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無
私はビルの屋上の端に立つ親友にそう言った。
しかしその親友が歩みを止めることはなかった。
その先へ旅たった親友は、今どうしているかなんて考えない。
考えられない。
なぜならその先は無、だからだ。
それはとうてい私たち人間の頭の中で想像できる境地ですらない。
生まれてから目が見えなかった隣人が虹色を想像できないように。
生まれてから耳が聞こえなかった友人が音という概念を知ることができないように。
君が生まれる前、君がどこにいたか、分からないように。
無、という概念を本当の意味で分かり得る人なんていない。
それは、無だということすらも感じ取ることができない。
単に目を閉じて、耳を塞いで、何も考えないことが無であるはずもない。
それは非常に単純で、あっけない。
光が無いからその世界は黒い?
それも違う。
音が無いから何も聞こえない?
それも違う。
ひとりぼっちだから寂しい?
それも違う。