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十二宝珠・オパール2

「魔石は魔力を注ぐと光り輝きます。次は手の平から魔力を放出する訓練を行いましょう。」


まずは私がお手本を見せましょう。

彼らに渡したものと同じ大きさの魔石を取り出し、手の平に乗せました。それを彼らがよく見えるように顔の近くまで持っていくと、ゆっくりと魔石に魔力を注ぎます。すると、私の魔力を吸収した魔石がほんのりと光を帯びました。最初は弱い光でしたが、徐々に注ぐ魔力を増やしていくと、比例して魔石の光も大きく強くなります。


「このように、魔力量に応じて魔石の光り方も変化します。また、魔石の種類や大きさによっても吸収できる魔力量が違いますので、最初は少しずつ魔力を注ぐようにしてください。許容量以上の魔力を注ぐと、魔石が割れてしまいますからね。」


私の手の平で光っている魔石を見つめながら説明を聞いていると、ベルデが首を傾げました。


「ベルデ、何か気になることがありましたか?」

「魔石の光り方は分かったのですが、どれくらいの魔力量で魔石が割れてしまうのかはどうやって判断すれば良いのでしょうか?」


ベルデは少し言いにくそうにしながらも、疑問に思ったことをきちんと質問してくれました。

きっと、この子は伸びるでしょう。


「そればかりは経験値を積むしかないですね。また、魔石の種類でだいぶ差があります。こちらは座学で学びましょう。本日は実技ですので、怖がらずに挑戦してみてください。そのため、こちらに小さな魔石をたくさん用意しました。」


私は持ってきていた道具箱の蓋を開け、色とりどりの魔石がぎゅうぎゅうに詰められた中身を見せました。ほぼクズ魔石ですが、初めて魔力を注ぐ彼らにはちょうど良い教材になります。割れてしまった欠片は後ほど魔道具の材料に使用できますし、弱い魔石の方が簡単に光りますからね。


「では、実際に魔力を魔石に込める練習を行いましょう。ローレンス、まずは貴方からです。」

「はい!」


はっきりと力強い返事をした後、ローレンスは立ち上がって手の平に魔石を乗せました。


「先程、貴方は魔力の塊を感じたと言っていましたね?今度はその塊を魔石を持っているほうの手へ移動させるイメージで動かしてみてください。」


私の言葉を聞いた後、ローレンスはコクリと頷き、魔石を見つめました。緊張しているのか、わずかに眉間に皺が寄っています。一つ、大きく息を吸い込むと、それを一気に吐き出しました。目を閉じ、身体の中に流れる魔力に集中します。


すると、ローレンスの身体が先程と同じように魔力を帯び始めました。ユラユラと動き出す魔力が徐々に塊となり、魔石が乗っている手へ移動を始めます。


そろそろでしょうか。


「ローレンス、そのまま魔力の塊を手の平に溢れさせるイメージです。」


ブワッ


ローレンスの手の平から魔力が溢れ出したのが分かりました。隣で見ていたベルデもそれを感じたのか、大きな瞳をパチパチさせています。

しかし、溢れ出した魔力は魔石に注ぎ込まれず、宙へ霧散してしまいました。魔力を与えられなかった魔石はもちろん光るはずもなく、そのままの状態でローレンスの手の平に鎮座しています。


「・・・・・・・・失敗しました。」


魔石を光らせられなかったことが悔しいのか、ローレンスはギュッと下唇を噛みました。ベルデはそんな兄の姿を見て、なんと声を掛ければよいか悩んでいるようです。




・・・・私は、たったの一度でここまで出来ると思っていませんでした。


今日は魔石を光らせる練習をしましょうと言いましたが、今回で成功出来るはずはないと。せいぜい体内に流れる魔力を少しでも感じ取れれば良いと・・・そう思っていました。


それなのに、目の前の幼いローレンスはたったの一度目で手の平から魔力を溢れさせた。

なんて・・・なんて素晴らしい!!!


「ローレンス!」


ビクッ!!?


