第44話 亜希子、何もしてやれなくてごめんなさい
あの男ときっぱり別れた夜ーー
私がホテルに帰り、ゆったりベッドに横になっていると、部屋の電話が鳴った。
さっきかずくんと話したばかりなのに……
『はい、もしもし』
『沙彩です。今大丈夫ですか?』
『ええ。ちょうどゆっくりしていたの』
『あのう…………今日どうでした……?』
『あ、ああ!沙彩ちゃんに約束してたもんね、話するって』
『で、どうでした!?』
『私は……フった。あんな男だもんねー』
『そうなんですか。それで一樹は……?』
『恭子ちゃんにフラれたみたい。なんかさっきまで話していたんだけどスッキリしていた。なんかこう気分を一新したみたいだった』
『あ、あの!……あきさん、私一樹をフろうかなって思っているんです』
『…………え、ええ!?ちょっとどういうこと!?』
『嫌なんです…………なんかフラれたから私に近づいてくるとか、そういうのは。ワガママですけど……なんかそう思ってしまって』
『何があってもかずくんを信じるって言ったの、沙彩ちゃんだよ?私は、かずくんが恭子って子にフラれたから沙彩ちゃんにって訳では絶対ないって思うな』
『でも……私は好きじゃないって言われた……だから!』
『沙彩ちゃん。どうしたいの?』
『えっ…………どうって、だからもう一樹とはそういうのは』
『もう一度ゆっくり寝て考えたら?』
『すいません、夜遅くに電話しちゃってごめんなさい……では』
あーあ、切れちゃった……これじゃ亜希子おねーさんの努力は水の泡じゃない。
若いのってどうしてこう早とちりしてしまうんだろう。
♢
新幹線の隣の座席には、意気揚々としているかずくんが座っている。
美味しそうに駅弁、いや夜食を食べている。
この幸せそうなかずくんの顔を壊したくない。
でも、沙彩ちゃん、あんなこと……言ってたから…………うう!
だから!……このままではかずくんは沙彩ちゃんに突撃告白してこのままお別れしちゃう………………!!
どうしよう……どうしよう!
かずくんに直接「あなたフラれるよ」って言えるわけないしいいいい!
今から沙彩ちゃん説得しようって思っても遅いしい!
どうすればいいのよ…………ああああ、昨日あんな馬鹿男と付き合わなければ済んだ話なのに……!!
やばい……やばいよう……このままでは私の努力が水の泡……
待て。
別に……沙彩ちゃんはフるとは言っているけど、それは多分かずくんの気持ちに気が付いていないだけ……
本気でかずくんが沙彩ちゃんのことが好きなんだってことをちゃんと伝えれば、沙彩ちゃんもきっと気持ちも変わるはず……
座席の横では、大阪での話とか楽しそうに話すかずくん。
その横で、かずくんの将来を本気で心配している私。
結局、私は何も言えずに、そのまま東京駅に着くまでにこやかな笑顔を浮かべたまんまで何もかずくんに言えなかった。
嬉しそうにしてプレゼントを持つ、かずくんがなんだか可哀想だった。
沙彩ママに迎えに来てもらって、私とかずくんは無事家に帰った。
荷物を運び出し、私は家に入る。
家に入ると、沙彩ちゃんが迎えてくれた。
あまり乗り気ではないけど、私はかずくんに言われた通り、沙彩ちゃんに
「かずくんが沙彩ちゃん呼んでたよー」って伝えた。
素っ気ない返事を私に向けて、沙彩ちゃんは、玄関を飛び出していった。
ああああ、もう取り返し付かないよう…………ごめんね、かずくん。
私でよかったら、全然責任取るよ?なんなら、こど……ダメダメ、
かずくんは沙彩ちゃんじゃないとダメなの。
不安で仕方がない私。
リビングで出された温かいお茶を飲もうとしてーー
時計を見ると、午後11時45分だった。
クリスマス、25日の夜もあと15分で終わりを告げる。