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薙刀2

ただいま姿勢を正すストレッチ中です。

先ほど日原先輩から腹が出ているとの指摘を受けました。ありがとうございます。




私がショックでフリーズしていると、水原部長が近づいてきた。少し笑いながら・・・。

園田さんにもクスっと笑われてる気がする・・。


「如月さん、日原の言ったお腹が出てるっていうのは、太ってるとかそういうことじゃないからね。姿勢が悪くてちゃんと真っ直ぐ立てていないからお腹が前に突き出している体勢になってるってことだよ。・・・日原も、ちゃんと説明しないと!如月さんがショックを受けてフリーズしてるじゃないか。」

「こいつが太ってないのは誰が見ても分かるだろ。いちいち説明する必要あるか?」

「あるよ。少しは女の子の気持ちもくみ取ってあげて。」


・・・部長もね。


それから日原先輩に壁際に来いと言われた。怖い生徒に呼び出しを受けた気分だ。ビクビクしながらついて行くと、壁に背中とかかとを付けて立つよう指示される。言われた通り壁を背にして立つ。


「あー、全然ダメだな。」


そう言いながら日原先輩が両手をこちらに伸ばしながら近づいてきた。


えっ?なになになに?

これは!!!!

まさか、都市伝説の壁にドンとするやつではないでしょうか!?


先輩の腕で逃げ場がなくなる前にひょいっと横へ素早く移動する。


「っ!!・・・っんなんで逃げるんだよ!!?」

「だ、だって・・・。」

「だってもクソもあるかっ!正しい姿勢を教えてやろうと思ったのに!」

「えっ!だって先輩、壁にドンって・・・・・。」

「んなっ!!??」


ブハッ!


はい。やらかしました。部長が吹き出したことで気づきました。申し訳ないきもちで日原先輩を見上げると・・・・・めちゃくちゃ耳まで真っ赤になっていた。口をワナワナとさせて眉間にものすごく皺が寄っている。


こ、怖いぃぃ!!


「あ、あの・・日原先輩・・・?」

「あぁ?うるせぇ。お前はもう黙ってろ!」

「は、はい!ご、ごごごめんなさい~。」


日原先輩のすぐ後ろでは水沢部長がお腹を抱えて笑っている。


「水沢!!お前もうるせぇぞ。」

「アハハ。ごめんごめん。でも・・・・おかしくて・・フハッ・・。」

「ハァ~~~、くそっ。」


水沢部長の指導を受けていた森くんと佐野くんが遠くでこちらを窺いながら足裁きの練習をしている。私と一緒に日原先輩の指導を受けていた園田さんは・・・・・なんかすごく怒っているような?こちらに鋭い視線を向けながら立っているのが見えた。

あぁ、私のせいで園田さんの練習が止まってるんだ!日原先輩、私のことはいいので、はやく園田さんに指導してあげてください~!!

そう思い、恥ずかしさと申し訳なさで涙目になりながら先輩を見つめる。


「・・・っ。あんだよ?」

「あ、あの、園田さんを待たせてしまっているので・・・。」


日原先輩が後ろを振り返り園田さんを確認する。すると、


「おい、鈴木!こいつに姿勢を正すストレッチを教えてやれ。」

「は、はい!」


鈴木と呼ばれた先輩が私の所へ来てくれる。日原先輩より少し・・・いや、すごく優しそうな感じの先輩だ。


「鈴木先輩、よ、よろしくお願いします!」

「うん。じゃあ、まずは・・・」




と、いうことで現在に至ります。

鈴木先輩はとても丁寧にストレッチの方法を教えてくれました。このストレッチを毎日家でやるよう言われ、10分ほど私のストレッチに付き合ってくれました。感謝です。


「じゃあ、ストレッチの方法はもう大丈夫だね。この後はまた日原先輩のところに行ってね。基本姿勢について指導があると思うから。」

「はい。ありがとうございました!」


鈴木先輩が壁際から練習場所の中心に戻っていく。私の為に時間を割いてくれて、本当に申し訳ない・・。

日原先輩の所に戻ると、園田さんがすでに薙刀の木刀を握っていた。身長を大きく超える長さの薙刀を真っ直ぐ天井に向けて持つ園田さんが、とても格好良く見えた。


わぁ、すごい!私もはやく持ちたいな。もうすぐに持てるのかな?