私は興奮から意図せず大きな声を出してしまいました。それに驚いた2人は肩を強ばらせ、失敗したことに叱られるのではないかと怯えてしまいました。

あぁ、そうではないのに。


「ローレンス。」


怯えさせないよう、今度は優しく穏やかに彼へ呼びかけました。ビクビクしていた彼は、上目遣いに私の方へ顔を上げ、『はい・・。』と小さく返事をしました。


「大変、結構です。素晴らしいですね。今日は貴方の才能に驚かされてばかりです。こんなに心がワクワクしたのは久しぶりです!」


・・・・・・・・・・・・・・。

・・・・・・・・・・・・・・・・?


ローレンスから言葉が返ってきません。


「ローレンス?」


しかたなくもう一度名前を呼ぶと


「・・・はい!あ、ありが・・・・ございまっ・・・ぅぅ。」


なんと、ローレンスが泣き出してしまいました!何故でしょう!?

わ、私は最大限に褒めたつもりなのですがっ。何がいけなかったのでしょう!?最初に興奮して大きな声を出してしまったからですか!?それとも、やはり魔石を光らせられなかったことが悔しいのですか?でも、それは誰にでも出来ることではありません。魔力があり、何度も訓練を重ねた者が出来るようになることです。こんなに幼い子供が一度の訓練でここまで出来る方が希有なことなのです。


ローレンスの泣き顔を見ながら、頭の中はパニックになってしまいました。なんとかローレンスを泣き止ませようとあたふたしていると、隣からベルデが声をかけてきました。


「先生、兄様はオンディーヌ先生に褒められて、嬉しくて泣いているのです。だから気にしないでください。すぐに落ち着くので。」


そ、そうなのですね・・。先程まで大人びていた子が急に泣き出すので、私も少々取り乱してしまいました。それにしても、ベルデは兄の扱いに慣れていますね。さすが兄弟です。




・・・気を取り直して。

次はベルデの番ですね。

ローレンスは気持ちが落ち着くまでソファで座っているよう言い渡しました。


「さて、次はベルデが挑戦してみましょうか。」

「はい!頑張ります!」


フフ。子供がやる気を出して頑張っている姿はなんて微笑ましいのでしょう。私の息子はもう成人してしまったので、久しくこんな様子を見ていません。早く孫が生まれればまた見られるのでしょうか。


「ベルデ、貴方はまず魔力コントロールからもう一度やってみましょうか。先程の体内の魔力を感じ取る練習です。一度、魔石をテーブルの上に置いてください。」


ローレンスは上手に魔力を動かしていたけれど、ベルデの場合はまだしっかりと感じ取ることが出来ていません。いくら魔力量が多いといっても、大人とまだ幼い子供では魔力が入っている器の大きさが違います。その為、ベルデの場合は体中の魔力をかき集め動かす必要があるのです。魔石を光らせることができるだけの魔力を。

ベルデが言われたとおり応接セットのテーブルの上に魔石を置くと


「先程のように目を閉じて集中すれば良いのですか?」

「ええ。魔力を感じ取れたら教えてください。」


静かに目をつむり集中し始めました。緊張しているのか、両手を膝の上でギュッと握りしめています。

少し身体に力が入りすぎているようですね。


私はベルデがリラックスして訓練できるよう、そっと彼の両肩に手を添えました。そのまま軽くさすり、


「力を抜いてください。・・大丈夫。貴方の中にはちゃんと魔力が存在していますよ。生まれたときからずっと一緒なので、気づきにくいだけです。」


私が肩に手を置いた瞬間、ベルデの身体がビクッと震えました。しかし、私の言葉を聞くと、少しずつ力んでいた肩が下がり、表情も幾分か和らいだようです。


そのまま更に集中し続けます。すると、ベルデの握っていた拳がゆっくりと開いてきました。

何かを感じ取ったのでしょうか。


「あっ!・・・・せ、先生!」

「どうしました?」


少し気持ちが急いたようにベルデが私へ呼びかけました。


「ぼ、僕・・・分かりました!今、魔力が段々と集まってきて・・・・僕の思ったところに動いてくれます!!」


そこでベルデがカッと目を見開きました。すると、テーブルの上に置いていた小さな魔石に彼の視線が移動します。


まさか!?


