうだとしたら、明日から学校へ行けない!今まで誰にも指摘されてないってことは、運良く瞳を見られなかったのかもしれない。だけど、これからもそうとは限らないよね。今だって紅い瞳のまま戻らないし・・・。

そう思うと、自然と身体が不安で震えてきた。


「真珠紅、大丈夫だよ。落ち着いて。」


落ち着いてって何?そんなの無理に決まってる。だって・・、やっと友達ができたのに。やっと、学校が楽しいって思えたのに。はじめてのことにも挑戦したばかりなのに!

それなのに、急にこの紅い瞳のせいで私の日常がめちゃくちゃにされてしまう。

そんなの・・・落ち着いていられるわけないじゃん!


「みんなにはその瞳は見えていない。いつもの真珠紅の茶色の瞳のままだ。」


えっ!?


「その瞳は・・・魔力を持つ者・・、つまり・・・、あちらの世界の者にしか見えないようだ・・。」


あーくんがとても辛そうに言葉を発した。


どうして・・・?なんでそんなこと知ってるの?


みんなに瞳を見られていないという安堵よりも、あーくんの口から魔力とか、あちらの世界という言葉が出てきたことに驚いた。そんなこと、普通の人が知るわけない。




じゃあ、どうして2人には私の瞳が紅く見えてるの?




1番の大きな疑問がフッと頭に浮かんだ。

すぐに聞きたい。しかし、答えを知るのが怖くて唇が重くなってしまう。

聞かなきゃ。そうしなければ、この不安と恐怖がずっと続いてしまうような気がする。


「・・・どうして?」


なんとか口から出てきた言葉はこれだけだった。

声が震えてしまってそれ以上無理だったのだ。それでも2人は私の聞きたいことを察してくれたようだ。

あーくんとはるちゃんは2人で目配せをして、1度コクリと頷き合っている。そして、決心したような強い眼差しを私に向けてきた。


私は、聞きたいけれど、まだ全てを受け止める勇気が持てなくて、2人の視線から逃れたい気持ちになる。

待ってと止めようかと思っていると、私が口を開くより先にはるちゃんの唇が開いた。


「実は・・・。」


しかし・・・




コンコンッ




!!!??