ワクワクした気持ちで日原先輩に声をかける。


「日原先輩、ただいま戻りました!」

「おぅ、ちゃんと鈴木に教わってきたか?」

「はい!毎日家でもやるよう言われました。」


ストレッチはもう完璧です!なのではやく私にも薙刀を持たせてください!!

そう期待を込めた目で先輩を見上げる。


「んじゃあ、お前は体幹トレーニングな。」

「えぇ!?」

「えってなんだよ?まさか、もう薙刀持てるとでも思ってんのか?」


日原先輩が腰に手をあてながら睨む。こ、怖いけど・・・私も薙刀持ちたい。園田さんも持ってるし・・・。

そんなことを考えながら薙刀を持っている格好いい園田さんをチラチラと見ると、私の言いたいことが分かったのか先輩が呆れたような顔でため息をついた。


「あのなぁ、園田はすでにトレーニング終えてんの。お前が必死に腹をへこましてる間にな。」


くっ・・・ぅぅぅぅぅ。

悔しいけれど、何も言えない。何より、さっきだって私のせいで園田さんの練習を邪魔しちゃったわけだし。でも、でも!日原先輩は口が悪すぎだよ。


「おら、始めるぞ。こっち来い。園田はあっちのグループに混ざって基本練習だ。」

「・・はい。」


先輩が緑色のトレーニングマットの上に仰向けになった。お前はそこに寝転がれと、隣のピンク色のマットを顎で示される。おとなしくそこに先輩と同じように寝転がった。すると、先輩がトレーニングのお手本を見せてくれた。

・・・・きっと、さっきも園田さんにお手本を見せていたと思う。っていうことは、私のどうしようもない姿勢の悪さの為に、同じトレーニングを2回も教えなければならなくなったんだと気づいた。

ほんとだったら、私と園田さんの2人いっぺんに教える予定だったよね。


口調はずっと乱暴だったけれど、日原先輩の教え方もとても丁寧で分かりやすかった。呼吸の仕方とか、どこを意識して動くとか、細かいところまで教えてくれている。

途中、私が重力に負けて床にベシャっと潰れると、カエルみてぇにへばりついてんじゃねーぞ!と、励ます声がとんできた・・・。たぶん、きっと・・・・励ましてくれているのだろう・・・・。




「おしっ。これで体幹トレーニング終了だ。」

「!!・・じ、じゃあ、次は薙刀持っても・・・?」


やっと持てる!先輩たちみたいに薙刀を格好良く振りたい!


「あー、持つのはいいけど・・・。」


日原先輩がチラッと時計を確認した。


「もう整理運動と片付けの時間だな。」


なんと!?もう部活終了の時間なの!?

時計の針は6時をさしていた。やっと・・・やっと薙刀を持てると思ったのに!体操だけで今日が終わってしまった・・・。あんなに辛いトレーニングにも怖い先輩にも耐えたのに!ダメだ。悔しくて泣いてしまいそう・・・。


「おい、絶対泣くんじゃねーぞ?」

「な、泣きましぇん!!」


ブッハ!


遠くの方で誰かが吹き出す声が聞こえた。ええ、誰だかは分かっています。あえて気づかないふりをします。あの人は地獄耳も兼ね備えているのか・・。

日原先輩も吹き出す声に気づいたようで呆れた顔をしている。


「とりあえず、整理運動と片付けするぞ!その後、自分でちゃんと片付けるなら薙刀持っていいから。」


!!

