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第三十一話 偽りと真実

 家に帰ったときすでに19時30分を過ぎていた。


「吉崎さんが21時に来るらしいから、それまでに夕食と風呂は済ませた方がいいよな?」

「そうですねー。とりあえず僕は夕食を作るんで先輩はお風呂の準備とかよろしくお願いしますねー」


 そう言うと千歳は台所に入っていった。

 というか、千歳が家に転がり込んできてから数日だが、千歳が家にいるということになんの違和感も感じなくなってきたな…慣れって怖いものだな…




 風呂の準備をし、宿題をぼちぼち終わらせようとしていていたが、全然集中できなかった。内田に言われたことがどうしても胸の内に残っていたからだ。

 …俺は今までに人の幸せを、未来を、破壊してきたのか?凛も、遥も、美咲も、智恵も…俺と関わらなければあんなことにはならなかったのか?茜や千歳、松田達もこれから…。

いやいや、これ以上考えるのはよそう。負の思考に入ってる。


「先輩ー、夕食ができましたよー」


 相変わらずどこか間伸びした千歳の声に今は少し救われた気がした。




「なあ千歳、呪われてるってどういうことだ?」


 夕食中、俺は千歳に気になってたことを聞いてみた。


「………」

「千歳?」

「別に、先輩は呪われてませんよ?だから気にすることじゃないですよー」

「…じゃああの時言ったのは…」

「あくまで吉崎さんがこう考えてるだろうなぁと思って言ったにすぎませんよー」


 それは吉崎さんが俺は呪われてると思ってるってことなのか?うーん…うん?


「いや、待て待て、千歳、やっぱりお前、人が何考えてるかもわかるのか?」

「いやいやー、僕は神じゃないんですから、初対面の人が何考えてるかなんて分かるわけないじゃないですかー」

「じゃあ吉崎さんと知り合いなのか?」

「知り合いといいますか…まぁ…」


 珍しく千歳が誤魔化してる。俺が何もわからないと思ってるのかな?とにかく、このまま追い詰めてみるか。


「いやでも、千歳がここに来たのつい最近じゃ…」

「乙女の秘密…ってことにしておいちゃだめですかねー?」


 教える気は無さそうだな。まあいいか。


「はぁ…分かったよ」

「分かってくれてなによりです。いくら僕とはいえ隠し事の…1つや2つ、ありますから」


 それもそうだな。人には誰にも言えないことの1つや2つ、あるか。


「先輩、教室で内田さんが言ってたこと、気にしなくていいですからね」

「…」

「顔に分かりやすく出てますよー」


 そんなに分かりやすかったのだろうか?


「この世の中は平等と口当たりのいいことは言いますが、結局は弱肉強食なんです。どの競技でも試合に出れるのは一握り。受験だって合格人数はほとんど決まってます」


 そんなことは分かってる…でも…


「はっきり言ってしまえば、先輩の方が内田さんのお兄さんよりバスケが上手く、男性としても魅力があったっていうことでしょう。凛さんは先輩を選んだんですから」


 実際、俺の方が内田先輩よりバスケは上手かった。千歳の言ってることは正しいのだろう。


「先輩、1つ言っておきますね」

「…なんだ」

「この世の中は嘘、偽り、偽善に満ちています。魔法こそありませんが、呪いみたいな曖昧で、恐ろしいものだってあります」


 ………


「ですが、先輩が凛さんの時から、人のために動いているところは…誰かが見てます。いえ、誰も見ていなくても、僕が見ています。だから…」


 千歳は一呼吸置くと真剣に、


「先輩はたとえ何があっても、大切な人に騙されても、裏切られても、先輩のままでいてくださいね。僕は…いつまでも先輩の味方で、先輩の後輩なんですから」

「千歳…なんで…そこまで…」


 思えば、千歳は凛が死ぬ前からずっと俺についていたな。どうしてこんな俺のために…


「そんなの…決まってるじゃないですか。僕は先輩の後輩ですからー」

「いや…それって理由になってるか?」

「先輩、そんなことより早く食べましょう。吉崎さん来ちゃいますよー」


 時間を見ると8時30分を過ぎていた。千歳を追及するのは後だ。急いで食べないと。




 9時過ぎ、家のインターホンが鳴る。吉崎さんが来たようだ。玄関のドアを開けると、そこにはやはり吉崎さんが立っていた。だが、いつもと雰囲気が…


「航平君…ちょっと、私に付き合ってもらえるかな?少し、外で話そうよ」

「あ、ああ。上がってくんじゃないのか」

「うん。夜風に当たりながら話したいの」

「分かった。着替えてくるから待っててくれ」


 てっきり家の中に入るものだと思ってたから、部屋着に着替えてしまってた。慌てて着替えようと自室に入り、着替え始めると


「先輩」

「ん?千歳か?少し外出てくるから、千歳も来るか?」

「いやいやー、お二人の大切な話しに水を差すほど僕は野暮じゃありませんよー」


 千歳が野暮じゃない?色々突っ込みたいところはあるが、我慢する。


「先輩、1つ忠告しておきますね」


 と、千歳はまた真剣なトーンでドア越しに話し始める。


「これから先輩はとんでもないことを言われるでしょう。嘘が嫌いな先輩のことです。怒るかもしれませんし、傷つくかもしれません。裏切られたと思うかもしれません」

「…ああ」

「…杞憂でしたね。やっぱり先輩には敵いませんねー」

「千歳には敵わないだろ」

「じゃあ最後に1つ、吉崎さんと復縁の線は、ありますかねー?」

「…どうだかな。ただ、自分を守るために大切な人に嘘をついたり、騙したりするのは嫌いだ」


 着替え終わった俺はドアを開け、吉崎さんのところへ向かう。千歳とすれ違う時、


「僕は先輩のことを信じてますから。行ってらっしゃい」

「…ああ、行ってくる」


 俺は千歳に見送られながら、吉崎さんの元へ向かった。




「待たせたな」

「ううん。それじゃ行こっか」


 吉崎さんと外に出る。冬の夜はやっぱり冷えるな。


「どこかに行くのか?」

「いいえ、少し散歩しながら話しましょう」

「…分かった」


 …千歳の前で話しにくいからカフェで…とかだと思ってたが違うようだ。

 歩き始めてしばらくすると吉崎さんが口を開いた。


「…こうやって散歩するのは久しぶりだね」

「…そうだな」

「ゴールデンウィークもキャンプ行ったよね。他にも買い物とか…」

「そうだな。夜散歩したいって電話、何回もしてたな」

「えっ?」

「…もしかして、気づいてないとでも思ってたのか?」


 そして俺は、吉崎さんが言おうとしてたことを、先に言ってしまうことにした。


「…久しぶりだな、優花、いや…凛」

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