「ベルデ、そのまま魔石に手をかざしてみてください!手の平と魔石を繋げるイメージで魔力を糸のように伸ばしていくのです。」


まさか・・・この子は・・・・・。


ベルデは右手を魔石にかざし、左手を自信の右手首に添えました。そして、魔石をじっと見つめたまましばらく動かないでいると・・・


・・・キラッ・・・・・・・・


小さな魔石はキラキラと輝き始めたのです。その光はとても弱く、今にも消えてしまいそうなほどです。己が輝きを保とうと点滅しながら一生懸命光っている様が、美しく、純真で、真っ直ぐな、ベルデそのもののような気がして・・・




魔石の輝きに見入っていると、隣で休憩していたローレンスから声が上がりました。


「ベルデ!すごいじゃないかっ!!成功だ!」

「に、兄様っ。・・ありがとうございます!」


ローレンスは自身が出来なかったことを成し遂げた弟に嫉妬するでもなく、素直に喜び、賞賛しました。

兄に褒められたベルデもとても誇らしそうに微笑んでいます。


その時、集中力が切れたのかベルデが右手をそっと下ろし、ふぅと息をつきました。それと同時に魔石の輝きも静かに消えていきます。


「ベルデ、よく頑張ったな!私も誇らしく思うぞ。帰ったら父様にも今日のお前の頑張りを報告しよう!」

「はいっ!兄様や先生がおっしゃっていたことを思い出しながらやってみたら出来たんです!兄様と先生のおかげです!」


ローレンスは自分のことを真っ直ぐに慕ってくれる弟が可愛くてしょうがないのか、はにかみながらベルデの頭を撫でてあげています。


兄弟のそんな様子を見ていると・・・・なんだか・・・・


ジワッ・・・・


なんだか胸の奥がキューーーっとなって涙が出てきてしまいました。


「せ、先生!?」

「先生、どうしたのですか??」


瞳をうるうるさせている私に気がつき、兄弟2人が慌てて声をかけてきました。

どうしたのかと聞かれても・・・・

どのように答えましょうか・・・・・・少々困りましたね。


「先生?大丈夫ですか?」

「オンディーヌ先生?」


なかなか答えない私のことを心配して何度も名前を呼んでくれています。

本当に純真で真っ直ぐな子たちですね。


「わ、わたくしは・・・・・。」


ようやく話し始めた私の話を聞こうと、瞬きも忘れたようにまん丸とした瞳で下からじっと見つめてきています。


「私は・・・このように素晴らしい弟子が2人もいることが、とても誇らしく、とても幸せです!」


思ったことを素直に口に出してしまいました。今この2人に伝えなければいけない気がして・・。


私の気持ちを聞いた2人は、一瞬ポカンと口を開けた後、花が綻ぶような満面の笑顔を私にプレゼントしてくれました。


この仕事を引き受けてよかった。私を選んでくれた、バナッシュ家、そしてローレンスとベルデに感謝します。この2人ならきっと・・・素晴らしい守り役になれるでしょう。いつか・・・まだ見ぬ主に出会い、守り、導く為に・・・たくさんの努力をするでしょう。


どうか、この2人の行く先が平穏であることを・・・。




「ローレンス、ベルデ。本日はここまでに致しましょう。私が想像していたよりもずっと成果を上げることができましたね。きっと貴方方の父君もたくさん褒めてくれることでしょう。私も今日は貴方たちの素質に本当に驚かされました。そして、これからの授業がより楽しみになりました。今日はたくさん魔力を使って疲れたでしょうからゆっくり休んでください。」


授業の最後の挨拶をしている間、2人は姿勢を正して話を聞いていました。そして私が話し終えると深くお辞儀をし


「「ご指導、ありがとうございました!ミスラ・オンディーヌ先生!」」


声を揃えてお礼を述べてくれました。




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