入部届け
先日、薫ちゃんと部活見学に行った帰り道、アーチェリーを見て何だか不思議な気持ちになった。
懐かしいような、ワクワクするような、切ないような・・・よく分からない感情が押し寄せてその場で薫ちゃんに宣言したのだ。
アーチェリー部に入る!・・・と。
薫ちゃんは急にそんなことを言う私に驚いていたけれど、次の日も一緒に見学に付き合ってくれた。その日の放課後、2人でアーチェリー部の顧問を訪ねると、なんと衝撃の事実が!!!
「アーチェリー部は高等部がメインなので今は中等部の生徒は一人もいないよ。中学校でアーチェリー部がある学校がそもそも少ないんだ。だから大会も出られないし、放課後に練習するだけになっちゃうけど・・・それでもいい?」
なんと、せっかく入りたい部活が決まったのに同級生どころか中等部の生徒がいないようです。うぅ、どうしよう・・・。
予想外のことに頭の中でグルグル考えていると、薫ちゃんが提案してくれました。
「大会がないなら他の運動部と兼部ってできますか?例えば・・・剣術・棒術部とか!」
「う~ん、確か剣道部・・じゃなかった。剣術・棒術部は金曜が休みだった気がするからその日だけアーチェリーの練習するとかはどうだ?もちろん高等部の部員に指導も頼んで。」
!!!
「真珠紅!それなら出来るんじゃない!?剣術も気になってたんでしょ?」
出来るかも!
薫ちゃんと先生の会話に気持ちがどんどん上昇してきた。
その後、先生が入部に関する書類や一応高等部の活動予定などが書かれたプリントを説明しながら手渡してくれた。
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そして、今日は入部届けを提出する日です。
私の手の中には二枚の入部届け。一枚は剣術・棒術部で、もう一枚がアーチェリー部。先に剣術・棒術部に提出しにいくつもりだ。
アーチェリー部の顧問の先生と話をした日、一応もう一方の部活の顧問にも兼部の話を通しておきなさいということでそちらにも向かった。武道場にある職員専用の部屋に入ると、顧問の先生はすぐに見つかった。・・・身体も声も大きくて見つけやすいんだよね。
兼部の話をするとすんなりと許可がもらえ安心した。ただ、『剣道、薙刀、アーチェリーを極めていったい何と戦うんだ?』と笑われてしまったけれど・・・。
先生の声が大きいから周りの先生にも聞かれてしまいすごく恥ずかしかった・・・。
入部届けを出すため武道場の職員室に向かっていると、廊下の先に剣術・棒術部の部長が見えた。軽く会釈をして通り過ぎようとすると、
「あぁ、君うちの部に入るんだって?先生から聞いたよ。」
なんと、呼び止められてしまいました。
「今日は友達は一緒じゃないの?」
「は、・・はい。薫ちゃんは違う部に入るそうなので・・。」
そう、薫ちゃんは写真部への入部を決めていたのだ。まさかの文化部。部活見学は完全に悩んでいる私に付き合ってくれていただけだった。ほんと面倒見が良く優しいんだから。・・・感謝。
「これから入部届け出しにいくの?確か先生はもう2階の剣道場に向かったはずだから一緒に行こうか。」
・・・やだやだやだ。ちょっとムリです!ほぼ初対面の人と歩きながら世間話するなんて高度な技術持ってません!ここから剣道場まで何分かかると思ってるんですか!?2~3分はかかりますよ!?その間何を話したらいいのか分からな・・・・・・・
「はい・・・よろしくお願いしましゅ・・・・・」
・・・ブハッ!!
