過保護な生徒会長
「き、きゃあっ!!」
「どわっ!!お、お前~あっぶねぇだろ!!」
「ひゃぁ!ご、ごめんなさい!」
「なんで俺んとこに向かって振り下ろすんだよっ!?」
「いえ、そんなつもりは全然・・・。」
先輩たちに勧められて、握っている薙刀を振り下ろした。そうしたら、思っていたより少ない力で振れてしまい、勢い余って日原先輩に薙刀が向かってしまっていた。間一髪のところで先輩が避けてくれたからよかったけれど・・・もし、先輩を殴ってしまったらって思うと・・・。
先輩の瞬発力ありがとう!
「おい、水沢!てめぇ、笑ってんじゃねーぞ!」
日原先輩が少し離れたところで見ていた水沢部長が笑っているのに気づき、声を荒げる。部長は
「アハハ。如月さん、今の絶対今日の仕返しでしょ?」
水沢先輩が爆笑しながらとんでもない発言をした。これは何が何でも否定しなくては!けっして日原先輩を狙ったとか、そんなんじゃないんだから!!そりゃ、部活中少しだけ・・むぅ~って思うときがあったけども。日原先輩は部活後にこうして私に付き合って残ってくれてるし。
「水沢部長!変なこと言わないでください。私、少ししか・・くっそ~って思ってません!!」
「少し思ってるのかよ!?」
あ、つい本音が・・・。
道場にもう一度部長の笑い声が響いた。
真珠紅の悲鳴が聞こえた。やっと兄さんに追いついた瞬間のことだ。
俺が園田さんと話している間に、兄さんは急いで道場に向かってしまった。後ろから呼び止めたけれど、無視された。確信犯だ。
兄さんは昔から真珠紅のことになると周りが見えなくなる。気持ちは分かるけれど、もう少し抑えてほしいな。幼稚園の時に真珠紅が男子にちょっかいをかけられた時も兄さんは激怒した。幼稚園に乗り込んで、真珠紅をいじめた奴を叩きのめすと・・・。
兄さんの背中の先、道場の中を覗くと・・・真珠紅が薙刀の木刀を振り回し、男に攻撃している光景が目に飛び込んできた。
何!?どういうこと?あいつが真珠紅に何かしたの!?
兄さんが急いで真珠紅の元へ向かう。どういった状況かがいまいち把握できないけど、俺も兄さんについて行った。
兄さんが真珠紅の後ろに回り込んだ。右手で薙刀を掴み、左手で真珠紅の腰を抱き押さえる。すると、ひゃっと真珠紅の肩が跳ね上がった。
「真珠紅、大丈夫・・俺だ。」
名前を呼ばれ振り返った真珠紅が、強ばっていた身体を緩め振り返る。
「あーくん?どうしてここにいるの?」
目をパチパチさせて真珠紅がのんきな声をだす。真珠紅の声を聞いて、ピリピリとした兄さんの空気が落ち着いた。眼鏡の奥の瞳が少しだけ和らいだのが分かる。たぶん、今・・・真珠紅可愛いとか思ってるんだろうな。
「真珠紅は・・・?すでに部活は終わっているはずだが・・ここで何をしている?」
「あっ!待ったよね?あーくん、ごめんね!先輩が残って薙刀触って良いって言ったから・・。」
「ほぉ?」
兄さんの目がギラっと鋭くなる。しーずーくー!それ以上しゃべらないでぇ~!
