剣術・棒術部
先日、無事に入部届けを提出することが出来ました!
先輩に笑われたり、先輩にぶつかったり・・・ちょっとしたアクシデントはあったけど、これで一つ前に進めた気がします!
ピンポーン
あ、お迎えが来たみたい。
入学してからは毎朝あーくん、はるちゃんと登校している。2人はいつも7時20分ぴったりに私の家のチャイムを鳴らす。本当は私が早起きして2人の家のチャイムを鳴らしたいのだけど、なかなかうまくいかない。別に朝が弱いわけではないと思う・・・。
最近、朝にボーッとしてしまうことが多い気がする。寝ているときも毎回夢を見ているような・・・。
たぶん、環境が変わって疲れているだけ。きっとそう。この前の耳鳴りも・・・。
そして・・・、今目の前の鏡に映っている紅い瞳も・・・疲れているだけ。
一度目を閉じる。次に開いた時には宝石のような紅い瞳じゃなくて、いつも通りの茶色い瞳に戻っているはずだ。
・・・・・・・・・・・・・・ほら。
ちゃんと戻った。大丈夫、大丈夫。
最初に紅い瞳を見たときよりも戻るまでの時間が長くなっていた。忙しくて気にしないようにしてたけれど、最近自分をごまかせなくなってきた。
「真珠紅ー!お迎え来てるから早く行きなさーい!」
お母さんの声が聞こえ、それ以上考えないことにした。
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「お待たせ!おはよう。ごめんね、少し遅くなっちゃった。」
玄関を開け、2人に挨拶する。チャイムが鳴ってから結構待たせてしまったけど、2人は笑顔で迎えてくれた。優しい2人に感謝しながら、明日こそ私がチャイムを鳴らそうと心に決める。
ん?
「おはよう、真珠紅。昨日はよく眠れた?」
「そういえば、最近夢を見ていてぐっすり眠れないって言ってたな。」
一瞬あーくんが私のことを観察するような視線を向けていた気がした。きっと心配性だから健康チェックでもしてたのだろう。
いつも通り3人で登校する。家を出発して最初の角を曲がったところで、はるちゃんが話しかけてきた。
「そういえば、真珠紅は今日から部活だよね。帰りは何時頃になるの?」
「えーっと、確か練習は6時までだよ。でも、今日は部員の紹介と部活動についての説明とかのミーティングだから早く終わるみたい。1時間くらいだって言ってた。本格的な練習は明日からだって。」
「そう・・・じゃあ今日一緒に帰ろうよ。迎えに行くから。俺も今日は事務処理が少しあるだけなんだ。ね、兄さん?」
はるちゃんが目線だけであーくんに確認をとる。あーくんが小さく頷く。
「私は大丈夫だけど、生徒会室って高等部の校舎だよね?武道場までくるの遠くない?」
「平気だよ。最近部活見学とかで真珠紅と全然遊べなかったから一緒に帰りたいんだ。帰りにクレープでも食べて帰ろうよ。」
「わぁ!クレープ!?食べたい!!」
「でしょ?じゃあ決定ね!武道場まで迎えに行くから待っててね!」
やった!はるちゃんとクレープだ。うれしい。
その時、隣で静かに話を聞いてるあーくんが気になった。あーくんは一緒に帰れないのかな?
「ねぇ、あーくんは一緒にクレープ食べに行けないの?」
「あぁ、今日は仕事がたくさんあるから、ごめんね。遥と2人で行っておいで。」
あーくんが申し訳なさそうに眉をハの字に下げて謝る。また我が儘を言ってあーくんを困らせてしまった・・。
「その代わり、今度の休みの日に3人で遊園地行かないか?まだ真珠紅の合格祝いしてなかっただろ?」
!!!
思ってもいなかった嬉しい提案に目を見開く。
「ほんと!?3人で行けるの?」
両隣にいるあーくんとはるちゃんを交互に見て確認する。2人とも笑顔で頷いてくれた。
********************
学園の門をくぐり、噴水の所まで歩いてきた。すると、噴水の前に玖遠先輩が立っているのが見えた。
「あれ?玖遠、おはよう。何してるんだ?もしかして俺のこと待ってた?」
「・・・べつに。お前を待っていたわけじゃない・・・・。」
玖遠先輩はイヤそうな顔であーくんを睨む。その後、チラッと私の方に視線を向ける。
あっ!挨拶!
「おはよう、玖遠先輩。」
「玖遠先輩!おはようございます!」
「!・・・・・っ・・・・・・・・・あぁ・・おはよう。」
あ、あれ?なんかすごく間があったような・・・。眉間に皺が・・・。もしかして、はるちゃんにつられて名前呼んじゃったから怒ってる!?