かんだ!心の中と逆のことを言おうと思ったらまたかんだ!そして先輩はまた笑ってる!!しかも前回は小さくクスクス笑ってる感じだったのに今回は思いっきり吹き出した!くそぅ・・そんなに肩を揺らしやがって~
「フフ、じゃあ行こうか。」
「・・・はい。」
まだ少し笑いが収まらない様子の先輩と並んで歩く。階段にさしかかったところで先輩から声がかかる。
「そういえば、アーチェリー部と兼部するんだって?大変じゃない?ただでさえ今年から剣道と薙刀をやるのに。もしかして経験者?」
「いえ、全部初心者です。これまで武道には全く関わったことありません。・・・確かに最初は覚えることいっぱいあって大変だろうけど、せっかくこの学園に受かったからいろいろなことに挑戦してみたくて。それに、今のところアーチェリーは中等部の子がいないから高等部の先輩たちに週一で指導してもらうだけなんです。剣術・棒術部がお休みの金曜日に。なのでメインはこちらの部活です。これからよろしくお願いします!」
な、なんか自分でもびっくりするぐらい言葉がスラスラ出てきた。もう先輩には散々笑われてしまったから緊張がほぐれたのかも。
部活のことでいろいろ話しているうちにあっという間に剣道場についてしまった。先輩が『これからよろしくね』と言いながらドアを開けてくれた。
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無事に一枚目の入部届けが出せたので次に行きます。アーチェリー部です。先ほど職員室を訪ねたら顧問の先生はアーチェリー場に行ったそうだ。武道場から直接向かえばよかった。同じ道を何往復もしてしまい、結構疲れてきた。この学園ほんと広すぎだよ!もう一度武道場の前を通り過ぎ、やっと緑色のネットが見えてきた。アーチェリー場は外なので、端の方の一部に屋根つきのベンチスペースがある。そこに先生が座っているのが見えた。中心ではすでに高校生の先輩方が練習を開始していたので、邪魔にならないように気をつけながらネットすれすれの端っこをそろりと歩く。ちょっと緊張するな。
やっとベンチまでたどり着いたところで、先生がこちらに気づいてくれた。
「おぅ、来たか。」
「こんにちは。入部届けを提出しに来ました。」
「はい、確かに受け取りました。」
入部届けを確認し持っていたファイルに挟むと、先生が立ち上がり両手を筒状にして口の前にあてる。
「しゅーごー!!」
ビクッ!
な、なんで集合!?わ、わわわ、みんな集まってくる!私は帰っていいですか!?
先生の集合を聞きつけた部員たちが一斉にこちらに駆けて来て、先生の周りをぐるりと丸く囲んだ。先生の隣に立っている私ももちろん囲まれてしまう。後ずさりたいけれど後ろはベンチで逃げ場がない。たぶん私のことを紹介しようと集めたのだろうけれど、まだ心の準備が出来ていません!
「この前話した通り、今年は中等部の1年が入部することになった。ただ、中等部は彼女一人で試合もないため、他の部と兼部する。よって、練習は金曜日だけになるのでその日に指導してやってほしい。」
「「はいっ!!」」
話が終わった後、自己紹介してというように先生から視線がとんできた。一歩前に踏み出すとジャリっと地面を踏む音が聞こえる。部員たちの視線が私に集中して逃げ出したい気持ちになる。ゴキュっと喉が鳴り目の辺りがカーっと熱くなってくるのを感じる。
「き、如月・・真珠紅です。兼部になるので金曜しか練習に参加出来ませんが、一生懸命頑張ります。よろしくお願いします!」
挨拶の終わりと同時にペコっとお辞儀をする。すると、私を囲むようにパチパチと拍手が鳴り響いた。顔を上げるとみんな笑顔で『よろしくー』『兼部頑張ってね』と声をかけてくれた。
その後、先生が部長や部員を簡単に紹介してくれた。部員の人数は3年生が8人、2年生が13人、1年生が11人だそうだ。今日お休みの人も何人かいるみたい。出来るだけ早く名前覚えたいな。剣術・棒術部と合わせたら何人になるんだろ・・。
挨拶が終わり部員たちは練習に戻っていった。真っ直ぐに飛んでいく矢を眺め来週から自分もあそこに参加出来るのだとワクワクした。
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今日は入部届けと挨拶だけ済まし帰ることにする。1人で裏門に向かっていると、後ろから声をかけられた。よく知ってる声だ。振り返らなくても声の主が分かり笑顔になる。その人は私の隣までくると私の肩に手を置いた。
「はるちゃん。」
「一緒に帰ろう。」
断る理由もなく笑顔で頷く。はるちゃんと下校するのは久しぶりだ。うれしい。
「真珠紅、入部届けは無事に出せたの?」
「うん、二通ともさっき提出してきたよ。来週の月曜から練習が始まるの。すごく楽しみ。」
私の言葉を聞くと、はるちゃんが少し困ったような笑顔になる。
「最初部活の話を聞いたときはビックリしたよ。運動部でしかも兼部するなんて。帰りも遅くなるだろうし、何より真珠紅の体力が持つのか・・。兄さんも心配してた。」
まぁ、あーくんは心配性だからね。部活に入りたいという話は合格当初から2人に伝えてた。でも、具体的に何部に入るかはギリギリまで内緒にしてたんだ。2人に止められそうで・・・とくにあーくんが心配すると思って。
「でも、真珠紅がやりたい部活が見つかってよかったね。試合に出るときは絶対に応援に行くからね!」
「試合なんてまだまだだよ。まだ竹刀も握ったことないのに。」
気が早いはるちゃんに笑ってしまう。でも、はるちゃんが応援してくれてうれしいし、頑張ってるところも見せたい。
はるちゃんと話しながら裏門のところまで来た。すると、
「玖遠先輩!」
前を歩く玖遠先輩に気がついたはるちゃんが声をかける。声に気がついた先輩が立ち止まり、こちらへ振り返った。
「遥。・・・如月も一緒か。」
あ、私の名前覚えてくれてるんだ・・。まだ一度しか会ったことないのに。
「先輩、あ・・あの、こんにちは。」
「・・あぁ。」
「先輩も今帰りですか?あ、そーいえば兄さんは?」
「綾人は先に帰った。俺は少し部に顔出してたからこの時間になったんだ。」
玖遠先輩、生徒会なのに部活にも入ってるんだ。忙しそう。確かはるちゃんも5月から生徒会の書記になるんだよね。
この学園は体育祭や文化祭のイベントを全て中高一緒に行う為、生徒会も中等部・高等部が一緒に運営している。はるちゃんは3月の生徒会選挙で見事書記に当選したらしい。さすがはるちゃん!
