第7話 またこうやって俺を……
ブクマ、評価ありがとうございます。
あいつが俺のこと、好きってどういうことだよ。
普段からあんな態度取っといて、俺のこと、好きって……。
山田に何度も確認したけど、ホントだって、の連呼。
気になんなら本人に聞けばって、山田のやつ、ふざけてんのか!?
あいつは……ただの幼馴染だろうが……そりゃさ、少し世話焼いてくれるところもあるし、料理おいしいし、言われてみれば俺のこといつも見てくれてるような気がするし。
午後の授業がもうすぐ始まるから教室に戻る。
廊下を歩いている間も、ずっとあいつのこと、考えている。
あいつ、俺のこと好きだってマジかよ……?
俺、いつもみたいにあいつと接すること、出来んのかな?
変に意識しちゃってさ……勘ぐってしまって……。
ーーだから彼女のひとりもできないんでしょ
ーー性格悪いって言われない?
ーーフラれた?
ーーサイテーな男
あいつが俺のこと、好きなわけないじゃんか。
それに比べてーー
「ハンカチ、落とした?」
「一緒にお祭り、まわらない?」
「また、電話かけてね」
すっごく優しい恭子ちゃんが、俺にはいるじゃんか。
花火、一緒に見た時の横顔……忘れられない。
一目惚れした、恭子ちゃんの顔が浮かぶ。
今頃……なにしてんだろな……。
でも……沙彩のことなんか、どうだっていいだろ。俺に突っかかってきて、俺の悪口言って、俺をバカにして……そんな幼馴染は真っ平ごめんだよ。普通、幼馴染ってさ、互いに助け合ったりするもんじゃねーの?
やっぱ、俺、あいつのこと……好きじゃない……。
教室のドアを開けて、自分の席に着く。
「あ、一樹……次の授業ってなんだったっけ」
「数学だけど」
「その次は?」
「世界史」
「ちょっと、何よ。その言い方」
「なんだよ」
「一樹、なんか様子、変ね……どうしたの?……あ、もしかして……さっきの昼休みに女の子にフラれた?絶対そうだ。誰、ねえ、誰?」
「ちげーしさ……もううっせーんだよ」
「い、いきなり、なによ!」
「…………」
「ど、どうしたのよ。急に」
俺は、沙彩が掴んできた手を振り払った。
「お前なんか、知らねーから」
「あっ…………一樹」
俺は授業なんかどうでもよくなった。
ずっと、西の空を窓から見ながら、恭子ちゃんのことを考えていた。
同じように、どこかの高校で勉強してんのかな……
おばあちゃんの家、冬休みにでも、行こっかな……
今度、電話で言ってみよっかな……そうだ、次、いつ頃、恭子ちゃんに電話かけよ……
学校が終わると、寄り道なんかしないで家に戻った。
喉が渇いていたので、コップに水道水を一杯入れて、一気に飲む。
帰りがけ、隣のあいつの家を見て、もう一度、思い直す。
「あいつが……あいつが俺のこと、好きなわけないだろ……だったら……好きな男になんであんな態度取るんだよ……意味わかんねーよ……いつもなんで俺の邪魔ばっかすんだよ…………そんなんで、俺の幼馴染、何年やってんだよ」
昼に続いて、あいつが俺に悪態をつく姿が頭に浮かぶ。
ただうるさいだけの、小姑みたいなやつよりもーー
ーーこの夏、俺は1人の女の子に一目惚れした。
電話番号知っている、で、また電話してねって言ってくれた、一緒にお祭りだって回った、最後に花火も見た。
恭子ちゃんの声、聞きたいな……あれから2週間だけど、電話してみようかな……。
どのタイミングで電話したら、親と出くわさないだろ……まだ部活あったら、家帰ってないよな……他にも用事あることだってあるから……ど、どうなんだろう。
な、なに話そっかな……ネタ全然ないじゃんか……そうだな……。
その時、家のチャイムが鳴った。
ーーピンポン
こんな時間に誰だろ。
インターホンで誰が来たのか分かるといいな……画面付きとかさ、ないのかな。
「……あ、はい」
「……あ、あの……ふ、藤宮だけど」
なんだよ、ピンポン一回しか押さないからさ、あいつって分かんなかったじゃん。
「…………なんの用だよ」
「さ、さっきは……その……ご、ごめん」
学校のこと、気にしてんのかよ……。
「いや、いい。俺も言いすぎたかなって思った」
「ちょっと、話したいことあるんだけど」
「オーケー。じゃ、玄関開けるわ」
ーーガチャ
「中入れよ」
「……うん」