内心焦っていると
「如月。」
先輩に呼ばれた。ん?あーくんじゃなくて私?
首を傾げながら先輩を見上げる。
「・・・この前、具合悪そうにしてたけど・・大丈夫か?」
この前?このまえ・・このまえ・・・あ!躓いて先輩にぶつかった時だ!
「だ、大丈夫です!あの時はぶつかってしまってすみませんでした。」
「いや、大丈夫なら・・いいんだ。」
まだ何か言いたそうな玖遠先輩が気になったけれど、はるちゃんと中等部に向かうことになった。
そういえば、先輩は噴水の前で何してたんだろう。まさか私の体調を心配して待ってたわけじゃないよね?
あーくんと並んで高等部に入っていく背中を見送る。
やっぱりあーくんを待ってたんだね。・・・先輩、もしかしてツンデレ?
「じゃあ、生徒会の仕事終わったらすぐに武道場に行くから。ちゃんと待っててね。」
「分かった。クレープ楽しみ!」
下駄箱の前でクレープに喜んでいると、はるちゃんに頭を撫でられてしまった。周りの女子が小さく悲鳴を上げるのが聞こえる。
いや~!とか、尊いとか。いろいろな悲鳴が。
はるちゃんと別れ、1-Aの教室に入ると私の周りに友達3人が集まってきた。おはようと挨拶を交わし席に着く。宿題の話や、昨日のテレビの話など、そんな何でもないようなことを気軽に話せるのが嬉しい。
おしゃべりに夢中になっているうちにチャイムが鳴りHRが始まる。
午前の授業が終わり、ランチタイムだ。お昼もやっぱり4人で過ごす。今日はみんなお弁当を持ってきていたので中庭のベンチで食べることになった。中庭のベンチは結構人気で座れないこともある。今日は運良く空いていたので向かい合わせになっている2つのベンチに2人ずつ腰掛けた。私と薫ちゃん、日和ちゃんと桃子ちゃんの組み合わせだ。それぞれが膝の上にお弁当を広げ食べ始めた。おしゃべりしながらお弁当を食べると、あっという間に時間が過ぎていく。
「そーいえば、真珠紅は今日から部活だよね?」
日和ちゃんが空っぽになったお弁当箱を片付けながら尋ねてきた。私は最後の一口を口の中に放り込み頷く。
「今日はミーティングだけなの。練習は明日から。」
さっきはるちゃんに話したことと同じ説明をする。みんなも今日から本格的に入部するようで忙しいようだ。
放課後一緒に帰ったり遊んだりはなかなかできないけれど、こうしてお昼とかに近況を話し合える友達がいるってすごい!
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そして放課後
急いで武道場に向かう。時間には余裕があるのだけれど、できるだけ早く部屋に入りたい。ドアを開けた瞬間にこちらに向く視線が苦手だ。できるだけ人数が少ないうちに席についていたい。
自意識過剰だよね。
今日はミーティングなので剣道場の隣にある部屋に集合だ。部屋の前に到着し、ドアを開ける前に一度深呼吸した。緊張しながらドアをノックし中へ入ると・・・
「あれ?早いね。」
部屋の中にはまだ1人しか来ていなかった。部長だ。全然知らない人じゃなくて良かったと少しホッとする。部長の言葉に時計を確認するとまだ集合時間の20分前だった。
早く来すぎてしまった・・・。
部長の顔に安心したけど、よく考えたら他の人が来るまで部長と2人きりじゃないか。それもちょっと緊張するな・・。ずっと下向いて座っているわけにもいかないし・・・ど、どうすれば・・・・・。
とりあえず端っこの方の席に向かい座ろうとした・・・けれど、
「あ、君の席はこっちね。」
部長が前の方の席をトントンと指先で鳴らした。席、決まってたんだ・・・。仕方なくそちらへ移動した。ホワイトボードの前で、部長が机にプリントを綺麗に並べている。横長な机の上にはプリントの山が5~6ある。その山からプリントを1枚ずつ取った部長は、端を丁寧に揃えて私に手渡してくれた。
!!
「す、すみません。ありがとうございます。」
「フフ、早く来たご褒美。」
プリントの束を確認すると、一番上にピンク色の飴が乗っていた。仕事を終えたのか、部長が私の前の席に横向きに座る。
・・・部長はそこの席なの?なんで横向きに座るの?これって、会話する体制だよね。な、なんかすごい見られてる気がする・・・。
「あ、あの・・早く来すぎてしまってすみません。仕事の邪魔でしたよね?」
「ん?そんなことないよ。むしろ時間までほとんどやることがなくて暇してたんだ。君が早く来てくれたおかげで話し相手ができてうれしいよ。」
首を少し傾げ、にっこりと微笑む部長が美しすぎてムリ!私では部長の話し相手は務まりません!そう言えるわけもなく、
「それなら・・よかったです。」
・・・・・・・・・・・・・・・
ほら!!もう会話ないじゃん!