緊張からピリピリした空気の中に、ノックの音が響いた。

驚いて、バッとドアを見つめると、


「真珠紅、もう遅いからそろそろ切り上げなさい。」


お母さんだ。

サイドテーブルに置いてある時計を確認すると、針はすでに10時を指そうとしている。


「・・・・・えっと、ごめんね。お母さんが・・・呼んでる・・から。」


聞きたいけれど、聞くのが怖い。

今日は突然だったし、1度心の準備がしたい。

それに、お母さんが呼んでるし。隣の叔母さんたちも心配するだろうし。


今この時から逃げ出す理由を頭の中でつらつらと並び立てる。チラッと2人の顔を見ると


「・・・もう時間も遅いし、今日は帰るよ。突然来てごめんね、真珠紅。」

「真珠紅、今日はいろいろあって疲れているだろう?ゆっくり休むんだよ。・・・それで、また、話す機会をつくってほしい。」


分かってる。次はちゃんと聞かなきゃいけない。

コクリと頷き、2人を見送る。

立ち上がった2人は、私の頭と頬を優しく撫でて『また、明日。』と部屋を出ようとした。


ハッとして、2人を見上げ、その手を1つずつ捕まえる。


「あのっ!今日、来てくれてありがとう!本当は怖くて1人でいたくなかったの。2人と話して少し落ち着いたよ。」


急いで言ったから少し早口になってしまった。でも、これだけはどうしても言いたかったのだ。

帰ろうとしていた2人は、もう1度身体を私の方へ向けてニコリと微笑む。


「次は、真珠紅が怖い思いをする前に助けるからね。」

「あぁ、必ず守るから。」


そう言って、部屋を出て行った。

玄関まで見送ろうとしたけれど、湯冷めするからと言って断られてしまった。



   ********************



2人が帰ってからしばらく、私はベットから動けずにいた。

何もする気がおきない。あーくんがゆっくり休めって言ってたけど、寝転んでも全然眠れる気がしない。目を閉じると逆にいろいろなことが思い出されて胸がざわつく。


ふと壁際の鏡に目を向けると・・・思った通り・・・・・紅い・・瞳。


もうこっちがいつもの自分なのではないか・・・と思うほど、頻繁に見る色だ。

あーくんも、はるちゃんも気づいていた。・・・どうして?他の人には見えないって言ってたけど、なんで2人は見えるの?いつから気づいてた?・・・もしかして、私が意識するよりもっと前から?


やっぱり、無理にでもさっき聞いとけばよかったかな・・。


はるちゃんは何か話そうとしてくれてた。何か、彼らが知っていることがあるのだろうと思う。それに、ルーのことを話した時、あきらかに動揺した感じだった。


・・・ルーは、本当にもう一度来るのかな。


サイドテーブルに置いてあるイヤリングが目に入り手に取ってみる。キラリと光る虹色の石を指先でそっと撫でてみた。


「ルー?」


返事が返ってくることはないって分かっていながら、イヤリングに向かって声をかける。

さっきは怖くて早く帰りたかったけれど、こんなに気になって眠れなくなるならちゃんと話を聞いておけばよかったな。私が泣いている間、ルーはずっと隣にいて優しく声をかけてくれてた。あの時間がなければもっと詳しく話を聞けたのかもしれない。私が泣いてたせいで説明する時間がなくなっちゃったんだ。


「ルー。もし本当にまた来るなら、今度はちゃんと話聞くよ?・・・だから、私の知らない私についてもっと聞かせてね。」


知らないままじゃいけないんだよね。

怖いものから逃げてるだけじゃ・・・今までと変わらない。変わるって決めたじゃん。自分のことも知らないままなんてやっぱりおかしいよね。

あーくんとはるちゃんに頼ってるばかりじゃ・・・。


「ルー、次来るときはお風呂の時以外にしてね?」


これは絶対に守って欲しい。切実に。


ルーは魔法を使ってた。水の魔法が得意らしい。

魔法かぁ。・・・もしかして、私も魔法が使えたりするのかな?


なんとなく、持っているイヤリングに目を向けてみる。手の平に乗っているイヤリングをじっと見つめ、『浮け!』っと心の中で念じる。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。


なーんてねっ。

もちろん浮くわけない。今まで魔法なんて一度も使ったことないもん。ちょっとやってみたかっただけだよ。


「ルー、お休みなさい。」


なんだか、イヤリングに話しかける癖が付いてきたかも。小さい頃にクマのぬいぐるみに話しかけていたことを思い出す。クマからも返事は一度も返ってきたことはない。今回もイヤリングからの返事はなく、思わず苦笑いをこぼしてしまった。


私、何やってるんだろ・・。もう寝よう。きっと疲れてるんだ。


『もう、お休みになるのですか?』


!!!??


イヤリングをサイドテーブルに置こうと思った瞬間、突然虹色の石からルーの声が聞こえた。


・・・・・・・き、っ気のせいだよね。


一度、気がつかなかったふりをしてみる。


『あれ?もう寝てしまいましたか?』


・・・!?・・気のせいじゃない!!石からルーの声が聞こえる!えっ、何!?怖い!!

と、とりあえず・・・・・・・寝よう。


『真珠紅様?真珠紅様?』


・・・・・・・・・。


『真珠紅様?私の声は届いていますか?』


・・・・・・・・・・・・・。


『真珠紅様、先程は急に呼び出して驚かせてしまい申し訳ございませんでした。』


・・・・・・・・・・・・・・・・・。


『聞こえていないのでしょうか?おかしいですね。私には真珠紅様のお声が聞こえたのに。』


・・・・・・・・・・っ・・・・・・・・・・・・。


『しかたがないですね・・・。』


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。


『また入浴中にお呼びしましょう。』


「だ、だめって言ったでしょ!!」


あっ!