「お前、全然元気ないじゃん」
「そ……そうかな?」
「変なやつ……ま、そこ座れよ。今から茶入れるから」
「あ、ありがとう」
なんだよ、調子狂うな……全然喋んないじゃんか……話すことあるって言ったのどこの誰だよ。
「ほら、お茶、入れたから。あと、はい、お菓子」
「……ありがとう」
「でさ、お前、話ってなんだよ」
「が、学校でさ……その……一樹にしゃべんなって言われて……」
「言い過ぎた」
「……えっ」
「いや、俺がさ、悪かったって……」
「べ、べつにそんな改められて謝られる筋合いは……」
「そ、そうか?」
「…………」
「…………」
会話、続かないじゃんか…………。
こいつ、俺の家に何しに来たんだよ…………。
ぐ、ぐう〜きゅ……
「あ、いや、だ、誰がお腹鳴ったんだろ……は、恥ずかしいね!」
「お前、夜ごはんはどうすんだよ」
「今日はお母さん遅いから、まだ食べてない」
「じゃあさ、どっか食いに行くか」
「そ、そうだね」
2人で、近くに最近できた、ファミレスに行く。
「ここ、いつか来たいって思ってたんだよ」
「そうなんだ。できたばっかしだもんね」
「ん?ああ」
「いらっしゃいませ。お二人様ですか?」
「あ、はい」
「では、こちらへ」
「俺、こんなファミレスに、来たの、初めてだからさ、マジで何も分かんないんだけど。頼む、教えてくれ」
「ダサいね。自分から誘っておいて。まあ、一樹なら仕方ないわね。その代わりに、なんかひとつ、私の言うこと聞きなさいよ?」
「そ、そんな無理なやつはやめろよ」
「分かってるって。じゃあ、まずこのメニュー表を見ます」
「うん」
「そして、どの料理を頼むか決めます」
「俺は……このパスタ」
「ぷっ……パスタって似合わないね。私、このハンバーグ」
「笑うなよ……お前こそ、ハンバーグって、可笑しいな」
「な、何よ。で、メニュー決まったら、店員さんを呼びます。そして、注文を聞いてもらってあとは、料理を待つだけ」
「なんだよ、それだけかよ。お前に聞くまでもなかった」
「せっかく教えたんだから礼くらい言いなさいよ」
「サンキュー」
「ほんと心こもってないね。もうちょっと、素直になれば?」
俺は、お前の方……って言おうとして、その言葉を飲み込んだ。
その代わり、黙り込んで、ガラスの水を飲んだ。
2人、何も話せない。
だって……お前が俺のこと好きって…………聞いたから。
なんか、もう、昔のように話せなくなってしまいそうで、怖くて。
山田が言ったことは、多分本当なんだと思う。
あいつは……あいつは、俺のこと、好きなんだと思う。
でも……でも、俺は、恭子ちゃんのことしか考えてない。恭子ちゃんのことを考えていると、モヤモヤして、どうしようもなくなる。
山田、言ってたもんな、あいつが知ったら大変だって…………でも、仕方ないじゃんか。
好きになったからーー
ちょっとしたら、店員さんが料理を運んで来てくれた。
「パスタとハンバーグセットです、ご注文は以上でよろしいでしょうか?」
「はい」
「ではごゆっくり」
「じゃあ、食べよ?」
「いただきます」
しっかりとした量のある、定食。
「これ、結構美味しいんだな。家で作るよりおいしいかも」
「それって私の手料理よりおいしいってこと?」
「ち、違うよ、俺が作るよりおいしいってこと」
「私と比べたらどうなのよ……?」
「ま、そりゃさ、お前の作ってくれるやつの方が美味しいさ」
「そう…………もう、一樹はほんとどうしようもないくらい、優しいんだから」
「ど、どういうことだよ」
「え?そのままの意味よ」
「…………ふーん」
美味しく料理を頂いて、俺はあいつの分も奢って、家に帰る。
レシートを俺が見ていると、話しかけてくる。
「また食べに行こうね、一樹」
「お前、また奢らせるんじゃないだろうな」
「今度は出すよ。たぶん」
「たぶんって……絶対出せよ」
「一樹って、男らしくないよ。そんな私みたいな女の子にお金出すってなったら、世の男たちはみんな喜んでお金出すよ」
「だとしたら、そいつらがお前の本性知らないだけだ」
「なんか言った?」
「……いーや、なんも言ってない」
「じゃあね。また明日」
「じゃあな、おやすみ」
「おやすみ」
あいつと一緒にごはん食べたの……いつぶりかな、小学校以来か。