「先輩、途中まで一緒に帰りませんか?」
!!?
はるちゃん!なんてこと言うの!?突然誘ったら先輩に迷惑になるでしょう。それに正面から誘われたらたとえイヤでも絶対に断れないやつじゃん!
「・・あぁ。」
3人で帰ることになりました。私の右にはるちゃん、左には玖遠先輩。何故か挟まれている。そしてまだ学園の校門なので周りの生徒からの視線。・・痛いです。イケメン2人に挟まれてごめんなさい。
なんとか自分が透明になれないかと頭の中で呪文を唱えてみるけど・・・ムリそうだ。
「真珠紅、どうしたの?行くよ。」
呪文を唱えていたことで歩くスピードが遅くなっていたのか、2人より2、3歩遅れていることをはるちゃんに呼ばれて気づく。はるちゃんは左手を私の方へ伸ばしかけて引っ込めていた。
この前、学園では手は繋がないって言ったのを思いだしてくれたのかな。
私は2人に追いつく為、次の1歩を大きく踏み出した。その次の1歩で追いつくはずだったのだが・・・
「ぅわわっ!!!」
段差に気づかずつまずく。なんとか踏みとどまろうと力を入れたけれど、勢いは止まらない。
あ、やばい。転ぶ・・・
転倒を覚悟し目をつむる。・・・しかし、思っていた衝撃が来ることはなかった。その代わりにふんわりと包み込まれる感覚が・・・。
そっと目を開けると・・・
「く・・玖遠・せ・・んぱい・・?」
深い・・どこまでも続くような漆黒の瞳が目の前にあった。先輩に抱きとめられていたのだ。
・・・その瞬間
キーン
ひどい耳鳴りがした。
頭の奥にも響いてきて目を開けていられなくなる。眉をしかめなんとか耐えてみる。ふと、至近距離にいる玖遠先輩の方へ視線を向けると・・・彼も同じように眉をしかめ苦しそうにしている。
私を抱きとめた時にどこか強く打ったのかと思い、まだ耳鳴りがやまないうちに離れようとする。
先輩の胸をそっと押すと抵抗なく身体が離れた。途端に耳鳴りがやむ。
「・・・ひ、・・ひ・・・めさ・・・・・。」
??
はるちゃんが何か呟いたけれど、その声が小さくよく聞こえなかった。
「あの・・・先輩ぶつかってしまってすみませんでした。・・支えてくれて、ありがとうございます。」
「・・・」
「せ、先輩?」
抱きとめてくれたお礼を伝えたけれど、先輩からの返事がない。やっぱり強くぶつかり過ぎて怒らせてしまっただろうか・・。
そう思った時、玖遠先輩から小さく返事が返ってきた。
「・・あぁ、怪我はないか?」
私を気遣う言葉に怒っていないのだと分かり、少し安心する。
さっきの耳鳴りは何だったんだろう。疲れてるのかな。学園に入学してから新しい友達ができたり、部活に入ったり、いろいろなことがあったし、いろいろな人と話した。緊張したこともいっぱいあった。きっと今の耳鳴りもそれが原因だろう。そう結論づけた。
そうしないと・・・何かに気づいてしまうから。
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遥は家に到着するなり綾人のもとへ向かった。その顔は少し焦っているようだ。
「兄さん、・・・たぶんもうすぐその時が来る。・・紅い瞳を見たんだ。」