何を話せばいいか焦っている私を、部長がニコニコしながら眺める。
・・・・・・・・・・・・・・・
え?
え?
どうすればいいの?
このまま黙って下向いてていいの?ダメだよね。よしっ!何か話そう!
そう思い、一度上を向く。口を少し開き話そうとしたけれど、そのまま噤む。その行程を何度か繰り返したところで・・・
「・・・っ、アハッ!ダメだ、ごめっ!・・・フフ・・・アハハ」
!!???
部長が爆笑している。なぜ?
私はまだ面白い話を一つもしていない。それなのに部長はお腹を抱え笑っている。何がそんなにおかしいのか・・。
「フフ、ごめんね。・・今日はかまないのかなって思って少し君を観察してた。そしたら今度は口をパクパクさせて金魚みたいなんだもん。・・・アハハ!可愛すぎてついつい笑っちゃったよ!」
・・・つまり、私で面白がっていたということですね。むぅぅぅ。
恥ずかしさでプクっと頬が膨らむ。そんな私に気づいた部長が、お腹を抱えていた手をおもむろに私の方へ伸ばしてきた。部長の手が私の頬のところまで伸びてきたので一瞬ビクっとなる。
プ二
ほっぺを人差し指でつつかれた。
「アハッ、プ二プ二!」
顔がカァーっと熱くなる。
部長ってこういう人なの!?最初の印象とすごく違うんだけど!もっと真面目で静かで剣道強くてかっこいい大人っぽい人だと思ってた!!騙された!
「ごめん、ごめん。少し遊びすぎちゃった。そんなに怒らないで。」
「し、知りません!」
怒りと恥ずかしさでフンとそっぽを向いた。
「・・・・ほんとに、ごめん。緊張してたから和ませてあげようと思ったんだけど・・・イヤだったよね・・・・。」
部長が眉を下げて悲しそうに謝ってきた。とてもしょんぼりとしている。
私の緊張をほぐそうとしてくれていたことが分かり、失礼な態度をとってしまったと反省する。
「あの、部長・・・もう怒ってませんから・・・。」
「・・・ほんと!?よかった!」
満面の笑顔で答えられた。・・・また騙された気がする。
その後、部長に緊張することもなく自然と会話することができた。15分くらいたったところで、ガラっと部屋のドアが開く音が聞こえ他の部員が入ってきた。もう集合時間が近くなっていたようだ。
こちらに気づいた部員がこんにちはと挨拶し、前に置いてあるプリントを手に取ってから席に着く。その後もぞくぞくと部員が部屋に入りそれぞれ席についた。1人で座る人もいれば、友達と一緒に座る人もいる。
あれ?席って決まってるんじゃないの?・・・もしかして、これも騙された?
ジトッと部長を睨むと、悪びれもせずにこっと微笑む。顔面偏差値が高いからって笑って許されると思ってる!絶対!
最後に顧問の先生が現れたところで、部長がホワイトボードの前に向かった。全員にプリントがわたっていることを確認し、ミーティングを始めることを告げる。
活動曜日や時間等の基本情報から道具の説明などを全て部長が説明している。顧問は横で頷きながら立っているだけだ。みんなの前で堂々と話す部長を見ると、やっぱりすごいなって思う。さっき話してた時とは別人みたい。
「部活動についての説明は以上になります。質問がなければ、この後は1人ずつ自己紹介をしてもらおうと思います。」
きた!自己紹介。
「まずは僕から。剣術・棒術部、部長兼主将の水沢伊織です。中等部3年A組。主に剣道の方を練習しています。新入部員の指導は僕と副部長が中心に行うので、よろしくお願いします。」
水沢先輩っていうんだ。そういえば、たくさん話したのにまだ名前知らなかった。部長と主将を両方担ってるんだね。ん?つまりなんて呼べばいいの?部長?主将?水沢先輩?わ、分かんない・・・周りに合わせよう。そうしよう。
そんなことを考えていると、一番前の席に座っている人が立ち上がりホワイトボードの前に出た。
自己紹介ってみんな前に出て話すのかな・・・出来ればこの場がよかったな。
「副部長兼、副主将の日原大和だ。3年D組で薙刀をやっている。新入部員はとりあえず剣道も薙刀もどちらもやるから絡むことも多いと思う。よろしく。」
副部長は身長は部長と同じくらい高く、髪型はツーブロックで下の方を刈り上げている。前髪を全て後ろに流したオールバック?みたいな感じだ。目は男性らしくきりっとしていて手も身体もゴツゴツしている。線の細い部長と並ぶと、すごくがっしりとした体型が際立つ。
その後、部長、副部長以外の3年生が5人、2年生が4人挨拶を終える。いよいよ今年の新入部員の番になった。1年生は私を合わせて全部で4人。男女2人ずつだ。女の子いてよかった。
「1年C組、森竜太です。よろしくお願いします。」
「同じく1年C組、佐野幸四郎です。薙刀に興味があって入部を決めました。よろしくお願いします。」
男子2人の挨拶が終わり、次は私の番だ。立ち上がり前に出る。熱い視線を感じ、そちらに目を向けると部長がキラキラした目で見ていた。何かを期待している目だ。むぅ・・・。
「1年A組の如月真珠紅です。アーチェリー部との兼部で、こちらの部がお休みの金曜日だけアーチェリー部で活動する予定です。よろしくお願いします。」
部長のご期待にはこたえられませんでした。おうちで何度も練習してきたもん!かみません!