なんとなく状況を察した。また兄さんが暴走するのではないかと焦るけれど、真珠紅は何も気にしていない。仕方なく俺も真珠紅の近くに向かう。
「も、元宮先輩!?どうしてここに・・・?それに、遥も?」
「あっ、はるちゃん!」
水沢の他にもう一人知ってる顔が目に入った。日原だ。
あー、そういえば日原も同じ部活だったか。てっきり水沢と2人でいるのかと思ったけど、そうではなかったようだ。日原は真珠紅が握っている薙刀を避けていたようで、後ろに沿った体勢になっていた。
「それで?真珠紅だけどうして居残りなんだ?・・・まさか、先輩たちに強制されたのか?」
兄さんが視線だけ日原に向けながら真珠紅に問う。眼鏡のレンズが光に反射して表情がよく見えないが、まぁ、どんな感情かは分かるよね。・・・きっと怒ってる。いや、絶対怒ってる。
日原にもそれが伝わったようでヒッと息を吸う気配を感じる。
「あーくん、違うよ!私がお願いしたんだよ!先輩たちは私に付き合ってくれてたの。」
真珠紅の言葉に、兄さんの視線が更に鋭くなる。
視線を一身に受ける日原が石のように固まった。仕方なく間に入ることにした。
「真珠紅、俺たち2人で武道館の入り口で待ってたんだけど、なかなか真珠紅が出て来ないから心配してここまで来たんだよ。」
俺の話を聞いた真珠紅は申し訳なさそうに眉を下げた。しょんぼりしている姿も可愛いけれど、ここはちゃんと遅くなった理由を聞かなきゃ。
「水沢と日原に薙刀教えてもらってたの?でもそれって部活内でやることだよね?一緒に帰る約束してたんだから、遅くなるときは連絡しようね?」
「・・うん、ごめんなさい。」
真珠紅が薙刀をギュッと握りしめながら謝る。この素直なところもやっぱり可愛い。
俺たちの話を聞いていた水沢が居残りの理由を説明してくれた。
要するに、1日の練習メニューについていけない真珠紅が、今日は薙刀を触らずして部活動の時間が終わってしまったようだ。同級生は先輩たちに混じって薙刀の練習をしていたけど、真珠紅だけストレッチと体幹トレーニングでいっぱいいっぱいだったと・・・。
そこで、落ち込んでいた真珠紅に見かねた日原が残って薙刀を触らせてあげていたらしい。
・・・笑っちゃいけないのだけれど・・・。
何より、厚意で真珠紅に薙刀を持たせていた日原がかわいそうだ・・・。部活中ずっと真珠紅のトレーニングに付き合って、その後は薙刀でぶたれそうになり、そして最後は兄さんの鋭い視線を受けている。
今もまだ兄さんは日原から視線を外さない。ほんと、かわいそう。
「・・・プッ・・・・・アハハ!」
ダメだ、日原がかわいそうで・・・笑っちゃいけないけど・・無理!おもしろすぎる!
水沢も、兄さんに気づかれないようにクスクスと笑っているし!日原だけがずっと石のように固まっていた。
「は、はるちゃん?何がおかしいの?」
そして、真珠紅はやっぱり可愛い!球技が苦手なのは知ってたけど、他にも苦手なことがあったんだ。
あ~、俺も真珠紅がトレーニングしてるとこ見たかったなぁ。今度こっそり見学に来ちゃおうかな。うん、そうしよう!
真珠紅は比較的なんでもできる。勉強も運動も。ただ引っ込み思案な性格と少しおっちょこちょいだから表に出ないだけで。本人はそれに気づいてないけどね。たぶん、自分では受験もなんとか受かったとか思ってるんだろう。
この学園のレベルは高い。しかもA組はその中でもトップの学力の生徒が集められていた。私立ではよくある、学力順のクラス分けなのだ。
つまり、真珠紅は余裕で合格していたってこと。
とりあえず、真珠紅に何事もなくてよかった。・・そろそろ兄さんの怒りも収まったかな?
