いつもの目覚め
よく晴れた日の午後
開け放たれた窓から光が降り注ぎ、私は微睡から目覚めた
「んー…」
今日は良い日だ
ふかふかの大きなベッドで、真っ白な枕を抱き直して深く息を吸う
今日は本当に良い日だ
たっぷりと睡眠を摂った筈なのに、体は貪欲に休息を求める
ねっっむい
「アリス」
ベッドの側から聞こえた声を無視して目を閉じる
幸せな夢の続きは時間との勝負
寝起きは記憶力が働いていないから内容を忘れてしまう
「アリス」
…
「アリス」
抱いていた枕を耳に当てて横を向いた
返事をするのも面倒だ
それにたったの数回で呼ぶのを終わらせたらアリスの名が廃る
「アリス」
それから長い間無視を続けた
呼ぶ声は一切途切れず、むしろ規則正しいリズムで呼びかけ続ける
柔らかい美声だからか、子守歌に丁度いいかも、などとくだらない考えが巡り始める
「アリス」
何百回目かの呼びかけに満足して目を開けた
ベッドの側に突っ立っている美青年を見やる
真っ白な髪にアメシストをそのまま嵌め込んだような瞳
すらっとした長身に繊細で美しい顔立ち
どこをどう見ても立派な美青年
そんな彼は品よく微笑を浮かべて此方を見ていた
人の名前を呼び続ける迷惑な人とは思えないほどに柔らかい表情だ
「アリス」
「…なぁに、リム」
同じように微笑んで返事をすると、彼の美しい微笑がふわりと緩む
そっちの方が親しみやすいな、と考えて上半身を起こした
「おはようアリス」
「おはようリムたん」
リムのふわふわな髪を撫でて、上機嫌のまま思いついたあだ名で返す
するとリムは首を傾げる
「誰のこと?」
「リムのことよ。可愛いリムたん」
「僕の名前はリムだよ」
「わざとだよリムたん」
段々面倒くさくなってきたからリムの横をすり抜けてドレッサーに向かう
今日はどんな香水をつけようか
「僕の名前はリムだよアリス」
そんな声が聞こえてきてうんざりした
こういう時だけリムはかなり鬱陶しい。顔は良いけど冗談は一切通じないのだ
昔2年くらいは頑張って教えたけど結局無理だったな
離れたところで壊れたように回答を繰り返すリムを放置して化粧を始める
ぱっちりした大きな瞳は今日の空のように澄んだ水色、光を受けて輝くブロンド
この無駄に輝く色彩はこの変な世界でも珍しいらしく、よく注目を浴びる
人形のように愛らしい整った顔立ちは前世と似ても似つかない
そう、私は俗に言う転生者だ
まさか転生先が童話にそっくりな世界だとは思ってもなかったけどね
閲覧有難うございました
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