告白
私の部屋へ移動し、あーくんとはるちゃんに座ってもらった。ハートの座布団に座っているはるちゃんはなんだか少しそわそわしている。
私はベットに座り、横に置いてあるサイドテーブルの上に、握っていたイヤリングを置いた。
すると、それに気づいた2人がイヤリングに釘付けになる。
どうしたんだろう?
イヤリングを見たまま黙り込んでしまった2人に何度か声をかけたのだけれど、なかなか返事をしてもらえない。心配になりもう一度大丈夫かと声をかけた。
すると、2人が意を決したように真剣な表情になる。
「真珠紅、少し話を聞いてもいいか?」
どうしたのだろう?いつになく真剣に話しているあーくんの様子に胸がザワザワする。すぐにいいよとは返事出来ずに、固まってしまった。かろうじて首をかしげると
「・・・さっき、お前が助けを呼ぶ声が聞こえたんだ。」
!?・・・・・・なんで?
確かにさっきは恐怖でパニックになっていた。正体の分からない力に捉えられ助けてと叫んだ・・・・心の中で。
怖くて、苦しくて、声が出なかったはずだ。あーくんとはるちゃんに聞こえるはずないよ。
「真珠紅、大丈夫だよ。俺たち真珠紅の言うことならどんなことでも信じるから。」
何?どんなことでもって・・・はるちゃんは何を知ってるの?私は・・・何をどう説明すればいいか分からないよ!
水に包まれて違う世界に行ったって言えばいいの?そんなこと聞いて、本当に信じてくれるの?
「お前が何か困っているなら助けてやりたい。何かに怯えているなら俺たちが守ってやりたいんだ。」
あーくんとはるちゃんはいつも私を助けてくれる。小さい頃からずっとそうだった。でも・・・異世界だの魔法だのは流石に2人でも無理だよね。もう連れていかれないように守ってって言われても困るでしょ?
「真珠紅・・・大丈夫。大丈夫だよ。」
すべて話してしまいたい。私1人だけで抱えるには重すぎる。完全にキャパオーバーだよ。
きっと、この2人ならちゃんと話を聞いてくれる。
そう信じたい・・・。
そう信じないと・・・不安に押しつぶされてしまいそう。
2人が私の側に寄り、真っ直ぐに瞳を見つめられた。
その瞳は真剣そのもので、強い決意を秘めているように感じた。
「あのね・・・・・私・・・。」
私は・・・あーくんとはるちゃんを信じる。小さい頃からずっと一緒にいる幼馴染みを。絶対にちゃんと話を聞いてくれるはずだ。今までだってそうだったから。
信じると決めると、私の中にため込んでいたものが次々と口から言葉として零れてきた。
「私、さっきお風呂で違う場所に連れていかれたの。」
どこから話せばいいか分からない。ただただ、現実に起きたことを箇条書きのように並び立てる。
「気がついたら神殿みたいな真っ白な空間にいて・・・。」
たぶん聞いているあーくんとはるちゃんは意味不明だと思う。
「そこで知らない人に会った。髪の長い男の人。その人が私を連れてきたって・・・。」
私の支離滅裂な話を静かに聞いてくれている。私が誰かに連れ去られた話をした所で2人は眉をひそめた。けれど、それは話を信じていないわけじゃなくて、私を心配しているのだと感じる。
その後も白い空間での出来事を一つ一つ話した。お風呂場では水に包まれて苦しかったとか、そこで出会った男の人はとても丁寧な言葉遣いだったとか。
私のなかでグルグルしているものを全て2人にぶつけていた。2人は途中、驚いた顔をしたり、心配そうな顔をしたりと、終始真剣に聞いてくれている。
やっぱり、私が思った通りだ。あーくんもはるちゃんも・・・とても優しい。
「そこで鏡を見たの。綺麗な石がたくさんはめ込まれた・・・大きな鏡。」
最後に、白い空間で出会った男の人に見せられた鏡のことを話す。
私の中で今日一番の衝撃だった・・・。
「その鏡の中には・・・銀色の長い髪に、紅い瞳の女の子が映ってたの・・・。」
その話をした瞬間、あーくんが目をギュッと閉じた。何かを堪えるような仕草がとても気になる。まだ鏡に映ったその子が私を映した姿だとは言っていない。それなのに、何故かそのことが分かっているみたい。
どうしようもない不安にかられ、ごまかすようにヘラっと笑ってみせる。
「こんな話されても正直困るよね?信じられないでしょ?・・・ごめん・・・・・。」
本当は『ごめん』の後に『忘れて』と言おうとした。けれど、どうしてもその言葉が出て来なくて・・・。
忘れてほしくなかったのだ。知っていてほしかった。
せっかく笑ってごまかそうとしたのに、それも失敗してしまった。
あーくんは閉じていた瞳を開けて私をもう一度真っ直ぐに見つめる。そして、両手で私の右手を強く握りしめる。ほんの少しだけ痛かったけれど、振り払おうとは思わない。
「真珠紅、俺は・・・・お前の話を全て信じる。そして、これからはお前が怖い思いをしないよう・・・ずっと側にいて守るよ。必ず。」
あーくんの言葉は私の中にスッと染みこんできた。
やばい・・・泣きそう。
真っ直ぐ見つめてくる瞳から少し逃げようと横を向くと、ベットの横の床に膝をついたはるちゃんが視界に入る。はるちゃんもあーくんと同様、真剣な眼差しをこちらに向けている。
「俺も信じるよ。今までだって真珠紅の話を一つも疑ったことはないし、これからもそれは変わらない。安心してね。」
もうダメだ。