えっ!?なんで?先輩が優しい。

聞き間違いかと思い先輩をジッと見つめる。すると、頭を右手でガシガシとかきながら


「あー、まぁ、文句言わず最後まで頑張ったからな。明日は剣道だし・・・今日薙刀持ちたかったんだろ?」

「はいっ!持ちたかったです。ありがとうございます!」


嬉しくて自然と笑顔になる。トレーニング頑張って良かった!


「ほら、向こう行くぞ。筋肉しっかりほぐさねぇと、明日身体辛くなるからな。」

「はい!」


先輩の背中を追って、みんなが整理運動している場に向かう。最後は柔軟したり、使った筋肉をもみほぐしたりしながら呼吸を整えていく。

周りの先輩たちに教わりながら片付けを行い、最後の終礼に入る。部員たちが水沢部長の周りに集まり話を聞く体勢に入った。

明日からの練習メニューや今日の反省などについて簡単に話し、一呼吸ついたところで最後の挨拶が告げられた。


「1年生は慣れない練習で疲れたと思います。今日はゆっくり休んで明日の稽古に備えてください。おつかれさまでした。以上。解散!」

「「おつかれさまでした!!ありがとうございました!」」


水沢部長の号令で皆が解散していく。私はというと、先ほど日原先輩から薙刀を持つ許可をもらったのでしばし待機だ。あーくんとはるちゃんはもう迎えに来てるかな?申し訳ないけど、もう少しだけ待ってて!そう心の中で叫ぶ。


「如月さん、着替えに行かないの?」


園田さんに声をかけられた。


「えっと、この後薙刀を持たせてもらう約束をしたから待ってるの。」


私の言葉を聞いた園田さんの視線が一瞬鋭くなった・・・気がした。もしかして、1回みんなで片付けたものをまた出すことについて怒ってるのかな?


「あ、少し触らせてもらったらちゃんと自分で片付けるから大丈夫だよ!」

「・・・そう。あまり遅くならないようにね。私は先に着替えて帰るから。」

「うん、また明日ね。」


バイバイと胸の前で小さく手を振った。園田さんから振り替えされることはなかったけれど、軽く首を傾げて『またね』と言ってくれた。


部員たちがほとんど帰ったところで日原先輩がこっちに歩いてくるのに気づく。先輩の右手には薙刀が1本握られている。隣には水沢部長もいた。

部長はまだ帰らないのかな?あっ、最後の戸締まりとかあるのかも!長くならないようにしないと!


「如月さん、おつかれさま。」

「おつかれさまです!」

「ほら、薙刀。」


日原先輩がぐいっと薙刀を突き出してきた。あまりの勢いに一瞬後ろに仰け反ってしまう。


「おら、持たねぇのかよ?」

「も、持ちます!」


恐る恐る薙刀に手を伸ばす。先輩から受け取り両手でギュッと握りしめてみた。

あ、思ったより重くない。すごく長いからもっと重さがあるかと思った。

縦に持った薙刀を少し上に浮かせてみる。これなら私でも振れそうだ。

今日ストレッチやトレーニングで終わってしまうと思った時はショックだったけど、少しでも触れて嬉しい!日原先輩は怖くて厳しいけど、副部長だもん、きっと面倒見が良いんだろうな。

薙刀を持てたことが嬉しくて、日原先輩への評価が急上昇した。ニコニコしながら上下に持ち上げる動作を何度か繰り返した。その様子を見ていた先輩たちが呆れたように笑いながら話しかけてくる。


「持ちたいって言ってたのは、ほんとに持つだけでよかったのかよ?一振りしてみればいいだろ。」

「フフ、日原が教えてくれるから振ってごらん?」


いいんですか!?

