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後日談 エピソード6 2人で振り返る、小さな箱に入ったものの買い物


新作の方はもう少しお待ちください。よろしくお願いします。




「ねえ、あなた。あの時の話、覚えてる?」


「何の話だ」


「高校3年生の時、ほら、正月明けの始業式の日の前日」


「沙彩な、いきなりそんな話蒸し返してどうするんだ」


「まあ、聞きなさいよ」







私は、正月に婚姻届を出すことを断念した。


あなたが嫌がっていたから。


さっさと提出したかったのに……




「ねえ、いつ出すのよ!」


「最低でも高校卒業してからだ!」


「はぁぁぁ!?遅い!」


「じゃあ俺はどうすればいいんだよ!」


「指輪買って」



婚約指輪。


結婚指輪は、また買ってもらうとして……



「金欠だ。今は無理」



あら、婚約指輪は買うのに戸惑いはないのね。


ワガママなのよ、あなたは。



「本当に金欠なのかしら」


「ああ。本当だ」


「神様に誓って?」


「ああ。誓うさ」



ほんと、あなたって人はどうしてこの私にウソがばれないとでも、思ってしまうのかしら。



「あなた、この封筒はなに?」



あなたの部屋を掃除しているといろんなものが出てきているのよ……


これまでどれだけ嫌な思いをしたことか。ほんとスケベなんだから。



「あ、そ、それはだな……あれだ、むかーしに入れたお金で……」



封筒の中身、2万円。


最近の通帳の引き出し、2万円。



「あなた、この通帳見ても同じこと、言えるのかしら」



ふふふ、あなたって人は。


大きく目を見開いて通帳と私の顔を交互に見ているわ。



「ど、どうして沙彩が通帳を管理しているんだ……?」


「あなたのおばあちゃんから頼まれたのよ。あなたはしっかりものだから、一樹の面倒を見たってくれって」


「……ご、ごめんなさい……嘘つきました」


「次からはウソつかない?」


「……はい」


「指輪は?」


「買わせていただきます……」





その日、支度をして、向かった先は百貨店。



「いらっしゃいませ。どのようなお品物をお探しでしょうか」


「あっ、えっと……指輪を」


「ペアでお召しになられますか?」


「ええ」



恥ずかしがりながら店員さんの接客を受けるあなた。


指輪買ってもらうだけなのに、こっちも恥ずかしくなるから、もじもじするんじゃないの。



「おふたりでお付けになるのであれば、こちらのシンプルなデザインのものがよろしいかと」



そのリングは、高いものじゃないけど、スワロフスキーが散りばめられた、可愛らしいデザイン。


でも、シンプル。よく見ると……かわいい。



「いいですね」


「男性の方でも付けることもできるかと」


「沙彩、一回試しに付けてみろよ」


「あなたがはめてくれるかしら」


「じゃあ……」



私の右手を手に取ってくれるあなた。


薬指にリングが入っていく。



にやけてしまいそうになる……ダメ!


店なんだから、店員さんに悟られてしまう……!




店員さんは少し驚いているよう。


まさか私たちが薬指にリングを通すとは思ってもいないものね。



「やはり嬉しいものですよね」



店員さんは私に語りかけてくる。


恥ずかしくって、店員さんの目も見れない私。


ウブなのかしら……



「きれい……」



手のひらを返したりしてじっくりリングを見つめる。


結婚の証。


女の幸せの証。



「いかがでしょう」


「すごい素敵ですね」



店員さんに、リングを返す。


流石に自分で外す。


ちらりとあなたの方を見ると、あなたはあんまり興味なさげにしている。


むっ、買い物にもちゃんと付き合ってよ……人生まだまだ長いのよ。



「沙彩はこれでいいのか?」


「え、ええ」


「じゃあ、すいません、これで」


「ありがとうございます」



薬指の、リングの、通る感覚が忘れられない。


最初はスッと通っていくのに、第二関節を過ぎると、少し通りづらくなる。



次にあなたにリングを通してもらえるのはいつかしら。


結婚式……になりそうね。



「では商品をご準備しますので、お待ち下さい」









さっき買ってもらったリングの入った袋は、私が大事に持っている。


抱えている。



「なあ、沙彩、そのリングって普段から付けるのか?」


「何か問題でも?」


「いや、薬指に付けるのってさ、そういうことだろ?」


「お小遣い制、はじめる?」


「……ごめんなさい」




「少しお話を伺ってもよろしいですか?」


「何でしょう」


「先程指輪をお買い上げなさったカップルについてお話しを伺いたいのですが……」


「ええ。あれはあれでいいんじゃないですか?ベタベタくっついているのも」







「そういえば、そんなことあったな……」


「そうよ?あなたはすっかり忘れているんだから」


「違うんだ。その後に起こったことが俺の高校生活最後の思い出になったんだよ」


「あら、何かしら」


「すっとぼけんな。あれはなーー」






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