そう思った時には、私の瞳からたくさんの涙が溢れていた。我慢したのに。泣かないように。これ以上、2人を心配させないように。2人が私のことを大切に思ってくれているのと同じように、私も2人が大切なんだから。
「うぅ・・・っ。あ・・・あり・が・・・と。・・・・ふっぅ・・ぅ・・。」
声を出して泣いてしまった。右手はあーくんに握られているので、左手で目をこすろうとした。けれども、そっちははるちゃんに握られていた。しかたなく感情に任せて思い切り泣くことにする。
もういいや。顔がぐちゃぐちゃでも、みっともなくても、目の前にいる幼馴染みたちは私のことを嫌いにならない。ちゃんと側にいてくれる。
子供のように泣きわめく私を安心させるように、あーくんは頭を、はるちゃんは背中を優しく撫でてくれている。手はずっと握ったまま。私が落ち着くまでずっと・・・。
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しばらくして、私の涙もやっと引っ込んでくれたみたい。
それを確認すると、はるちゃんがゆっくりと口を開いた。
「真珠紅、少し落ち着いた?」
「・・うん。」
良かったと笑うはるちゃんはとても優しい顔をしている。
「あのさ、少し質問してもいい?」
それはそうだよね。さっきの私の話じゃ全然分からなかったと思う。不思議なことが起こったことくらいは伝わったはずだけど。
コクンと頷くと、2人が視線を合わせる。
「真珠紅を連れ去ったのってどんな人だった?髪の長い男の人ってことは分かったけど、他に特徴はあるかな?」
男の人の特徴・・・う~ん。何かあったかな・・・髪が長くて、マントみたいなのを着てて・・・あっ!そうだ。
「眼鏡の半分になったやつ・・・・えっと、モノクル?を着けてたような。あと、青みがかった髪色で・・・藍色の瞳。え~っと、確か・・・何とか・・オンディーヌっていう名前だったかな?」
ずっとルーって呼んでたから名前を忘れてしまった。でも、名前はそんなに重要じゃないよね。あきらかにこの世界の人じゃないもん。
しかし、名前を言ったところで2人が目を見開いた。今まで突拍子もないことをさんざん言っていたときは落ち着いていたのに、ルーの名前を聞いたとたん表情が変わったのだ。
「先生・・・。」
あーくんがとても小さな声で呟いた。
先生?誰のこと?
気にはなったけれど、それよりもまだまだ話したいことがあったので先に進めることにした。
「その人はまた迎えに来るって言ってたの。その為にこのイヤリングを持っててほしいって・・。」
サイドテーブルに置いていたイヤリングを目線で示す。両手はまだ2人に握られているから動かせないのだ。
「でも、私はもうあそこへ行きたくない!あの場所へ連れて行かれるとき、お風呂のお湯に包まれてすごく苦しかったし、怖かった。その時無意識に心の中で助けてって叫んだんだよ!いくら手を伸ばしても逃げられなくて・・・すごく・・怖かった。」
唇をグッと噛む。恐怖がぶり返してまた涙が出そうだったから。首をフルフルと横に振り、本当に嫌なのだと訴えた。
あーくんが辛そうな顔をしている。きっと正体の分からない力に抗う術が見つからないのだろう。
はるちゃんはというと、握っている私の手をもう一度握り直し、大丈夫だと囁く。
次にルーが迎えにくるのはいつだろう。力が回復してからって言ってたけど、それってどのくらいかかるの?迎えに来るときは何か合図してくれるのかな。その時はあーくんとはるちゃんも一緒にいられる?
またお風呂の時に連れて行かれたら・・・嫌だな・・・。
もう連れて行かれるのは嫌だ。けれど、それが抗えないことだということはなんとなく分かる。
だって・・・ルーにとって、私は重要人物のような気がしたから。
それに・・、まだあーくんとはるちゃんに言っていないことがある。
私が・・・鏡に映った銀の髪で紅い瞳の女の子その人だと言われたこと。
正直まだ信じられないけど、紅い瞳は今まで何度も見てきた。気持ちが昂ぶったときに・・・。
あれ?そういえば・・・・今は?私の瞳はどうなってるの?
今、私はとても気持ちが不安定だ。ということは・・・。
チラッと壁に立て掛けてある全身鏡を見る。毎朝の身だしなみチェックで使っている鏡だ。最近毎日のように紅い瞳を映し出す鏡、そこには・・・私の手を握ってくれている2人の後ろ姿と、紅い瞳の私が映っていた・・・。
「・・・ぃ・・や!!」
紅い瞳を見られていたことに動揺してしまった。私が小さく声を上げたことに気がつきはるちゃんが心配そうにこちらを見上げる。
「真珠紅?どうしたの?」
!!
バシンッ!!
はるちゃんと視線が交わり、紅い瞳を隠したくて2人の手を思い切り振り払ってしまった。
自由になった両手は、先程まで感じていた温かいぬくもりをなくし、急激に冷えてしまう。冷えた両手で急いで両目を覆う。
「わ、私・・・今、目が・・・・・。」
沈黙が落ちる。
さっき紅い瞳について少しだけ話したけれど、実際に見られるのは怖い。気味悪がられたら・・・。
はるちゃんが大丈夫だと言っているけれど、なかなか手をどけられない。
「真珠紅・・・大丈夫だ。俺たちは、もう何度もその瞳を見てる。」
あーくんがこれから話すことに更に衝撃を受けるとは知らず、私はそっと両手を自身の瞳から放した。