先輩たちの提案にワクワクが止まらない。思いっきり頷くと、日原先輩が構えを教えてくれた。



   ********************



武道館の前では元宮兄弟が幼馴染みの帰りをまっていた。


「真珠紅、遅いね。もう部員たち結構道場から出てきてるのに。」

「1年だから片付けでもしてるんじゃないか?」

「う~ん。それにしても遅くない?」

「・・・確かに。心配だな。」


そこで、遥が何かに気づいたように声を上げる。


「あれ?君、確か真珠紅の友達だよね?えっと・・・園田さん?」


遥に話しかけられた女生徒は立ち止まり一瞬俺の方を見てハッとしたような表情を浮かべる。

真珠紅の友人?同じクラスの3人とは違うから、部活でも友達ができたのか?


「元宮先輩・・・と、生徒会長。こんにちは。」

「うん。ねぇ、真珠紅は一緒じゃないの?」


遥の問いかけに園田と呼ばれた女生徒が顔をしかめる。・・・何だ?


「如月さんは部の先輩とまだ道場にいます。私はもう遅いので先に帰ろうと思って。」

「先輩と道場に?・・まさか、水沢?」

「はい・・。」


水沢?それは男か?どうして真珠紅はそいつといるんだ?

遥たちの話を横で聞きながら胃の辺りがムカムカしてきた。


「遥、道場まで迎えに行くぞ。」


そう言って、まだ女生徒と話してる遥を置いて歩き出す。目的地はもちろん剣術・棒術部の道場だ。確か2階だったはず。もう部員たちが帰っているというのに真珠紅は何故まだ出てこない?いったい何故、水沢とかいう奴と一緒にいるんだ?

武道館の入り口から2階の道場まではすぐだ。それなのに今はやけに長く感じる。真珠紅が今何をしているのか・・・そればかりが気になってしまい、自然と早足になる。少し後ろで『兄さん、待ってよ!』と遥の声が聞こえるが、今はあえて無視をする。振り返る時間が惜しい。はやく、1秒でもはやく真珠紅の元へ行きたい。



真珠紅は昔から人の目を惹いた。無理もない。ものすごく可愛いから。

幼稚園の時、よく同じ組の男子からいじめられて泣いていた。髪を引っ張られたり、後ろから押されたり。遥から話を聞いた時はものすごく腹が立った。俺の大事な真珠紅に手をあげるなんて・・・とても許せるものではなかった。幼稚園に乗り込もうと思ったら、遥に全力で止められた。そんなことをしたら、真珠紅が恥ずかしい思いをすると・・・。そして、いじめっ子からは自分が守るから安心しろと。

よくよく話を聞いたら、そのいじめっ子は真珠紅のことが好きだったらしい。見る目はあるが、身の程知らずだな。

小学校の時は1年だけだが同じ学校に通えたことが嬉しかった。黄色い帽子を被って登校する真珠紅が可愛くて可愛くて。登下校や休み時間など、可能な限り真珠紅の側にいた。低学年と高学年ではほとんど一緒にいれる時間はなかったが・・。年の近い遥がうらやましく感じたこともある。

そして、クラスの男子によく遊ぼうと声をかけられていたらしい。サッカーやドッジボールをやろうと。真珠紅は球技が苦手だから断わっていたようだが。あまりにも誘いが多く、断わるのが苦になったのか・・高学年になり、真珠紅は俺たち以外と関わるのが少なくなった。

・・・俺たちが構い過ぎたせいもあるだろうが・・・。


とにかく、真珠紅は人を惹きつける能力がある。それはしょうがない。生まれ持ったものなのだろう。

ただ、俺は許さない。真珠紅のことをよく知りもしないやつが近くに寄ることを。

今、道場で真珠紅は怖い思いをしていないか。俺たちがいなくて不安な気持ちになっていないか。

心配でどうにかなりそうだ。一刻も早く真珠紅の所へ向かわなければ!


数十秒後、道場のドアの前についた。


「き、きゃあっ!!」


っ!!!?

ドアの向こうから真珠紅の叫び声が聞こえ、息が詰まる。考えるより先に、力のかぎりドアを押し開けた。

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