ちょっと残念そうな部長のことは無視して席に戻ります。
私と交代して最後の1人が前に向かう。くるくると綺麗に巻いた髪を一つにまとめた、とても可愛い子だ。すれ違いざまにチラっと目が合う。1年女子はこの子だけだし、仲良くなれるといいな。
「1年B組の園田澪です。運動はあまり得意ではないけど、自分を鍛えて強くなりたいと思って入部しました。一生懸命頑張るのでご指導よろしくお願いします!」
私と同じだ!!
笑顔で女の子らしく自己紹介した園田さんが私と同じことを考えていると分かって、一気に親近感が沸く。
部員全員の自己紹介が終わったところで、顧問の先生がホワイトボードの真ん中に立った。
「じゃあ、最後に。剣術・棒術部顧問の山本健だ。うちの部はやる気と実力があれば学年、性別関係なくどんどん試合に出てもらう。また、見学の時にも話したが、ここでは剣道と薙刀の両方の練習を行う。だが、基礎が身についた後は自由だ。一方に力を注いでもいいし、両方を極めてももちろん構わない。それによって試合の出場資格が優遇されることはないからな。好きなように鍛錬しろ!」
「1年生は1週間ごとに剣道と薙刀を交互に練習していきます。2年、3年は1ヶ月間元の部活ではない方の練習を行います。元剣道部は薙刀を、元薙刀部は剣道を。その後は先ほど山本先生がおっしゃっていた通り自分自身で決めてください。今日のミーティングは以上になります。何か質問がある人はいますか?・・・・・・・いないようなので、解散。」
解散の声と同時に部員たちが帰り支度を始める。私もはるちゃんとの約束があるので急いで武道場を出ることにした。鞄にプリントと筆記用具をしまっていると、水沢部長がホワイトボードの前から私の席の前に戻ってきた。
「如月さん、お疲れ様。そういえばお互い名前言ってなかったよね。さっきの自己紹介で気づいたよ。」
「お疲れ様です。私もさっき、先輩の自己紹介の時に気づきました。」
「フフ、名前も知らずに話してたね。今日はもう帰るでしょ?門まで一緒に行こうよ。」
先輩からの突然のお誘いに身体がピキッと強ばる。絶対またからかう気だ。はるちゃんが武道館まで迎えに来てくれるし断わろう。そう思った時、
「あの、如月さん?ちょっといいかな?」
誰かに呼ばれて振り返る。園田さんだ。
「園田澪です。1年の女子が私と如月さんの2人だけだし、仲良くなりたいと思って・・・。これからよろしくね。」
私も仲良くなりたいと思ってた!!声かけるタイミング探ってた!園田さんから声かけてくれるなんてすごく嬉しい。
「あ、あ・・・こちらこそ、よろしくね!」
嬉しさを噛みしめながらなんとか返事をする。園田さんが右手を出してきたので私もそっとその手を握って握手をした。握手が終わると、園田さんの視線が私の後ろの方へ向いた。
「水沢部長、明日からの練習とても楽しみです。よろしくお願いします!」
「あぁ、よろしく。最初は慣れるまで大変だと思うけど頑張ってね。」
「はい!ありがとうございます。」
園田さんの顔がぱぁっと笑顔になった。すごく可愛らしい子だな。私も明日からの部活楽しみ!
「それじゃあ園田さん、気をつけて帰ってね。・・如月さん行こう。」
あ、園田さんが来たことで忘れてた。一緒に帰るの断わらなきゃ!
・・・ん?なんか一瞬園田さんの笑顔が固まったような・・。気のせいか。
「あ、あの!私、今日はこの後約束があるので先に帰ります!さようなら!」
先輩の顔は見れなかったけれど、なんとか断れた!




