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絶望戦記 ~Cyril's Story~  作者: 時計直し太郎
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第三話 「追憶のクローリス」 前編


私の名前はクローリス=バイエンス。


今から丁度十二年と一日前に開戦され、三年余りに渡って続いた、母国成立以来の最も邪悪な宗教戦争


――”第三次セラフィーナ宗教戦争”による、戦争孤児の一人だ。






☆   ★   ☆   ★   ☆   ★





~遡ること十年前  マジーア暦6656年4月 ブルーム村にて ~





「お母さん!みてみて!

 クローリス、またかんむり作ったの。

 これ、お母さんにあげるから、病気が治ったらお母さんも一緒に作ろう!」


「あら、まあ。

 綺麗なクローバーの花冠ね。

 これをお母さんにくれるの?」


母はベッドに横になりながら、こちらを向いて言った。


「うん!そうだよ。

 だからね、早くまたお外で遊ぼうね!」


「ええ。もちろんよ、クローリス。

 あなたたちには、いつも助けられてばかりね。

 お母さんも早く元気にならないと。」


母は両頬に笑窪をつくって微笑みながら、私の頭を撫でた。


「えへへ。

 じゃあね、お母さん!」


「またね、クローリス。

 クルトの言うことをよく聞いて、アメリアには優しくするんだよ。

 ……楽しんできてね。」


「はーい!」


私は、母に手を振り、兄妹たちの待つ広場へと向かった。


今日は年に一度の自然に感謝するお祭り――「ブルーイエンのお祭り」が開催される。


この日は昼になると村中の人々が広場に集まって、花の開花をお祝いするのだ。

広場を囲う花壇には、赤、黄色、オレンジなどの様々なカラーの花々が咲き誇り、さらに、臨時に村の東の花畑からは、沢山の花が運び込まれ、販売もされている。

私は、村中が祝福ムードに包まれ、花のいい香りに満たされるこの祭りを毎年楽しみにしていた。

今年は、周辺の地域でセラフィーナ教団による戦火が広がっていたため、開催が危ぶまれていたのだが、無事催行されたことに喜んでいた。



「おーい、クローリス!

 こっちだ!」


「お姉ちゃん早く早くー!」


まだ祭りは始まってないが、すでに広場には人がチラホラうかがえ、兄のクルトと、妹のアメリアが大きく手を振っていた。


「ちょっと待ってってー!」


私は、急いでクルトとアメリアのもとに駆けていった。


「どうだった、クローリス!?

 お母さん、喜んでいたか!?」


クルトは、結果が楽しみといった顔で私の顔を覗き込んだ。


「うんっ!!

 とっても、喜んでいたよー。」


「良かったな、クローリス!

 がんばって編んだ甲斐があったな。」


「今度、アメリアにも編み方教えてね!」


クルトとアメリアの表情は、花が満開になったかのように、ぱあーっと明るくなった。


「おい、お前ら。

 何の話してんだ?」


「あっ、ドリースおじさんだー。」


声をかけてきたのは、村の自警団にも所属する、母の弟で、私たち兄弟の叔父のあたる人物であるドリース=ブラーウだった。


「おじさん!

 さっき、クローリスがな、お母さんにクローバーで編んだ花冠を上げたんだぜ。

 お母さん、めちゃくちゃ喜んでたんだって!」


おじさんは、首にかけた白いタオルで汗を拭いて言った。


「おう、そうか。

 お母さん、大事にするんだぞ!

 まあ、お前らなら心配ないか。

 ……クローバーか。

 そういやお前ら、”四つ葉のクローバー”は知っているか?」


私は、首を傾げて答えた。


「四つ葉のクローバー?

 クローバーの葉っぱって三枚じゃないの?」


「大概はそうなんだが、極稀に()()()()()四つ葉のクローバー

 が生えてるみたいだそうだ。

 ……まあ、俺は見たことないがな。

 シーラの快復でも、願ってプレゼントしたらどうだ?

