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第十八話 崩れゆく日常①

 翌朝、普通に登校する。だが…


(優花…いや、吉崎さんの隣…気まずい!)


 フッた相手の隣で授業を受けるとかどんな拷問だよ!ちくしょう!

 しかし、その心配は杞憂だったのか、吉崎さんは今日は休みだった。


 いや、それよりも、だ。昨日優花をフッた後、フードを被った女性と会ってから、家に帰るまでの記憶が一切ないのだ。今日になって気がついた。


(確かあの女、こうくんって言ってたよな…俺のことをこうくんって呼ぶの…茜だけだ…茜!?)


 俺はこのことを休み時間、松田に話すことにした。


「ん?いやでもよ、もしそいつが神崎なら、お前なんで家に帰れてるんだ?」

「そうなんだよな…それに、家の中にいたのも気になる。もし俺が意識を失ってたんならなんで家の中に入れた?」

「その女が合鍵持ってたってのは…非現実的だな。単純に気が動転してたんじゃねえの?」


ありえる話しだ。


「それより、問題は体育大会だ。一般客が来るんだ。その中に神崎がいてもおかしくない」


 そうだ。いくら吉崎さんが接触を避けても、体育大会の日にばったり会うことも考えられる。


「だけど、どうすんだよ。茜と吉崎さんを接触させないのは当然だけど、茜を追い出す…のは無理だろ」

「ああ、だから俺らバスケのグルで吉崎さんを守ると同時に神崎を探しマークする」

「試合の時は…近くで応援して貰えばいいわけか」

「そういうことだ」


 なるほど。それなら安心だ。




 事件はこの次の日の昼休みに起こった。ちなみにこの日も吉崎さんは休みだった。

 同じクラスの佐藤の財布が盗まれたのだ。しかもその佐藤の財布は松田のカバンに入っていた。

 しかも、麻生の本や中村さんの体操着、千葉のボールペンなど、立て続けに起こる盗難にクラスは動揺と疑念を隠せなかった。

 結局この日は担任から、貴重品の管理の徹底の呼びかけで終わったものの、これだけでは終わらなかった。

 なんと、他の人のものも同じように盗まれたのだ。担任も体育の時に教室に鍵をかけたり、用務員に見回りをさせたりと対策を講じるも無駄に終わってしまった。


(これ…見覚えがある…あれだ、そして美咲の時と同じだ)


 長谷川美咲。彼女は盗難事件の犯人として退学させられた。あの時も盗難が相次ぎ、その盗まれた物の一部が美咲のカバンの中から見つかり、退学させられたのだ。


(だとすると…今回…狙われるのは吉崎さんか!?)


 完全にやられた。茜のやつ、どこまで俺に関わるやつを不幸にしたら気が済むんだ…!


(しかも、このクラスの中に茜の協力者がいる…?)


 茜はまだ転校していない。だから学内には入れないのだ。まさか茜の仲間がいるとは…


「おい!航平!俺の財布知らないか!」

「なんだよ松田。俺がお前の財布取るかよ」

「あ、悪りぃ、そういうつもりで言ったんじゃないんだ。ただ、知らないかと想ってな」

「知らん。ただ、この状況、美咲の時と同じだ。分かるか?」

「お前から話しは聞いてるから分かるけど、これも茜が裏からやってるってことなのかよ!」

「確証はないが、その可能性は高いだろうな」

「くそっ!あいつ…どこまで俺たちの生活を…。しかも協力者がいやがるのか!」


 ついに松田も被害を…

 って、このままだと吉崎さんが危ない!実行犯を見つけないと、手遅れになるな。とは言っても、見つける方法なんてないんだけど。



 しかし、数日経っても実行犯が分かるはずもなく、ただ吉崎さんを始め、誰かの机やカバンから盗まれたものが出てくる…なんて展開もなく、クラスでは疑心暗鬼な空気が漂っていた。これでは体育大会どころではない。


「おい田中!君が僕の本を盗っただろう!」

「なんで俺なんだよ麻生!ふざけんな!俺じゃねえ!」

「ほう?僕が読んでいた本、俺はロリっ子に飼われることにしました に興味を示したのは君だけなんだぞ!」

「確かに興味は示したけどな!読みたきゃ自分で買うっての!それに俺は今、皇帝陛下は引き篭もり!? を読んでるからいらねえっての!」

「なにぃ!君はこの本、俺はロリっ子に飼われることにしました の素晴らしさがわかったわけではないのかね!?」


「おい山岡!俺の財布盗ったな!」

「俺じゃねえ!」

「んだと!とぼけてんじゃねえ!ふざけんな!」

「やる気か?」


 こういった光景が至る所で見られるようになり、いじめも増えているらしい。あと麻生、そんな本の名前を大声で言うなよ…女子が冷たい目で見てるぞ…


(しかし、いじめ、か)


 いじめ…となると氷堂凛の時を思い出す。凛がいじめられた原因は定かではないが、盗難のことではなかったはずだ。

 そして、そのいじめも吉崎さんや原田さんなどがやられたとかいう話しを聞いた。


 そしてLHRの時間、話しはやはり最近多い盗難に対してだそうだ。未だに犯人は見つかっておらず、この日も加藤さんの体操着、浅田のシャーペンがなくなっている。

教団についた担任は重苦しく口を開く。


「今日は最近起きている盗難のことなんだが、実は、『赤坂君が加藤さんの体操着を盗んだのを見た!』というタレ込みがあったんだが、赤坂、本当か?」


 …え?俺?

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