Fiction
22歳になれば死のう
あの頃、俺が本気でそう思ったのはおそらく親の醜い姿を間近で見てきたからだろう。
俺は自分がああなるのが怖かったのだ。
身勝手で利己的で怒鳴り散らすことで自分のプライドが維持されると思い込んでいる父親。
過保護で教育ママになろうと必死で自分に出来なかったことを俺に押し付ける母親。
そんな両親を見てきたから俺は生きていると結婚や子育てを強要されるのだ、と思うとうんざりした。
だからそれが訪れる前に、死ぬことに決めた。
具体的に22歳に決めたのは大学の卒業が22で、そこから先は就職して伴侶を探す人生になる となんとなく思っていたからだ。
そしてそれは親父が選んだ道と同じ道だ。
俺は高校時代の親友の高橋という男にだけこの話を打ち明けた。
すると「お前は贅沢だ」と怒鳴られた。
高橋はいいやつだ。おそらく他のやつに話しても本気にされないか、冷めた目で見られるだけだろう。
「だけど、もう決めたんだ」
そう言った時の俺はどんな目をしていただろう。
そう言われた時の高橋はどんな目をしていただろう。
俺が18の時のことだ。
そして俺は当時付き合っていた竹中という彼女に別れを告げ、大学生活最初の1年を踏み出す。大学入学したてというのは便利でやろうと思えば出来ることは山ほどあった。
いままで出来なかったことを、やろう。未練を残さないために。
スポーツ、バンド、バイト、飲み会、女
楽しいことはたくさんあった。
だけど、俺の決意を揺るがす程の何かはどれにもなかった。
『その先の人生』への恐怖はどうしても消えない。
そして、高橋に打ち明けてからぴったり4年後。
俺は適当な壁に金槌で釘を打ち付けている。傍らには輪を作ったロープが置いてある。
死にかたについてもいろいろ考えたが結局オーソドックスな方法に落ち着いた。
電車や車に飛び込めば他人に迷惑がかかるし、樹海で首を吊れば俺は発見されず両親は8年前に産まれた妹を俺と同じように育てるかもしれない。
比較的キレイに死ねるらしい硫化水素などは近隣の住民に迷惑をかける。
やはり、これがいい。
「よし……」
体重をかけてみたが、ぎしぎしと音を立てながらも切れたりはしなさそうだ。
あとこの椅子を蹴るだけ
さあ 死のう
俺は椅子を蹴った。
がんっ
どしゃっ
──…気がつくと、ベッドの上だった。
俺の部屋ではない。どうやら病院らしい。
窓の外は暗い。俺が首を吊ったのは2時前後のはずだから、10時間ぐらいだろうか
どうして死ねなかったんだろう……
たしかに俺は窒息し意識を失ったはずだった。
しかし、答えは目の前にあった。
「高橋?」
親友が、座っていた。
「おはよう バカ」
眠たげに瞼を擦りながら彼はそう言った。
「なんで助けた」
「お前がバカだから」
答えになってない。
何か言おうとすると高橋は「お前は贅沢だ」と、あの日の言葉を繰り返した。
「贅沢?」
「おう 贅沢」
「何が?」
「お前はなんでも持ってるだろ? 容姿も、学力も、人望も、人並み以上に」
俺は失望した。彼ならば、高橋だけは俺を理解してくれると心のどこかで信じていたから
「お前に俺の気持ちはわからない」
俺が言うと、
「お前に俺の気持ちはわからない」
彼はため息を1つついて俺の言葉を繰り返した。
「好きな女をお前に取られ続けた、俺の気持ちはお前にはわからない」
「何だそれ?」
「その上、親友が自殺を考えてるのをどっかで冗談だと考えてた俺の気持ちは、お前にはわからない」
「……なんで助けた」
「俺が助けたかったからだ」
「身勝手だ」
「そうだ 俺は身勝手なんだ」
俺はぎこちなく笑う
「俺が生きてて欲しいからお前は生きろ」
「身勝手だ」
「ああ」
知らずと涙が出た。俺が欲しかったのはもしかしたらこれなのかも知れない。
誰かが俺が生きてることを望んでいて欲しかった。父や母のように自分が誤った人生の代用としてではなく
「ああ そうだ」
「なんだ?」
「俺より相当おっかないのがそろそろ来るから、こってり搾られとけ」
「なに勝手に死のうとしてんのあんたはぁ!!!」
「竹中?!」
入ってきた元カノに俺は2時間ほどたっぷり説教をくらった。
数年後、子供こそ作らなかった物の俺はこの鬼嫁の尻に敷かれて暮らすのだが
それはまた別のお話
Boy meet friend
Boy meet girl
『理由』を多少受けがいいように書き換えたました
Fiction(作り話) 多分『理由』のほうが本当