後日談 エピソード1 両家顔見合わせってどこから降って湧いてきた!?
迷走中……か?
甘んじてお叱りを受けます……感想よろしかったらお寄せください……
どうしてこうなった…………?
今俺の目の前には、綺麗な着物に身を包んだ藤宮沙彩と母親、スーツを着た父親、つまり、一家揃って並んでいる。
「み、皆さん……どうされました?」
「いや、新田くんから結婚の申し入れがあったと娘の方から聞きました……ううっ」
「あ…………そんな覚えはないんですけど…………」
藤宮パパ、どうした?
どうして泣いているの…………?
そんな結婚の申し入れとかしてないけど、覚えてないって言ったら沙彩が凄まじい目線を向けてきたんだが…………?
「一樹君、これから……娘をよろしく頼む……こんな娘だが……良くしてやってくれ」
「ええっと、お父さん」
「お、お義父さん!そう呼んでくれてうれしいよ、本当に。一樹君、娘は1人しかいないんだ。大事なひとり娘なんだ。父親としての役目は、単身赴任であまり果たせなかったかもしれないが、結婚という娘にとって一番大切な人生の岐路を父親としてしっかりと見守ってやりたいんだ」
「…………へ?」
「よろしく頼んだぞ」
どうして藤宮ママと沙彩は頷いているんだ!?
♢
俺は半ば強制的に連行される形で、近くの料亭に来た。
どうして俺はスーツを着ているのだろう……
どうして藤宮パパのスーツを着ているのだろう……
どうして女将さんが……
「両家顔見合わせでいらっしゃいますか?」
藤宮ママがすっごいタメてからーー
「はい」
女将さんと藤宮ママは、にこりと微笑み合っている。
コワイ……僕、売られないよね、どこかに。
「それでは、新田様、こちらへどうぞ」
後ろをちらりと見ると、三歩後ろを俯きながら歩く沙彩……
どうして俺をちらりと見て頰を染めてまた俯くんだああああ!
♢
俺が案内された部屋に入るとそこにはーー
「なんで俺の両親がいるんだよ…………!それにお、おばあちゃん…………!」
「なんや、早よ座りや」
「えっと……なんでここに?」
「東京に引っ越したんやで。施設入ってん」
「…………いつ?」
今はまだ12月28日だ。
「まあ話終わってから一緒に買いもん行こか」
「う、うん…………で、顔見合わせってどういうこと?」
俺は、フォーマルな格好をした母親に聞く。
「あ、一樹。結婚するって藤宮さんのお宅から連絡があったの。でも一樹の家に連絡しても全く通じないからもう言わなくていいって思ったの」
「言っておいてくれ……というか、大丈夫か、頭。結婚なんてするわけな…………」
俺は後ろから圧を感じ、恐る恐る後ろを見る。
いた、半ギレの沙彩がいた。
「一樹、座って?」
「はい」
♢
12月26日ーー
クリスマスも終わり、男女は無事関係を継続できたものとできなかったものに分かれる。
結婚していた男と別れた亜希子は、虎視眈々と次なる彼氏を見つけようとしていた。
まず家問題。
居候状態のままでは好き勝手に恋愛をすることなど難関も難関。
住所不定、無職ということをごまかすためにはどうすれば良いかーー
固定電話番号さえあればいい。
ということで、新田家の固定回線を乗っ取り、自分の番号にしてしまったのである。
もちろん、新田一樹がこれまで使用していた電話番号は不通。
しかし、藤宮沙彩はおおっ広げに新田家の玄関を出入りできるようになったため、いちいち電話で新田一樹が家にいるのかどうか確認する必要性が失われてしまったのである。
だから、身近にいる人の中でこの固定電話番号改変事件に気がつくものはいない。
料亭で突然結婚へのカウントダウンが始まった新田一樹とは裏腹にーー
♢
12月26日ーー
大阪から帰ってきた疲れを全く見せずに亜希子は行動していた。
「君の連絡先、教えてくれない?」
「いいですよ」
乗っ取りに成功した亜希子は、次なる恋に走っていた。
合コンなるものに参加した亜希子は、35歳実業家との連絡先交換に成功していた。
「フリー?」
「そうです」
「亜希子さん、連絡先もらったけど……家来る?」
「……はい」
その日の夜、亜希子は泊まった。
翌日の夕方、荷物をまとめて藤宮家に別れを告げる亜希子の姿があった。
その際、涙ぐむ亜希子に衝撃の一言がーー
沙彩よりもたらされた。
「あきさん、私一樹と結婚します」
32歳独身。後藤亜希子。
走った衝撃は大きかった。
「じゃーん!ネックレスでーす!」
「あっ…………ぷ、プロポーズとかされたの……?」
「はーい!だからもうすぐ新田沙彩って名前になりまーす!」
「…………」
亜希子はその場を去った。
「沙彩ちゃん……大丈夫かしら…………?」
その不安は命中した。
亜希子は電話番号を借りたまま、新しい彼氏のもとに行った。
♢
本人不在のまま、顔見合わせは進む。
「そういえば一樹、家にいくら電話しても繋がらないのよ。電話壊れていない?」
「壊れて……ないと思うけど。どうしてだろ……?」
一樹は本気で考えるが、もちろん答えなど見つかるはずもない。
藤宮ママは藤宮沙彩に目配せするものの、まったくピンとこない藤宮沙彩。
藤宮ママは深くため息をつく。
藤宮パパは、酒に酔っていろんなことを口走っている。
「あのな、男っちゅうもんはな、すぐあっちこっち目がいってしまうんだよ!おい、お婿さんよ、お前しゃんは大丈夫か!」
「は、はい……」
「なんかあったら、このお義父さんが許しゃないからなあ!」
「は、はい……」
「ところでな。いつから一緒に住むんだぁ!?」
「へ……?」
新田家、藤宮家(パパ除く)一同固まる。
「えっ……あのう、すいません、そもそもなんですが……どうして結婚とかそういうはな……い、いタァ!!」
藤宮沙彩は、新田一樹の足首を思いっきり捻っている。
これは…………痛いと思われる。
「す、すいません。同棲についてはまだかん……い、いタァ!!」
「どうなんだ、婿殿は」
「時期を……み、みまして……考えさせ……てもらい……ます……いってぇ……」
「そうか、それは良かった!飲むぞ!」
こうして顔見合わせは順調に進んでいった。