チラッと兄さんと日原に視線を向ける。
兄さんはすでに日原に興味をなくしたようで真珠紅しか見ていない。
「真珠紅、気が済んだならそろそろ帰ろう。おばさんが心配する。」
「そうだね、真珠紅帰ろう。」
兄さんと俺が帰宅を促すと、片付けをするから少し待っててほしいと言われた。
「日原先輩、薙刀は向こうの棚にしまえば良いですか?」
「お、おう。倉庫の扉にぶつけないように横にして持っていけよ。」
石化から回復した日原に場所を教えてもらい、真珠紅が用具室に入っていった。残ったのは俺と兄さんと水沢と日原。少しだけ気まずい。一瞬の沈黙が流れる。・・・水沢は別に気にしていないようでニコニコしているけれど。
「それで、なんで元宮があいつの迎えに来るんだ?」
「あいつ?」
日原のあいつ呼びに兄さんが反応する。
「い、いや、如月っす。」
「如月さんは元宮兄弟と幼馴染みらしいよ。僕はこの前、弟の方に怖い目で睨まれたからね。」
ニコっと微笑みながら余計なことを言う水沢。もう、ほんっとめんどくさい奴だな。こいつの空気読まないとこほんとやだ。
「あ、そういえばさっき如月さんが日原に壁ドンされてたよ。」
・・・・・・・・・・。
「「何!?」」
兄さんと声がそろってしまった。いや、それよりも壁ドンってどーゆーこと!?
「水沢、てめぇ!マジで空気読まない奴だな!?余計なこと言ってんじゃねーぞ!」
あ、やっぱり日原もそう思うよね?
一瞬だけ日原に同調して冷静になる。しかし、壁ドンというワードにまた感情が騒めく。
兄さんはすでに日原に詰め寄ろうとしている。そこへ
「お待たせしました。先輩、片付け終わりました。」
片付けを終えた真珠紅が戻ってきた。
「水沢部長、日原先輩、今日はありがとうございました!また明日よろしくお願いします。」
深くお辞儀をして礼を述べる真珠紅に力が抜ける。落ち着いて考えたら日原は壁ドンなんてする性格じゃない。きっと水沢がわざと大袈裟に言ってるだけだろう。笑ってるし。
兄さんも水沢の表情を見てそう思ったのか殺気が消えた。
・・・たぶん。
「如月さん、明日は僕が剣道を教えてあげるからね。今日はゆっくり休んで。」
水沢が楽しそうに真珠紅に話しかけている。なんか、あいつこの前から真珠紅に構い過ぎている気がするんだよな。
そして、真珠紅も人見知りのくせに水沢とは力を抜いて話している。今までこんなことなかったのに・・・。
「それじゃ、門まで僕も一緒に帰ろうかな。日原もね。元宮先輩、ご一緒してもいいですか?」
兄さんはイヤそうな顔をしていたけど断わらなかった。まぁ、門まで全員同じ方向だし。断わったとしても一緒になるよね。
日原だけは『はぁ!?お前勝手に決めんなよ。』と水沢に文句を言っている。さっきの兄さんの睨みがトラウマになっているようだ。
武道館を出るともう外は暗くなっていた。真珠紅の両親が心配するといけないと思い連絡を入れるよう真珠紅に促す。
「じゃあお母さんに電話するね。」
「真珠紅、おばさんには俺からさっき連絡いれたよ。心配するからな。」
いつのまに。ほんとに真珠紅に対しては過保護だよね。
「如月さんと元宮兄弟は家も近いの?」
「お隣さんなんです。幼稚園の時からずっと一緒で。小さい頃は毎日2人に遊んでもらってました。」
真珠紅の口から俺たちとの思い出が語られているのを聞いて、少しだけ幸せな気持ちになった。隣を見ると、兄さんも微笑んでいる。俺たち兄弟の大事な宝物に、また愛おしさを感じた。
「それで生徒会長はこんなに如月さんを大事にしてるんですね。さっき道場に入ってきた時は僕も少し驚きました。」
嘘だ。水沢は終始ニコニコしていただろう。
水沢の言葉に後ろにいる日原もうんうんと頷いている。・・・日原が一番ビックリしたよね。なんかごめん。
「真珠紅は俺たち兄弟にとって大切な子だ。帰りが遅ければ心配するし、何か困っていたら助けるのが当然だろう。」
兄さんが胸を張って言い切った。まぁ、その通りなんだけど。
「フフ、如月さんに対してとても過保護ですね。」
水沢が口元に手をあて、とても綺麗に微笑んだ。・・・少し黒いものが見えた気がした。
「・・・まるでお父さんみたいだ。」
・・・・水沢!!それ言っちゃいけないやつ!!!!




