第三話 初デートの約束とお弁当
すごくもやもやする。『私は本気だから』と言ってたのにホワイトデーには関係終了ってどういうことなんだろう。
バレンタインデーの夜、部屋で考えているとケータイが鳴る。手に取ると吉崎さん、いや、優花からだ。
『明後日って暇?』
『暇ですよ。家で勉強するつもりでした。』
『真面目だねー!でも毎日そんなんじゃ疲れるよね!?』
『まあ。』
『ならさ、ほら、気晴らしにどこか行こうよ。せっかく付き合ったんだしさ』
『分かりました。』
『どこ行く?(パンダのスタンプ)』
『正直遊園地とかって気分じゃないですからここらへんを散歩でもしませんか?』
『じゃあそうしようか。あ!なら、おいしいクレープ屋さんにでも行こうよ!イチゴのクレープもあったはずだよ。』
『行きましょう。』
『昼ごはんはお弁当作るから!よろしく。』
『ありがとうございます。』
優花がお弁当を作ってくれる…だと…!楽しみだ。それにクレープかぁ。
俺は頭の中のもやもやを抱えたままその日は眠ってしまった。
翌日、学校に着くと、やはり現実から立ち直れてない生徒が多かった。松田もその1人だ。
「今年も0…」
「ドンマイ」
「ちくしょう!なんだよその上から目線は!航平は貰ったってのか?ああ?」
鋭いな。
「それは…
「そういえば昨日珍しく学校に残ってたよな。女子からお呼び出しでも受けたのか?ええ?」
なんでこいつはこんな時だけは察しが良いんだ?やっぱり腹立つな。
「うるさい。それよりお前、英語の課題やったのか?今日お前が当たるんだぞ」
「あ…」
案の定やってなかったみたいだな。顔が青ざめてる。なんとか話題を逸らせたな。
「はぁ…。見せてやるから早く写せよ」
「ありがとう航平!やっぱお前は最高の友だ!」
「抱きつくな気持ち悪い!」
松田は自分の席に戻ったようだ。はぁ。まだ授業すら始まってないのにどっと疲れてしまった。
「…」
「ん?どうしたんですか吉崎さん?」
「いや…なんでもないわ」
いつのまにか優花が近くに来ていたようだ。ちなみに学校内ではいつも通りの呼び方にしている。
「今日の放課後、委員会の集まりあるから」
「分かってる。ちゃんと行く」
「そうね。念のためよ」
「それで?」
「え?」
「そのためにわざわざ来たんじゃ無いですよね?」
「…お弁当、いつもより多く作っちゃったから、さ、分けてあげる」
優花が俺に手作り弁当を???
「…」
「だから今日の昼休み、屋上に来て、ね」
「分かりました。楽しみにしてますね」
優花も席に戻っていった。ああ、やっぱり学校で話すのはなおさら緊張するなあ。
あとはどうやって屋上へ行くか。昼休みには松田が来るはず……そうか!