『真珠紅様、やはり聞こえていたのですね。』


ルーがニヤリと笑う姿が目に浮かんだ。

思わず叫んでしまった。くぅぅ。


「な、何でルーの声が聞こえるの!?」

『あれ?お伝えしましたよね?その耳飾りが私と真珠紅様を繋ぐ媒体になると。』


繋ぐって通信できるってことだったの!?何?これってスマホみたいなものってこと?そんなの聞いたって分からないよ~~!!!


『姿を見ながらお話するのには多くの魔力を消費しますが、この媒体で繋がるだけでしたらさほど影響はございません。お互いに耳飾りに触れてさえいれば、いつでも繋がることが出来ます。』


いつでも!?そ、そんな便利なイヤリングだったんだね。魔法・・・すごい。


『その為、真珠紅様には常時、肌身離さず耳飾りを持っていてほしいのです。』

「常時?寝るときも?」

『はい、お休みになっている時も、です。』


それは決定事項なんだね。つまり、いつでもルーと話せるようにしてなきゃいけないってことかな。


「あ、でも・・学校とか他の人がいるときに話すのは無理だよ。みんなビックリしちゃうもん。」

『問題ございません。耳飾りに触れている者しか私の声は届きませんので。』


そうなんだ・・。やっぱり魔法ってすごい。

でも、これで気になったことをいつでもルーに聞けるんだね。


・・・ん?イヤリングに触っていれば声が届く・・・?あれ?ってことは・・・。


「ルー?」

『はい、何でしょう?』


私は、今とても気になったことをルーに訪ねた。


「もしかして・・・さっきの私の独り言・・・全部聞こえてたの?」

『もちろんでございます。私が真珠紅様のお言葉を聞き逃すはずありません。』


やっぱり!


「じゃあ何ですぐ返事してくれなかったの!?」

『それは・・・。』


それは・・・・・?


『なんとなく・・・・・でございます。』


ルーが悪戯が成功したような楽しげな声で返事をした。

もうっ!

ルーは物腰が柔らかで話し方も丁寧だけど、ちょいちょいこうして私をからかうような気がする。

なんか・・・誰かに似ているような?


「ねぇ、ルー?肌身離さずこのイヤリング・・・耳飾りを持っていたら、ずっと私の声がルーに聞こえちゃうんじゃないの?それはちょっと・・いや、だいぶ困るんだけどな・・。」

『困りますか?』

「困ります。」


少しだけ声が冷たくなってしまった。けど、まぁいっか。


『そうですか。残念です。』


何が残念なのよ!ルーだって自分の声が全部私に聞こえてたら嫌でしょ!?


『私は全く問題ございませんよ。真珠紅様に聞かれて困るようなことは一つもありません。』


!!?私、今声に出してた?出してないよね!?でた!ルーの超能力!


『安心してください。真珠紅様が私に届けようと思った言葉しか聞こえませんから。』


・・・魔法、万能。

それならそうと早く言ってくれればいいのに。やっぱりルーは少し意地悪だ。


『真珠紅様、私の魔力は先程かなり消耗してしまいました。その為、しばらくは声しか貴方様に届けることができません。どうか、御身をお大事にお過ごしください。』


ルーの声が真剣味を帯びて紡がれる。


『そして、ローレンスとベルデを一刻も早く探してください。彼らが必ず貴方を守るはずです。』


ローレンスとベルデ。私を守ってくれる人らしい。でも、何から守るの?この世界には魔法もないし、危険なことだってそんなにない。ルーは何をそんなに警戒してるのだろう。

それに、私はいつもあーくんとはるちゃんに守られてる。

・・・そういえば、2人は私の紅い瞳が見えていた。他の人には見えていないって言ってたのに。

さっきまで頭の中を占めていた疑問がまた浮上する。


「あのさ、ルー?」


この際だからルーに瞳について聞いてみようと思う。


「私のこの紅い瞳のことなんだけど・・。普通の人には見えないの?」

『・・・ふむ。普通の人という概念がよく分かりませんね。それに、瞳が見えないというのはどういうことでしょう?』


あ、説明が足りなかったね。


「えっと、私の世界には魔法がないの。だから、魔法が使えない人がこっちでの普通の人・・・かな?それと、私の瞳は今までずっと茶色だったの。それが、感情が高ぶったり、不安になったりすると紅くなることが多くて・・・。でも、私の知り合いたちが言うにはみんなにはいつもの茶色の瞳に見えてるって。」