 今日だって、アイツ、ここに来れないんだろ。」


「お母さんの……。」


私は、母が病気を患う前だった去年の祭りのときのことを思い出した。












母は花が大好きで、毎年のように私たち兄妹を「ブルーイエンのお祭り」に連れてきてくれていた。


「きれーい!

 この、紫のお花なんていうの?」


「このお花はチューリップよ。

 かわいいお花でしょ。

 お花にはね――いえ、全てのものには神様がいるのよ。」


「神様?

 このお花にもいるの?」


「ええ。もちろんよ。」


母は、優しく微笑みながら続けた。


「だから、大切に育てなきゃいけないのよ。」


「へえ。

 じゃあ、このチューリップにお願いごとしたら叶うのか?」


クルトが目を輝かせて、母に尋ねた。


「そうねー。

 きっと叶うと思うわ。」


「ホント!?

 僕のおねしょが治りますように……。」


「大きくなったら、お花屋さんになれますようにっ!」


クルトとアリシアはしきりに花に向かって、願いだした。


「クローリスはお願いしないの?」


「クローリスは――」


あのとき、私は何をお願いしたんだったけ?









私は、ドリースおじさんに向かい合って答えた。


「わかった。

 また今度探してみるよ!」


「おう。

 気をつけてな!

 じゃあな、お前ら!

 俺はまだ少し設営が残ってるからもう行くぜ。」


「さようなら、ドリースおじさん!」


「「またねー。」」


私たちはドリースおじさんと別れると、祭りの開始を待った。






☆   ★   ☆   ★   ☆   ★





「はああ、楽しかった。」 


祭りが終わるころにはすっかり日も傾き、夕方になっていた。


「ねえ、お兄ちゃん、アメリア。

 クローリス、今から、おじさんの言ってた四つ葉のクローバーを探しに行こうと思うんだけど……。」


「えっ!

 今から行くのか!?

 もうじき、夜だぞ。」


私は、ちょっと考えてから答えた。


「で、でもね、お母さん、今日大好きなお花いっぱい見れなかったから……、出来るだけ早く見れるよう

 になって欲しいなあって思って。」


「そうか……。

 わかった、夕飯までには帰ってくるんだぞ!

 今日は、クローリスの好物のエルテンスープを作る予定だからな。」


「ホントに!?

 ありがとう、お兄ちゃん!

 クローリス、早く見つけて帰るね。」


「ばいばい、お姉ちゃーん。」


「ばいばい、アメリア、お兄ちゃん!」


私は、村はずれのクローバーが自生している川岸まで走った。






☆   ★   ☆   ★   ☆   ★






「うーん。

 見つからないなー。」


私は、兄たちと別れてから、随分探し回ったが、見つけたクローバーは全て三つ葉のもので、四つ葉のクローバーは見当たらなかった。


「そろそろ、帰らないと……。」


さっきまで真っ赤に染まっていた空は、もうすっかり暗くなり、満天とまではいかないが、幾つか星が輝いていた。


「これで、いいかな。」


結局、四つ葉のクローバーは発見できず、目の前に生えていた一番形の整ったきれいな三つ葉のクローバーを摘んで帰った。






☆   ★   ☆   ★   ☆   ★




 


村に続く小道を歩いていると、村の方角に明かりが灯っているのが見えた。


「……なんだろ?

 夜もお祭りやってるのかな。」


私は、村に近付くにつれ、それがメラメラと燃える炎だということに気づいた。


「あったかい……。」


まだ少し、村からは距離があるが、炎の温度は感じてとれた。

空を見上げると、さっきまで輝いていた星は見えず、代わりに真っ黒な雲がもくもくとたちのぼっていた。


「んっ!

 すごい匂い……。」


さらに、村に近付くと、モノが焼ける匂いと強烈な異臭がして、思わず鼻をつまんだ。



「……えっ。

 ナニコレ……、村が……。」


雑草のひしめく小道を抜けた視界の先に飛び込んできたのは、煌々と輝きながら、村を焼く、おびただしい量の深紅の炎だった。


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