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第三十話 答え合わせ③

「いやいや!盗難が起きていないって…どういうことだよ!」

「そうですねぇ…一部は本当の盗難でしょう。佐藤?の財布が盗まれた、加藤さん?の体操着が盗まれた、ここら辺は本当の盗難ですよー。でも本がなくなっただの、ペンがなくなって た。これらは盗難じゃありませんよー」

「いやいや、それじゃ僕の本は!どこにあるというんだい?」


 麻生が慌てたかのように食い下がっている。確かにあの本が他人に見られるのは嫌だよな…


「どこにあるかまでは僕に分かるわけないじゃですかー。ただ今まで盗まれた言ってるものの大半は自身が失くしたもの、それだけです」

「…川澄さん、もしかして…」

「そうですよ?人は数えきれないほどの持ち物を持っているんです。それらの中に大切に扱ってないものがあるとしたら?どれか1つがなくなっていてもおかしくない、普通のことなんですよ。どこかへ置き忘れてたりするケースもあるでしょうねー。もう一度自身の持ち物を徹底的に調べれば僕のいうことが正しいと、わかりますよー」


 何を言ってるんだという顔をしていたクラスメイトだったが、思い思いに机やカバンの中を探し始める。流石にあるわけ…


「あ!私のボールペンあった!」

「俺のノート!机の中に入ってたのか!」


 えっ…?マジかぁ…そんなことってある?


「でしょう?それで、この事件の大半は終わりですよー」

「いやいや!その、本当の盗難の犯人は誰なんだよ!」

「そうよ!私のボールペンが見つかったのは良かったけど、加藤さんの体操着はどうなるのよ!」


 加藤さんの体操着や佐藤の財布、それらは本当に盗難されたもののはずだ。


「あぁ、そんなことですかー。それらの犯人は…」


 いきなり教壇から降りて歩き出した千歳はそのまま左斜め後ろの席へ向かい


「犯人はあなたですよね、斎藤さん…いえ、内田さん?」


 えっ?斎藤さん…?それに内田?


「…よく分かったねぇ、ほんと、なんで千歳ちゃんがいるのかなぁ」

「僕が先輩の後輩だから、それ以外に理由なんていりますかー?」

「参ったなぁ…」


 もしかして…あの内田さん…なのか?


「な、なあ…千歳…今、内田って…」

「そうだよぉ。久しぶりだねぇ。って言っても毎日学校で会ってるけどねぇ」

「いや…なんで…ここに…?」

「頑張って調べたんだよ?すごいと思わない?」


 いや…普通に怖いんだけど…


「なんで…こんなことを?」

「…内田康晃って知ってるよね?」


 内田康晃…中学の時のバスケ部の先輩だったか。


「そう、それ、私のお兄ちゃんなんだけど、ここまで言っても分かんない?」

「…分からん」

「お兄ちゃん、バスケの推薦取れなかったんだよね。君のせいで」


…ああ、そうか。そういうことか。


「やっと分かったって顔したね。お兄ちゃん、家で泣いてたんだよ?それで、君が許せなかった。お兄ちゃんを苦しめて、未来を潰した君がね!」

「それは…」

「お兄ちゃんには彼女もいなかった。お兄ちゃんも凛ちゃんのことが好きだったの。それなのに君は凛ちゃんっていう彼女を作って、バスケも…全て、お兄ちゃんから奪った!だから、復讐したの!あなたからも、全てを奪うために!」

「…」

「私は幸い他人に暗示をかけるのが上手いらしくてねぇ、それで色んな人に暗示をかけて…


 俺は…


「なあ、さっきから何言ってんだ?」


 静かになった教室に松田の声が、やけに大きく響き渡った。


「お前の兄貴がどんなやつであったにせよ、氷堂さんは航平のことが好きで、バスケも航平の方が上手い、それだけじゃねぇか。航平より上手くなりたきゃ練習すれば良い、彼女が欲しければ自分を磨けば良い。それだけだろうが!」

「松田…」


 ヤバい、松田ってこんな良いやつだったっけ?少し感動して…


「俺だって、彼女はいないし、航平よりバスケは下手だよ!でもな…諦めずに努力するんだよ!それでも少しも追いつけなくて…それで、なんで…なんで…俺には彼女が出来ないんだよぉぉぉ!」


 感動して…感動…んん?


「最後ので台無しですよー。はぁ、とりあえず、先生のところに行きましょうか。あ、みなさんはもう帰っても大丈夫ですよー。お付き合いいただき感謝ですー」


 千歳は昔の貴族みたいな一礼をすると、内田を引っ張って教室を出ていった。流石に追いかけないとまずいよな。そう思い立ち上がると吉崎さんと松田もついてくるようだ。俺たち3人は慌てて千歳の後を追った。




 帰り道、内田を引き渡した俺たちは重い空気の中帰路についていた。

 俺は…誰かを不幸にしてしまうのだろうか…あのときはただただバスケが楽しくて、やってただけなのに…


「いやぁ、我ながらナイスタイミングでしたねー。これで今回のことは一件落着、僕としても鼻が高いですよー」


 重い空気なのは、約1名を除いて、だな。


「先輩、とりあえず今は解決したことを喜びましょうよー。家でパーティーでもやります?」

「…そう…だな」


 正直、それどころではない。斎藤さんが内田だったということも驚きだし、俺が呪われてるとか言ってたことも気になる。


「ねぇ…その、2人が同棲してるってほんとなの?」

「そ、そうだぞ航平!お前、家で何してるんだよ!」


 今まで何も言わずにいた松田と吉崎さんが問い詰めてくる。仕方なく俺は千歳と同棲することになった経緯を話した。


「いやいや…そんなことってあるかよ!航平が家に入れなかったらどうするつもりだったんだよ!?」

「そうですねぇ、そんなことにはならないと思ってましたけど、もし出されたら野宿でしたでしょうねー」


 さらっととんでもないこと言ってるな…


「いろいろ聞きたいけど、俺こっちだから、航平!しっかり明日聞かせてもらうからな!」

「ああ、じゃあな」


 松田と別れ、千歳と吉崎さんと歩く。


「そういえば千歳、呪われてるって、なんなんだ?」

「ああ、そのことですかー。それは僕の口から言うことじゃないんですよねー」


 そう言うと意味ありげに吉崎さんの方を見る。なぜだろう?


「まあ、死人に口なし、ですからねー。大体を知ってる僕が教えるべきなのかもしれませんが…」

「…航平君、千歳さん。少しいいかしら」


 千歳の言い方に違和感を感じていると、吉崎さんが横から口を挟んできた。


「今日の21時、航平君の家に行ってもいい?それで、話したいことがあるの」

「…今じゃダメなのか?」

「今は…ダメ、私にも準備が必要」


 そう言う吉崎さんの目は、どこか凛を彷彿とさせるような、そんな目をしていたのだった。


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