結構説明が難しいな。魔法のある世界とない世界。何が普通で異常なのか。それがよく分からなかった。


『なるほど。・・・・。真珠紅様、その知り合いという方には紅い瞳が見えているということでしょうか?』

「たぶん・・・そうだと思う。最初はみんなに見えるんだと思ってたんだけど・・・そうじゃないってさっき教えてくれたから。」

『・・・・・・・・・・。』


ルーが黙り込んでしまった。やっぱり、おかしいよね。2人にだけ見えるって。小さい頃からずっと一緒にいるから私の変化に気づける・・とか、そんなわけないし。


『真珠紅様、その知り合いとは距離を置いた方が良いかもしれません。』


え?


『確かなことは言えませんが、真珠紅様のいる世界が魔法の存在しない世界で、一般の人には真珠紅様の紅い瞳が見えないということでしたら・・・・、その知り合いの方は・・・。』


ルーはそこで一度言葉を止めた。


『いや・・・しかし。・・・・・まさか。』


まだ考えを巡らしているようだ。


「ルー?」


待ちきれずに呼びかけてしまう。早く答えを知りたい。もう私が一人で考えても答えが出ないということは十分に分かっている。私の呼びかけに、ルーはすぐに応えてくれた。


『失礼致しました。真珠紅様、その知り合いの方は魔力を持っている可能性が高いです。・・・つまり、こちらの世界の住人ということになります。』


あーくんとはるちゃんがルーがいる世界の住人?そんなはずない。そんなこと一度も聞いたことない。


『可能性は2つあります。一つは、我々に敵対する者たちが真珠紅様の覚醒を辿ってそちらに向かった。そして、もう一つは・・・』


「ローレンスとベルデ・・・。」


私はその可能性に辿り着き、自然と言葉をこぼしていた。私の言葉にルーが肯定を示したけれど、その後にまだ可能性であって確定ではありませんと続ける。


『どちらにせよ、今は警戒するのが良いでしょう。ローレンスとベルデなら貴方に必ず話をするはずなのです。何も告げられていないとしたら・・・何か問題が生じたか、敵であるか・・・。』

「2人は敵じゃない!絶対に。今までずっと私を支えてくれていた大切な人たちだよ!そもそも敵って何?その人たちが私に何するの?」


私の大切な幼馴染みを悪者かもしれないって言われた気がして早口で否定した。絶対に違うから。


『そうですか。とにかく警戒は怠らないようにお願いします。何かあればすぐに私を呼んでください。出来ることは少ないですが、その耳飾りで盾の代わりくらいはできるでしょう。』


分かったと答えると、ルーがそろそろ休みましょうと言った。敵についての説明はまた後日、改めて教えてくれるらしい。

時計を見るとすでに日付が変わりそうな時間になっていた。

さすがに眠くなってきた。今日はいろいろなことがあり過ぎて。もう・・・眠りたい。何も考えたくない。イヤリングを握ったままベットに横になる。枕に顔を埋めると、お母さんがいつも使ってる柔軟剤の香りがした。


『真珠紅様、お休みなさい。どうぞ、良い夢を・・・。』


ルーの言葉が耳に心地よく響く。ルーは眠気を誘う魔法も使えるのかな?そんなくだらないことを考えながら瞼がどんどん重くなっていく。


「ルー。お休み・・なさい。」


意識が深く沈んでいく中、なんとかそれだけ彼に伝えた。

   


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