「おい松田」
「なんだよ。俺は忙しい」
「いやー。俺としたことが課題のやり忘れがあったみたいでさー、ちょっと返してもらうわー」
「え?あ!ちょ!?」
問答無用で松田からノートを取り上げる。
「おい!俺はどうなるんだよ!」
「まあ、職員室行きだな」
「そうだ!他の奴に…」
「こん中でやってんのは吉崎さんぐらいだろうな」
「え?」
「諦めな」
崩れ落ちる松田を尻目に俺は席に戻り、英語の課題をやってる風にして過ごした。え?やり残し?そんなものはないよ。
昼休み、英語の課題が終わらなかった松田は職員室へ呼び出しを受けたため、屋上へは行きやすくなった。俺を睨みつけていたが自業自得だろう。俺は誰にも後をつけられないように屋上へ向かった。
「お、来た来た」
屋上にはすでに優花がいて弁当を食べる準備をしていた。俺は優花の隣に座る。
「ほらお弁当。唐揚げとシューマイあげるよ」
「え?でもそしたら吉崎さんの分が…」
そう。多く作ったと言う割に小さい弁当箱だと思っていたが、吉崎さんはよりによって1個しか入ってない物を渡してきたのだ。
「いーのいーの。好物でしょ。それと2人の時なら学校でも優花でいいよ」
「はあ」
正直、まだ優花と呼ぶのは慣れないし恥ずかしい。あと唐揚げは大好物だがシューマイはそうでもないんだよな…
「でも吉崎さんに悪いよ」
「えー。じゃあこれでいい?ほら。1度お弁当分けてあげるって言っちゃったからさあ」
「ああ。ならこのイチゴでも貰うよ」
そう言って半分に切ってあるイチゴの1つを貰う。
「やっぱりイチゴ好きだねぇ」
「ゆ、優花も大概だろ」
「そうかなあ」
「だって毎日持ってきてるじゃないか」
「お、なんで知ってんの?もしかして…」
「すまん。いいなあと思って見てた」
見てるのバレてたのか…
「いいのいいの。たとえそうだとしても私を見てたってことだもん(ボソッ)」
「優花は普段から料理してるの?」
「ええ。両親共働きだから」
「ふーん」
その時少し強い風が吹いた。優花の髪が俺の方に靡く。
(うわ!めっちゃいい匂いする!女子の髪ってこんなにいい匂いするんだなあ。)
「少し寒いね」
「そうか?」
今日は春の到来を予感させる1日とかなんとか言ってたんだけどなあ。
「うん。少し寒いよ」
「はあ」
彼女が寒がっている。俺は学ランを脱ぐと優花にかけてやった。
「!!?」
「これで寒くないだろ」
「あ、ありがと///」
優花は顔を赤らめて呟く。…可愛いなあ。
「確かに学ランなしじゃ少し肌寒いな」
「…」
その時俺の肩に少し重みがかかる。
「ん?」
「これで少しはマシ?///」
優花は俺に密着して頭を肩に乗せてきたのだ。
「え?あ、ありがとうございます?」
「なぜ疑問形?まあでもよろしい」
…超可愛い。ああ。女子の体って柔らかいんだな。いかんいかん。俺は自分の本能を抑えながら空を仰ぐ。空は憎たらしいぐらいに青かった。
「なあ優花」
しかし返事はない。寝ているようだ。俺は優花の寝顔を覗き込む。
「可愛すぎだろ」
スースーと寝息を立てている優花はまるで天使のようだった。俺は無意識に優花の頭を撫でる。サラサラしていて撫でてて気持ちよかった。
「ほんっとに可愛いなあ。でもなんで俺なんだろう?それにこんなに無防備な。たった1か月しか付き合わないんじゃないのかよ…」
…あれからどれくらい経っただろうか。
「おい優花。5時間目始まるからそろそろ起きろ…って起きてるのか。よく寝れたか?」
「…馬鹿」
「え?」
「なんでもない!早く行くよ!」
「お、おう」
なんで顔を赤くして怒ってんだ?女心ってのは分からないもんだな。俺は優花に続いて教室に戻った。
私は階段を早足で駆け下りる。自分でも顔が赤いのが分かる。
(あの馬鹿。ずーっと頭撫でられたら寝られるわけないでしょ!し、しかも可愛いとか…馬鹿!)
やっと落ち着いてきた。私は席に戻る。少しして航平も戻ってきた。こっそり顔を見るとなぜか深刻な顔をしていた。少しキツく言いすぎたかなと思ったその時、航平の呟きが頭に浮かんだ。
(そういえば可愛いとかの後になんか言ってたような気がする。気のせい?)
結局思い出すことが出来ずその日を終えてしまった。あの時思い出していればあんなことにはならなかったかもしれない。もちろんそんなこと今の私は知る由も無い。
これからは優花視点も書いていきます
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